「嫌われているかも」と「嫌われている」の間―社交不安症の訴えを見抜く
第118回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
社交〈社会〉不安障害の訴えで特徴的なのはどれか。
- a.「MRI検査が怖い」
- b.「世間の人々から嫌われている」
- c.「明日にも何か大変なことが起こる」
- d.「知らない人と会うと非常に緊張する」
- e.「外出時,自宅に鍵をかけたか数十回確認する」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
社交不安症(社交〈社会〉不安障害)は、初対面の人との会話や人前での発表など、他者から注目・評価される場面に強い恐怖を抱き、回避によって生活に支障をきたす不安症で、「知らない人と会うと非常に緊張する」はその典型的な訴えです。MRI検査への恐怖は閉所恐怖(限局性恐怖症)、「嫌われている」という訂正不能の確信は妄想、「何か大変なことが起こる」という不気味な予感は統合失調症の妄想気分、鍵の確認の反復は強迫症の確認強迫と区別されます。社交不安症では恐怖が過剰であることを本人が自覚していることが多く、ここが妄想との大きな違いです。治療はSSRIと認知行動療法が中心で、思春期発症と慢性経過、うつ病やアルコール使用障害の合併に注意します。「恐怖の対象」「不安か確信か」「繰り返し行為の有無」という軸で訴えを整理する力は、精神科面接の基本となります。
解答・解説
正解はdです
社交〈社会〉不安障害(DSM-5以降の名称は社交不安症、social anxiety disorder:SAD)は、他人から注目されたり評価されたりする社会的な場面に対して、強い恐怖や不安を抱く不安症の一つである。中心にあるのは「人前で失敗して恥をかくのではないか」「他人から否定的に評価されるのではないか」という恐れであり、その結果として、初対面の人との会話、人前での発表、人に見られながらの食事や書字などの場面を避けるようになり、日常生活や学業・職業に支障をきたす。 本問は、選択肢として示された患者の訴えが、どの精神症状・精神疾患に特徴的かを見分けられるかを問うている。考え方としては次の点が手がかりになる。 ・恐怖の対象が「社会的状況(他者との対人場面・評価される場面)」か、それとも特定の物や状況(閉所、高所、動物など)か ・その考えが「本人も過剰だと分かっている不安」か、それとも訂正不能な確信(妄想)か ・不安を打ち消すための繰り返し行為(強迫行為)を伴っているか 社交不安症の患者は通常、自分の恐怖が状況に比べて過剰であることを自覚しており(現実検討能力は保たれている)、「嫌われている」と確信する妄想とは区別される。「知らない人と会うと非常に緊張する」という訴えは、まさに社会的状況への恐怖を表しており、社交不安症に特徴的である。
選択肢考察
- ×a. 「MRI検査が怖い」
誤り。MRI装置は狭い筒状の空間に一定時間閉じ込められる検査であり、そこへの恐怖は閉所恐怖と考えられる。閉所恐怖は、特定の対象や状況に限って強い恐怖が生じる限局性恐怖症(状況型)に分類される。恐怖の対象が対人場面・他者からの評価ではないため、社交不安症の訴えとはいえない。なお、MRI検査の際に閉所恐怖のため検査が困難になる患者は臨床上しばしば経験される。
- ×b. 「世間の人々から嫌われている」
誤り。根拠なく「世間の人々から嫌われている」と確信し、訂正できない場合は妄想である。統合失調症にみられる被害的な内容の妄想(被害妄想)として現れることがあるほか、「自分の臭いや視線が他人に不快感を与えて避けられている」と確信する忌避妄想は、思春期妄想症(自己臭恐怖・自己視線恐怖などの重症型)に特徴的とされる。社交不安症でも他者からの否定的評価を恐れるが、それは「嫌われるのではないか」という不安であって、「嫌われている」という確信ではない点で異なる。
