「抗体検査を待たずに打っていい」―40代男性の風疹ワクチンと生ワクチンの基本ルール
第113回医師国家試験 C問題 第27問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。風疹対策のポスターを見て来院した。風疹のワクチン接種は受けておらず感染歴は明らかではない。健康状態は良好で,既往歴に特記すべきことはない。本人はワクチン接種を希望している。 正しいのはどれか。
- a.免疫を獲得している可能性が高くワクチン接種は必要ない。
- b.他のワクチンを接種する場合は1週間以上の間隔をあける。
- c.副作用の可能性が高くワクチン接種は避けるべきである。
- d.ワクチン接種に抗体価の測定は必須ではない。
- e.成人のワクチン接種は経口でも行える。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
1962年4月2日〜1979年4月1日生まれの男性は風疹の定期接種の機会がなく、成人男性は年齢層として抗体保有率が低い可能性があるため、接種歴・罹患歴が不明なら免疫があるとみなさず接種を勧めます。風疹ワクチン(多くはMRワクチン)は皮下注射の弱毒生ワクチンで、すでに抗体を持つ人に接種しても不利益はなく、接種前の抗体検査は必須ではありません。注射生ワクチン同士は27日以上の間隔が必要(同時接種は可)で、妊娠中や免疫不全は禁忌、女性は接種後2か月の避妊が推奨されます。妊婦への感染は白内障・感音性難聴・先天性心疾患を三大症状とする先天性風疹症候群を起こすため、成人男性への接種は社会全体で胎児を守る公衆衛生上の重要な対策です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・40歳の健康な男性で、既往歴に特記事項はない。 ・風疹ワクチンの接種歴がなく、風疹にかかったかどうかも不明である。 ・ポスターを見て自ら接種を希望して来院した。
考え方
日本の風疹ワクチン定期接種の歴史をみると、1962年4月2日〜1979年4月1日生まれの男性は公的な接種機会がなかった。1977年からの定期接種は中学生の女子のみが対象で、男女ともに接種対象となったのはそれより後に生まれた世代からであった。このためこの出生年コホートの男性は風疹抗体保有率が低く(およそ8割程度とされ、他の世代の約9割以上に比べ低い)、2012〜2013年や2018〜2019年の風疹流行の中心となった。成人男性から妊婦への感染は先天性風疹症候群(CRS)の原因となるため、成人男性へのワクチン接種は公衆衛生上の重要課題とされている。 本例は40歳の成人男性で、接種歴がなく罹患歴も不明である。成人男性は年齢層として抗体保有率が低い可能性があり、本例が抗体を持っていると推定する根拠はない。禁忌となる事情もなく、本人も希望しているのだから、接種を勧めるのが適切である。そのうえで、風疹ワクチンが弱毒生ワクチンであること(接種経路、他のワクチンとの間隔、禁忌)と、接種前の抗体検査の位置づけを正しく理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 免疫を獲得している可能性が高くワクチン接種は必要ない。
誤り。本例は風疹ワクチンの接種歴がなく、罹患歴も不明であるため、抗体を保有していると推定する根拠がない。成人男性は年齢層として抗体保有率が低い可能性もある。風疹は不顕性感染が15〜30%程度あるため、罹患歴が不明な人の一部は実際には抗体を持っているが、それを確かめないまま「免疫を獲得している可能性が高い」とみなすことはできない。接種を勧めるべきである。
- ×b. 他のワクチンを接種する場合は1週間以上の間隔をあける。
誤り。風疹ワクチンは注射の弱毒生ワクチンであり、続けて別の注射生ワクチン(麻疹、水痘、おたふくかぜなど)を接種する場合は27日以上(4週間)の間隔をあける必要がある。1週間では不十分である。先に接種した生ワクチンが誘導するインターフェロンなどの影響で、後から接種した生ワクチンのウイルスが増殖しにくくなり、免疫が十分につかないおそれがあるためである。なお2020年10月の制度改正以降、注射生ワクチン同士以外の組み合わせ(不活化ワクチンなど)には接種間隔の制限はない。また、医師が必要と認めれば複数のワクチンを同日に同時接種することもできる。
- ×c. 副作用の可能性が高くワクチン接種は避けるべきである。
