StudyMed医師国家試験

検査は正常、でも発作はまた来る―パニック症の第一選択薬を見極める

第119回医師国家試験 D問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第49問

25歳の女性。突然の動悸,発汗,呼吸困難および窒息感の出現を主訴に来院した。1か月前,車を運転中に主訴が出現したため病院を受診し,血液検査,心電図検査および胸部エックス線撮影を受けたが異常は指摘されなかった。その後も,自宅で静養中に同様の症状が5回あったため,外出を控えるようになっている。受診時,意識は清明,受け答えもしっかりしている。仕事は在宅でしているという。  治療薬はどれか。

  1. a.α遮断薬
  2. b.抗コリン薬
  3. c.抗ヒスタミン薬
  4. d.ドパミン受容体遮断薬
  5. e.選択的セロトニン再取込み阻害薬〈SSRI〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、突然の動悸や息苦しさを繰り返す若い女性について、病態を見抜いたうえで治療薬を選ぶ問題だ。注目したいのは3点。身体の検査で異常が見つかっていないこと、発作が状況を問わず繰り返していること、そして外出を控えるようになったという行動の変化だ。まず、この発作をどう捉えるかな。
医学生医学生
動悸、発汗、呼吸困難がいきなり来るなら、最初は不整脈や甲状腺機能亢進症を疑いたくなります。
ドクタードクター
その発想はとても大事だよ。パニック発作に似た症状を起こす身体疾患は多いからね。甲状腺機能亢進症、発作性上室頻拍などの不整脈、低血糖、褐色細胞腫、喘息、それにカフェインや覚醒剤などの物質も鑑別に入る。ただ今回は、初回発作のあとに血液検査、心電図、胸部エックス線で異常がなく、身体疾患は否定的と考えられている。
医学生医学生
運転中だけでなく自宅でくつろいでいるときにも起きているので、きっかけがはっきりしない発作ということですね。
ドクタードクター
そう、「予期しない」発作を繰り返していることがポイントなんだ。さらに「また起きたらどうしよう」という予期不安から外出を控えるという回避行動が出ていて、その状態がおよそ1か月続いている。これはDSM-5のパニック症の基準に合う。
医学生医学生
精神医学の講義で、パニック症は青年期から成人早期の女性に多いと習いました。年齢や性別も典型的ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。女性は男性のおよそ2倍とされている。では治療薬だ。第一選択はどれだと思う?
医学生医学生
不安の病気なので、抗不安薬のベンゾジアゼピン系かと思ったんですが、選択肢にはないですね。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。ベンゾジアゼピン系は効きが速いので、補助的に短期間使うことはある。でも依存・耐性・離脱の問題があって、漫然と長く使うのは避けたい。発作の頻度や予期不安を減らし、再発予防まで期待できる第一選択は、選択的セロトニン再取込み阻害薬、つまりSSRIだ。日本ではパロキセチンとセルトラリンがパニック障害の保険適用をもっている。
医学生医学生
α遮断薬はどうでしょう。動悸や発汗は交感神経の興奮なので、それを抑えればいいような気もします。
ドクタードクター
理屈としては惜しいけれど、α1遮断薬は高血圧や前立腺肥大症の排尿障害、褐色細胞腫の術前管理に使う薬で、パニック症の適応はない。症状が交感神経由来に見えても、根本にある不安の回路に働く薬ではないんだ。
医学生医学生
抗コリン薬は、Parkinson病や過活動膀胱で使う薬なので違いますよね。口渇や尿閉、認知機能低下などの副作用もありますし。
ドクタードクター
その通り。むしろ頻脈を起こしうるから、動悸に悩む人にはかえって不向きだね。抗ヒスタミン薬については、H1受容体拮抗薬のヒドロキシジンに抗不安作用があり、補助的に使われることはある。ただパニック症の再発予防効果が確立した第一選択薬ではない。
医学生医学生
ドパミン受容体遮断薬は統合失調症の陽性症状や制吐に使う薬なので、幻覚や妄想のない今回は当てはまらないですね。
ドクタードクター
そう。錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用もあるから、使う理由がない。ここでSSRIを使うときの注意点も押さえておこう。効果が出るまで2〜4週以上かかるうえ、飲み始めには一時的に不安や焦燥が強まったり、嘔気が出たりすることがある。
医学生医学生
だから少量から始めて少しずつ増やすんですね。精神科の臨床実習で、指導医の先生が「効くまで時間がかかる薬だから、最初に必ず説明する」とおっしゃっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそこが大切。効く前にやめてしまう人も少なくないからね。改善したあとも一定期間は続け、やめるときは離脱症状を避けるために漸減する。そして薬だけでなく、認知行動療法も有効だ。動悸を「心臓が止まる」と誤って解釈する思考を修正する心理教育や、避けている状況に段階的に慣れていく曝露療法などが行われる。
医学生医学生
薬で発作を減らしつつ、認知行動療法で回避している生活を取り戻していくということですね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ臨床で忘れないでほしいのは、初発のときに身体疾患をしっかり除外することだ。救急外来で「どうせパニック」と決めつけると、不整脈や肺塞栓症を見逃しかねない。除外を尽くしたうえで診断し、患者さんには「命に関わる病気ではない」と丁寧に伝えることも治療の一部なんだ。

