免許証の裏の署名は「ゴーサイン」か―脳死下臓器提供、最初の一歩は家族との対話
第114回医師国家試験 F問題 第5問
国試問題にチャレンジ
臨床的に脳死状態と判断された成人の運転免許証の裏面を確認したところ,記載と署名があった。家族は既に病院に到着している。運転免許証の裏面を別に示す。 まず行うべき対応はどれか。

- a.法的脳死判定を行う。
- b.移植チームに連絡をする。
- c.組織適合抗原〈HLA〉を調べる。
- d.家族と臓器提供について相談をする。
- e.臓器移植ネットワークに連絡をする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
本人が運転免許証の裏面などで脳死下臓器提供の意思を書面で示していても、日本の臓器移植法では家族がそれを拒まないことが必要であり、最初に行うべきは家族への病状説明と臓器提供の選択肢の提示です。その後、家族が希望すれば臓器移植ネットワークに連絡してコーディネーターが説明し、家族の書面承諾を経て法的脳死判定(6歳以上では6時間以上あけて2回、2回目終了時が死亡時刻)、HLA検査やレシピエント選定、移植チームの派遣へと進みます。2010年の改正で、本人の意思が不明でも家族の承諾による提供や15歳未満からの提供が可能となった一方、本人が拒否を表示していれば提供はできません。手続きの順序と本人・家族の意思の関係を理解しておくことは、救急・集中治療の現場で家族の心情に配慮した適切な対応をとるための基盤となります。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・患者は成人で、臨床的に脳死状態と判断されている(法的脳死判定はまだ行われていない)。 ・運転免許証裏面の臓器提供意思表示欄には、「脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植のために臓器を提供します」の項目が選ばれ、本人の署名がある。つまり本人は脳死下での臓器提供を書面で希望していた。 ・家族はすでに来院している。
考え方
日本の臓器移植法(臓器の移植に関する法律)では、本人が書面で提供の意思を示していても、それだけでは臓器提供に進めない。脳死下での臓器提供には、(1)本人の書面による提供意思があり家族がこれを拒まない(または家族がいない)、または(2)本人の意思が不明で家族が書面で承諾する、のいずれかが必要である。法的脳死判定を行うことについても、家族が拒まないことが条件となる。したがって、どの手順に進む場合でも、出発点は家族の意向の確認である。 臨床的脳死と判断された段階で主治医が行うべきことは、まず家族に病状(回復が見込めない状態であること)を丁寧に説明し、そのうえで本人が臓器提供の意思を表示していたことを伝え、臓器提供という選択肢があること、希望すれば臓器移植ネットワークのコーディネーターから詳しい説明を受けられることを示すことである(いわゆるオプション提示)。家族がコーディネーターの説明を聞くことを希望すれば、臓器移植ネットワークに連絡する。その後、コーディネーターの説明を受けて家族が書面で承諾してから、法的脳死判定、HLA検査、レシピエント選定、移植チームの派遣へと進む。 よって、選択肢の中でまず行うべきは「家族と臓器提供について相談をする」である。
選択肢考察
- ×a. 法的脳死判定を行う。
法的脳死判定は、臓器提供を前提として臓器移植法に基づき行うものであり、コーディネーターによる説明を経て家族が臓器提供(および脳死判定)を書面で承諾した後に実施する。家族の意向を確認する前に行うことはできない。なお法的脳死判定は、脳死判定の経験をもつ2名以上の医師(移植に関わらない者)が、一定の間隔(6歳以上では6時間以上)をあけて2回行い、2回目の判定終了時刻が死亡時刻となる。
- ×b. 移植チームに連絡をする。
移植チーム(臓器を摘出・移植する施設のチーム)が関与するのは、2回目の法的脳死判定で死亡が確認され、臓器移植ネットワークがレシピエント(移植を受ける患者)を選定し、その意思が確認された後である。また、提供施設の主治医が移植チームへ直接連絡するのではなく、調整は臓器移植ネットワークが担う。現段階で連絡するのは早すぎる。
- ×c. 組織適合抗原〈HLA〉を調べる。
HLA(ヒト白血球抗原)検査は、レシピエントとの適合性を評価し候補者を選ぶために行うドナー評価の一部である。家族の承諾が得られ、臓器提供の手続きが進むことが決まってから、コーディネーターの調整のもとで採血・検査を行う。家族の意向を確認する前に提供を前提とした検査をすることは適切でない。
- ○d. 家族と臓器提供について相談をする。
本人が書面で臓器提供の意思を示していても、脳死下臓器提供と法的脳死判定には家族がそれを拒まないことが必要であり、実務上も家族の書面による承諾を得て手続きが進められる。したがって最初に行うべきは、家族に病状を説明し、本人の意思表示があったことと臓器提供の選択肢を伝え、コーディネーターから説明を聞く意思があるかを確認することである。この際、提供を強要せず、家族が断っても不利益がないことを伝え、家族の心情に配慮して話し合う。
- ×e. 臓器移植ネットワークに連絡をする。
臓器移植ネットワーク(日本臓器移植ネットワーク)への連絡は、家族が臓器提供について話を聞くことを希望した段階で行い、そこからコーディネーターが派遣される。家族の意向を確認しないまま連絡するのは順序が逆である。家族との話し合いの後に行う、2番目のステップと考えるとよい。
臓器移植法と2010年の改正
1997年施行の臓器移植法では、脳死下臓器提供には本人の書面による意思表示と家族の承諾の両方が必要で、意思表示は15歳以上に限られていた。2010年の改正法全面施行により、本人の意思が不明な場合でも家族の書面による承諾で提供が可能となり、15歳未満からの脳死下臓器提供も可能になった。一方、本人が提供を拒否する意思を示していた場合は、家族が承諾しても提供できない。また、親族(配偶者・子・父母)への優先提供の意思表示も認められた。
意思表示の方法
意思表示カード、運転免許証やマイナンバーカード(健康保険証)の裏面、インターネットによる登録などがある。選択肢は(1)脳死後・心臓停止後のいずれでも提供する、(2)心臓停止後に限り提供する、(3)提供しない、の3つで、提供しない臓器を個別に指定することもできる。本問の患者は(1)を選択している。
脳死下臓器提供の流れ
原疾患の確実な診断と、臨床的に脳死と判断される状態 → 主治医による家族への病状説明と臓器提供の選択肢の提示 → 家族が希望すれば臓器移植ネットワークへ連絡、コーディネーターが家族に説明 → 家族による書面での承諾 → 法的脳死判定(1回目)→ 一定時間後に2回目(2回目終了時が死亡時刻) → HLA検査などのドナー評価、レシピエント選定、移植チーム派遣 → 臓器摘出・移植
法的脳死判定の主な項目
深昏睡、瞳孔の固定・散大(左右とも4mm以上)、脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テスト)を確認する。2回目の判定は、6歳以上では1回目から6時間以上、6歳未満では24時間以上あけて行う。
POINT
・本人の書面による提供意思があっても、家族が拒まないことが必要。まず家族と話し合う。 ・手順:家族への説明・選択肢提示 → 臓器移植ネットワーク連絡・コーディネーターの説明 → 家族の書面承諾 → 法的脳死判定(2回)→ HLA検査・レシピエント選定 → 移植チーム派遣・摘出。 ・2010年改正以降、本人の意思が不明でも家族の承諾で提供可能。15歳未満からも提供可能。 ・本人が拒否を表示していれば提供できない。 ・法的脳死判定は2回目の判定終了時刻が死亡時刻。