- ×c. 「明日にも何か大変なことが起こる」
誤り。周囲の雰囲気が何となく不気味に変化し、何か大変なことが起ころうとしていると感じる体験は妄想気分と呼ばれ、統合失調症の発病初期にみられる一次妄想(了解不能な妄想体験)の一つである。具体的な内容が定まらない、漠然とした迫害的な予感として訴えられることが多い。対人場面に限定した不安ではないため、社交不安症の訴えではない。なお、日常の様々な事柄について過剰な心配が長期間続く場合は全般不安症を考えるが、その場合は具体的な事柄(健康、仕事、家族など)への心配として訴えられることが多い。
- ○d. 「知らない人と会うと非常に緊張する」
正しい。初対面の人と会う、会話をするといった、他者と関わり注目される社会的状況で強い緊張・不安が生じるのは、社交不安症の中核的な症状である。背景には「変に思われるのではないか」「恥をかくのではないか」という否定的評価への恐れがあり、赤面、発汗、動悸、手や声の震えなどの身体症状を伴うことも多い。こうした場面を回避するようになり、生活に支障が出ると診断に至る。
- ×e. 「外出時,自宅に鍵をかけたか数十回確認する」
誤り。「鍵をかけ忘れたのではないか」という考えが本人の意思に反して繰り返し浮かぶのが強迫観念であり、その不安を打ち消すために何度も確認せずにはいられないのが強迫行為(確認強迫)である。本人は不合理だと分かっていてもやめられない。これは強迫症(強迫性障害、obsessive-compulsive disorder:OCD)に特徴的な訴えであり、社交不安症ではない。
社交不安症(社交〈社会〉不安障害)の概要
・好発:10歳代半ば(思春期)に発症することが多い。慢性に経過しやすい。 ・症状:他者から注目・評価されうる状況(初対面の人との会話、会議での発言、人前でのスピーチ、人前での食事や字を書くことなど)に対する著しい恐怖・不安。赤面、発汗、動悸、振戦などの身体症状を伴う。 ・特徴:恐怖が実際の危険に比べて過剰であることを本人が自覚していることが多い。恐怖場面を回避し、社会生活に支障をきたす。 ・DSM-5の診断では、症状が通常6か月以上持続することが求められる。人前での発表など、行為(パフォーマンス)の場面に限定される「パフォーマンス限局型」という特定用語がある。 ・日本で古くから「対人恐怖症」と呼ばれてきた病態と重なる部分が大きい。対人恐怖症には、自分が他人に不快感を与えているのではないかと恐れるタイプ(自己臭恐怖、自己視線恐怖、醜形恐怖など)も含まれ、これが確信の域に達したものが思春期妄想症である。 ・合併:うつ病、他の不安症、アルコール使用障害などを合併しやすい。 ・治療:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択の薬物療法であり、認知行動療法(曝露療法を含む)が有効である。パフォーマンス場面の動悸・振戦にはβ遮断薬が頓用されることがある。
恐怖・不安を主症状とする病態の整理
・社交不安症:他者の評価を受ける社会的状況への恐怖 ・限局性恐怖症:特定の対象・状況(高所、閉所、動物、血液・注射など)への恐怖 ・広場恐怖症:逃げ出しにくい、助けが得にくい場所(公共交通機関、人混み、一人での外出など)への恐怖 ・パニック症:予期しないパニック発作の反復と、発作が起こることへの予期不安 ・全般不安症:多数の日常的な事柄についての過剰で制御困難な心配が長期間続く ・強迫症:強迫観念とそれを打ち消すための強迫行為
POINT
・社交不安症は「他人から注目・評価される場面」への強い恐怖が中核(例:知らない人と会うと非常に緊張する) ・閉所(MRI検査)への恐怖は限局性恐怖症 ・「嫌われている」という訂正不能の確信は妄想(統合失調症の被害妄想、思春期妄想症の忌避妄想) ・「何か大変なことが起こる」という不気味な予感は妄想気分(統合失調症) ・鍵の確認を何十回も繰り返すのは強迫症の確認強迫 ・社交不安症の治療はSSRIと認知行動療法