まとめ

身体疾患が除外されたうえで予期しないパニック発作を繰り返し、予期不安や回避行動が1か月以上続く場合はパニック症を考えます。薬物療法の第一選択はSSRIで、日本ではパロキセチンとセルトラリンが適応をもち、効果発現に数週間かかるため少量から漸増し、中止時も漸減します。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存の問題から短期の補助にとどめ、α遮断薬、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、ドパミン受容体遮断薬はパニック症の標準的治療薬ではありません。認知行動療法も有効で、薬物療法と組み合わせて回避行動を減らしていきます。初発時に甲状腺機能亢進症や不整脈などの身体疾患を確実に除外する姿勢は、精神科に限らずあらゆる診療で求められる基本です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・25歳の女性。 ・突然起こる動悸、発汗、呼吸困難、窒息感:交感神経系の過剰な興奮による身体症状が急に出現し、短時間で強まる発作である。 ・1か月前の初回発作のあと、血液検査、心電図、胸部エックス線写真で異常なし → 身体疾患による症状は否定的である。 ・その後、自宅で静養中にも5回同様の発作があった → 状況に関係なく、予期せず繰り返している。 ・外出を控えるようになった → 「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安と、それに伴う回避行動が出ている。 ・意識清明で受け答えも良好、在宅で仕事を続けている → 意識障害はなく、うつ病のような全般的な機能低下や精神病症状もうかがえない。

診断へのプロセス

身体的な原因が除外されたうえで、予期しないパニック発作を繰り返し、発作が再び起こることへの心配と回避行動が出ている。これはDSM-5(米国精神医学会の診断基準)におけるパニック症(パニック障害)の基準に合う。DSM-5では、予期しないパニック発作が繰り返し起こり、少なくとも1回の発作の後に、1か月以上、次の発作やその結果への持続的な心配、または発作に関連した不適応的な行動変化(回避など)が続くことが求められる。本例は経過約1か月で、この条件を満たすと考えてよい。 鑑別としては、甲状腺機能亢進症、不整脈、低血糖、褐色細胞腫、喘息などの身体疾患や、薬物・カフェインの影響を除外する必要があるが、初診時の検査で大きな異常はない。発作が運転中にも自宅でも起きており、特定の状況(逃げにくい場所など)だけに限られないため、広場恐怖症が主体とは言いにくい。明らかな抑うつ症状の記載もない。

設問の考え方

パニック症の薬物療法で第一選択となるのは、選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)である。必要に応じてベンゾジアゼピン系抗不安薬を短期間併用することがある。非薬物療法としては認知行動療法が有効である。

選択肢考察

  1. ×a.  α遮断薬

    α1遮断薬(ドキサゾシン、プラゾシンなど)は、血管平滑筋を弛緩させて血圧を下げるため高血圧に使われる。また前立腺・膀胱頸部の平滑筋を弛緩させるため、前立腺肥大症に伴う排尿障害にも用いられる(タムスロシン、シロドシンなど)。褐色細胞腫の術前管理にも使われる。パニック症への適応はない。

