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炎症なのに補体が下がる?―「消費」で読み解く低補体血症

第115回医師国家試験 F問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第33問

低補体血症を認める疾患はどれか。2つ選べ。

  1. a.蜂窩織炎
  2. b.細菌性肺炎
  3. c.虚血性大腸炎
  4. d.急性糸球体腎炎
  5. e.混合型クリオグロブリン血症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、どんな病気で血清補体が低くなるかを問う問題だ。ポイントは「炎症があれば補体は下がる」という思い込みを捨てること。補体がどう作られ、どう減るのかという仕組みから考えていこう。
医学生医学生
炎症が起きると補体が使われるので、感染症ならどれでも下がりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。補体のC3やC4は主に肝臓で作られ、急性期反応物質としての性質ももっている。だから一般的な細菌感染症では産生が増えて、血中濃度はむしろ正常〜高値になることが多いんだ。
医学生医学生
CRPと同じように、炎症で増える側の蛋白なんですね。
ドクタードクター
その通り。逆に低補体血症になるのは、産生を上回る勢いで補体が消費される場合か、産生そのものが落ちる場合、あるいは先天的な欠損がある場合に限られる。特に試験で重要なのは「消費」で、免疫複合体が大量にできて補体経路が持続的に回り続ける疾患がその代表だ。
医学生医学生
免疫学の講義で習った古典的経路、第二経路、レクチン経路の話ですね。
ドクタードクター
そう。古典的経路は抗原抗体複合体にC1qが結合して始まり、C4とC3の両方が消費される。第二経路は細菌表面などでC3が直接活性化されるので、C4は保たれてC3が主に下がる。この違いが鑑別に効いてくるよ。では選択肢を見ていこう。蜂窩織炎と細菌性肺炎はどうかな。
医学生医学生
どちらも細菌感染症で、免疫複合体が大量にできる病態ではないので、補体はむしろ上がる側ですか。
ドクタードクター
正解。局所では補体が働いているけれど、全身的には産生亢進が勝つ。肺炎でも敗血症性ショックやDICを伴う重症例では消費で下がることはあるが、細菌性肺炎そのものが低補体血症を特徴とする疾患ではない。虚血性大腸炎はどうだろう。
医学生医学生
消化器内科の実習で、便秘のある高齢女性が腹痛と下血で入院していたのを覚えています。血流の問題なので、免疫複合体は関係なさそうです。
ドクタードクター
よく結びつけたね。一過性の血流低下による粘膜の虚血性病変で、補体消費の機序はない。では急性糸球体腎炎は?
医学生医学生
溶連菌の咽頭炎から1〜3週間くらいして、血尿・浮腫・高血圧で発症する病気ですよね。小児科の実習で、C3が低いのを確認するように言われました。
ドクタードクター
まさにそれ。溶連菌感染後急性糸球体腎炎では、糸球体に沈着した免疫複合体や菌由来抗原によって補体が活性化・消費され、C3とCH50が低下する。第二経路の活性化が主体なので、C4は正常であることが多いのが特徴だ。そして低補体は通常6〜8週間程度で正常化する。
医学生医学生
もし8週間を過ぎても補体が戻らなかったら、別の腎炎を考えるということですか。
ドクタードクター
その通り。膜性増殖性糸球体腎炎、C3腎症、ループス腎炎などを疑って、腎生検も検討する。最後に混合型クリオグロブリン血症はどうかな。
医学生医学生
冷やすと沈殿する免疫グロブリンでしたよね。免疫複合体そのもののような病気なので、補体は消費されそうです。
ドクタードクター
いい推論だ。混合型ではリウマトイド因子活性をもつIgMが多クローン性IgGと免疫複合体をつくり、古典的経路を強く活性化する。だからC4とCH50が著明に低下し、C3も下がりうる。特にC4の低下が目立つのが特徴で、C型肝炎ウイルス感染との関連が深く、紫斑、関節痛、末梢神経障害、膜性増殖性糸球体腎炎を起こす。
医学生医学生
つまり、急性糸球体腎炎とクリオグロブリン血症が正解で、C3だけ下がるかC4も下がるかで経路の違いまで読み取れるんですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に周辺知識を整理しよう。低補体を伴う腎炎として「溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎」の3つはセットで覚えておきたい。そのほかSLE、悪性関節リウマチ、感染性心内膜炎、シャント腎炎、コレステロール塞栓症などの消費、肝硬変による産生低下、遺伝性血管性浮腫のようなC1インヒビター欠損によるC4低下も押さえておこう。
医学生医学生
SLEでは補体が疾患活動性の指標になると膠原病内科で教わりました。
ドクタードクター
そうだね。外来で抗dsDNA抗体と一緒に補体を追いかけて、低下してきたら再燃を警戒する。補体値は「下がっているか」だけでなく「どの成分が、どのくらいの期間下がっているか」まで見ると、診断と経過判断の大きな手がかりになるよ。

