StudyMed医師国家試験

病気になる前に手を打つ―精神障害の一次予防を見抜く物差し

第114回医師国家試験 F問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第10問

精神障害の一次予防はどれか。

  1. a.就労移行支援の推進
  2. b.病院における先進的治療の促進
  3. c.飲酒の害に関する知識の普及活動
  4. d.新規抗精神病薬の導入による迅速な症状改善
  5. e.新たな脳機能測定方法を用いた精神状態の把握

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、予防医学の3段階を精神障害に当てはめる問題だ。着眼点はシンプルで、それぞれの取り組みが、まだ病気になっていない人を対象にしているのか、すでに病気がある人を対象にしているのか、という一点を確認すればいい。まず、予防の3段階を覚えているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習いました。LeavellとClarkの分類で、一次予防が発症予防、二次予防が早期発見・早期治療、三次予防がリハビリテーションですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。少し補足すると、一次予防には健康教育や生活習慣の改善といった健康増進と、予防接種や危険因子の除去といった特異的予防が含まれる。二次予防は検診などで始まりかけた病気を早く見つけ、早く治療して進行を食い止めること。三次予防は発症後の悪化や再発を防ぎ、障害を最小限にして社会復帰を助けることだ。
医学生医学生
身体の病気だと、ワクチンが一次、がん検診が二次、脳梗塞後のリハビリが三次というイメージですぐ分かるんですが、精神障害になると急にあいまいに感じます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いよ。でも物差しは同じだ。では、飲酒の害に関する知識の普及活動はどうだろう。
医学生医学生
一般の人に向けた啓発なので、まだ発症していない人が対象ですね。一次予防でしょうか。
ドクタードクター
正解。過度な飲酒はアルコール依存症などのアルコール使用障害の原因になるし、ビタミンB1欠乏によるWernicke脳症やKorsakoff症候群、アルコール関連の認知症といった脳の障害も引き起こす。さらに、うつ病の悪化や自殺のリスクにも関わる。飲酒の害を広く伝える健康教育は、危険因子への曝露を発症前に減らす取り組みだから、一次予防そのものなんだ。わが国ではアルコール健康障害対策基本法に基づいて、不適切な飲酒を防ぐ教育や啓発が進められているよ。
医学生医学生
精神科の実習で、アルコール依存症の患者さんが入院していて、指導医の先生が「ここまで来る前に止められたら」とおっしゃっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその「ここまで来る前」が一次予防の領域だね。では、新しい脳機能測定方法で精神状態を把握する取り組みは?
医学生医学生
最先端の技術なので、病気を未然に防げそうな気もしますが……。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。精神状態を把握するというのは、すでに始まりつつある病気の兆候をいち早く捉えること、つまり早期発見だ。うつ病のスクリーニングと同じく二次予防に当たる。技術が新しいかどうかではなく、誰を対象に何をするのかで判断するんだ。
医学生医学生
病院での先進的治療や、新しい抗精神病薬で症状を早く改善させるというのも、同じ考え方で外れますね。
ドクタードクター
そうだね。どちらもすでに発症した患者さんへの治療だ。早期治療で進行を食い止めるという意味では二次予防、悪化や再発を防ぐという意味では三次予防と扱われ、目的によって分類が揺れることもある。ただ、発症後の介入だから一次予防ではない、という点は揺るがない。
医学生医学生
就労移行支援はどうでしょう。働けなくなるのを防ぐという意味では予防っぽく聞こえます。
ドクタードクター
就労移行支援は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスで、一般企業への就職を目指す障害のある人に職業訓練や求職活動の支援、就職後の定着支援を行う。精神障害を発症した人の社会復帰を後押しするものだから、三次予防だ。
医学生医学生
「予防」という言葉に引っ張られず、対象が発症前か発症後かで切り分ければいいんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、精神保健領域の具体例も整理しておこう。一次予防はメンタルヘルスの知識の普及、ストレス対処法の教育、飲酒や薬物乱用の害の啓発、職場環境の改善。二次予防はうつ病のスクリーニングや、保健所・精神保健福祉センターでの相談から早期受診につなげること。三次予防は服薬継続による再発防止、作業療法やデイケア、SSTといった精神科リハビリテーション、就労支援やグループホームなどの地域生活支援だ。
医学生医学生
職場のストレスチェックはどこに入りますか。CBTの問題集で見て迷ったことがあります。
ドクタードクター
よく出るテーマだね。労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場で年1回の実施が義務づけられている。制度全体の主な目的は一次予防で、労働者自身がストレスに気づいてセルフケアをすることや、集団分析の結果を職場環境の改善に生かすことで、不調の発生を未然に防ぐことをねらっている。一方で、高ストレス者を把握して医師の面接指導につなげる段階は、不調の兆しを早く見つける二次予防の性格をもつ。制度全体の目的と、その中の各段階を分けて考えるのがコツだ。
医学生医学生
一つの制度の中にも複数の段階が混ざっていることがあるんですね。
ドクタードクター
そう。臨床に出ると、目の前の患者さんの治療だけでなく、地域や職場で発症をどう減らすかという視点も求められる。予防の段階を正しく位置づけられることは、その第一歩になるよ。

