蛋白尿は「漏れる量」と「拾える量」で決まる―尿浸透圧が答えにならない理由
第114回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
尿蛋白量を決定する因子でないのはどれか。
- a.尿浸透圧
- b.糸球体内圧
- c.尿細管機能
- d.糸球体基底膜の蛋白透過性
- e.糸球体上皮細胞〈ポドサイト〉機能
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
尿蛋白量は、糸球体での濾過量と近位尿細管での再吸収量の2段階で決まります。濾過量を左右するのは、糸球体内圧、基底膜のサイズバリア・チャージバリア、ポドサイトのスリット膜の機能であり、近位尿細管が障害されるとβ2-ミクログロブリンなどの低分子蛋白が回収されず尿中に増えます。尿浸透圧は集合管での水の再吸収で変わるもので、随時尿の蛋白濃度を見かけ上変えるものの排泄量そのものは変えないため、尿蛋白/尿クレアチニン比で補正して評価します。ACE阻害薬やARBが糸球体内圧を下げて蛋白尿を減らすことや、オーバーフロー型の蛋白尿の存在もあわせて押さえておくと、蛋白尿の病態を部位ごとに整理でき、検査・治療の選択に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
尿中に排泄される蛋白の量は、大きく分けて「糸球体でどれだけ蛋白が濾過されるか」と「濾過された蛋白を尿細管がどれだけ回収(再吸収)できるか」の二つの過程で決まる。
糸球体での濾過量を左右する因子
糸球体の濾過障壁は、内側から有窓性の毛細血管内皮細胞、糸球体基底膜(GBM)、糸球体上皮細胞(ポドサイト)の足突起とその間をつなぐスリット膜の3層からなる。この障壁は分子の大きさ(サイズバリア)と電荷(チャージバリア)によって血漿蛋白、とくにアルブミンの通過を妨げている。障壁の構造が壊れれば蛋白の透過性が上がり、また障壁が正常でも糸球体毛細血管内の圧(糸球体内圧)が高まれば、蛋白を押し出す力が強くなって濾過量は増える。
尿細管での再吸収を左右する因子
健常者でも少量のアルブミンや低分子蛋白(β2-ミクログロブリン、α1-ミクログロブリンなど)は糸球体を通過するが、その大部分は近位尿細管でエンドサイトーシスにより取り込まれ分解される。近位尿細管が障害されるとこの回収が不十分となり、低分子蛋白を中心とした蛋白尿(尿細管性蛋白尿)が出現する。 以上から、糸球体内圧、基底膜の透過性、ポドサイト機能、尿細管機能はいずれも尿蛋白量を規定する因子である。一方、尿浸透圧は遠位尿細管から集合管での水・電解質の調節によって変化するもので、蛋白の濾過や再吸収の量には関与しない。
選択肢考察
- ○a. 尿浸透圧
尿浸透圧は主にNa+などの電解質と尿素の濃度で決まり、抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の作用下で集合管が水をどれだけ再吸収するかによって変動する。この部位では蛋白の濾過・分泌・再吸収は行われないため、1日に排泄される蛋白の総量は尿浸透圧によって変わらない。なお、随時尿で測る蛋白「濃度」は尿が濃縮・希釈されることで見かけ上変動するが、これは排泄量そのものの変化ではない。この見かけの変動を補正するために、尿蛋白/尿クレアチニン比(g/gCr)が用いられる。したがって尿蛋白量を決定する因子ではなく、本問の正解である。
- ×b. 糸球体内圧
糸球体毛細血管の内圧が上がると、濾過障壁を通して蛋白を押し出す力が増し、アルブミンなどの濾過量が増加する。輸入細動脈の拡張や輸出細動脈の収縮は糸球体内圧を高める。糖尿病性腎症や肥満、腎機能低下時の残存ネフロンでみられる糸球体過剰濾過では、この機序が蛋白尿の一因となる。ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が輸出細動脈を拡張させて糸球体内圧を下げ、尿蛋白を減らすのはこの関係を利用している。したがって尿蛋白量を決定する因子である。
- ×c. 尿細管機能
