男性並みのテストステロン、なのに体毛がない―矛盾が導く完全型アンドロゲン不応症
第119回医師国家試験 D問題 第50問
国試問題にチャレンジ
18歳の女子。初経がないことを心配して来院した。身長170cm,体重60kg。体温36.4℃。脈拍68/分,整。血圧118/70mmHg。呼吸数16/分。乳房発育はTannerⅣ度。腋毛を認めない。外性器は女性型で陰毛はTannerⅠ度。内診で腟は4cmの盲端で子宮腟部を認めない。左側鼠径部に径2cmの腫瘤を触知する。血液生化学所見:LH 20mIU/mL(基準1.8~7.6),FSH 8.2mIU/mL(基準5.2~14.4),プロラクチン12ng/mL(基準15以下),エストラジオール40pg/mL(基準25~75),テストステロン820ng/dL(基準30~90)。 確定診断に最も有用な検査はどれか。
- a.頭部MRI
- b.染色体検査
- c.LHRH負荷試験
- d.子宮卵管造影検査
- e.エストロゲン・プロゲステロン負荷試験
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
原発性無月経で、乳房は発育しているのに陰毛・腋毛がなく、子宮を欠き、鼠径部に腫瘤を触れ、テストステロンが男性並みに高い場合は完全型アンドロゲン不応症を考えます。精巣から分泌されるAMHがMüller管を退縮させて子宮が欠損し、受容体異常のためアンドロゲンが作用せず外見は女性型となり、テストステロンがアロマターゼでエストロゲンに変換されて乳房が発育します。確定診断には染色体検査で46,XYを証明することが最も有用で、子宮を欠くMRKH症候群(46,XX、体毛正常、テストステロンは女性の範囲)との鑑別にも核型が決め手となります。残存精巣は腫瘍化のリスクがあるため性腺摘出を検討し、その後のホルモン補充や心理的支援も含めた多職種での対応が求められます。ホルモン値と身体所見のずれから病態を読み解く考え方は、性分化疾患や内分泌疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・18歳の女子で、初経がない → 原発性無月経(一般に満18歳になっても初経が来ないもの)。 ・身長170cmと高身長。 ・乳房はTanner Ⅳ度で十分に発育している → エストロゲンの作用は保たれている。 ・腋毛なし、陰毛Tanner Ⅰ度(陰毛なし) → アンドロゲンが作用した徴候がない。 ・外性器は女性型。腟は4cmで盲端に終わり、子宮腟部がない → 腟が短く、子宮がないと考えられる。 ・左鼠径部に径2cmの腫瘤 → 鼠径部にとどまった精巣(性腺)の可能性が高い。 ・LH 20 mIU/mLと高値、FSHは基準範囲内。 ・テストステロン820 ng/dL:女性の基準(30〜90)を大きく上回り、成人男性の範囲に相当する。 ・エストラジオールは基準範囲内。
診断へのプロセス
「テストステロンが男性並みに高いのに、腋毛・陰毛がなく外性器は完全に女性型」という矛盾がこの症例の核心である。アンドロゲンは十分に作られているのに、それが体に作用していない、つまり標的組織の受容体が働いていないことを示す。 さらに、子宮・腟上部がない(精巣のSertoli細胞が分泌する抗Müller管ホルモン〈AMH〉によってMüller管が退縮した)こと、鼠径部に精巣と思われる腫瘤があることから、性染色体は46,XYで精巣をもつと推定できる。乳房が発達するのは、多量のテストステロンが脂肪組織などのアロマターゼでエストロゲンに変換され、そのエストロゲン作用だけが現れるためである。LHが高いのは、アンドロゲン受容体の異常により視床下部・下垂体へのテストステロンの負のフィードバックが効かないためである。高身長もXY核型に合う。 以上から、完全型アンドロゲン不応症(complete androgen insensitivity syndrome:CAIS、かつての精巣性女性化症候群)が最も考えられる。
設問の考え方
確定診断には、性腺の性を決める染色体構成、すなわち46,XYであることを示す必要がある。そのため染色体検査(核型分析)が最も有用である。必要に応じて、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の変異解析を追加する。
選択肢考察
- ×a. 頭部MRI
頭部MRIは、下垂体腫瘍(プロラクチノーマなど)や視床下部病変による視床下部・下垂体性無月経、嗅覚低下を伴うKallmann症候群(嗅球の低形成)などを疑う場合に有用である。これらではLH・FSHが低いか正常低値で、性ステロイドも低くなる。本例はLHが高値で、テストステロンも著明に高く、プロラクチンも正常であり、中枢性の病態ではない。神経症状もなく、頭部MRIは確定診断に寄与しない。
- ○b. 染色体検査
