StudyMed医師国家試験

背は高くても発達は正常―Marfan症候群と「染色体・インプリンティング」の分かれ道

第113回医師国家試験 A問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第113回 A問題 第6問

精神発達遅滞をきたさないのはどれか。

  1. a.13trisomy
  2. b.Down症候群
  3. c.Marfan症候群
  4. d.Angelman症候群
  5. e.Prader-Willi症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、知的障害、つまり精神発達遅滞をきたさない疾患を選ぶ問題だ。並んでいる5つを「染色体やインプリンティングの異常なのか」「特定の組織の単一遺伝子疾患なのか」で分けて考えると、答えが見えてくるよ。
医学生医学生
トリソミーは知的障害を伴うと遺伝学の講義で習いました。ただ、Prader-Willi症候群は肥満のイメージが強くて、知的障害があったか自信がありません。
ドクタードクター
正直でいいね。まず大きな原則から。染色体の数や構造に異常があると、多くの遺伝子の量が一度に変わり、脳の発生・発達にも影響が及びやすい。だから常染色体トリソミーは基本的に知的障害を伴う。13トリソミーはどうかな。
医学生医学生
Patau症候群ですね。口唇口蓋裂や多指症があって、予後がとても悪かったと思います。
ドクタードクター
そう。13トリソミーでは全前脳胞症のような重い脳形成異常を伴うことが多く、重度の精神運動発達遅滞をきたす。小眼球症、頭皮欠損、先天性心疾患なども合併し、多くは1年以内に亡くなるけれど、長期生存例でも重い発達遅滞がある。
医学生医学生
Down症候群は、小児科実習で療育に通っている子を外来で見ました。知的障害の程度は子どもによって違う印象でした。
ドクタードクター
いい観察だね。21トリソミーでは知的障害はほぼ全例にみられるけれど、程度は軽度から重度まで個人差が大きい。筋緊張低下、房室中隔欠損などの先天性心疾患、十二指腸閉鎖、甲状腺機能低下症、白血病、早期のAlzheimer型認知症などの合併にも注意が必要だ。
医学生医学生
Prader-Willi症候群とAngelman症候群は、どちらも15番染色体でしたよね。どっちがどっちか、CBTの勉強のときによく混乱しました。
ドクタードクター
ここはゲノムインプリンティングという仕組みで整理しよう。一部の遺伝子は、父由来か母由来かのどちらか片方のアレルだけが働くように決まっている。15q11-q13には父由来でのみ働く遺伝子群と、母由来でのみ働くUBE3Aがあるんだ。父由来の働きが失われればPrader-Willi、母由来のUBE3Aの働きが失われればAngelmanになる。
医学生医学生
「父が欠けたらPrader-Willi」ですね。片親性ダイソミーは、その逆向きと考えればいいですか。
ドクタードクター
その通り。母由来の15番を2本受け継ぐ母性片親性ダイソミーでは父由来の遺伝子がないからPrader-Willi、父性片親性ダイソミーならAngelmanになる。Prader-Williは乳児期の著明な筋緊張低下と哺乳障害に始まり、幼児期以降に過食と肥満、低身長、性腺機能低下が出てくる。そして軽度〜中等度の知的障害も伴うんだ。
医学生医学生
肥満だけでなく知的障害もあるんですね。Angelmanは、よく笑う子という特徴でしたか。
ドクタードクター
そう。Angelmanは重度の知的障害、発語がほとんどないほどの言語発達の遅れ、失調性歩行、てんかん、小頭症を示し、よく笑って興奮しやすい行動特徴がある。どちらも知的障害を伴う代表的な疾患だ。
医学生医学生
残るMarfan症候群は結合組織の病気なので、脳の発達には関係しない、ということですね。
ドクタードクター
正解。Marfan症候群はフィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性遺伝の疾患で、約4分の1は新生突然変異だ。障害されるのは骨格、眼、心血管系の結合組織で、高身長とくも指、漏斗胸、側弯、水晶体偏位、大動脈基部拡張や大動脈解離、僧帽弁逸脱などがみられる。中枢神経の発達は保たれるので、知的発達は通常正常だよ。
医学生医学生
でも、背が高くて水晶体がずれていて、しかも知的障害がある子がいたらどう考えればいいですか。
ドクタードクター
鋭いね。そこで思い出してほしいのがホモシスチン尿症だ。Marfanに似た体型と水晶体偏位があるけれど、知的障害や血栓症を伴う点で区別できる。水晶体はMarfanでは上方、ホモシスチン尿症では下方に偏位しやすい、という違いもよく問われる。
医学生医学生
似た外見でも、知的障害の有無が鑑別の手がかりになるんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床の注意点を。Marfan症候群で一番命に関わるのは大動脈解離だ。改訂Ghent基準で診断し、β遮断薬やARBで大動脈拡張の進行を抑えながら、定期的に画像で大動脈径を追いかけ、基準を超えたら予防的手術を考える。高身長の若い人が突然の胸背部痛を訴えたら、まず大動脈解離を疑う姿勢が大切だよ。

