側頭骨CTの迷路を歩く―番号と機能の「ずらし」を見破る耳の解剖
第114回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
右側頭骨CTを別に示す。 部位と機能の組合せで正しいのはどれか。

- a.① ―― 舌知覚
- b.② ―― 中耳腔換気
- c.③ ―― 平衡覚
- d.④ ―― 表情筋運動
- e.⑤ ―― 聴覚
対話形式の解説
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ドクターまとめ
側頭骨CT軸位断では、画像の上方が前方、右側頭骨では画像の左方が外側となり、外耳道と内耳道を目印に外側から順に構造を同定すると迷いにくくなります。外側半規管と内耳道が見える高さでは、鼓室内の耳小骨(ツチ骨頭・キヌタ骨体のアイスクリームコーン像)、内耳道、前庭・外側半規管、乳突蜂巣、S状静脈洞が描出され、このうち前庭・半規管が平衡覚を担います。中耳の換気は耳管、表情筋運動は内耳道から顔面神経管を走る顔面神経、聴覚は蝸牛と蝸牛神経、舌の一般知覚は舌神経と舌咽神経が担うため、部位と機能を一つずつ照合することが大切です。S状静脈洞血栓症や真珠腫による半規管瘻孔・顔面神経障害など、側頭骨の位置関係は中耳疾患の合併症や手術リスクの理解にも直結します。
解答・解説
正解はcです
画像の読み方
右側頭骨の水平断(軸位断)CTで、外側半規管と内耳道が同時に写る高さ、すなわち上鼓室(鼓室の上部、アティック)付近の断面である。側頭骨CTの軸位断では、画像の上方が前方(顔側)、下方が後方(後頭側)である。右側頭骨は画像の左側に描出されるため、画像の左方が外側(耳介・外耳道側)、右方が内側(脳幹側)となる。実際に画像左端には耳介の軟部組織が、右上方には中頭蓋窩・錐体尖の方向が写っている。 この方位に従うと、各番号の構造は次のように同定できる。 ①:断面中央やや前方の鼓室(上鼓室)内に見える小さな高吸収構造で、耳小骨である。軸位断ではアイスクリームコーン状に見え、前方(画像上方)の丸い部分がツチ骨頭、その後方(画像下方)に接する部分がキヌタ骨体・短脚である。 ②:①③よりも内側(画像右方)に位置し、脳幹側へ向かって開く管状の低吸収構造で、内耳道である。顔面神経(第VII脳神経)と内耳神経(第VIII脳神経:蝸牛神経・前庭神経)および迷路動脈が通る。 ③:内耳道の外側後方(画像では②の左下方)、鼓室の内側にある骨迷路の一部で、前庭と、そこから外側後方へ弓状に張り出す外側半規管である。 ④:鼓室の後外側(画像左下方)に広がる、隔壁をもつ黒い含気腔で、乳突洞~乳突蜂巣である。 ⑤:さらに後方(画像下方)で、側頭骨後面の骨表面に沿って弯曲する溝状の構造であり、S状静脈洞(溝)である。
考え方
部位を正しく同定したうえで、その部位が担う機能を答える。耳小骨は音の伝達、内耳道は顔面神経・内耳神経の通路、前庭・半規管は平衡覚、乳突蜂巣は中耳の含気・圧緩衝、S状静脈洞は静脈還流である。この対応から、③と平衡覚の組合せが正しい。選択肢には、ある部位の機能を別の番号に結び付けた「ずらし」が多い(表情筋運動は②を通る顔面神経、中耳腔換気は耳管、聴覚は蝸牛と蝸牛神経)ので、番号ごとに冷静に照合することが重要である。
選択肢考察
- ×a. ① ―― 舌知覚
①は鼓室内の耳小骨(ツチ骨頭とキヌタ骨体)である。耳小骨は鼓膜の振動を内耳の前庭窓(卵円窓)へ伝える。鼓膜とアブミ骨底の面積比とてこ作用により音圧が約20~30 dB分増幅され、空気から内耳液への音響インピーダンスの差を補っている。舌の一般知覚(触覚・温痛覚)は前2/3が三叉神経第3枝の枝である舌神経、後1/3が舌咽神経の支配であり、耳小骨とは関係しない。なお、舌前2/3の味覚を運ぶ鼓索神経(顔面神経の枝)はツチ骨とキヌタ骨の間を通って鼓室を横切るが、これは味覚であり「知覚」ではなく、耳小骨自体の機能でもない。
