StudyMed医師国家試験

伸び続ける病気、伸びきれない病気―骨端線とホルモンで解く「成人の低身長」

第119回医師国家試験 F問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第28問

成人期に低身長をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.Marfan症候群
  2. b.Turner症候群
  3. c.Kallmann症候群
  4. d.Prader-Willi症候群
  5. e.アロマターゼ欠損症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、成人になったときの最終身長が低くなる疾患を選ぶ問題だ。疾患名を丸暗記するより、「身長がどうやって伸び、何によって止まるのか」という仕組みから考えると迷わない。まず、身長が伸びる場所はどこだったかな。
医学生医学生
長管骨の骨端線、つまり成長板ですよね。生理学の講義で、軟骨細胞が増殖して骨に置き換わると習いました。
ドクタードクター
その通り。小児期の伸びは主に成長ホルモン(GH)とIGF-1、甲状腺ホルモンが支え、思春期には性ステロイドが成長スパートを起こす。そして最後に骨端線を閉じて伸びを止めるのはエストロゲンなんだ。
医学生医学生
男性でもエストロゲンなんですか。テストステロンが閉じるものだと思っていました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。男性ではテストステロンがアロマターゼでエストロゲンに変換されて骨端線に作用する。整理すると、骨や軟骨の成長そのものが障害されるか、GHの作用が足りなければ低身長。逆に、エストロゲンの欠乏や作用不全で骨端線が閉じなければ成長期間が延びて高身長、結合組織の異常で骨が長くなっても高身長になる。
医学生医学生
その枠組みで見ると、Turner症候群は低身長の代表ですね。小児科の実習で、GH注射を続けている女の子を担当しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。Turner症候群はX染色体の全部または一部が欠ける女性の性染色体異常で、X染色体短腕にあるSHOX遺伝子の量が半分になることで骨の成長が障害される。低身長は最も頻度の高い症状で、無治療だと日本人の成人身長は平均140cm前後にとどまるため、GH治療の適応になる。
医学生医学生
でもTurner症候群は卵巣機能不全でエストロゲンが不足しますよね。さっきの話だと、骨端線が閉じずに背が高くなりそうな気がするんですが。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。確かに性腺異形成で二次性徴は来ないけれど、SHOX遺伝子の不足による骨そのものの成長障害が強いので、最終的には低身長になる。もともと「伸びる力」が弱いから、期間が延びても追いつかないんだ。ほかに原発性無月経、翼状頸、外反肘、第4中手骨短縮、大動脈縮窄症や二尖大動脈弁、馬蹄腎などもセットで覚えておこう。
医学生医学生
Prader-Willi症候群は肥満のイメージが強くて、身長の印象はあまりありませんでした。
ドクタードクター
肥満が目立つけれど、低身長も重要な特徴だよ。15番染色体長腕の15q11-q13領域で父親由来の遺伝子が働かないことで起こり、原因は父由来染色体の欠失が最も多く、次いで母性片親性ダイソミー、インプリンティング異常だ。視床下部の機能障害によってGH分泌不全や性腺機能低下を伴い、思春期の成長スパートも乏しいため、成人期に低身長となる。
医学生医学生
新生児期は筋緊張低下と哺乳障害、幼児期以降に過食と肥満でしたね。CBTの対策で、ゲノムインプリンティングの代表例として覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。Angelman症候群と対で問われることが多い。Prader-Willi症候群もGH治療の適応で、身長だけでなく筋量の増加や体組成の改善も目的になる。では残りの選択肢を見ていこう。Marfan症候群はどうかな。
医学生医学生
高身長でクモ状指、両腕を広げた長さが身長を上回るのが特徴なので、低身長とは逆ですね。
ドクタードクター
正解。FBN1遺伝子の変異による結合組織疾患で、水晶体偏位や大動脈基部拡張・大動脈解離が臨床上とくに重要だ。次はKallmann症候群。
医学生医学生
嗅覚障害と性腺機能低下の組み合わせでしたよね。性ホルモンが出ないなら、骨端線が閉じずに高身長でしょうか。
ドクタードクター
その通り。胎生期にGnRH産生ニューロンと嗅神経が移動する過程が障害され、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と嗅覚脱失・低下をきたす。GH分泌は正常なので小児期の成長は保たれ、思春期が来ないぶん伸び続けて、四肢の長い類宦官体型の高身長となりうる。Turner症候群との違いは、骨が伸びる力自体は正常だという点だね。
医学生医学生
アロマターゼ欠損症も、エストロゲンが作れないので同じく高身長になるわけですね。
ドクタードクター
そう。特に男性で典型的で、テストステロンが十分にあっても骨端線が閉じず、成人後も背が伸び続け、骨密度の低下も伴う。実はこの疾患やエストロゲン受容体異常症の男性の観察から、「男女とも骨端線閉鎖の主役はエストロゲン」だと明らかになったんだ。なお女性では、胎児期に胎盤でアンドロゲンをエストロゲンに変換できないため、出生時の外性器の男性化や妊娠中の母体の男性化がみられる。
医学生医学生
骨の伸びる力が弱いか、止めるスイッチが早く入れば低身長、スイッチが入らなければ高身長、ということですね。
ドクタードクター
うまいまとめだ。その視点でいえば、思春期早発症は骨端線が早く閉じるので、子どものうちは背が高くても最終身長は低くなる。逆に体質性の低身長や思春期遅発症は、小児期には小柄でも成人身長はおおむね正常範囲に入りうる。臨床では成長曲線と骨年齢をセットで評価することが大切だ。また、Turner症候群は外見上の特徴がはっきりしないこともあるので、原因のはっきりしない低身長の女児では染色体検査を検討する姿勢も持っておこう。

