StudyMed医師国家試験

「お話ししてもよろしいですか」の一言から始まる―悪い知らせの伝え方とSPIKES

第118回医師国家試験 E問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第118回 E問題 第18問

患者に進行がんの告知をする際に適切なのはどれか。

  1. a.家族は同席させない。
  2. b.一度だけ説明すればよい。
  3. c.患者の解釈モデルは聴取しない。
  4. d.患者の理解度にかかわらず手短に説明する。
  5. e.悪い知らせを聞く意思があるかどうかを患者本人に確認する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、進行がんのような「悪い知らせ」をどう伝えるかという、医療コミュニケーションの問題だ。悪い知らせとは、患者の将来の見通しを大きく、否定的に変えてしまう情報のこと。伝え方には体系化された技法があるから、その原則に照らして各選択肢を考えよう。
医学生医学生
OSCEの医療面接の練習でSPIKESという言葉を聞いた気がします。たしか段階に分けて伝えるモデルでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。SPIKESは欧米で提唱された6段階のモデルで、場の設定、患者の認識の把握、患者からの招待、情報の提供、感情への共感的対応、そして方針と要約の頭文字をとったものだ。日本では、日本人患者の意向調査をもとにしたSHAREモデルもよく使われる。
医学生医学生
その中で「患者からの招待」というのがよくわかりません。医師が説明するのに、招待されるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。悪い知らせについて、すべてを詳しく知りたい人もいれば、概要だけ知りたい人、詳しいことは家族に任せたい人もいる。だから本題に入る前に「検査の結果について詳しくお話ししてもよろしいですか」と、どこまで知りたいかを本人に確認する。患者がその情報に「招き入れてくれる」のを待つ、というイメージだ。
医学生医学生
つまり、悪い知らせを聞く意思があるかを本人に確認するのが正解ということですね。
ドクタードクター
その通り。患者の自己決定権を尊重し、本人の意向に沿って情報を伝えるための大切な手順なんだ。では、ほかの選択肢がなぜ不適切か見ていこう。家族を同席させない、というのはどうかな。
医学生医学生
個人情報なので本人だけに話すべきかなと、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかるよ。ただ、衝撃的な知らせを受けるとき、家族や信頼する人がそばにいることは大きな心理的な支えになるし、あとで一緒に内容を確認し合うこともできる。SPIKESでもSHAREでも、場の設定の段階で家族の同席を勧めることが含まれている。もちろん最終的には本人の意向で決めるけれど、原則として同席させないという方針は誤りだ。
医学生医学生
一度だけ説明すればよい、というのも違いますよね。告知を受けた直後は頭が真っ白になりそうです。
ドクタードクター
まさにそう。悪い知らせを聞いた直後の患者は強い衝撃を受けていて、その後の説明をほとんど覚えていないことも多い。反応を見ながら繰り返したり、言い換えたりし、日を改めて複数回に分けて説明し、その都度疑問に答えるのが望ましい。
医学生医学生
解釈モデルは、医療面接の講義で「患者が自分の病気をどう考えているか」と習いました。告知の場面でも聴くんですね。
ドクタードクター
そう、SPIKESの第2段階、患者の認識の把握にあたる。説明の前に「ご自分の病気についてどのようにお考えですか」と尋ねれば、患者の認識と実際の病状とのずれがわかり、どこから説明を始めるかを調整できる。聴取しないのは不適切だ。
医学生医学生
理解度にかかわらず手短に、というのも、忙しい外来だとついやってしまいそうで怖いです。
ドクタードクター
正直な感想だね。一方的に短く済ませる説明は、誤解や不安、医師への不信感を生む。専門用語を避けて平易な言葉で、少しずつ区切ってゆっくり話し、途中で理解を確認して質問を促す。逆に、詳しい情報を一度に大量に浴びせるのもよくない。量と速さを患者に合わせることが大切なんだ。
医学生医学生
情報を伝えたあとは、感情への対応と今後の話ですね。
ドクタードクター
そう。「残念なお知らせですが」と前置きしてから伝え、沈黙や涙があっても急がずに受け止め、共感を示す。そして最後に今後の治療方針や支援を話し合い、内容をまとめる。SHAREモデルでは、安心感と情緒的サポート、つまり希望を持てるように支えることも重視されている。
医学生医学生
緩和ケア科を見学したとき、先生が説明の最後に必ず「一緒に考えていきましょう」と言っていたのが印象的でした。
ドクタードクター
それはとても大事な姿勢だよ。悪い知らせを適切に伝えることは、その後のインフォームド・コンセントや意思決定の前提にもなる。技法は型として覚えつつ、目の前の患者に合わせて柔軟に使えるようにしておこう。

まとめ

進行がんの告知のような悪い知らせを伝える際には、SPIKESモデルやSHAREモデルといった体系化された技法が用いられます。具体的には、静かで落ち着いた環境を整えて患者が望めば家族の同席を勧め、説明の前に患者の病状認識(解釈モデル)と、どこまで知りたいかという意向を本人に確認します。そのうえで、理解度に合わせて平易な言葉で段階的に伝え、必要に応じて繰り返し、複数回に分けて説明し、感情に共感的に対応しながら今後の方針を話し合います。悪い知らせを聞く意思を本人に確認することは患者の自己決定権を尊重する重要な手順であり、こうした技法の習得は、信頼関係の構築とインフォームド・コンセントの基盤となります。

