英文の母子手帳に「mumps」がない理由―予防接種記録の読み方と定期・任意接種
第114回医師国家試験 F問題 第22問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児の予防接種歴を記載した証明書を以下に示す。 この男児が予防接種を受けていないのはどれか。

- a.水痘
- b.麻疹
- c.百日咳
- d.肺炎球菌
- e.流行性耳下腺炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
英語の予防接種記録では、varicella=水痘、measles=麻疹、rubella=風疹、mumps=流行性耳下腺炎、pertussis=百日咳、pneumococcal=肺炎球菌といった対応を押さえ、DPT-IPVがジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオの四種混合であることまで展開して読む必要があります。MRワクチン第2期は小学校入学前に接種するため、2歳で2回目が空欄なのは正常であり、麻疹未接種とは判断しません。日本ではおたふくかぜワクチンが1993年のMMR中止以降任意接種となっているため、定期接種のみの記録にはmumpsが現れません。流行性耳下腺炎はムンプス難聴や無菌性髄膜炎などの合併症を起こしうるため、日本小児科学会は2回接種を推奨しています。英文記録の読解と定期・任意接種の区別は、帰国児や外国籍の子どもの診療、健診での接種状況確認に直結する実践的な知識です。
解答・解説
正解はeです
英語で書かれた予防接種記録(Immunization Record)を読み取り、ワクチン名の英語表記と対応する日本語の疾患名を結びつける問題である。
記録の内容
生年月日は2018年1月17日、記録の作成日は2020年2月9日で、男児は2歳である。記載されている接種は次のとおりである。 ・Haemophilus influenzae type b(インフルエンザ菌b型、Hib):1〜4回目(2018年3月、4月、5月、2019年1月) ・Pneumococcal(肺炎球菌):1〜4回目(2018年3月、4月、5月、2019年1月) ・Hepatitis B Virus(B型肝炎ウイルス):1〜3回目(2018年3月、4月、8月) ・DPT-IPV(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオの四種混合):1〜4回目(2018年4月、5月、8月、2019年1月) ・BCG(結核):2018年6月 ・Measles, Rubella(麻疹・風疹混合、MR):1回目が2019年1月、2回目は未接種(空欄) ・Varicella(水痘):1回目2019年1月、2回目2019年11月
考え方
選択肢の疾患を英語に直すと、水痘=varicella、麻疹=measles、百日咳=pertussis、肺炎球菌=pneumococcus(形容詞形pneumococcal)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)=mumps(epidemic parotitis)である。このうち表のどこにも記載がないのはmumpsであり、流行性耳下腺炎の予防接種を受けていないと判断できる。 なお、MRワクチンの2回目が空欄であるが、2回目(第2期)は小学校入学前の1年間(5歳以上7歳未満)に接種するものであり、2歳の時点で未接種なのはスケジュールどおりである。1回目は接種済みなので「麻疹の予防接種を受けていない」ことにはならない。この記録は当時の日本の標準的な定期接種スケジュールに沿ったものであり、任意接種であるおたふくかぜワクチンだけが含まれていない。
選択肢考察
- ×a. 水痘
水痘は英語でvaricella(chickenpoxとも呼ぶ)であり、表にVaricella 1st(2019年1月20日)、Varicella 2nd(2019年11月20日)の記載がある。水痘ワクチンは2014年10月から定期接種となり、生後12〜36か月に2回(間隔は3か月以上、標準的には1回目から6〜12か月後に2回目)接種する。この男児は2回とも接種済みであり、該当しない。
- ×b. 麻疹
麻疹は英語でmeaslesであり、麻疹・風疹混合(MR)ワクチンとしてMeasles, Rubella 1st(2019年1月20日)を接種している。MRワクチンは第1期が生後12〜24か月、第2期が小学校入学前の1年間に接種する。2nd欄が空欄なのは、2歳の時点ではまだ第2期の対象年齢に達していないためであり、麻疹の予防接種を受けていないわけではない。該当しない。
- ×c. 百日咳