糸球体で濾過された低分子蛋白(β2-ミクログロブリン、α1-ミクログロブリンなど)や少量のアルブミンは、近位尿細管でメガリン・キュビリンを介したエンドサイトーシスによって再吸収される。近位尿細管が障害されるとこの再吸収が減り、尿中へ排泄される蛋白が増える(尿細管性蛋白尿)。Fanconi症候群、尿細管間質性腎炎、カドミウム中毒(イタイイタイ病)などが代表例で、尿中β2-ミクログロブリンの上昇が指標となる。したがって尿蛋白量を決定する因子である。
- ×d. 糸球体基底膜の蛋白透過性
糸球体基底膜はIV型コラーゲンやラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどからなり、網目構造によるサイズバリアとして働く。また、陰性荷電を帯びた成分によって、同じく陰性荷電をもつアルブミンを反発させるチャージバリアとしても働くと考えられている。基底膜の構造や荷電が障害されて透過性が高まると、アルブミンなどの濾過が増え、蛋白尿が増加する。Alport症候群(IV型コラーゲン遺伝子異常)や膜性腎症などで基底膜の変化がみられる。したがって尿蛋白量を決定する因子である。
- ×e. 糸球体上皮細胞〈ポドサイト〉機能
ポドサイトは基底膜の外側(尿腔側)を覆い、隣り合う足突起の間にネフリンやポドシンなどからなるスリット膜を形成している。スリット膜は蛋白の濾過を防ぐ最終的なサイズバリアであり、濾過障壁の中でも最も重要と考えられている。ポドサイトが障害されると足突起が消失(癒合)してスリット膜の構造が崩れ、大量の蛋白が尿中に漏れる。微小変化型ネフローゼ症候群や巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、先天性ネフローゼ症候群(ネフリン遺伝子異常)がその代表である。したがって尿蛋白量を決定する因子である。
蛋白尿の分類
・糸球体性蛋白尿:濾過障壁の障害や糸球体内圧の上昇によって起こる。アルブミンが主体で、多量になりやすい(ネフローゼ症候群では1日3.5g以上)。 ・尿細管性蛋白尿:近位尿細管での再吸収障害によって起こる。β2-ミクログロブリンやα1-ミクログロブリンなどの低分子蛋白が主体で、量は通常少ない(1日1〜2g程度まで)。 ・腎前性(オーバーフロー型)蛋白尿:血中で低分子蛋白が過剰に産生され、尿細管の再吸収能力を上回って排泄される。多発性骨髄腫のBence Jones蛋白(免疫グロブリン軽鎖)、横紋筋融解症のミオグロビン、血管内溶血のヘモグロビンなど。 ・腎後性蛋白尿:尿路の炎症や腫瘍、出血に由来する。 ・生理的蛋白尿:発熱、激しい運動、起立(起立性蛋白尿)などに伴う一過性のもので、病的意義は乏しい。
尿蛋白の評価
随時尿の試験紙法は主にアルブミンに反応し、尿の濃縮・希釈の影響を受ける。また、Bence Jones蛋白などの軽鎖は検出しにくい。定量には24時間蓄尿か、随時尿での尿蛋白/尿クレアチニン比(g/gCr)を用いる。後者は1日排泄量のおおよその推定値となる。
蛋白尿の選択性
ネフローゼ症候群では選択性指数(selectivity index:SI)を求めることがある。SIは(尿中IgG/血中IgG)÷(尿中トランスフェリン/血中トランスフェリン)で計算する。分子量の大きいIgG(約15万)が分子量の小さいトランスフェリン(約8万)に比べてどれだけ漏れにくいかを示す指標であり、SIが0.2以下を高選択性とする。高選択性は微小変化型ネフローゼ症候群で典型的にみられ、ステロイドがよく効くことを予測する指標となる。
POINT
・尿蛋白量は「糸球体での濾過量」と「近位尿細管での再吸収量」で決まる。 ・濾過量を左右する因子:糸球体内圧、基底膜の透過性(サイズバリア・チャージバリア)、ポドサイト(スリット膜)の機能。 ・近位尿細管障害では低分子蛋白(β2-ミクログロブリンなど)が尿中に増える。 ・尿浸透圧は随時尿の蛋白濃度を見かけ上変えるが、蛋白の排泄量は変えない。これを補正するのが尿蛋白/尿クレアチニン比。 ・ACE阻害薬やARBは糸球体内圧を下げることで蛋白尿を減らす。
