背は高くても発達は正常―Marfan症候群と「染色体・インプリンティング」の分かれ道
第113回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
精神発達遅滞をきたさないのはどれか。
- a.13trisomy
- b.Down症候群
- c.Marfan症候群
- d.Angelman症候群
- e.Prader-Willi症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
染色体の数や構造の異常、ゲノムインプリンティングの異常は多くの遺伝子の働きに影響し、知的障害を伴いやすいのが原則です。13トリソミー(Patau症候群)とDown症候群は知的障害を伴い、15q11-q13のインプリンティング異常によるPrader-Willi症候群(父由来の欠失・母性片親性ダイソミー)とAngelman症候群(母由来のUBE3A機能喪失)も同様です。一方、Marfan症候群はFBN1遺伝子変異による常染色体顕性遺伝の結合組織疾患で、骨格・眼・心血管系が侵されますが知的発達は通常正常です。Marfan様体型に知的障害や血栓症を伴う場合はホモシスチン尿症を考え、Marfan症候群では大動脈解離の予防のための継続的な管理が重要です。疾患を「原因のレベル」と「障害される臓器」で整理することは、遺伝性疾患の理解と臨床での鑑別に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
問われていること
代表的な先天異常症候群のうち、精神発達遅滞(知的障害、知的能力障害)を伴わないものを選ぶ問題である。
考え方
知的障害を伴う先天異常の多くは、染色体の数や構造の異常によって多数の遺伝子の量(遺伝子量)が変化し、脳の発生・発達に影響が及ぶものである。常染色体トリソミー(13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー)はいずれも知的障害を伴う。また、15番染色体長腕q11-q13領域のゲノムインプリンティング(親由来によって遺伝子の働き方が異なる現象)の異常によるPrader-Willi症候群とAngelman症候群も、知的障害を伴う代表的疾患である。 一方、Marfan症候群は単一遺伝子(FBN1)の異常による結合組織疾患であり、障害されるのは骨格・眼・心血管系などの結合組織で、中枢神経の発達は保たれる。したがって知的発達は通常正常であり、これが正解となる。 選択肢を「染色体異常・インプリンティング異常か、結合組織などの単一遺伝子疾患か」で分けて考えると判断しやすい。
選択肢考察
- ×a. 13trisomy
13トリソミー(Patau症候群)は13番染色体が1本過剰にある染色体異常で、全前脳胞症などの重い脳形成異常を伴い、重度の精神運動発達遅滞をきたす。そのほか口唇口蓋裂、小眼球症、多指症、頭皮欠損、先天性心疾患などを合併する。生命予後は極めて不良で、多くは生後早期(1年以内)に死亡するが、長期生存例もあり、その場合も重度の発達遅滞を伴う。
- ×b. Down症候群
Down症候群は21番染色体の過剰(21トリソミー)によるもので、大多数は標準型トリソミー、ほかに転座型、モザイク型がある。知的障害はほぼ全例にみられるが、その程度は軽度から重度まで個人差が大きい。特徴的な顔貌(眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、平坦な鼻根)、筋緊張低下、先天性心疾患(房室中隔欠損など)、十二指腸閉鎖などの消化管奇形、甲状腺機能低下症、白血病、早期のAlzheimer型認知症などを合併しやすい。
- ○c. Marfan症候群
Marfan症候群は、細胞外マトリックスのミクロフィブリルを構成するフィブリリン1をコードするFBN1遺伝子(15q21)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患である。約1/4は新生突然変異による。症状は骨格(高身長、長い四肢とくも指、漏斗胸・鳩胸、側弯)、眼(水晶体亜脱臼・偏位、近視)、心血管(大動脈基部拡張、大動脈瘤・大動脈解離、僧帽弁逸脱)に現れる。中枢神経系の発達には影響せず、知的発達は正常であるため、精神発達遅滞をきたさない疾患として本問の正解となる。
- ×d. Angelman症候群
Angelman症候群は、15q11-q13領域で母由来アレルのみが働くUBE3A遺伝子の機能が失われることで発症する。原因は母由来染色体の同領域の欠失が最多で、ほかに父性片親性ダイソミー、インプリンティング異常、UBE3A遺伝子変異がある。重度の知的障害、言語発達の著しい遅れ(発語がほとんどない)、失調性歩行、てんかん、小頭症、よく笑う・興奮しやすい行動特徴を示す。
- ×e. Prader-Willi症候群
Prader-Willi症候群は、15q11-q13領域の父由来で働く遺伝子群が発現しないことで発症する。原因は父由来染色体の同領域の欠失が最多で、ほかに母性片親性ダイソミー、インプリンティング異常がある。新生児期・乳児期の著明な筋緊張低下と哺乳障害に始まり、幼児期以降に過食と肥満、低身長、性腺機能低下、小さな手足、軽度~中等度の知的障害、こだわりやかんしゃくなどの行動特性が出現する。
ゲノムインプリンティングと15q11-q13
一部の遺伝子は、父由来・母由来のどちらのアレルが働くかがあらかじめ決まっている(ゲノムインプリンティング)。15q11-q13では、父由来でのみ働く遺伝子群と、母由来でのみ働くUBE3Aが存在する。 ・父由来の欠失、または母由来染色体を2本受け継ぐ(母性片親性ダイソミー)→ 父由来で働く遺伝子が欠ける → Prader-Willi症候群 ・母由来の欠失、父性片親性ダイソミー、UBE3A変異 → 母由来で働くUBE3Aが欠ける → Angelman症候群 いずれも多くは孤発例で、診断にはメチル化解析やFISH法が用いられる。同じ領域の異常でも、親の由来によって異なる疾患になる点が重要である。
主な常染色体トリソミー
・21トリソミー(Down症候群):最も頻度が高く、母体年齢とともに増加。長期生存が可能。 ・18トリソミー(Edwards症候群):重度の発達遅滞、手指の重なり、揺り椅子状の足底、心疾患。生命予後不良。 ・13トリソミー(Patau症候群):全前脳胞症、口唇口蓋裂、多指症、頭皮欠損。生命予後不良。
Marfan症候群の診断
改訂Ghent基準が用いられ、大動脈基部の拡張(または解離)と水晶体偏位の組み合わせ、あるいはこれらとFBN1遺伝子の病的変異・家族歴・全身所見スコアとの組み合わせで診断する。治療は大動脈拡張の進行抑制のためのβ遮断薬やARB、定期的な画像検査、基準を超えた大動脈基部拡張に対する予防的手術である。
高身長・水晶体偏位と知的障害
Marfan症候群と外見が似るホモシスチン尿症(シスタチオニンβ合成酵素欠損症)は、高身長・水晶体偏位(Marfanは上方、ホモシスチン尿症は下方に偏位しやすい)に加えて知的障害や血栓症を伴う点で区別される。
POINT
・Marfan症候群(FBN1変異、常染色体顕性遺伝)は結合組織疾患で、知的発達は正常。 ・13・18・21トリソミーはいずれも精神発達遅滞を伴う。 ・Prader-Willi症候群:父由来15q11-q13の欠失・母性片親性ダイソミー。筋緊張低下→過食・肥満、性腺機能低下。 ・Angelman症候群:母由来15q11-q13の欠失・UBE3A異常。重度知的障害、失調性歩行、てんかん、よく笑う。 ・Marfan類似の体型で知的障害を伴えばホモシスチン尿症を考える。