百日咳は英語でpertussis(whooping coughとも呼ぶ)である。表のDPT-IPVは注釈にあるとおりDiphtheria(ジフテリア)、Pertussis(百日咳)、Tetanus(破傷風)、Polio(ポリオ、IPVはinactivated polio vaccine=不活化ポリオワクチン)の四種混合ワクチンであり、1〜4回目(2018年4月、5月、8月、2019年1月)を接種済みである。初回接種3回と、その後の追加接種1回からなる標準的な接種である。該当しない。
- ×d. 肺炎球菌
肺炎球菌は英語でpneumococcus(Streptococcus pneumoniae)であり、表にPneumococcal 1st〜4th(2018年3月、4月、5月、2019年1月)の記載がある。小児用肺炎球菌ワクチンは生後2か月から開始し、初回3回(27日以上の間隔)と、生後12〜15か月での追加1回の計4回が標準である。細菌性髄膜炎や菌血症などの侵襲性肺炎球菌感染症の予防を目的とする。この男児は4回接種済みであり、該当しない。
- ○e. 流行性耳下腺炎
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)は英語でmumps、またはepidemic parotitisであるが、この記録にはmumpsに相当するワクチンの記載がない。日本では、おたふくかぜワクチンは定期接種ではなく任意接種(希望者が原則自費で受ける接種)であるため、定期接種のみを受けた場合には記録に現れない。したがって、この男児が受けていないのは流行性耳下腺炎の予防接種であり、これが正解である。
予防接種に関する英語表記
・Haemophilus influenzae type b(Hib):インフルエンザ菌b型(インフルエンザウイルスとは別物の細菌) ・Pneumococcal vaccine:肺炎球菌ワクチン ・Hepatitis B:B型肝炎 ・Diphtheria:ジフテリア、Pertussis:百日咳、Tetanus:破傷風、Polio(poliomyelitis):ポリオ(急性灰白髄炎) ・BCG(bacille Calmette-Guérin):結核予防のための弱毒ウシ型結核菌ワクチン ・Measles:麻疹、Rubella:風疹、Mumps:流行性耳下腺炎(MMRはこの3種の混合ワクチン) ・Varicella:水痘 ・Rotavirus:ロタウイルス ・Lot No.:ワクチンの製造番号(副反応発生時などの追跡に用いる)
日本の乳幼児の主な定期接種(2歳頃まで)
・Hib、小児用肺炎球菌:生後2か月から開始し、計4回 ・B型肝炎:1歳未満に3回(生後2か月から開始が標準) ・四種混合(DPT-IPV):初回3回+追加1回(本児の出生当時は生後3か月からの開始が標準であった) ・BCG:1歳未満に1回(標準的には生後5〜8か月) ・MR:第1期は1歳時、第2期は小学校入学前の1年間 ・水痘:1歳から3歳になるまでに2回 ・ロタウイルス:2020年10月から定期接種化(本児の出生後のため記録にない)
近年の制度変更
2024年4月からはHibを加えた五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)が定期接種に導入され、四種混合ワクチンとHibワクチンを別々に接種する機会は減っている。また、小児用肺炎球菌ワクチンは13価から、より多くの血清型をカバーする15価・20価のワクチンへの切り替えが進んでいる。
おたふくかぜワクチン
日本では1989年に麻疹・おたふくかぜ・風疹の三種混合(MMR)ワクチンが定期接種に導入されたが、おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発が問題となり、1993年に中止された。それ以降、おたふくかぜワクチンは単独の任意接種として扱われている。日本小児科学会は1歳時と小学校入学前の計2回の接種を推奨している。流行性耳下腺炎は無菌性髄膜炎、難聴(ムンプス難聴は高度で回復しにくい)、思春期以降の精巣炎・卵巣炎、膵炎などの合併症を起こしうるため、接種の意義は大きい。
定期接種と任意接種
定期接種は予防接種法に基づき市町村が実施するもので、原則公費負担で行われ、健康被害が生じた場合は同法による救済制度の対象となる。任意接種は原則自己負担で、健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象となる。
POINT
・英語表記:varicella=水痘、measles=麻疹、rubella=風疹、mumps=流行性耳下腺炎、pertussis=百日咳、pneumococcal=肺炎球菌、diphtheria=ジフテリア、tetanus=破傷風。 ・DPT-IPVはジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオの四種混合ワクチン。 ・おたふくかぜワクチンは日本では任意接種であり、定期接種の記録には現れない。 ・MRワクチン第2期は小学校入学前の1年間に接種するため、2歳で未接種なのは正常。
