StudyMed医師国家試験

硬くなった大動脈が語る高齢者の血圧―上は高く、下は低く、そして揺れやすい

第113回医師国家試験 D問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第113回 D問題 第8問

高齢者の高血圧症の特徴でないのはどれか。

  1. a.食後血圧低下
  2. b.起立性低血圧
  3. c.拡張期高血圧
  4. d.血圧動揺性増大
  5. e.主要臓器血流予備能低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の高血圧の特徴を問う問題だ。「特徴でないもの」を選ぶ形式なので、加齢で血管と血圧調節の仕組みがどう変わるかを押さえれば、自然に答えが見えてくるよ。鍵は「大動脈が硬くなること」と「血圧を調節する反射が鈍くなること」の2つだ。
医学生医学生
高齢者は動脈硬化が進んでいるので、上も下も全部高くなるイメージがありました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実はそこが落とし穴なんだ。若い人の大動脈はゴムのように弾力があって、心臓が血液を送り出す収縮期には壁が膨らんで血液の一部を蓄え、拡張期にはその弾性で血液を末梢へ押し出している。これをWindkessel機能、ふいご機能と呼ぶ。
医学生医学生
生理学の講義で習いました。大動脈が補助ポンプのように働いているということですよね。
ドクタードクター
その通り。加齢で大動脈壁の弾性線維が減って膠原線維が増えると、この緩衝作用が失われる。すると収縮期には血液を受け止めきれずに血圧が上がり、拡張期には押し出す力が弱いので血圧がむしろ下がる。さらに硬い血管では脈波が速く伝わるので、末梢からの反射波が収縮期のうちに戻ってきて、収縮期血圧をさらに押し上げるんだ。
医学生医学生
収縮期は上がって、拡張期は下がる。だから脈圧が大きくなるんですね。
ドクタードクター
そう。拡張期血圧は50〜60歳ごろをピークに低下していくとされていて、高齢者の高血圧の典型は、拡張期血圧が正常域にある孤立性収縮期高血圧だ。だから拡張期高血圧は高齢者の特徴とはいえない。これが正解になる。
医学生医学生
では、拡張期高血圧はどんな人に目立つのでしょうか。
ドクタードクター
末梢血管抵抗の上昇が主体となる、比較的若い中年層の高血圧で目立つ所見だ。年代によって高血圧の「顔つき」が違うと考えるといい。では、ほかの選択肢を見ていこう。起立性低血圧はどうかな。
医学生医学生
循環器内科の実習で、立ち上がったときにふらつく高齢の患者さんがいて、臥位と立位で血圧を測っていました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。立ち上がると血液が下肢や腹部の静脈にたまって心臓に戻る血液が減る。若い人は圧受容体反射で交感神経が素早く働き、血管収縮と心拍数増加で血圧を保つ。高齢者は頸動脈洞や大動脈弓の圧受容体の感受性が落ちていて、この反射が弱いから血圧が下がりやすい。起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上下がれば起立性低血圧だ。
医学生医学生
食後血圧低下も同じ仕組みでしょうか。食事と血圧のつながりがすぐにはピンときません。
ドクタードクター
考え方は同じだよ。食事をとると消化吸収のために胃腸や肝臓への血流が大きく増え、血液が内臓側に偏る。本来は交感神経が末梢血管を締めて代償するけれど、高齢者ではそれが不十分で血圧が下がる。食後のふらつきや失神、転倒の原因になるんだ。
医学生医学生
調節機能が落ちているなら、血圧が日によって大きく変わりやすいのも納得です。
ドクタードクター
その通り。大動脈の緩衝作用の喪失に加えて、圧受容体反射やβ受容体の反応性も低下しているから、体位、食事、入浴、排便、精神的緊張、季節や時間帯で血圧が揺れやすい。これが血圧動揺性の増大だ。だから高齢者では診察室血圧だけでなく、家庭血圧や24時間自由行動下血圧測定も参考にして評価することが勧められている。
医学生医学生
主要臓器血流予備能低下は、言葉が少し難しく感じます。
ドクタードクター
血流予備能とは、必要なときに臓器への血流を増やせる余力のことだ。高齢者では動脈硬化による内腔の狭窄や血管内皮機能の低下、左室肥大などで、脳・心臓・腎臓の余力が落ちている。しかも長く高血圧が続くと、臓器が血流を一定に保てる自動調節能の範囲が高い血圧側へずれてしまう。
医学生医学生
ということは、急に血圧を下げると、臓器にとっては血流が足りなくなってしまうんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床で一番大事なポイントだ。急速あるいは過度の降圧は、脳虚血や心筋虚血、腎機能の悪化を招きうる。だから高齢者の降圧薬は少量から始めて、数週〜数か月かけてゆっくり下げるのが原則なんだ。
医学生医学生
降圧中は、立位の血圧やふらつきにも注意が必要ですね。
ドクタードクター
そうだね。α遮断薬や利尿薬、脱水は起立性低血圧を悪化させるし、転倒は骨折から寝たきりにつながりうる。ほかにも高齢者では、腎機能低下で食塩感受性が高くなりやすいことや、上腕動脈が硬すぎてカフで圧迫しきれず実際より高く測定される偽性高血圧があることも知っておこう。降圧目標はガイドラインを踏まえつつ、フレイルや認知機能、併存疾患、忍容性を考えて個別に判断していくことになる。