まとめ

補体(C3・C4)は急性期反応物質でもあるため、蜂窩織炎や細菌性肺炎などの一般的な炎症ではむしろ正常〜高値となり、虚血性大腸炎のような免疫複合体の関与しない病態でも低下しません。低補体血症をきたすのは、免疫複合体などで補体が大量に消費される疾患、肝硬変などの産生低下、先天的欠損に限られます。溶連菌感染後急性糸球体腎炎は第二経路の活性化でC3が低下しC4は正常、通常6〜8週間で正常化し、持続すれば膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎を疑います。混合型クリオグロブリン血症はIgM-IgG免疫複合体による古典的経路の活性化でC4が著明に低下し、C型肝炎との関連が深い疾患です。どの成分がどの程度、どのくらいの期間低下するかを読み解く視点は、腎炎や膠原病の診断・経過観察に直結します。

解答・解説

正解はd, eです

補体は肝臓で主に産生される血漿蛋白群で、C3、C4などの成分と、総体としての溶血活性を表すCH50(血清補体価)で評価する。C3やC4は急性期反応物質としての性質をもつため、細菌感染症などの一般的な炎症では産生が亢進し、血中濃度はむしろ正常〜高値になる。 したがって「低補体血症」をきたすのは、産生を上回る勢いで補体が消費される状態か、産生自体が落ちる状態に限られる。 ・消費の亢進:免疫複合体が大量に形成され、古典的経路が持続的に活性化される疾患(SLE、クリオグロブリン血症、悪性関節リウマチ、感染性心内膜炎・シャント腎炎など)や、第二経路(副経路)が活性化される疾患(溶連菌感染後急性糸球体腎炎、C3腎症など) ・産生の低下:肝硬変・肝不全 ・先天的な欠損:補体成分欠損症、C1インヒビター欠損(遺伝性血管性浮腫) 選択肢を見ると、蜂窩織炎・細菌性肺炎・虚血性大腸炎はいずれも免疫複合体の大量形成を伴わない一般的な炎症で、補体は低下しない。一方、急性糸球体腎炎と混合型クリオグロブリン血症は、補体消費によって低補体血症を呈する代表的な疾患である。 なお、低補体血症を伴う腎炎として「急性糸球体腎炎(溶連菌感染後)、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎」の3つをまとめて覚えておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  蜂窩織炎

    蜂窩織炎は主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌による真皮〜皮下組織の細菌感染症である。局所での補体活性化は起こるが、全身的には炎症に伴って肝臓での補体産生が増え、血清補体価は正常〜上昇する。低補体血症をきたす疾患ではないため誤り。

  2. ×b.  細菌性肺炎

    細菌性肺炎でも、補体は急性期反応として産生が亢進し、血清補体価は通常正常〜高値を示す。敗血症性ショックを伴う重症例では消費により低下することがあるが、細菌性肺炎そのものは低補体血症を特徴とする疾患ではないため誤り。

