「いつ・どこで・何が起こるか」―時間軸で読み解く急性心筋梗塞の合併症
第113回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
急性心筋梗塞の合併症について誤っているのはどれか。
- a.心破裂(blow-out型)は予後不良である。
- b.乳頭筋断裂は前乳頭筋より後乳頭筋で多い。
- c.心室中隔穿孔に対してカテーテル治療が考慮される。
- d.房室ブロックは前壁梗塞より下壁梗塞で生じやすい。
- e.Dressler症候群は心筋梗塞発症後1年以降に生じやすい。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性心筋梗塞の合併症は、発症直後〜48時間の致死的不整脈、数日〜2週間以内の機械的合併症(自由壁破裂・心室中隔穿孔・乳頭筋断裂)、2〜6週のDressler症候群、慢性期の左室瘤や心不全という時間軸で整理できます。Dressler症候群は自己免疫性の心膜炎であり、「発症後1年以降」という記述は誤りです。冠動脈の支配からみると、後乳頭筋や房室結節は右冠動脈系に依存するため、下壁梗塞で乳頭筋断裂や一過性の房室ブロックが起こりやすく、前壁梗塞の房室ブロックはまれでも予後不良です。blow-out型の心破裂は急速な心タンポナーデで予後不良であり、心室中隔穿孔は外科的閉鎖が標準治療でカテーテル閉鎖は限られた選択肢にとどまります。合併症を「時期」と「梗塞部位」で結びつけて理解しておくことが、梗塞後管理での早期発見と迅速な対応につながります。
解答・解説
正解はeです
※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。
問われていること
急性心筋梗塞(AMI)後に起こる合併症の発症時期・好発部位・治療について、誤った記述を1つ選ぶ問題である。
合併症の整理の仕方
心筋梗塞の合併症は、次の3つの軸で整理すると覚えやすい。 1. 何が起こるか:不整脈(心室細動、房室ブロックなど)、ポンプ失調(心不全・心原性ショック)、機械的合併症(自由壁破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂)、心膜炎、左室瘤、左室内血栓など。 2. いつ起こるか:発症直後~24時間は致死的不整脈、数日~2週間以内は壊死心筋が最も脆弱となるため機械的合併症、数週後は自己免疫性の心膜炎(Dressler症候群)、慢性期は左室瘤・心不全など。 3. どの冠動脈・梗塞部位と関連するか:下壁梗塞(主に右冠動脈)では房室ブロック・後乳頭筋断裂、前壁梗塞(左前下行枝)では心室中隔穿孔・左室瘤・広範な心不全が問題になりやすい。 本問では、Dressler症候群の発症時期を「1年以降」とした記述が明らかに誤りであり、正解はeとなる。
採点除外について
本問は採点対象から除外された。選択肢の表現が不十分で正解を得ることが困難と判断されたためである。特に選択肢cは、心室中隔穿孔の標準治療が外科的閉鎖術であり、カテーテルによる閉鎖は限られた施設・症例で行われる選択肢にとどまる(国内では心室中隔穿孔に対する専用デバイスの承認がない)ため、「カテーテル治療が考慮される」を正しいと扱うか誤りと扱うかで判断が分かれうる。このため、正解を一つに定めにくいとされたと考えられる。
選択肢考察
- ×a. 心破裂(blow-out型)は予後不良である。
記述は正しい。左室自由壁破裂には、壊死した心筋が一気に裂けて大量出血する blow-out型と、裂け目から血液がじわじわ漏れ出る oozing型がある。blow-out型では急速に心嚢内に血液がたまって心タンポナーデとなり、無脈性電気活動(PEA)を伴う心停止に陥って、手術に至る前に死亡することが多い。oozing型は心嚢ドレナージと外科的修復で救命できる場合がある。発症から1週間以内、特に数日以内に多く、高齢者・女性・初回梗塞・高血圧・側副血行の乏しい貫壁性梗塞が危険因子である。
- ×b. 乳頭筋断裂は前乳頭筋より後乳頭筋で多い。
記述は正しい。左室の前乳頭筋(前外側乳頭筋)は左前下行枝の対角枝と左回旋枝の鈍縁枝の二重支配を受けるため虚血に強い。一方、後乳頭筋(後内側乳頭筋)は後下行枝の単独支配(多くは右冠動脈、左冠動脈優位型では左回旋枝)であり、1本の冠動脈の閉塞で壊死しやすい。そのため乳頭筋断裂は後乳頭筋に多く、下壁梗塞に合併して急性の重症僧帽弁逆流、肺水腫、心原性ショックをきたす。新たに出現する心尖部の収縮期雑音が手がかりとなり、緊急の外科手術(僧帽弁置換術など)が必要となる。