まとめ

加齢で大動脈の弾性が低下するとWindkessel機能が失われ、収縮期血圧は上昇し拡張期血圧はむしろ低下するため、高齢者の高血圧の典型は脈圧の大きい孤立性収縮期高血圧であり、拡張期高血圧は特徴とはいえません。また、圧受容体反射や自律神経機能の低下により、起立性低血圧、食後血圧低下、血圧動揺性の増大がみられやすくなります。さらに脳・心臓・腎臓の血流予備能が低下し、自動調節能の範囲も高血圧側へずれているため、急激・過度の降圧は臓器虚血を招くおそれがあります。こうした特徴を理解しておくことは、家庭血圧などを用いた適切な評価や、少量から緩徐に進める安全な降圧治療、転倒予防につながります。

解答・解説

正解はcです

本問は、加齢に伴う血管と血圧調節機構の変化から、高齢者の高血圧にみられる特徴を問う問題である。「特徴でないもの」を選ぶ点に注意する。 高齢者の高血圧を理解する鍵は次の2点である。

1. 大動脈の弾性低下(動脈の硬化)

若年者の大動脈は弾力に富み、収縮期に駆出された血液の一部を壁の伸展によって蓄え、拡張期にその弾性で血液を末梢へ押し出す(Windkessel〈ふいご〉機能)。加齢により大動脈壁の弾性線維が減少し膠原線維が増えると、この緩衝作用が失われる。その結果、収縮期血圧は上昇し、拡張期血圧はむしろ低下して、脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)が大きくなる。さらに、硬くなった血管では脈波伝播速度が速くなり、末梢からの反射波が収縮期のうちに中枢へ戻って収縮期血圧をさらに押し上げる。このため高齢者に典型的なのは収縮期高血圧(とくに拡張期血圧が正常域の孤立性収縮期高血圧)である。

2. 血圧調節機能の低下

頸動脈洞や大動脈弓にある圧受容体の感受性が低下し(圧受容体反射の減弱)、心臓のβ受容体の反応性や自律神経機能も衰える。そのため、立ち上がったときや食後など血圧を下げる方向の変化に素早く対応できず、起立性低血圧や食後血圧低下が起こりやすい。また血圧が日内・日差で大きく変動しやすい(血圧動揺性の増大)。加えて、動脈硬化や血管内皮機能の低下により、脳・心臓・腎臓などの主要臓器で需要に応じて血流を増やす余力(血流予備能)が低下し、自動調節能の範囲も高血圧側へずれるため、急激・過度の降圧で臓器虚血をきたしやすい。 以上から、高齢者の特徴は「収縮期血圧上昇・拡張期血圧低下・脈圧増大」であり、拡張期高血圧は特徴とはいえない。拡張期高血圧は末梢血管抵抗の上昇が主体となる比較的若い中年層の高血圧で目立つ所見である。したがって正解はcである。

選択肢考察

  1. ×a.  食後血圧低下

    高齢者の特徴である。食事をとると消化吸収のために胃腸や肝臓など内臓への血流が大きく増え、その分、全身の血管内の血液分布が内臓側へ偏る。通常は交感神経が働いて末梢血管を収縮させ、心拍数を増やして血圧を保つが、高齢者では自律神経機能や圧受容体反射が低下しているため代償が不十分となり、食後に血圧が下がりやすい(食後低血圧)。食後のふらつき、失神、転倒の原因となる。