解答・解説

正解はeです

進行がんの診断のように、患者の将来の見通しを大きく、かつ否定的に変えてしまう情報を「悪い知らせ(bad news)」と呼ぶ。悪い知らせの伝え方には体系化されたコミュニケーション技法があり、代表的なものに欧米で提唱されたSPIKESモデルと、日本人の患者の意向調査をもとに作られたSHAREモデルがある。 いずれのモデルにも共通する原則は、(1)落ち着いて話せる環境を整え、患者が望めば家族など大切な人を同席させる、(2)説明の前に患者が病状をどう理解しているか(解釈モデル)を聴く、(3)どこまで詳しく知りたいかという患者の意向を確認する、(4)患者の理解度に合わせて平易な言葉で段階的に伝え、必要に応じて繰り返す、(5)患者の感情に共感的に対応する、(6)今後の治療方針や支援について話し合い、希望を支える、である。 これらの原則に照らすと、悪い知らせを聞く意思があるかを患者本人に確認することが適切であり、他の選択肢はいずれも原則に反する。

選択肢考察

  1. ×a.  家族は同席させない。

    不適切。家族や信頼する人がそばにいることは、衝撃的な知らせを受け止める際の大きな心理的支えになり、説明内容を一緒に聞いて後から確認し合うこともできる。SPIKESモデルでは場の設定(Setting)の段階で、SHAREモデルでも支持的な場の設定(Supportive environment)の要素として、家族の同席を患者に勧めることが含まれている。ただし、同席させるかどうかは最終的に患者本人の意向に従って決める。原則として同席させないという方針は誤りである。

  2. ×b.  一度だけ説明すればよい。

    不適切。悪い知らせを聞いた直後の患者は強い衝撃を受けており、その後の説明内容を十分に記憶・理解できないことが多い。そのため、患者の反応や理解度を確かめながら、同じ内容を繰り返したり、別の表現で言い換えたりして説明する必要がある。また、一回の面談ですべてを伝えようとせず、日を改めて複数回に分けて説明し、その都度疑問に答えることが望ましい。

  3. ×c.  患者の解釈モデルは聴取しない。

    不適切。解釈モデルとは、患者自身が自分の病気の原因・重さ・経過などをどのように考えているかということである。SPIKESモデルの第2段階(Perception:患者の認識の把握)にあたり、説明を始める前に「ご自分の病気についてどのようにお考えですか」などと尋ねて把握する。これにより、患者の認識と実際の病状とのずれを知り、説明の出発点や伝え方を調整できるため、患者の納得や治療への主体的参加につながる。

  4. ×d.  患者の理解度にかかわらず手短に説明する。

    不適切。説明は患者の理解度に合わせて、専門用語を避け、平易な言葉で、少しずつ区切りながらゆっくり行う。途中で理解できているかを確認し、質問を促すことも重要である。時間に追われて一方的に短く済ませる説明は、誤解や不安、医師への不信感を生む。一方で、詳細な情報を一度に大量に伝えることも避けるべきであり、量と速さを患者に合わせて調整することが求められる。

  5. ○e.  悪い知らせを聞く意思があるかどうかを患者本人に確認する。

    適切。悪い知らせについて、すべてを詳しく知りたい患者もいれば、概要だけを知りたい患者、詳しいことは家族に任せたい患者もいる。そこで、本題に入る前に「検査の結果について詳しくお話ししてもよろしいですか」などと、どの程度の情報を望むかを患者本人に確認する。SPIKESモデルの第3段階(Invitation:患者からの招待、情報希求の確認)にあたり、患者の自己決定権を尊重し、本人の意向に沿って情報を伝えるための重要な手順である。

SPIKESモデル(悪い知らせを伝える6段階)

・S:Setting(場の設定)…プライバシーの保たれた静かな部屋、十分な時間、着席して目線を合わせる、家族の同席を勧める ・P:Perception(患者の認識の把握)…患者が病状をどう理解しているか(解釈モデル)を尋ねる ・I:Invitation(患者からの招待)…どの程度詳しく知りたいかを確認する ・K:Knowledge(情報の提供)…前置き(「残念なお知らせですが」など)をしたうえで、平易な言葉で少しずつ伝え、理解を確認する ・E:Emotions / Empathy(感情への共感的対応)…患者の感情を受け止め、共感を示す ・S:Strategy and Summary(方針と要約)…今後の治療計画を話し合い、内容をまとめる

SHAREモデル(日本人の意向をもとに作られた技法)

・S:Supportive environment(支持的な場の設定) ・H:How to deliver the bad news(悪い知らせの伝え方)…正直に、わかりやすく、丁寧に伝える ・A:Additional information(付加的な情報)…今後の治療や日常生活への影響、セカンドオピニオンなど ・RE:Reassurance and Emotional support(安心感と情緒的サポート)…希望を持てるように支え、感情に配慮する

関連用語

・解釈モデル:患者が自分の病気について抱いている考え(原因、重症度、予後、期待する治療など)。医療面接で聴取すべき項目である。 ・インフォームド・コンセント:十分な説明と理解に基づく患者の自発的な同意。悪い知らせを適切に伝えることは、その前提となる。

POINT

・悪い知らせの伝え方の代表的な技法として、SPIKESモデルとSHAREモデルがある。 ・説明の前に、患者の病状認識(解釈モデル)と情報を知りたいという意向を確認する。 ・家族の同席は患者の希望に応じて勧める。 ・説明は理解度に合わせて平易に、必要に応じて繰り返し、複数回に分けて行う。 ・感情への共感的対応と今後の方針の提示を忘れない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。