年をとると「上がる」検査値はどれ?―閉経とフィードバックで読み解くFSH
第114回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
女性において若年より高齢で検査値が上昇するのはどれか。
- a.肺活量
- b.血清FSH
- c.血清アルブミン
- d.血清クレアチンキナーゼ
- e.クレアチニンクリアランス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
加齢により肺活量やクレアチニンクリアランスのような臓器機能の指標は低下し、筋肉量を反映するCKは上昇せず、血清アルブミンも健常高齢者ではほぼ不変からわずかに低下する程度です。一方、女性では40歳代から卵胞が減少してエストロゲンとインヒビンが低下し、視床下部・下垂体への負のフィードバックが外れるため、FSHがLHに先行して著明に上昇し、閉経後は高ゴナドトロピン性性腺機能低下症の状態になります。FSHの高低は無月経の障害部位推定や早発卵巣不全の診断にも役立ちます。また高齢者では筋肉量が少ないため血清クレアチニンだけでは腎機能低下を見逃しやすく、閉経後にはLDLコレステロール上昇や骨粗鬆症にも注意が必要です。検査値を年齢・性別・内分泌の背景とあわせて解釈する姿勢は、高齢者診療の基本となります。
解答・解説
正解はbです
テーマ
加齢に伴う検査値の変化を問う問題である。加齢によって多くの臓器の予備能や機能は低下するため、肺活量や腎機能のような「機能を表す指標」は高齢になるほど低下する。一方、「ある臓器の働きが落ちたことを補うために、上位の調節系が分泌を増やす」タイプの指標は、加齢とともに上昇する。
正解を導く考え方
女性では40歳代から卵巣の卵胞が急速に減少し、卵巣から分泌されるエストロゲン(エストラジオール)やインヒビンが低下する。これらは本来、視床下部・下垂体に負のフィードバックをかけてゴナドトロピン(卵胞刺激ホルモン〔FSH〕・黄体形成ホルモン〔LH〕)の分泌を抑えている。閉経(日本人の平均はおよそ50歳)前後でこの抑制が外れると、FSHとLHは著明に上昇し、特にFSHが先行して大きく上昇する。閉経後の女性は「卵巣は働かないがゴナドトロピンは高い」状態、すなわち高ゴナドトロピン性性腺機能低下症の状態になる。 したがって、選択肢の中で若年より高齢で値が上昇するのは血清FSHである。残りの指標は、加齢により低下するか、ほぼ変化しないものである。
選択肢考察
- ×a. 肺活量
肺活量は男女とも20歳前後をピークに、加齢とともに低下する。呼吸筋力の低下、胸郭のコンプライアンス(柔らかさ)の低下、肺の弾性収縮力の低下によって、最大吸気位から最大呼気位までの容量が小さくなるためである。肺の弾性が失われると気道が早く閉塞し残気量が増えるので、全肺気量があまり変わらなくても肺活量は減る。予測肺活量の計算式に年齢が入っている(年齢が高いほど予測値が小さい)のはこのためである。
- ○b. 血清FSH
卵巣機能が低下し始める40歳ごろから上昇し、閉経後に著明な高値となり、60~70歳ごろに頭打ちとなる。卵胞の減少によりエストロゲンとインヒビン(特にFSHを選択的に抑えるインヒビンB)が低下し、下垂体への負のフィードバックが弱まるためである。FSHの上昇はLHより早く、より顕著であり、閉経や卵巣機能不全の判定に用いられる。よって、女性で若年より高齢で値が上昇する指標として正しい。
- ×c. 血清アルブミン
血清アルブミンは肝臓で合成される蛋白で、健常者では年代による平均値の差は小さいが、高齢者のほうがわずかに低い傾向がある。加齢に伴う肝の合成能の軽度低下や、食事摂取量・蛋白摂取量の減少が関与する。高齢者で明らかな低アルブミン血症がみられる場合は、加齢そのものよりも低栄養、慢性炎症、肝疾患、ネフローゼ症候群などを考えるべきである。いずれにしても加齢で上昇する指標ではない。
- ×d. 血清クレアチンキナーゼ
クレアチンキナーゼ(CK)は主に骨格筋に存在する酵素で、血清値は筋肉量を反映する。そのため筋肉量の多い男性のほうが女性より高いという性差はあるが、年齢による上昇はない。高齢になると筋肉量が減る(サルコペニア)ため、むしろ不変からやや低下する方向である。
- ×e. クレアチニンクリアランス
クレアチニンクリアランスは糸球体濾過量(GFR)の近似値であり、腎機能の指標である。加齢により糸球体硬化や腎血流量の減少が進み、機能するネフロン数が減るため、GFRは成人以降、年齢とともに低下する。高齢者では筋肉量の減少によって血清クレアチニンが見かけ上あまり上がらず、腎機能低下が隠れることがある点にも注意が必要である。推算GFR(eGFR)の計算式に年齢が含まれるのもこのためである。
女性のライフステージとゴナドトロピン
小児期:視床下部・下垂体・卵巣系はまだ働いておらず、ゴナドトロピンもエストロゲンも低い(低ゴナドトロピン性性腺機能低下の状態)。 思春期~性成熟期:ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の拍動性分泌が始まり、FSH・LHと卵巣ホルモンが周期的に変動する(正ゴナドトロピン性・正常性腺機能の状態)。 更年期(閉経前後の約10年間):卵胞の減少でエストロゲンが不安定に低下し、FSHが上昇し始める。ほてり・発汗などの更年期症状が出やすい。 老年期(閉経後):エストロゲンは低値のまま、FSH・LHは高値となる(高ゴナドトロピン性性腺機能低下の状態)。
加齢による主な検査値の変化
低下するもの:肺活量、1秒量、GFR(クレアチニンクリアランス)、エストロゲン(女性)、テストステロン(男性、緩やか)、DHEA-S、成長ホルモン・IGF-1、血清アルブミン(軽度)。 上昇するもの:FSH・LH(特に閉経後女性)、残気量、収縮期血圧、空腹時血糖(耐糖能低下)、閉経後女性のLDLコレステロール、BNP、ALP(閉経後女性の骨代謝亢進)など。 ほぼ不変のもの:血清Na・K、ヘモグロビン(軽度低下傾向はある)、甲状腺ホルモン(遊離T4)など。
POINT
・閉経前後でエストロゲン・インヒビンが低下し、負のフィードバックが外れてFSH(LHより顕著)が上昇する。 ・閉経後の女性は高ゴナドトロピン性性腺機能低下症の状態である。 ・肺活量とクレアチニンクリアランス(GFR)は加齢で低下する。 ・CKは筋肉量を反映し、性差はあるが加齢で上昇しない。 ・血清アルブミンは加齢でほぼ不変~わずかに低下する。
