手術室と病理室をつなぐ数十分―術中迅速病理診断は「凍らせて、その場で決める」
第117回医師国家試験 F問題 第31問
国試問題にチャレンジ
手術中に行う迅速病理診断で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.予定手術全例に対して行われる。
- b.目的として切除範囲の決定がある。
- c.検体をホルマリンに浸漬して提出する。
- d.凍結してから切片を作成する。
- e.免疫染色を行う。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
術中迅速病理診断は、手術中に採取した組織を未固定のまま病理検査室へ提出し、急速凍結して作った凍結切片に短時間のH-E染色を施して、十数分〜数十分で執刀医に結果を返す検査です。目的は良悪性の判定、切除断端の評価、センチネルリンパ節などの転移判定であり、その結果に基づいて切除範囲や郭清範囲がその場で決まります。結果で手術方針が変わり得る症例に限って行うもので予定手術の全例に行うものではなく、ホルマリン固定や時間のかかる免疫染色は通常行いません。凍結アーチファクトや脂肪組織・石灰化組織での作製困難、甲状腺濾胞性腫瘍の判定困難などの限界があるため、最終診断は後日の永久標本で確定します。原理と限界を理解しておくことは、外科と病理の連携による適切な術式選択を支える基礎となります。
解答・解説
正解はb, dです
術中迅速病理診断とは、手術中に採取・切除した組織をその場で病理検査室へ提出し、短時間で標本を作製・鏡検して、結果を執刀医へ報告する検査である。結果は手術を続けている間に返されるため、その後の術式選択に直接反映される。 通常の病理診断(永久標本)では、組織をホルマリンで固定し、脱水・パラフィン包埋・薄切・染色という工程を経るため、結果が出るまで数日を要する。これでは手術中の判断には間に合わない。そこで術中迅速診断では、固定・包埋を省略し、組織を急速に凍結して硬くしたうえでクリオスタット(凍結切片を作るための低温の薄切装置)で薄く切り、短時間のヘマトキシリン・エオジン(H-E)染色を施して観察する。標本の提出から報告まで、おおむね十数分~数十分程度で行われる。 本問を解くには、①どのような症例に、何の目的で行うのか、②標本をどのように作製するのか、という2点を押さえておけばよい。「その場で術式を決めるために行う」「時間がないので固定せずに凍らせる」という原理を理解していれば、正しい選択肢は自然に選べる。
選択肢考察
- ×a. 予定手術全例に対して行われる。
誤り。術中迅速病理診断は、その結果によって手術方針が変わり得る症例に限って、主治医(執刀医)が必要と判断した場合に依頼される。例えば、術前に良性か悪性かの診断がついていない病変、切除断端に腫瘍が残っていないかを確かめたい症例、センチネルリンパ節への転移の有無で郭清範囲を決める乳癌などが代表的である。術前の生検などで診断が確定しており術式も決まっている症例では不要であり、予定手術の全例に行うものではない。また、病理医・技師の人的資源や時間を要する検査であることからも、適応は選んで行う。
- ○b. 目的として切除範囲の決定がある。
正しい。術中迅速病理診断の主な目的は、①病変が腫瘍か否か、良性か悪性かの判定、②切除断端に腫瘍細胞が残っていないかの確認(断端評価)、③リンパ節転移の有無の判定(センチネルリンパ節生検など)、④目的とする組織が確実に採取されているかの確認、などである。②・③の結果により、追加切除を行うか、切除範囲をどこまで広げるか、リンパ節郭清を追加するかが手術中に決まる。すなわち、切除範囲の決定は術中迅速診断の代表的な目的の一つである。
- ×c. 検体をホルマリンに浸漬して提出する。
誤り。ホルマリン固定には通常数時間以上を要し、さらにホルマリンで固定された組織は凍結切片の作製に適さなくなる。そのため術中迅速診断用の検体は固定せずに、生のまま(未固定で)速やかに病理検査室へ提出する。運搬中に組織が乾燥すると細胞の形態が崩れて診断が難しくなるため、生理食塩液で湿らせたガーゼで包むなどして乾燥を防ぐ。ホルマリン固定は、手術後に行う通常の永久標本の作製で用いられる処理である。
- ○d. 凍結してから切片を作成する。
正しい。未固定の組織は軟らかく、そのままでは薄く切ることができない。永久標本ではパラフィンに包埋して硬さを与えるが、それには時間がかかる。術中迅速診断では、組織を包埋剤とともに液体窒素などで冷却したイソペンタンやドライアイス、あるいはクリオスタット内で急速に凍結させて硬くし、凍ったまま数μm程度の厚さに薄切して凍結切片を作製する。これにより短時間で鏡検可能な標本が得られる。ただし、凍結時にできる氷晶によるアーチファクト(人工的な組織の変化)などのため、永久標本に比べて画質は劣る。
- ×e. 免疫染色を行う。
誤り(通常は行わない)。免疫染色は抗体を用いて特定の抗原の局在を可視化する方法で、一般には抗体反応・洗浄などの工程に時間を要するため、手術中の限られた時間内には適さない。術中迅速診断の基本は、凍結切片に短時間のH-E染色を施した形態学的評価である。なお近年では、反応を短時間で行える迅速免疫染色を導入している施設もあるが、標準的な手順とはいえず、本問の選択肢としては誤りと判断する。
術中迅速病理診断の流れ
①執刀医が必要な組織を採取・切除する。 ②検体を未固定のまま、乾燥を防いで速やかに病理検査室へ運ぶ。 ③組織を急速凍結し、クリオスタットで薄切して凍結切片を作製する。 ④短時間のH-E染色を行い、病理医が鏡検する。 ⑤結果を手術室の執刀医へ報告し、術式・切除範囲・郭清範囲の判断に用いる。 ⑥残りの組織はその後ホルマリン固定・パラフィン包埋して永久標本とし、最終診断を確定する。
主な適応
・術前に診断が確定していない病変の良悪性・組織型の判定 ・切除断端の腫瘍の有無の評価(例:胃癌・膵癌・乳癌の断端) ・リンパ節転移の有無の判定(例:乳癌・悪性黒色腫のセンチネルリンパ節生検) ・目的とする組織が採取されているかの確認(例:副甲状腺の同定) このほか、腹水や腹腔洗浄液を用いた術中迅速細胞診が行われることもある。
限界・注意点
・限られた時間内での診断であり、凍結によるアーチファクトのため標本の質は永久標本より劣る。 ・脂肪の多い組織(乳腺・脂肪組織など)や骨・石灰化組織は凍結切片の作製が難しい。 ・甲状腺濾胞性腫瘍のように、被膜浸潤や脈管侵襲を全周性に検索しないと良悪性を決められない病変では、術中診断に限界がある。 ・迅速診断と永久標本による最終診断が食い違うことがあり、最終診断は永久標本で行う。
永久標本との比較
永久標本:ホルマリン固定→脱水→パラフィン包埋→薄切→染色。数日を要するが画質が良く、免疫染色や特殊染色、遺伝子検査も可能。 凍結切片:未固定→急速凍結→薄切→迅速H-E染色。十数分~数十分で結果が出るが、画質に劣る。
POINT
・術中迅速病理診断は、結果により術式が変わり得る症例に限って行う(全例ではない)。 ・目的:良悪性の判定、切除断端の評価(切除範囲の決定)、リンパ節転移の判定など。 ・検体は未固定(ホルマリンに入れない)で、乾燥を防いで速やかに提出する。 ・急速凍結した組織から凍結切片を作り、迅速H-E染色で形態診断する。 ・免疫染色は通常行わない。最終診断は後日の永久標本で確定する。