まとめ

染色体の数や構造の異常、ゲノムインプリンティングの異常は多くの遺伝子の働きに影響し、知的障害を伴いやすいのが原則です。13トリソミー(Patau症候群)とDown症候群は知的障害を伴い、15q11-q13のインプリンティング異常によるPrader-Willi症候群(父由来の欠失・母性片親性ダイソミー)とAngelman症候群(母由来のUBE3A機能喪失)も同様です。一方、Marfan症候群はFBN1遺伝子変異による常染色体顕性遺伝の結合組織疾患で、骨格・眼・心血管系が侵されますが知的発達は通常正常です。Marfan様体型に知的障害や血栓症を伴う場合はホモシスチン尿症を考え、Marfan症候群では大動脈解離の予防のための継続的な管理が重要です。疾患を「原因のレベル」と「障害される臓器」で整理することは、遺伝性疾患の理解と臨床での鑑別に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

問われていること

代表的な先天異常症候群のうち、精神発達遅滞(知的障害、知的能力障害)を伴わないものを選ぶ問題である。

考え方

知的障害を伴う先天異常の多くは、染色体の数や構造の異常によって多数の遺伝子の量(遺伝子量)が変化し、脳の発生・発達に影響が及ぶものである。常染色体トリソミー(13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー)はいずれも知的障害を伴う。また、15番染色体長腕q11-q13領域のゲノムインプリンティング(親由来によって遺伝子の働き方が異なる現象)の異常によるPrader-Willi症候群とAngelman症候群も、知的障害を伴う代表的疾患である。 一方、Marfan症候群は単一遺伝子(FBN1)の異常による結合組織疾患であり、障害されるのは骨格・眼・心血管系などの結合組織で、中枢神経の発達は保たれる。したがって知的発達は通常正常であり、これが正解となる。 選択肢を「染色体異常・インプリンティング異常か、結合組織などの単一遺伝子疾患か」で分けて考えると判断しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  13trisomy

    13トリソミー(Patau症候群)は13番染色体が1本過剰にある染色体異常で、全前脳胞症などの重い脳形成異常を伴い、重度の精神運動発達遅滞をきたす。そのほか口唇口蓋裂、小眼球症、多指症、頭皮欠損、先天性心疾患などを合併する。生命予後は極めて不良で、多くは生後早期(1年以内)に死亡するが、長期生存例もあり、その場合も重度の発達遅滞を伴う。

  2. ×b.  Down症候群

    Down症候群は21番染色体の過剰(21トリソミー)によるもので、大多数は標準型トリソミー、ほかに転座型、モザイク型がある。知的障害はほぼ全例にみられるが、その程度は軽度から重度まで個人差が大きい。特徴的な顔貌(眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、平坦な鼻根)、筋緊張低下、先天性心疾患(房室中隔欠損など)、十二指腸閉鎖などの消化管奇形、甲状腺機能低下症、白血病、早期のAlzheimer型認知症などを合併しやすい。