  3. ×c.  虚血性大腸炎

    虚血性大腸炎は、主幹動脈に明らかな閉塞のない一過性の血流低下により大腸粘膜に虚血性病変が生じる疾患で、高齢者や便秘のある人に多く、腹痛と下血で発症する。免疫複合体の関与はなく、炎症に伴い補体はむしろ上昇しうる。低補体血症とは関係しないため誤り。

  4. ○d.  急性糸球体腎炎

    急性糸球体腎炎の多くはA群β溶血性レンサ球菌の咽頭炎・皮膚感染から1〜3週間程度の潜伏期を経て、血尿、浮腫、高血圧で発症する(溶連菌感染後急性糸球体腎炎)。糸球体に沈着した免疫複合体や菌由来抗原によって補体が活性化・消費され、血清C3とCH50が低下する。第二経路の活性化が主体のためC4は正常であることが多いのが特徴である。低補体血症は通常6〜8週間程度で正常化し、持続する場合は膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎、C3腎症などを疑う。低補体血症を認める疾患として正しい。

  5. ○e.  混合型クリオグロブリン血症

    クリオグロブリンは低温で沈殿し、37℃に温めると再溶解する免疫グロブリンである。混合型(Ⅱ型・Ⅲ型)では、リウマトイド因子活性をもつIgMが多クローン性IgGと免疫複合体を形成し、これが古典的経路を強く活性化して補体を消費する。そのためC4とCH50が著明に低下し、C3も低下しうる(C4の低下がとくに目立つのが特徴)。C型肝炎ウイルス感染に合併することが多く、紫斑、関節痛、末梢神経障害、膜性増殖性糸球体腎炎を呈する。低補体血症を認める疾患として正しい。

補体活性化の3経路

・古典的経路:抗原抗体複合体(IgG、IgM)にC1qが結合して始まる。C1→C4→C2→C3の順に活性化され、C4とC3の両方が消費される。 ・第二経路(副経路):細菌表面などでC3が直接活性化される。C4は消費されず、C3が主に低下する。 ・レクチン経路:マンノース結合レクチンが微生物の糖鎖に結合して始まり、C4・C2を経てC3を活性化する。 いずれの経路もC3転換酵素を経て膜侵襲複合体(C5b-9)の形成に至る。

低補体血症をきたす主な疾患

・腎炎:溶連菌感染後急性糸球体腎炎(C3低下、C4正常、一過性)、膜性増殖性糸球体腎炎・C3腎症(持続性)、ループス腎炎(C3・C4ともに低下、疾患活動性の指標) ・免疫複合体疾患:SLE、クリオグロブリン血症(C4著明低下)、悪性関節リウマチ、感染性心内膜炎、シャント腎炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎 ・その他の消費亢進:コレステロール塞栓症、敗血症・DIC(播種性血管内凝固)など ・産生低下:肝硬変・肝不全 ・先天性:補体成分欠損症(C3欠損では反復性細菌感染、C5〜C9欠損ではナイセリア感染、早期成分C1q・C2・C4の欠損ではSLE様疾患)、遺伝性血管性浮腫(C1インヒビター欠損でC4低下)

補体が上昇する場合

感染症、悪性腫瘍、関節リウマチ(悪性関節リウマチを除く)など一般的な炎症性疾患では急性期反応として補体は上昇する。

POINT

・一般的な炎症(感染症など)では補体は低下せず、むしろ上昇する。 ・低補体血症をきたす腎炎:急性糸球体腎炎(溶連菌感染後)、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎。 ・溶連菌感染後急性糸球体腎炎はC3低下・C4正常で、通常6〜8週間で正常化する。 ・クリオグロブリン血症は古典的経路の活性化によりC4が著明に低下し、C型肝炎との関連が深い。 ・その他、SLE、悪性関節リウマチ、感染性心内膜炎、肝硬変、遺伝性血管性浮腫などでも低補体となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。