  2. ×b.  抗コリン薬

    抗コリン薬は、ムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断する薬である。過活動膀胱、気管支喘息やCOPD(吸入薬)、Parkinson病・薬剤性パーキンソニズム(トリヘキシフェニジル、ビペリデン)、消化管の鎮痙などに使われる。口渇、頻脈、便秘、尿閉、認知機能低下などの副作用があり、パニック症の治療薬ではない。

  3. ×c.  抗ヒスタミン薬

    H1受容体拮抗薬はアレルギー性鼻炎や蕁麻疹などのアレルギー疾患に、H2受容体拮抗薬は胃酸分泌抑制に用いられる。H1受容体拮抗薬のヒドロキシジンには抗不安作用があり、補助的に不安の軽減へ使われることはあるが、パニック症の再発予防効果が確立した第一選択薬ではない。

  4. ×d.  ドパミン受容体遮断薬

    ドパミンD2受容体遮断薬は、統合失調症などの精神病症状に対する抗精神病薬や、制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)として用いられる。パニック症には適応がなく、錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用もあるため、本例には用いない。

  5. ○e.  選択的セロトニン再取込み阻害薬〈SSRI〉

    SSRIは、シナプス前終末でのセロトニンの再取り込みを選択的に阻害し、シナプス間隙のセロトニン濃度を高める。パニック発作の頻度と予期不安を減らし、再発予防にも有効で、パニック症の薬物療法の第一選択である。日本ではパロキセチンとセルトラリンがパニック障害の保険適用をもつ。効果が出るまで2〜4週以上かかり、飲み始めには一時的な不安・焦燥の増強や嘔気が出ることがあるため、少量から始めて漸増する。症状が改善した後も一定期間は服薬を続け、中止するときは離脱症状を避けるために漸減する。

パニック症(パニック障害)の概要

・パニック発作:強い恐怖や不快感が突然起こり、数分以内にピークに達する。動悸、発汗、震え、息苦しさ、窒息感、胸痛、嘔気、めまい、現実感消失、「死ぬのではないか」「気が狂うのではないか」という恐怖などのうち、4つ以上を伴う。 ・パニック症:予期しないパニック発作を繰り返し、予期不安や回避行動が1か月以上続く。発症は青年期〜成人早期に多く、女性に多い(男性の約2倍)。 ・広場恐怖症:逃げにくい、または助けが得られにくい状況(電車、人混み、閉鎖空間、一人での外出など)を恐れて避ける。パニック症に合併することが多いが、DSM-5では独立した診断として扱う。

鑑別すべき身体疾患・物質

甲状腺機能亢進症、発作性上室頻拍などの不整脈、狭心症、低血糖、褐色細胞腫、気管支喘息、肺塞栓症、カフェインや覚醒剤などの物質の使用、アルコールや抗不安薬の離脱。

治療

・薬物療法:SSRIが第一選択。ベンゾジアゼピン系抗不安薬(アルプラゾラム、クロナゼパムなど)は効果が速いため、SSRIの効果が出るまで短期間併用することがあるが、依存・耐性・離脱の問題があるので長期の漫然とした使用は避ける。SSRIが無効の場合は、三環系抗うつ薬(イミプラミン、クロミプラミン)なども選択肢となる。 ・精神療法:認知行動療法(発作時の身体感覚の誤った解釈を修正する心理教育、身体感覚への曝露、回避している状況への段階的曝露など)が有効である。

SSRIの適応(日本)

うつ病・うつ状態のほか、薬剤ごとに、パニック障害(パロキセチン、セルトラリン)、社会不安障害(パロキセチン、フルボキサミン、エスシタロプラム)、強迫性障害(パロキセチン、フルボキサミン)、外傷後ストレス障害(パロキセチン、セルトラリン)などの適応がある。

POINT

・予期しないパニック発作の反復、予期不安、回避行動、身体疾患の除外 → パニック症。 ・薬物療法の第一選択はSSRI。ベンゾジアゼピン系は短期の補助的な使用にとどめる。 ・認知行動療法(曝露療法を含む)も有効である。 ・初発時には、甲状腺機能亢進症、不整脈、低血糖などの身体疾患を必ず除外する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。