背の高い9歳男児と鞍上部の腫瘤―思春期早発症は「精巣」から見抜く
第120回医師国家試験 C問題 第40問
国試問題にチャレンジ
9歳の男児。陰毛発生を主訴に母親に連れられて来院した。6歳ごろからクラスで一番背が高かった。1年前から陰毛が発生し,最近,腋毛もみられるようになったため,母親が不安になり来院した。既往歴に特記すべきことはない。意識は清明。身長150cm(+3.6SD),体重52kg。肥満度30%。体温36.8℃。血圧116/78mmHg。口腔内に異常を認めない。甲状腺と頸部リンパ節の腫大を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。皮疹を認めない。頭部単純MRIで視床下部から鞍上部にかけて径3cmの腫瘤を認める。 この児に認めるのはどれか。
- a.多汗
- b.頻脈
- c.小陰茎
- d.女性化乳房
- e.精巣容積増大
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
男児で陰毛が10歳未満、腋毛が11歳未満に出現すれば思春期早発症を考え、視床下部〜鞍上部の腫瘤を伴う場合は中枢性(ゴナドトロピン依存性)思春期早発症と判断します。中枢性ではLH・FSHにより通常の思春期と同じ順序で性成熟が進み、男児の最初の徴候である精巣容積の増大(4mL以上が目安)が両側でみられます。副腎性の末梢性では精巣は小さいまま、Leydig細胞腫では片側のみ腫大するため、精巣の大きさは病型鑑別の重要な手がかりです。多汗・頻脈は甲状腺機能亢進症など、小陰茎はアンドロゲン不足、女性化乳房はエストロゲン優位の所見であり、本病態には合いません。男児の中枢性思春期早発症は器質性疾患が多いため頭部MRIが必須で、骨端線の早期閉鎖による最終身長の低下を防ぐためにGnRHアナログ治療が行われることも押さえておきましょう。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・9歳男児。8歳ごろに陰毛が生え始め、9歳で腋毛も出現している。 ・6歳ごろから同級生の中で最も背が高く、現在の身長は150cm(+3.6SD)と著明な高身長である。性ホルモンの作用で成長スパート(思春期に身長の伸びが急に加速する現象)が前倒しで起きていることを示唆する。 ・体重52kg、肥満度30%と中等度の肥満を伴う。 ・バイタルサイン(体温、血圧)は年齢相応で、甲状腺腫大・肝脾腫・皮疹などの全身所見はない。 ・頭部単純MRIで視床下部から鞍上部(トルコ鞍の上方)にかけて径3cmの腫瘤がある。
診断へのプロセス
男児では、10歳未満の陰毛発生、11歳未満の腋毛発生は二次性徴の早すぎる出現であり、思春期早発症と判断できる。高身長の経過も、数年前から性ホルモンが働いていたことを裏付ける。 思春期早発症は大きく2つに分けられる。 ①中枢性(ゴナドトロピン依存性):視床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が早期に始まり、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)が増加して、性腺そのものが成熟する。 ②末梢性(ゴナドトロピン非依存性):副腎や性腺、あるいはホルモン産生腫瘍から性ステロイドが自律的に産生される。先天性副腎過形成や副腎腫瘍、Leydig細胞腫などが含まれる。 本児は視床下部〜鞍上部に腫瘤を認めることから、腫瘤が視床下部の性成熟の抑制機構を破綻させるか、腫瘤自体がGnRHを分泌して、中枢性(器質性)思春期早発症を来したと考えられる。この部位の代表的な原因は視床下部過誤腫であり、胚細胞腫などの腫瘍も鑑別に挙がる。
設問の考え方
中枢性思春期早発症では、LH・FSHの刺激で精巣が通常の思春期と同じ順序で発育する。男児の思春期で最初に現れる徴候は精巣容積の増大であり、続いて陰茎の増大、陰毛・腋毛の発生、声変わりへと進む。本児はすでに陰毛・腋毛まで進んでいるため、精巣容積は思春期レベルまで増大していると判断できる。
選択肢考察
- ×a. 多汗
多汗は甲状腺機能亢進症(Basedow病など)や褐色細胞腫のように、代謝や交感神経活動が亢進する病態でみられる。性ホルモンの過剰そのものでは多汗は生じず、本児では甲状腺腫大もなく体温・血圧も正常範囲であるため、該当しない。