- ×b. ② ―― 中耳腔換気
②は内耳道であり、顔面神経、内耳神経(蝸牛神経・上下の前庭神経)、迷路動脈が通る骨性の管である。中耳腔(鼓室)の換気と圧調節を担うのは、鼓室前壁から上咽頭へつながる耳管である。耳管は普段は閉じており、嚥下やあくびの際に開いて鼓室内圧を外気圧と等しくする。内耳道は中耳腔とは交通しておらず、換気とは無関係である。
- ○c. ③ ―― 平衡覚
③は内耳の前庭と外側半規管である。半規管(前・後・外側の3本)は膨大部にある膨大部稜の有毛細胞で頭部の回転(角加速度)を、前庭にある卵形嚢と球形嚢は耳石器として直線加速度と重力(頭の傾き)を感知する。これらの情報は前庭神経を経て脳幹の前庭神経核へ伝わり、平衡覚を形成するとともに前庭眼反射や姿勢反射に用いられる。したがって③と平衡覚の組合せは正しい。
- ×d. ④ ―― 表情筋運動
④は乳突洞から乳突蜂巣にかけての含気腔である。乳突蜂巣は鼓室と交通する含気スペースとして中耳の空気量を確保し、粘膜を介したガス交換によって緩やかで持続的な圧変化を緩衝すると考えられている。表情筋の運動は顔面神経が支配し、顔面神経は②の内耳道から顔面神経管(膝部・鼓室部・乳突部)を通って茎乳突孔から出る。乳突部の顔面神経管は乳突蜂巣の近くを走るが、④の含気腔そのものは表情筋運動を担わない。
- ×e. ⑤ ―― 聴覚
⑤は側頭骨後方の骨表面に沿うS状静脈洞(溝)であり、横静脈洞から続いて頸静脈孔で内頸静脈へ注ぐ硬膜静脈洞である。脳からの静脈還流を担い、聴覚とは関係しない。聴覚は、蝸牛のコルチ器で音を電気信号に変換し、蝸牛神経から内耳道を通って脳幹の蝸牛神経核へ伝えることで成り立つ。なお、S状静脈洞は乳突洞の後方に接するため、中耳炎・乳突炎がS状静脈洞血栓症を起こすことがある。
側頭骨の主な構造と機能
外耳道:音を鼓膜へ導く。 鼓膜・耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨):伝音系。音圧を増幅して前庭窓へ伝える。 耳管:鼓室と上咽頭をつなぎ、中耳の換気・圧調節・排泄を担う。 乳突洞・乳突蜂巣:中耳と交通する含気腔。圧の緩衝に関与する。 蝸牛:感音系。コルチ器の有毛細胞が音を電気信号に変換する。 前庭(卵形嚢・球形嚢):直線加速度・重力を感知する。 半規管(前・後・外側):回転(角加速度)を感知する。 内耳道:顔面神経・蝸牛神経・前庭神経・迷路動脈が通る。 顔面神経管:内耳道底から膝神経節を経て鼓室内側壁、乳突部を下行し茎乳突孔に至る。 S状静脈洞:乳突部の後方を走る静脈洞。
側頭骨CT軸位断の見え方
上方の断面から順に、前・後半規管が見える高さ、外側半規管と上鼓室の耳小骨(ツチ骨頭・キヌタ骨体が「アイスクリームコーン」状に見える)と内耳道が見える高さ、さらに下方で蝸牛(渦巻き状)や鼓室下部、耳管、頸静脈球・内頸動脈管が見える高さへと移る。外耳道と内耳道を目印に、外側から順に中耳・内耳を同定すると混乱しにくい。
舌の神経支配
一般知覚:前2/3は舌神経(三叉神経第3枝)、後1/3は舌咽神経。 味覚:前2/3は鼓索神経(顔面神経)、後1/3は舌咽神経。 運動:舌下神経。
POINT
・側頭骨CT軸位断では、耳小骨(ツチ骨頭・キヌタ骨体)、内耳道、前庭・外側半規管、乳突蜂巣、S状静脈洞を位置関係から同定できるようにする。 ・前庭・半規管は平衡覚、蝸牛は聴覚を担う。 ・中耳腔の換気は耳管が担う(内耳道ではない)。 ・顔面神経は内耳道を通り、表情筋を支配する。 ・舌の一般知覚は舌神経と舌咽神経であり、耳小骨とは無関係。