まとめ

予防医学ではLeavellとClarkの分類に従い、発症そのものを防ぐ一次予防(健康増進・健康教育・特異的予防)、早期発見・早期治療の二次予防、悪化・再発防止や社会復帰支援の三次予防に分けます。精神障害でも判断基準は同じで、まだ発症していない人の危険因子への曝露を減らす飲酒の害の啓発は一次予防に当たります。脳機能測定などによる精神状態の早期把握は二次予防、病院での治療や抗精神病薬による症状改善は目的により二次または三次予防、就労移行支援は社会復帰を支える三次予防です。ストレスチェック制度のように、制度全体の目的は一次予防でも、高ストレス者への面接指導の段階は二次予防の性格をもつものもあります。「対象が発症前か発症後か」という物差しを持つことで、精神保健の多様な施策を整理し、臨床や地域保健の現場で予防の視点を生かせるようになります。

解答・解説

正解はcです

予防医学では、病気のどの段階に働きかけるかによって予防を三つの段階に分ける(LeavellとClarkの分類)。 ・一次予防:まだ病気になっていない人を対象に、発症そのものを防ぐ。健康増進(健康教育、生活習慣の改善、ストレス対処法の普及など)と特異的予防(予防接種、危険因子の除去など)が含まれる。 ・二次予防:すでに始まっている病気をできるだけ早く見つけ、早く治療して進行を食い止める。検診(スクリーニング)による早期発見と早期治療が代表である。 ・三次予防:発症した後の段階で、悪化や再発を防ぎ、障害を最小限にして社会生活への復帰を助ける。リハビリテーションや社会復帰支援が代表である。 本問は、この枠組みを精神障害に当てはめる問題である。各選択肢について「まだ発症していない人の発症を防ぐ取り組みか」という視点で判定すればよい。治療、早期把握、社会復帰支援はいずれも、すでに病気がある人(またはその疑いのある人)を対象とするため、一次予防には当たらない。一般の人々に飲酒の害を伝える活動は、発症前の段階で危険因子への曝露を減らす取り組みであり、一次予防に該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  就労移行支援の推進

    誤り。就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つである。一般企業への就職を目指す障害者に対し、一定期間、職業訓練や求職活動の支援、就職後の職場定着支援を行う。精神障害を発症した人の社会復帰を後押しする取り組みであり、三次予防に当たる。

  2. ×b.  病院における先進的治療の促進

    誤り。病院での治療は、すでに精神障害を発症した患者が対象である。発症そのものを防ぐものではないため、一次予防ではない。早期治療によって進行を食い止めるという意味では二次予防、悪化や再発を防ぎ障害を軽くするという意味では三次予防として扱われる。いずれにせよ、発症後の介入である点が一次予防との決定的な違いである。