誤り。風疹ワクチン(多くは麻しん風しん混合〈MR〉ワクチン)の副反応は、発熱、発疹、接種部位の発赤・腫脹、リンパ節腫脹、成人での一過性関節痛などが主で、重篤なもの(アナフィラキシー、血小板減少性紫斑病、急性散在性脳脊髄炎など)はまれであり、安全性の高いワクチンである。健康な成人男性である本例に副反応のリスクが特に高い要因はない。生ワクチンとして禁忌となるのは、妊娠中、免疫不全状態、ワクチン成分による重度アレルギー歴、明らかな発熱や重篤な急性疾患がある場合などであり、本例は該当しない。
- ○d. ワクチン接種に抗体価の測定は必須ではない。
正しい。すでに抗体を持っている人に風疹ワクチンを接種しても、体内の抗体によりワクチンウイルスが中和されるだけで、副反応が増えるなどの不利益は生じない。抗体を追加刺激(ブースター)することでむしろ免疫が強化される。したがって、接種前に抗体検査を行うかどうかは任意であり、検査結果を待つことで接種機会を逃すよりは、検査なしで速やかに接種するほうが望ましい場合も多い。抗体検査は、抗体を持つ人への不要な接種を避けてワクチンを効率よく配分したい場合(ワクチン不足時や公費事業での対象者の絞り込みなど)に行われる。
- ×e. 成人のワクチン接種は経口でも行える。
誤り。風疹ワクチン(単味ワクチン、MRワクチンとも)は皮下注射で接種する。小児・成人とも経口投与の製剤は存在しない。日本で用いられる経口ワクチンはロタウイルスワクチンなどに限られる(経口生ポリオワクチンは2012年に不活化ポリオワクチンの注射に切り替えられた)。
風疹の概要
風疹ウイルス(トガウイルス科)による感染症で、飛沫・接触で感染する。潜伏期は2〜3週間(14〜21日程度)。発熱、淡紅色の小さな斑丘疹、耳介後部・後頸部のリンパ節腫脹が三主徴である。成人では関節痛・関節炎を伴いやすく、まれに血小板減少性紫斑病や脳炎を合併する。不顕性感染も少なくない。感染症法で5類全数把握疾患であり、診断した医師は直ちに届け出る。学校保健安全法では第2種感染症で、発疹が消失するまで出席停止とされる。
先天性風疹症候群(CRS)
妊娠中、特に妊娠初期(妊娠20週頃まで、とりわけ12週まで)に母体が初感染すると、胎児に白内障(緑内障・網膜症)、感音性難聴、先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄など)を三大症状とする先天異常が起こりうる。妊娠早期の感染ほど発生頻度が高い。
定期接種の変遷と成人男性への対策
・1977年8月:中学生女子を対象に定期接種開始。 ・1989年:MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹混合)ワクチンの導入(無菌性髄膜炎の問題で1993年に中止)。 ・1995年の予防接種法改正以降:生後12〜90か月の男女が対象となった。 ・2006年度から:MRワクチンの2回接種(第1期:1歳、第2期:小学校就学前1年間)。 ・1962年4月2日〜1979年4月1日生まれの男性は公的な接種機会がなかったため、2019年度から期限付きの追加的対策(いわゆる風疹の第5期定期接種)として、まず抗体検査を行い、抗体価が低い人に公費でMRワクチンを接種する事業が行われた。公費事業では対象者を絞るため抗体検査が前提とされたが、医学的には接種に抗体検査は必須ではない。
生ワクチン接種の一般的注意
・禁忌:妊娠中、免疫不全(先天性免疫不全、HIV感染の進行例、免疫抑制薬・高用量ステロイド使用中など)。 ・女性は接種後2か月間の避妊が推奨される。 ・ガンマグロブリン製剤の投与後は、抗体によってワクチンウイルスが中和されるため、一定期間(通常3か月以上、大量投与では6か月以上)あけて接種する。 ・注射生ワクチンどうしは27日以上の間隔をあける(同時接種は可能)。
POINT
・1962年4月2日〜1979年4月1日生まれの男性は風疹の定期接種を受ける機会がなく、抗体保有率が低い世代である。 ・風疹ワクチン(MRワクチン)は弱毒生ワクチンで、皮下注射により接種する。 ・注射生ワクチンの後に別の注射生ワクチンを打つには27日以上の間隔が必要(同時接種は可)。 ・抗体を持っている人に接種しても害はなく、接種前の抗体検査は必須ではない。 ・妊婦への風疹感染は先天性風疹症候群(白内障、感音性難聴、先天性心疾患)を起こすため、周囲の成人男性の免疫も重要である。
