休むと痛む腰痛がある―強直性脊椎炎の「炎症性腰背部痛」と膠原病の特徴的症候
第117回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
疾患と特徴的な症候との組合せで誤っているのはどれか。
- a.関節リウマチ ―― 中足趾節関節の腫脹
- b.乾癬性関節炎 ―― 遠位指節間関節の腫脹
- c.強直性脊椎炎 ―― 安静により改善する腰背部痛
- d.Sjögren症候群 ―― 舌乳頭の萎縮
- e.皮膚筋炎 ―― 頸部における屈筋優位の筋力低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
強直性脊椎炎の腰背部痛は炎症性であり、安静や夜間に悪化して運動で改善し、起床時のこわばりを伴うのが特徴で、安静で改善するのは椎間板ヘルニアなどの機械的腰痛の性質です。関節リウマチはPIP・MCP・手関節とMTP関節を対称性に侵してDIP関節は侵しにくく、乾癬性関節炎はDIP関節炎・爪病変・指趾炎を特徴とします。Sjögren症候群では唾液減少による舌炎から舌乳頭が萎縮し、皮膚筋炎では近位筋と頸部屈筋優位の対称性筋力低下にヘリオトロープ疹やGottron徴候を伴います。強直性脊椎炎はHLA-B27と関連し若年男性に多く、竹様脊椎、胸郭拡張制限、前部ぶどう膜炎などを伴い、治療はNSAIDsと運動療法を基本に生物学的製剤も用いられます。症候の「分布」と「性質」に注目する視点は、日常診療でよく出会う関節痛や腰痛から膠原病・脊椎関節炎を拾い上げる力につながります。
解答・解説
正解はcです
本問は、関節リウマチ・脊椎関節炎・膠原病の代表疾患について、診断の手がかりとなる特徴的な症候を問う問題である。「誤っているもの」を一つ選ぶ形式であることに注意する。 考え方のポイントは次のとおりである。 ・関節炎の分布:関節リウマチは手指の近位指節間(PIP)関節・中手指節(MCP)関節・手関節と、足の中足趾節(MTP)関節に好発し、遠位指節間(DIP)関節は侵されにくい。これに対して乾癬性関節炎はDIP関節を侵しやすい。 ・腰背部痛の性質:腰痛は、椎間板や筋など構造の問題による「機械的腰痛」(動くと悪化し、休むと軽くなる)と、脊椎の付着部炎・関節炎による「炎症性腰背部痛」(安静で悪化し、動くと軽くなる)に分けて考える。強直性脊椎炎の腰背部痛は後者の典型である。 ・乾燥症状と口腔所見:Sjögren症候群では唾液分泌低下により口腔が乾燥し、舌の表面に変化が生じる。 ・筋力低下の分布:皮膚筋炎・多発性筋炎では体幹に近い筋(近位筋)と頸部屈筋が対称性に侵される。 これらを当てはめると、強直性脊椎炎の腰背部痛を「安静により改善する」とした組合せが誤りである。
選択肢考察
- ×a. 関節リウマチ ―― 中足趾節関節の腫脹
正しい組合せである。関節リウマチは滑膜の炎症(滑膜炎)を主体とする多発関節炎で、手のPIP関節・MCP関節・手関節に加え、足のMTP関節にも左右対称性に好発する。MTP関節の滑膜炎は初期から生じることが多く、足趾の付け根を横から握ると痛む(スクイーズテスト陽性)。進行すると関節破壊によって外反母趾、槌趾(ハンマートウ)、中足骨頭の突出に伴う足底の胼胝(たこ)などの足趾変形をきたす。ACR/EULARの関節リウマチ分類基準(2010年)でも、MTP関節は小関節として評価対象に含まれる。
- ×b. 乾癬性関節炎 ―― 遠位指節間関節の腫脹
正しい組合せである。乾癬性関節炎は皮膚の乾癬に伴って起こる脊椎関節炎の一つで、リウマトイド因子は通常陰性である。手指ではDIP関節が侵されやすく、関節の周囲に近い爪には点状陥凹や爪甲剥離などの爪病変を伴うことが多い。ほかに、一本の指全体がソーセージ状に腫れる指趾炎、腱や靱帯の骨への付着部の炎症(付着部炎)、非対称性の少数関節炎、仙腸関節炎・脊椎炎、重症例では高度な骨破壊による骨融解型の変形(ムチランス変形)などがみられる。DIP関節が侵されにくい関節リウマチとの鑑別に役立つ所見である(DIP関節の腫脹・骨性隆起は変形性関節症のHeberden結節でもみられる)。
- ○c. 強直性脊椎炎 ―― 安静により改善する腰背部痛