  3. ○c.  Marfan症候群

    Marfan症候群は、細胞外マトリックスのミクロフィブリルを構成するフィブリリン1をコードするFBN1遺伝子(15q21)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患である。約1/4は新生突然変異による。症状は骨格(高身長、長い四肢とくも指、漏斗胸・鳩胸、側弯)、眼(水晶体亜脱臼・偏位、近視)、心血管(大動脈基部拡張、大動脈瘤・大動脈解離、僧帽弁逸脱)に現れる。中枢神経系の発達には影響せず、知的発達は正常であるため、精神発達遅滞をきたさない疾患として本問の正解となる。

  4. ×d.  Angelman症候群

    Angelman症候群は、15q11-q13領域で母由来アレルのみが働くUBE3A遺伝子の機能が失われることで発症する。原因は母由来染色体の同領域の欠失が最多で、ほかに父性片親性ダイソミー、インプリンティング異常、UBE3A遺伝子変異がある。重度の知的障害、言語発達の著しい遅れ(発語がほとんどない)、失調性歩行、てんかん、小頭症、よく笑う・興奮しやすい行動特徴を示す。

  5. ×e.  Prader-Willi症候群

    Prader-Willi症候群は、15q11-q13領域の父由来で働く遺伝子群が発現しないことで発症する。原因は父由来染色体の同領域の欠失が最多で、ほかに母性片親性ダイソミー、インプリンティング異常がある。新生児期・乳児期の著明な筋緊張低下と哺乳障害に始まり、幼児期以降に過食と肥満、低身長、性腺機能低下、小さな手足、軽度~中等度の知的障害、こだわりやかんしゃくなどの行動特性が出現する。

ゲノムインプリンティングと15q11-q13

一部の遺伝子は、父由来・母由来のどちらのアレルが働くかがあらかじめ決まっている(ゲノムインプリンティング)。15q11-q13では、父由来でのみ働く遺伝子群と、母由来でのみ働くUBE3Aが存在する。 ・父由来の欠失、または母由来染色体を2本受け継ぐ(母性片親性ダイソミー)→ 父由来で働く遺伝子が欠ける → Prader-Willi症候群 ・母由来の欠失、父性片親性ダイソミー、UBE3A変異 → 母由来で働くUBE3Aが欠ける → Angelman症候群 いずれも多くは孤発例で、診断にはメチル化解析やFISH法が用いられる。同じ領域の異常でも、親の由来によって異なる疾患になる点が重要である。

主な常染色体トリソミー

・21トリソミー(Down症候群):最も頻度が高く、母体年齢とともに増加。長期生存が可能。 ・18トリソミー(Edwards症候群):重度の発達遅滞、手指の重なり、揺り椅子状の足底、心疾患。生命予後不良。 ・13トリソミー(Patau症候群):全前脳胞症、口唇口蓋裂、多指症、頭皮欠損。生命予後不良。

Marfan症候群の診断

改訂Ghent基準が用いられ、大動脈基部の拡張(または解離)と水晶体偏位の組み合わせ、あるいはこれらとFBN1遺伝子の病的変異・家族歴・全身所見スコアとの組み合わせで診断する。治療は大動脈拡張の進行抑制のためのβ遮断薬やARB、定期的な画像検査、基準を超えた大動脈基部拡張に対する予防的手術である。

高身長・水晶体偏位と知的障害

Marfan症候群と外見が似るホモシスチン尿症(シスタチオニンβ合成酵素欠損症)は、高身長・水晶体偏位(Marfanは上方、ホモシスチン尿症は下方に偏位しやすい)に加えて知的障害や血栓症を伴う点で区別される。

POINT

・Marfan症候群(FBN1変異、常染色体顕性遺伝)は結合組織疾患で、知的発達は正常。 ・13・18・21トリソミーはいずれも精神発達遅滞を伴う。 ・Prader-Willi症候群:父由来15q11-q13の欠失・母性片親性ダイソミー。筋緊張低下→過食・肥満、性腺機能低下。 ・Angelman症候群:母由来15q11-q13の欠失・UBE3A異常。重度知的障害、失調性歩行、てんかん、よく笑う。 ・Marfan類似の体型で知的障害を伴えばホモシスチン尿症を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。