伸び続ける病気、伸びきれない病気―骨端線とホルモンで解く「成人の低身長」
第119回医師国家試験 F問題 第28問
国試問題にチャレンジ
成人期に低身長をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.Marfan症候群
- b.Turner症候群
- c.Kallmann症候群
- d.Prader-Willi症候群
- e.アロマターゼ欠損症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
身長は骨端線の軟骨細胞の増殖によって伸び、小児期はGH・IGF-1や甲状腺ホルモンが、思春期は性ステロイドが成長を支え、最終的に男女ともエストロゲンが骨端線を閉鎖させて伸びが止まります。この仕組みから、骨の成長そのものやGH作用が障害される疾患は成人期に低身長となり、Turner症候群(SHOX遺伝子の量不足)とPrader-Willi症候群(視床下部機能障害によるGH分泌不全など)が代表で、いずれもGH治療の適応です。一方、Marfan症候群は結合組織異常により高身長、Kallmann症候群やアロマターゼ欠損症は性ステロイドやエストロゲンの欠乏で骨端線の閉鎖が遅れ、類宦官体型の高身長となります。思春期早発症は早期の骨端線閉鎖で最終身長が低くなり、体質性低身長や思春期遅発症は成人身長がおおむね正常範囲に入りうるなど、「伸ばす力」と「止めるタイミング」の2軸で整理すると多くの疾患を統一的に理解できます。この考え方は、成長曲線と骨年齢を用いて低身長児を評価する小児科診療の基本にもつながります。
解答・解説
正解はb, dです
問われていること
最終的な成人身長が低くなる(低身長となる)疾患を2つ選ぶ問題である。
考え方:身長を決める仕組み
身長の伸びは、長管骨の骨端線(成長板)にある軟骨細胞が増殖し骨に置き換わることで生じる。小児期の伸びは主に成長ホルモン(GH)・インスリン様成長因子-1(IGF-1)と甲状腺ホルモンが支え、思春期には性ステロイドが成長スパートを起こす。そして最終的に骨端線を閉鎖させて身長の伸びを止めるのはエストロゲンである(男性でもテストステロンがアロマターゼによってエストロゲンに変換されて作用する)。 したがって、 ・骨・軟骨そのものの成長障害や、GHの作用不足がある疾患 → 低身長 ・性ホルモン(特にエストロゲン)が欠乏・作用不全で骨端線が閉じない疾患 → 成長期間が延びて高身長(類宦官体型) ・結合組織の異常で骨が過剰に長くなる疾患 → 高身長 と整理すると判断しやすい。
各疾患の位置づけ
Turner症候群はX染色体の短腕にあるSHOX遺伝子の量の不足による骨成長障害で低身長となる。Prader-Willi症候群は視床下部機能障害に伴うGH分泌低下などにより低身長となる。いずれもGH治療の適応疾患である。一方、Marfan症候群は高身長、Kallmann症候群とアロマターゼ欠損症(男性)は骨端線閉鎖遅延により高身長となる。
選択肢考察
- ×a. Marfan症候群
フィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患である。四肢や指が細長くなり(クモ状指)、指極(両腕を広げた長さ)が身長を上回るなど、高身長・やせ型の体型となる。そのほか漏斗胸・鳩胸、側弯症、水晶体偏位(亜脱臼)、大動脈基部拡張・大動脈解離、僧帽弁逸脱などを呈する。低身長はきたさない。
- ○b. Turner症候群
X染色体の1本が全部または一部欠けている女性の性染色体異常で、核型は45,Xのほか、モザイクやX染色体の構造異常もある。Xの短腕にあるSHOX遺伝子の量が半分になることで骨の成長が障害され、低身長は最も頻度の高い症状である。無治療では成人身長は日本人で平均140cm前後にとどまるため、GH治療の適応となる。ほかに性腺異形成による原発性無月経・二次性徴の欠如(卵巣機能不全)、翼状頸、外反肘、第4中手骨短縮、大動脈縮窄症・二尖大動脈弁などの心血管異常、馬蹄腎などの腎奇形を伴う。
- ×c. Kallmann症候群