- ×c. 心室中隔穿孔に対してカテーテル治療が考慮される。
記述は正しいと扱われる。心室中隔穿孔は発症後数日以内に起こることが多く、左→右シャントにより急性心不全・心原性ショックとなり、胸骨左縁に新たな全収縮期雑音(しばしばスリルを伴う)が出現する。前壁梗塞では心尖部寄りの中隔、下壁梗塞では基部寄りの中隔に生じやすい。治療は、強心薬・血管拡張薬や大動脈内バルーンパンピング(IABP)などの機械的補助で血行動態を安定させつつ、外科的な穿孔部閉鎖術(パッチ閉鎖)を行うのが基本である。カテーテルによる経皮的閉鎖(心房中隔欠損などに用いる閉鎖栓を応用する方法)も、手術リスクが高い例や穿孔が小さい例などで選択肢として考慮されることがあるため、「考慮される」という表現自体は誤りとはいえない。ただし標準治療は外科手術である点が採点除外の一因と考えられる。
- ×d. 房室ブロックは前壁梗塞より下壁梗塞で生じやすい。
記述は正しい。房室結節を栄養する房室結節枝は、約8~9割で右冠動脈から分岐する。このため右冠動脈閉塞による下壁梗塞では房室結節の虚血や迷走神経反射によって房室ブロックが起こりやすい。多くは房室結節レベルのブロックで、Wenckebach型(MobitzⅠ型)第2度房室ブロックや、狭いQRSの補充調律を伴う完全房室ブロックとなり、再灌流などにより一過性に改善することが多い。一方、前壁梗塞に伴う房室ブロックは、心室中隔の広範な壊死によるHis束以下の障害で起こり、頻度は低いが幅広いQRSの補充調律となって予後不良で、ペーシングが必要となることが多い。
- ○e. Dressler症候群は心筋梗塞発症後1年以降に生じやすい。
記述は誤りであり、これが正解である。Dressler症候群(心筋梗塞後症候群)は、壊死心筋から放出された抗原に対する自己免疫反応による心膜炎で、心筋梗塞発症後およそ2~6週(数週間後)に起こる。発熱、胸膜性の胸痛、心膜摩擦音、心膜液貯留、胸膜炎(胸水)、ときに肺浸潤を伴い、白血球増多・赤沈亢進・CRP上昇がみられる。1年以降に起こるものではない。なお、発症後数日以内に貫壁性梗塞の直上に起こる梗塞後早期心膜炎(epistenocardiac pericarditis)とは時期と機序が異なる。再灌流療法の普及により、現在ではまれとなった。
急性心筋梗塞の主な合併症と時期
・発症直後~48時間:心室細動・心室頻拍(院外死亡の主因)、房室ブロック、心不全・心原性ショック。 ・発症数日~2週間以内:左室自由壁破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂(いずれも壊死心筋が軟化・脆弱化する時期に起こる。再灌流療法時代では24時間以内の発症も多い)。梗塞後早期心膜炎。 ・発症2~6週:Dressler症候群。 ・慢性期:左室瘤(前壁梗塞に多く、心電図でST上昇が持続)、左室内血栓と塞栓症、慢性心不全、心室性不整脈。
機械的合併症の鑑別
・自由壁破裂:突然の血圧低下・PEA、心エコーで心嚢液貯留・心タンポナーデ。 ・心室中隔穿孔:胸骨左縁の全収縮期雑音(スリルを伴う)、右心カテーテルで右室の酸素飽和度が右房より上昇(step-up)、カラードプラで左→右シャント。 ・乳頭筋断裂:心尖部の収縮期雑音(重症では雑音が小さいこともある)、急性肺水腫、心エコーで僧帽弁尖の逸脱・動揺(flail)と重症逆流。 いずれも内科治療のみでは予後が極めて不良で、IABPなどで循環を補助しながら緊急の外科治療を検討する。
冠動脈と梗塞部位
・左前下行枝:前壁中隔・心尖部(V1~V4)。 ・左回旋枝:側壁・後壁(Ⅰ、aVL、V5、V6、V1~V2のR波増高)。 ・右冠動脈:下壁(Ⅱ、Ⅲ、aVF)、右室。洞結節枝(約6割)・房室結節枝(約8~9割)を出すため徐脈性不整脈が多い。
POINT
・Dressler症候群は心筋梗塞後2~6週に起こる自己免疫性心膜炎(発熱・胸痛・心膜摩擦音)。 ・機械的合併症(自由壁破裂・心室中隔穿孔・乳頭筋断裂)は発症後1週間前後までに多い。 ・blow-out型の自由壁破裂は心タンポナーデから急死しやすく予後不良。 ・乳頭筋断裂は一枝支配の後乳頭筋(下壁梗塞)に多く、急性僧帽弁逆流をきたす。 ・房室ブロックは下壁梗塞(右冠動脈→房室結節枝)に多く一過性が多い。前壁梗塞に伴うものは予後不良。 ・心室中隔穿孔の標準治療は外科的閉鎖。本問は採点除外。