まとめ

身長は骨端線の軟骨細胞の増殖によって伸び、小児期はGH・IGF-1や甲状腺ホルモンが、思春期は性ステロイドが成長を支え、最終的に男女ともエストロゲンが骨端線を閉鎖させて伸びが止まります。この仕組みから、骨の成長そのものやGH作用が障害される疾患は成人期に低身長となり、Turner症候群(SHOX遺伝子の量不足)とPrader-Willi症候群(視床下部機能障害によるGH分泌不全など)が代表で、いずれもGH治療の適応です。一方、Marfan症候群は結合組織異常により高身長、Kallmann症候群やアロマターゼ欠損症は性ステロイドやエストロゲンの欠乏で骨端線の閉鎖が遅れ、類宦官体型の高身長となります。思春期早発症は早期の骨端線閉鎖で最終身長が低くなり、体質性低身長や思春期遅発症は成人身長がおおむね正常範囲に入りうるなど、「伸ばす力」と「止めるタイミング」の2軸で整理すると多くの疾患を統一的に理解できます。この考え方は、成長曲線と骨年齢を用いて低身長児を評価する小児科診療の基本にもつながります。

解答・解説

正解はb, dです

問われていること

最終的な成人身長が低くなる(低身長となる)疾患を2つ選ぶ問題である。

考え方:身長を決める仕組み

身長の伸びは、長管骨の骨端線(成長板)にある軟骨細胞が増殖し骨に置き換わることで生じる。小児期の伸びは主に成長ホルモン(GH)・インスリン様成長因子-1(IGF-1)と甲状腺ホルモンが支え、思春期には性ステロイドが成長スパートを起こす。そして最終的に骨端線を閉鎖させて身長の伸びを止めるのはエストロゲンである(男性でもテストステロンがアロマターゼによってエストロゲンに変換されて作用する)。 したがって、 ・骨・軟骨そのものの成長障害や、GHの作用不足がある疾患 → 低身長 ・性ホルモン(特にエストロゲン)が欠乏・作用不全で骨端線が閉じない疾患 → 成長期間が延びて高身長(類宦官体型) ・結合組織の異常で骨が過剰に長くなる疾患 → 高身長 と整理すると判断しやすい。

各疾患の位置づけ

Turner症候群はX染色体の短腕にあるSHOX遺伝子の量の不足による骨成長障害で低身長となる。Prader-Willi症候群は視床下部機能障害に伴うGH分泌低下などにより低身長となる。いずれもGH治療の適応疾患である。一方、Marfan症候群は高身長、Kallmann症候群とアロマターゼ欠損症(男性)は骨端線閉鎖遅延により高身長となる。

選択肢考察

  1. ×a.  Marfan症候群

    フィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患である。四肢や指が細長くなり(クモ状指)、指極(両腕を広げた長さ)が身長を上回るなど、高身長・やせ型の体型となる。そのほか漏斗胸・鳩胸、側弯症、水晶体偏位(亜脱臼)、大動脈基部拡張・大動脈解離、僧帽弁逸脱などを呈する。低身長はきたさない。

  2. ○b.  Turner症候群

    X染色体の1本が全部または一部欠けている女性の性染色体異常で、核型は45,Xのほか、モザイクやX染色体の構造異常もある。Xの短腕にあるSHOX遺伝子の量が半分になることで骨の成長が障害され、低身長は最も頻度の高い症状である。無治療では成人身長は日本人で平均140cm前後にとどまるため、GH治療の適応となる。ほかに性腺異形成による原発性無月経・二次性徴の欠如(卵巣機能不全)、翼状頸、外反肘、第4中手骨短縮、大動脈縮窄症・二尖大動脈弁などの心血管異常、馬蹄腎などの腎奇形を伴う。

