炎症なら上がる、なのに下がる―「産生」と「消費」で解く低補体血症
第118回医師国家試験 F問題 第34問
国試問題にチャレンジ
低補体血症をきたしやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.胃癌
- b.肝不全
- c.Behçet病
- d.非結核性抗酸菌症
- e.全身性エリテマトーデス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
補体の多くは肝臓で産生される急性期反応物質であり、感染症・悪性腫瘍・多くの炎症性疾患ではむしろ上昇しやすいことが出発点です。低補体血症は、肝不全・肝硬変などによる産生低下、SLEや悪性関節リウマチ、急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症などによる消費亢進、ネフローゼ症候群などによる喪失の3つの機序で生じます。Behçet病は好中球機能亢進が中心の疾患で、補体は正常か上昇することが多く、SLEとは対照的です。SLEでは補体低下が抗dsDNA抗体上昇とともに疾患活動性を反映するため、診断だけでなく再燃の早期発見にも役立ちます。C3・C4の低下パターンと「産生・消費・喪失」の枠組みを組み合わせて考えることで、腎炎や膠原病の鑑別を論理的に進められるようになります。
解答・解説
正解はb, eです
補体は、病原体の排除や免疫複合体の処理を担う血漿タンパク質群である。臨床では血清補体価(CH50:補体系全体の溶血活性)とC3、C4などの成分量を測定して評価する。 血中の補体量は「産生」と「消費・喪失」のバランスで決まる。この観点で整理すると、低補体血症の原因は次の3つに分けられる。 ①産生の低下:補体成分の大部分は肝細胞で合成されるため、肝硬変・肝不全では産生が落ちる。先天性の補体成分欠損症もここに含まれる。 ②消費の亢進:免疫複合体が形成され、古典経路などが活性化されて補体が使い果たされる病態である。SLE(全身性エリテマトーデス)、悪性関節リウマチ、急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症、DIC(播種性血管内凝固)を伴う重症敗血症などがある。 ③体外への喪失:ネフローゼ症候群や蛋白漏出性胃腸症などである。 一方、C3やC4の多くは急性期反応物質としての性質を持つ。このため、炎症・感染症・悪性腫瘍・多くの膠原病では、肝での産生が増え補体価はむしろ上昇しやすい。本問は「補体価は炎症で上がるのが基本で、下がるのは産生低下か消費・喪失があるとき」という原則を当てはめて解く。
選択肢考察
- ×a. 胃癌
悪性腫瘍では、腫瘍に伴う炎症やサイトカイン(IL-6など)の刺激で肝臓での補体産生が増え、補体価はむしろ上昇することが多い。胃癌そのものが低補体血症をきたすことは通常ない。ただし、多発肝転移で肝機能が著しく低下した場合などは例外となりうる。
- ○b. 肝不全
C3、C4をはじめとする補体成分の大部分は肝細胞で合成される(一部はマクロファージなどでも産生される)。肝不全や非代償性肝硬変では肝の合成能が落ち、アルブミンや凝固因子と同じように補体の産生も低下する。このため低補体血症をきたしやすい。補体の低下は、肝硬変患者が細菌感染(特発性細菌性腹膜炎など)を起こしやすい一因とも考えられている。
- ×c. Behçet病
Behçet病は口腔内アフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、ぶどう膜炎を主症状とする炎症性疾患で、好中球の機能亢進が病態の中心にある。免疫複合体による補体消費を主体とする疾患ではない。活動期には炎症を反映して補体価はむしろ上昇することが多い。SLEと悪性関節リウマチを除く多くの膠原病・類縁疾患では、補体価は正常か上昇する。
- ×d. 非結核性抗酸菌症
感染症では炎症に伴い補体の産生が増え、補体価は上昇するのが一般的である。非結核性抗酸菌症は慢性に経過し炎症が比較的軽いことが多く、低補体血症をきたしやすい疾患ではない。なお、どの感染症でも、重症敗血症でDICを合併するなど補体が大量に消費される状況になれば低下に転じることがある。
- ○e. 全身性エリテマトーデス
SLEは抗二本鎖DNA抗体などの自己抗体が抗原と免疫複合体を形成し、それが組織に沈着して古典経路を活性化するⅢ型アレルギーを主体とする疾患である。補体が持続的に消費されるため、CH50、C3、C4が低下する。補体の低下は抗dsDNA抗体の上昇とともに疾患活動性の指標であり、特にループス腎炎の活動期に目立つ。2019年のEULAR/ACR分類基準でも低補体血症(C3またはC4の低下)が免疫学的項目に含まれている。また、C1q、C2、C4などの先天性補体欠損症はSLE発症の危険因子として知られる。
補体の活性化経路
・古典経路:抗原抗体複合体にC1qが結合して始まる。C1→C4→C2→C3と進む。 ・レクチン経路:マンノース結合レクチン(MBL)が微生物表面の糖鎖に結合して始まり、C4・C2を経てC3に合流する。 ・第二経路(副経路):C3が微生物表面などで自然に活性化され、B因子・D因子が関与する。C4は使われない。 ・いずれの経路もC3を経て、C5〜C9からなる膜侵襲複合体(MAC)を形成し、細胞膜に穴を開ける。
補体パターンによる推定
・C3・C4ともに低下:古典経路の活性化(SLE、クリオグロブリン血症、悪性関節リウマチなど) ・C3が主に低下し、C4は正常:第二経路の活性化(溶連菌感染後急性糸球体腎炎、C3腎症など) ・C4のみ低下し、C3は正常:遺伝性血管性浮腫(C1インヒビター欠損による)、クリオグロブリン血症など
低補体血症を示す主な疾患
・腎疾患:急性糸球体腎炎(溶連菌感染後、C3が低下し通常6〜8週で正常化する)、膜性増殖性糸球体腎炎(持続的に低下)、ループス腎炎。この3つは「低補体血症を伴う腎炎」として必ず押さえておく。 ・膠原病:SLE、悪性関節リウマチ(関節リウマチの中でも血管炎を伴う重症型) ・その他の消費性病態:クリオグロブリン血症(C型肝炎関連が多い)、DICを伴う重症敗血症、遺伝性血管性浮腫 ・産生低下:肝硬変・肝不全、先天性補体欠損症 ・喪失:ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症
補体価が上昇しやすい病態
感染症、悪性腫瘍、外傷・手術後、関節リウマチ(悪性関節リウマチを除く)、Behçet病、血管炎など、多くの炎症性疾患
POINT
・補体は主に肝臓で産生され、急性期反応物質として炎症・感染・悪性腫瘍では上昇しやすい。 ・低補体血症の機序は、産生低下(肝不全・肝硬変)、消費亢進(SLE、悪性関節リウマチ、急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症など)、喪失(ネフローゼ症候群など)の3つ。 ・膠原病のうち補体が低下するのはSLEと悪性関節リウマチ。そのほかの多くの膠原病・類縁疾患(Behçet病を含む)では補体は正常か上昇する。 ・SLEでは補体低下が抗dsDNA抗体上昇とともに疾患活動性を反映する。