胎生期に性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)産生ニューロンと嗅神経が鼻の原基から脳へ移動する過程が障害され、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と嗅覚脱失・低下をきたす疾患である。GHの分泌は正常で小児期の成長は保たれる。思春期が来ないため性ステロイドによる骨端線閉鎖が起こらず、成長期間が延びて四肢が長い類宦官体型の高身長となりうる。低身長はきたさない。
- ○d. Prader-Willi症候群
15番染色体長腕(15q11-q13)の父親由来の遺伝子が働かないことで生じる。原因は父由来染色体の同領域の欠失が最も多く、次いで母性片親性ダイソミー(2本とも母由来)、インプリンティング異常がある。新生児期の筋緊張低下と哺乳障害に始まり、幼児期以降に過食と肥満が出現する。視床下部の機能障害によりGH分泌不全や性腺機能低下を伴い、思春期の成長スパートも乏しいため、成人期に低身長となる。小さな手足、アーモンド形の目などの特徴的顔貌、知的障害、色素低下なども特徴である。GH治療は身長改善のほか、筋量増加・体組成改善の目的でも行われる。
- ×e. アロマターゼ欠損症
アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素アロマターゼ(CYP19A1遺伝子)の欠損による常染色体潜性(劣性)遺伝のまれな疾患である。エストロゲンが作られないため、骨端線が閉鎖せず成長が続き、成人期に高身長・類宦官体型となる(特に男性で典型的で、骨密度低下も伴う)。女性では胎児期に胎盤でアンドロゲンをエストロゲンに変換できないことから、出生時に外性器の男性化を示し、母体にも妊娠中の男性化がみられる。思春期以降の女性では乳房発育不全、原発性無月経、多嚢胞性卵巣などを呈する。低身長ではなく高身長をきたす疾患である。
低身長をきたす主な疾患
・内分泌性:成長ホルモン分泌不全性低身長症、甲状腺機能低下症(先天性・後天性)、Cushing症候群・グルココルチコイド長期投与、思春期早発症(早期の骨端線閉鎖により最終身長が低くなる) ・染色体・遺伝子異常:Turner症候群、Prader-Willi症候群、Noonan症候群、Down症候群、SHOX異常症 ・骨系統疾患:軟骨無形成症、軟骨低形成症 ・その他:SGA(在胎週数に比べて小さく生まれた児)性低身長症、慢性腎臓病、慢性炎症性疾患、栄養障害、愛情遮断症候群 ※体質性(家族性)低身長や思春期遅発症は、小児期には低身長でも成人身長はおおむね正常範囲となりうる。
高身長をきたす主な疾患
・Marfan症候群、ホモシスチン尿症(Marfan様体型) ・Klinefelter症候群(47,XXY):性腺機能低下による骨端線閉鎖遅延と過剰なX染色体のSHOX遺伝子量増加 ・Kallmann症候群などの低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 ・アロマターゼ欠損症、エストロゲン受容体異常症 ・下垂体性巨人症(骨端線閉鎖前のGH過剰)
日本でGH治療の適応となる主な疾患
成長ホルモン分泌不全性低身長症、Turner症候群、Prader-Willi症候群、軟骨無形成症・軟骨低形成症、Noonan症候群、SGA性低身長症、慢性腎臓病による低身長。
骨端線閉鎖とエストロゲン
エストロゲンの作用がない男性(アロマターゼ欠損症やエストロゲン受容体異常症)では、テストステロンが十分でも骨端線が閉鎖せず成長が続く。この事実から、男女ともに骨端線閉鎖の主役はエストロゲンであることが明らかとなった。
POINT
・成人期低身長:Turner症候群(SHOX遺伝子の量不足)、Prader-Willi症候群(視床下部性のGH分泌不全など)。どちらもGH治療の適応である。 ・高身長:Marfan症候群(結合組織異常)、Kallmann症候群・Klinefelter症候群(性腺機能低下による骨端線閉鎖遅延)、アロマターゼ欠損症(エストロゲン欠乏)。 ・骨端線を閉鎖させるのは男女ともエストロゲンである。 ・Prader-Willi症候群は15q11-q13の父性由来遺伝子の機能喪失(欠失、母性片親性ダイソミーなど)による。