- ×b. 頻脈
頻脈は甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、心疾患、発熱、貧血などでみられる所見である。思春期早発症による性ホルモン過剰では通常起こらない。本児は心音に異常がなく、甲状腺腫大や発熱もないため、頻脈を示唆する背景はない。
- ×c. 小陰茎
小陰茎はアンドロゲンの作用不足で生じ、下垂体機能低下症、Kallmann症候群(嗅覚障害を伴うゴナドトロピン欠損)、Prader-Willi症候群、アンドロゲン不応症などでみられる。本児はアンドロゲン(テストステロン)が早期から過剰に作用している状態であり、陰茎はむしろ年齢に比べて大きくなる。正反対の所見である。
- ×d. 女性化乳房
女性化乳房はエストロゲン作用がアンドロゲン作用に比べて相対的に強いときに生じ、Klinefelter症候群、エストロゲンやhCGを産生する精巣腫瘍、肝硬変(エストロゲンの肝での代謝低下)、一部の薬剤などでみられる。思春期の男児に一過性に生じる生理的な女性化乳房もあるが、中枢性思春期早発症に特徴的な所見ではなく、本問で「認める」として選ぶべき所見ではない。
- ○e. 精巣容積増大
中枢性思春期早発症ではGnRH依存性にLH・FSHの分泌が増える。FSHは精細管(精子をつくる管)の発育を、LHはLeydig細胞からのテストステロン産生を促し、精巣の体積の大部分を占める精細管が発達して精巣容積が増大する。精巣容積4mL以上が思春期開始の目安とされる。本児は陰毛・腋毛まで出現しているので、精巣容積は思春期相当に増大していると考えられる。なお、副腎由来のアンドロゲンが原因の末梢性思春期早発症では、陰毛や陰茎は発育しても精巣は思春期前の大きさにとどまることが多く、精巣容積は中枢性と末梢性を見分ける重要な手がかりとなる。
思春期早発症の診断の目安(男児)
・精巣、陰茎、陰嚢の明らかな発育が9歳未満で出現 ・陰毛の発生が10歳未満 ・腋毛、ひげ、声変わりが11歳未満 (女児では乳房発育7歳6か月未満、陰毛・腋毛8歳未満、初経10歳6か月未満が目安)
中枢性と末梢性の比較
・中枢性(ゴナドトロピン依存性):LH・FSHが高値で、GnRH(LHRH)負荷試験でLHが思春期型に強く反応する。男児では両側精巣が増大する。原因は女児では特発性が大半だが、男児では器質性(視床下部過誤腫、胚細胞腫、星細胞腫、水頭症、頭部外傷・放射線照射後など)の割合が高い。 ・末梢性(ゴナドトロピン非依存性):LH・FSHは抑制され低値。先天性副腎過形成(21-水酸化酵素欠損症など)、副腎腫瘍、Leydig細胞腫、家族性男性限性思春期早発症(LH受容体の活性型変異)、McCune-Albright症候群などがある。副腎性では精巣は小さいまま、Leydig細胞腫では片側の精巣のみが腫大する。なお、hCG産生胚細胞腫瘍ではhCGがLH受容体を刺激してテストステロンを増やすが、FSH作用がないため精巣の増大は軽度にとどまる。
視床下部過誤腫
灰白隆起付近に生じる非腫瘍性の神経組織の奇形で、GnRH産生ニューロンを含み中枢性思春期早発症を起こす。笑い発作(gelastic seizure)を伴うことがある。画像上は造影されず、大きさが長期に変化しないのが特徴である。思春期早発のみであれば手術せず、GnRHアナログ(持続投与により下垂体のGnRH受容体を脱感作させ、LH・FSH分泌を抑える)で治療する。その他の腫瘍では原疾患の治療を優先する。
治療目的
思春期早発症を放置すると、性ステロイドによって骨端線が早く閉鎖し、小児期には高身長でも最終身長は低くなる。また心理社会的な問題も生じうる。GnRHアナログによる治療はこれらの予防を目的とする。
POINT
・男児の思春期で最初に現れる徴候は精巣容積の増大(4mL以上が目安)である。 ・中枢性思春期早発症では両側精巣が増大し、副腎性の末梢性思春期早発症では精巣は小さいままである。 ・男児の中枢性思春期早発症は器質性の頻度が高く、頭部MRIが必須。視床下部過誤腫が代表的である。 ・小児期の高身長でも、骨端線の早期閉鎖により最終身長は低くなりうる。