  2. ×b.  起立性低血圧

    高齢者の特徴である。立ち上がると重力により血液が下肢や腹部の静脈に貯留し、心臓へ戻る血液量が減って血圧が下がろうとする。若年者では圧受容体反射によって交感神経が素早く働き、血管収縮と心拍数増加で血圧を維持する。高齢者ではこの反射が減弱し、心拍数の増加や血管収縮が不十分なため起立性低血圧(起立後3分以内に収縮期血圧20mmHg以上または拡張期血圧10mmHg以上の低下)を起こしやすい。降圧薬(とくにα遮断薬や利尿薬)や脱水で増悪するため、高齢者の降圧治療では立位での血圧測定も重要である。

  3. ○c.  拡張期高血圧

    高齢者の高血圧の特徴ではなく、これが正解である。加齢による大動脈の弾性低下でWindkessel機能が失われると、拡張期に血液を末梢へ送り出す力が弱まるため拡張期血圧は低下する傾向にある。一方、収縮期血圧は上昇するので、高齢者では収縮期高血圧と脈圧の増大が特徴となる。拡張期血圧は50〜60歳ごろをピークにその後は低下していくとされる。拡張期高血圧は末梢血管抵抗の増加を反映し、より若い年齢層で目立つ。

  4. ×d.  血圧動揺性増大

    高齢者の特徴である。大動脈が硬くなり血圧の緩衝作用が失われることに加え、圧受容体反射の減弱、β受容体機能の低下などで血圧を一定に保つ調節力が弱まるため、体位、食事、入浴、排便、精神的緊張、季節や時間帯などによって血圧が大きく変動しやすい。そのため高齢者では診察室血圧だけでなく家庭血圧や24時間自由行動下血圧測定(ABPM)を参考にし、早朝高血圧や夜間の血圧変動にも注意して評価することが勧められる。

  5. ×e.  主要臓器血流予備能低下

    高齢者の特徴である。血流予備能とは、需要が増えたときに臓器への血流を増やせる余力のことである。高齢者では動脈硬化による血管の弾性低下や内腔狭窄、血管内皮機能障害による内皮依存性血管拡張の減弱、左室肥大や左室拡張能の低下などにより、脳・心臓・腎臓といった主要臓器の血流予備能が低下している。さらに長期の高血圧で臓器血流の自動調節能の範囲が高い血圧側へ移動しているため、急速あるいは過度の降圧によって脳虚血、心筋虚血、腎機能悪化をきたしやすい。高齢者の降圧が少量から緩徐に行われる理由の一つである。

加齢に伴う血圧の変化

・収縮期血圧は加齢とともに上昇し続ける。 ・拡張期血圧は50〜60歳ごろまでは上昇するが、その後は低下傾向となる。 ・その結果、脈圧が増大し、孤立性収縮期高血圧(収縮期血圧140mmHg以上かつ拡張期血圧90mmHg未満)が高齢者の高血圧の典型像となる。 ・脈圧の増大は心血管疾患のリスクと関連する。

高齢者高血圧の主な特徴のまとめ

・収縮期高血圧、脈圧増大 ・血圧動揺性の増大(白衣高血圧、早朝高血圧、夜間血圧の異常なども多い) ・起立性低血圧、食後低血圧 ・主要臓器の血流予備能低下と自動調節能の障害 ・腎機能低下によるナトリウム排泄能の低下(食塩感受性が高く、体液量増加による血圧上昇をきたしやすい) ・偽性高血圧(上腕動脈の高度な硬化でカフで圧迫しきれず、実際より高く測定される)がありうる ・併存疾患や多剤併用が多く、降圧薬の副作用が出やすい

治療上の留意点

・降圧薬は原則として常用量の半量など少量から開始し、数週〜数か月かけて緩徐に降圧する。 ・起立性低血圧の有無を確認しながら進め、ふらつき、転倒、腎機能の悪化などに注意する。 ・降圧目標は年齢、併存疾患、フレイルや認知機能、忍容性を考慮して個別に判断する(高血圧治療ガイドライン2019では75歳以上は140/90mmHg未満を原則としていたが、2025年改訂のガイドラインでは年齢にかかわらず130/80mmHg未満を目標とし、高齢者では忍容性に配慮して到達を図る方針とされている)。

POINT

・加齢で大動脈が硬くなる→収縮期血圧上昇、拡張期血圧低下、脈圧増大 ・高齢者の高血圧の典型は「孤立性収縮期高血圧」であり、拡張期高血圧ではない ・血圧調節機能(圧受容体反射など)の低下→起立性低血圧、食後低血圧、血圧動揺性増大 ・主要臓器の血流予備能低下→急激な降圧は臓器虚血を招くため、少量から緩徐に降圧する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。