アンドロゲン不応症は、X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子の変異によって起こるX連鎖性の疾患で、核型は46,XYである。精巣があるのでテストステロンもAMHも正常に分泌されるが、受容体が働かないため外性器・体毛は女性型となり、AMHの作用で子宮と腟上部は欠損する。本例の高テストステロン血症、陰毛・腋毛の欠如、子宮の欠如、鼠径部腫瘤はこの病態に合致し、染色体検査で46,XYを証明することが確定診断の要となる。同じく子宮・腟上部を欠くMayer-Rokitansky-Küster-Hauser(MRKH)症候群(46,XX、卵巣は正常、テストステロンは女性の範囲、陰毛・腋毛は正常)との鑑別にも核型が決め手となる。
- ×c. LHRH負荷試験
LHRH(GnRH)負荷試験は、GnRHを静注してLH・FSHの反応を見る検査で、無月経や性腺機能低下症の障害部位(視床下部性か、下垂体性か、性腺性か)を推定するのに用いる。下垂体性では反応が低く、視床下部性では反応が遅れたり、繰り返し投与で回復したりし、性腺性では過大な反応を示す。本例では性腺がテストステロンを十分に分泌していることがすでにわかっており、問題は受容体側にある。この試験で性染色体の構成やアンドロゲン不応は証明できず、確定診断には役立たない。
- ×d. 子宮卵管造影検査
子宮卵管造影検査は、子宮頸管から造影剤を注入し、子宮腔の形態と卵管の通過性を評価する検査で、主に不妊症の検査として行う。本例では子宮腟部がなく子宮は欠損していると考えられるため、造影剤を注入する入口がなく、検査自体が成り立たない。内性器の有無を確認するには、超音波検査やMRIが適している。
- ×e. エストロゲン・プロゲステロン負荷試験
エストロゲン・プロゲステロン負荷試験(Kaufmann療法に準じた投与)は、プロゲステロン試験で消退出血がない無月経に対して行う。消退出血があれば子宮内膜は正常で原因は卵巣より上位(卵巣性・下垂体性・視床下部性)にあり、出血がなければ子宮性無月経(Asherman症候群など)と判断する。本例はもともと子宮がないため消退出血は起こらないことが明らかで、行っても新たな情報は得られず、XY核型であることも証明できない。
アンドロゲン不応症(アンドロゲン不応症候群、AIS)
・原因:X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子の変異。X連鎖劣性の遺伝形式をとり、核型は46,XY。性分化疾患(DSD)の一つ。 ・病態:精巣からテストステロン、AMHは分泌される。AMHによりMüller管(卵管・子宮・腟上部の原基)は退縮する。一方、アンドロゲンが作用しないため、Wolff管由来の構造(精巣上体・精管・精嚢)は発達せず、外性器は女性型になる。 ・完全型(CAIS):外性器は完全な女性型で、女性として育てられ、思春期に原発性無月経で発見されることが多い。乳房は発達するが、陰毛・腋毛は乏しいかない。腟は短く盲端で、子宮はない。精巣は腹腔内・鼠径管・大陰唇にあり、小児期に鼠径ヘルニアの手術で偶然見つかることもある。 ・部分型(PAIS):アンドロゲン不応の程度により、外性器の曖昧さ、尿道下裂、小陰茎など、さまざまな程度の男性化不全を示す。 ・検査所見:テストステロンは男性の範囲かそれ以上、LHは高値(負のフィードバックが効かない)、エストラジオールは男性としては高め。 ・治療:残された精巣は胚細胞腫瘍の発生母地になりうるため、性腺摘出を検討する。CAISでは思春期前の腫瘍発生リスクが低く、自然な二次性徴(精巣由来のエストロゲンによる乳房発育など)を待つため、思春期以降に摘出することが多い。摘出後はエストロゲン補充を行う。腟が短い場合は腟拡張法や造腟術を検討する。本人への説明や心理的支援を含めた、多職種による慎重な対応が求められる。
原発性無月経で子宮がない場合の鑑別
・Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群:46,XX。卵巣は正常で、二次性徴(乳房・陰毛・腋毛)は正常。テストステロンは女性の範囲。腎・尿路の奇形を合併することがある。 ・完全型アンドロゲン不応症:46,XY。乳房は発育するが陰毛・腋毛は乏しい。テストステロンは男性の範囲。
他のXY性分化疾患との比較
・46,XY完全型性腺異形成(Swyer症候群):性腺は索状で、ホルモンをほとんど分泌しない。AMHがないため子宮は存在する。テストステロンもエストロゲンも低く、乳房は発育せず、ゴナドトロピンは高値。 ・5α還元酵素欠損症:ジヒドロテストステロンへの変換ができず、出生時の外性器は女性型または曖昧で、思春期に男性化が進む。
POINT
・原発性無月経 + 乳房発育あり + 陰毛・腋毛なし + 子宮なし(腟は盲端)+ 鼠径部腫瘤(精巣)+ テストステロンが男性並みに高値 → 完全型アンドロゲン不応症。 ・確定診断は染色体検査(46,XY)。アンドロゲン受容体遺伝子の解析を加えることもある。 ・LHが高値なのは、受容体の異常によりテストステロンの負のフィードバックがかからないため。 ・乳房が発育するのは、テストステロンがアロマターゼでエストロゲンに変換されるため。 ・子宮がないのは、精巣が分泌するAMHによるMüller管の退縮のため。 ・MRKH症候群(46,XX、陰毛・腋毛は正常、テストステロンは女性の範囲)との鑑別が頻出である。 ・性腺には腫瘍化リスクがあり、性腺摘出を検討する。