  3. ○c.  飲酒の害に関する知識の普及活動

    正しい。過度な飲酒は、アルコール依存症などのアルコール使用障害の原因となる。また、Wernicke脳症・Korsakoff症候群(ビタミンB1欠乏による脳障害)やアルコール関連の認知症といった脳機能障害の原因にもなる。さらに、うつ病の悪化や自殺のリスクにも関わる。飲酒の害を広く一般の人々に知らせる健康教育は、まだ発症していない人がこれらの危険因子に曝露されるのを減らし、精神障害の発生そのものを防ぐことを目指す。したがって一次予防(健康増進・健康教育)に当たる。わが国では、アルコール健康障害対策基本法に基づき、不適切な飲酒の防止に向けた教育や啓発が進められている。

  4. ×d.  新規抗精神病薬の導入による迅速な症状改善

    誤り。抗精神病薬による治療は、統合失調症などをすでに発症した患者が対象である。症状を速やかに改善させて病状の進行を防ぐという点では二次予防、悪化や再発を防ぐという点では三次予防に位置づけられる。発症前の人に働きかけるものではないため、一次予防ではない。

  5. ×e.  新たな脳機能測定方法を用いた精神状態の把握

    誤り。脳機能を測定して精神状態を把握することは、精神障害の兆候や発症をいち早く捉える早期発見につながる取り組みである。早期発見・早期治療は二次予防に当たり、一般の健康診断やがん検診、うつ病のスクリーニングと同じ位置づけである。すでに始まりつつある病気を見つけることが目的であり、発症そのものを防ぐ一次予防とは区別される。

予防の3段階(LeavellとClarkの分類)

・一次予防(発症前):健康増進(健康教育、栄養・運動・休養、生活環境の改善)、特異的予防(予防接種、事故防止、職業病対策、危険因子の除去) ・二次予防(発症初期):早期発見(検診、スクリーニング)、早期治療、重症化の防止 ・三次予防(発症後):悪化・再発の防止、機能障害の進行防止、リハビリテーション、社会復帰支援 治療行為そのものが二次予防か三次予防かは、目的(早期治療による進行防止か、悪化・再発防止や機能回復か)によって分類が分かれることがある。ただし、一次予防が「発症前の人を対象とする」点はどの分類でも共通している。

精神保健領域の具体例

・一次予防:メンタルヘルスに関する知識の普及、ストレス対処法の教育、飲酒・薬物乱用の害の啓発、職場環境の改善 ・二次予防:うつ病のスクリーニング、ストレスチェックで把握された高ストレス者への医師による面接指導、精神保健福祉センターや保健所での相談による早期受診の勧奨 ・三次予防:服薬継続による再発防止、精神科リハビリテーション(作業療法、デイケア、社会生活技能訓練〈SST〉)、就労移行支援・就労継続支援、グループホームなどの地域生活支援

補足:職場のストレスチェック制度

労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場で年1回の実施が義務づけられている(2015年施行)。労働者全員を対象に実施し、その結果から高ストレス者を把握して、本人の申出により医師による面接指導につなげる仕組みである。 制度全体の主な目的は一次予防であり、労働者が自らのストレス状態に気づいてセルフケアを行うこと、集団分析の結果を職場環境の改善に生かすことで、メンタルヘルス不調の発生を未然に防ぐことをねらう。 一方、制度の中の個々の段階を見ると、高ストレス者を把握して面接指導につなげる部分は、不調の兆しを早く見つけて対応するものであり、二次予防(早期発見・早期対応)の性格をもつ。このように、制度全体の目的(一次予防)と、高ストレス者の把握・面接指導という段階(二次予防)を区別して理解するとよい。

POINT

・一次予防=発症を防ぐ(健康増進・健康教育・特異的予防) ・二次予防=早期発見・早期治療 ・三次予防=悪化・再発の防止、リハビリテーション、社会復帰 ・飲酒の害の啓発は精神障害の一次予防、早期把握は二次予防、就労支援は三次予防である

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。