  3. ×c.  Kallmann症候群

    胎生期に性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)産生ニューロンと嗅神経が鼻の原基から脳へ移動する過程が障害され、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と嗅覚脱失・低下をきたす疾患である。GHの分泌は正常で小児期の成長は保たれる。思春期が来ないため性ステロイドによる骨端線閉鎖が起こらず、成長期間が延びて四肢が長い類宦官体型の高身長となりうる。低身長はきたさない。

  4. ○d.  Prader-Willi症候群

    15番染色体長腕(15q11-q13)の父親由来の遺伝子が働かないことで生じる。原因は父由来染色体の同領域の欠失が最も多く、次いで母性片親性ダイソミー(2本とも母由来)、インプリンティング異常がある。新生児期の筋緊張低下と哺乳障害に始まり、幼児期以降に過食と肥満が出現する。視床下部の機能障害によりGH分泌不全や性腺機能低下を伴い、思春期の成長スパートも乏しいため、成人期に低身長となる。小さな手足、アーモンド形の目などの特徴的顔貌、知的障害、色素低下なども特徴である。GH治療は身長改善のほか、筋量増加・体組成改善の目的でも行われる。

  5. ×e.  アロマターゼ欠損症

    アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素アロマターゼ(CYP19A1遺伝子)の欠損による常染色体潜性(劣性)遺伝のまれな疾患である。エストロゲンが作られないため、骨端線が閉鎖せず成長が続き、成人期に高身長・類宦官体型となる(特に男性で典型的で、骨密度低下も伴う)。女性では胎児期に胎盤でアンドロゲンをエストロゲンに変換できないことから、出生時に外性器の男性化を示し、母体にも妊娠中の男性化がみられる。思春期以降の女性では乳房発育不全、原発性無月経、多嚢胞性卵巣などを呈する。低身長ではなく高身長をきたす疾患である。

低身長をきたす主な疾患

・内分泌性:成長ホルモン分泌不全性低身長症、甲状腺機能低下症(先天性・後天性)、Cushing症候群・グルココルチコイド長期投与、思春期早発症(早期の骨端線閉鎖により最終身長が低くなる) ・染色体・遺伝子異常:Turner症候群、Prader-Willi症候群、Noonan症候群、Down症候群、SHOX異常症 ・骨系統疾患:軟骨無形成症、軟骨低形成症 ・その他:SGA(在胎週数に比べて小さく生まれた児)性低身長症、慢性腎臓病、慢性炎症性疾患、栄養障害、愛情遮断症候群 ※体質性(家族性)低身長や思春期遅発症は、小児期には低身長でも成人身長はおおむね正常範囲となりうる。

高身長をきたす主な疾患

・Marfan症候群、ホモシスチン尿症(Marfan様体型) ・Klinefelter症候群(47,XXY):性腺機能低下による骨端線閉鎖遅延と過剰なX染色体のSHOX遺伝子量増加 ・Kallmann症候群などの低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 ・アロマターゼ欠損症、エストロゲン受容体異常症 ・下垂体性巨人症(骨端線閉鎖前のGH過剰)

日本でGH治療の適応となる主な疾患

成長ホルモン分泌不全性低身長症、Turner症候群、Prader-Willi症候群、軟骨無形成症・軟骨低形成症、Noonan症候群、SGA性低身長症、慢性腎臓病による低身長。

骨端線閉鎖とエストロゲン

エストロゲンの作用がない男性(アロマターゼ欠損症やエストロゲン受容体異常症)では、テストステロンが十分でも骨端線が閉鎖せず成長が続く。この事実から、男女ともに骨端線閉鎖の主役はエストロゲンであることが明らかとなった。

POINT

・成人期低身長:Turner症候群(SHOX遺伝子の量不足)、Prader-Willi症候群(視床下部性のGH分泌不全など)。どちらもGH治療の適応である。 ・高身長:Marfan症候群(結合組織異常)、Kallmann症候群・Klinefelter症候群(性腺機能低下による骨端線閉鎖遅延)、アロマターゼ欠損症(エストロゲン欠乏)。 ・骨端線を閉鎖させるのは男女ともエストロゲンである。 ・Prader-Willi症候群は15q11-q13の父性由来遺伝子の機能喪失(欠失、母性片親性ダイソミーなど)による。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。