誤った組合せであり、これが正解である。強直性脊椎炎は、仙腸関節と脊椎の付着部・関節に慢性炎症が起こり、進行すると脊椎が骨性に癒合して強直する疾患で、HLA-B27との強い関連があり、主に10〜20歳代の若年男性に発症する。その腰背部痛は炎症性腰背部痛であり、安静にすると悪化し、運動や体を動かすことで軽快するのが特徴である。夜間から明け方に痛みで目が覚めやすく、起床時に強いこわばりを伴い、起き上がって動くうちに改善する。国際脊椎関節炎評価学会(ASAS)の炎症性腰背部痛の基準では、40歳未満での発症、緩徐な発症、運動による改善、安静で改善しないこと、夜間痛(起床により改善する)の5項目のうち4項目以上を満たすものとしている。安静で軽快する腰痛は、腰椎椎間板ヘルニアや筋・筋膜性腰痛などの機械的腰痛の特徴である。
- ×d. Sjögren症候群 ―― 舌乳頭の萎縮
正しい組合せである。Sjögren症候群は唾液腺・涙腺などの外分泌腺にリンパ球が浸潤する自己免疫疾患で、口腔乾燥と眼乾燥(ドライアイ)が主症状となる。唾液の分泌が減ると、唾液による粘膜の保護・自浄作用が失われ、舌の表面が乾燥して舌炎を起こし、糸状乳頭が萎縮して舌表面が平滑で赤い(平滑舌)外観になる。このほか、口角炎、う蝕の多発、口腔カンジダ症、嚥下しにくさ(乾いた食べ物が飲み込みにくい)などもみられる。
- ×e. 皮膚筋炎 ―― 頸部における屈筋優位の筋力低下
正しい組合せである。皮膚筋炎・多発性筋炎では、肩甲帯・骨盤帯などの近位筋が左右対称性に障害され、頸部では屈筋(胸鎖乳突筋など)が伸筋より強く侵される。そのため、仰臥位から頭を持ち上げられない、枕から頭を上げにくいといった症状を訴える。このほか、しゃがみ立ちや階段昇降の困難、腕を挙上して髪をとかす動作の困難、嚥下障害(咽頭筋の障害)などがみられる。皮膚筋炎ではこれに加えて、上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑(ヘリオトロープ疹)、手指関節伸側の角化性紅斑(Gottron徴候)などの特徴的な皮疹を伴う。
炎症性腰背部痛と機械的腰痛の比較
・炎症性:若年(40歳未満)発症、徐々に始まり3か月以上持続、安静・夜間に増悪し運動で改善、朝のこわばりが長い。代表は強直性脊椎炎などの体軸性脊椎関節炎。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)がよく効くことも特徴とされる。 ・機械的:動作や負荷で悪化し安静で改善する。代表は腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、筋・筋膜性腰痛など。
強直性脊椎炎の主な所見
仙腸関節炎(画像で関節の侵食・硬化・癒合)、脊椎の竹様脊椎(bamboo spine)、腰椎可動域の低下(Schober試験)、胸郭拡張制限、付着部炎(アキレス腱付着部など)、急性前部ぶどう膜炎の合併。治療はNSAIDs、運動療法、効果不十分ならTNF阻害薬やIL-17阻害薬などの生物学的製剤。
関節炎の分布による鑑別
・関節リウマチ:PIP・MCP・手関節・MTP関節、対称性。DIP関節は侵されにくい。 ・乾癬性関節炎:DIP関節、指趾炎、非対称性、爪病変、脊椎炎。 ・変形性関節症(手):DIP関節(Heberden結節)、PIP関節(Bouchard結節)。 ・痛風:第1MTP関節に好発する単関節炎。
舌乳頭萎縮をきたす主な病態
Sjögren症候群(乾燥による舌炎)、鉄欠乏性貧血(Plummer-Vinson症候群)、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血(Hunter舌炎)など。
POINT
・強直性脊椎炎の腰背部痛は炎症性:安静で悪化し、運動で改善する(夜間痛・朝のこわばり)。安静で改善するのは機械的腰痛である。 ・関節リウマチ:PIP・MCP・手関節・MTP関節に対称性。DIP関節は侵されにくい。 ・乾癬性関節炎:DIP関節、指趾炎、爪病変。 ・Sjögren症候群:口腔乾燥に伴う舌乳頭萎縮(平滑舌)。 ・皮膚筋炎:近位筋と頸部屈筋優位の対称性筋力低下+ヘリオトロープ疹・Gottron徴候。
