2つの泡が語る染色体―double bubble signからたどるDown症候群
第117回医師国家試験 C問題 第47問
国試問題にチャレンジ
生後4時間の女児。胎児超音波検査で異常を指摘されていた。在胎37週,出生体重2,850gで出生した。眼裂斜上と平坦な鼻根部とを認める。胎児超音波像(A)と出生後に撮影した胸腹部エックス線写真(B)とを示す。 この児に予想される染色体核型はどれか。

- a.45,X
- b.46,XX,5p-
- c.47,XX,+13
- d.47,XX,+18
- e.47,XX,+21
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児超音波や腹部エックス線でのdouble bubble signは、胃と十二指腸近位部の拡張を示す先天性十二指腸閉鎖症の典型所見で、胎児期には羊水過多を伴いやすい所見です。先天性十二指腸閉鎖症の約3割にDown症候群が合併し、眼裂斜上や平坦な鼻根部といった特徴的な顔貌がそろえば21トリソミーが強く疑われ、女児の標準型トリソミーでは核型は47,XX,+21となります。Down症候群は標準型が約95%を占め、転座型では親の染色体検査が必要になる点も重要です。18トリソミーは低出生体重と重なり合う指、13トリソミーは全前脳胞症や口唇口蓋裂、5p−は甲高い泣き声、Turner症候群は低身長と性腺形成不全というように、各染色体異常の特徴を対比して覚えておくと鑑別がしやすくなります。診断後は房室中隔欠損症をはじめとする合併症を系統的に検索し、長期的に支援していく視点が求められます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・生後4時間の女児。胎児期の超音波検査ですでに異常を指摘されていた。 ・在胎37週(正期産)、出生体重2,850g(低出生体重児には当たらない)。 ・顔貌:眼裂斜上(目尻がつり上がった眼裂)と平坦な鼻根部(鼻の付け根が低い)を認める。いずれもDown症候群に特徴的な所見である。 ・胎児超音波像(A):上腹部に液体で満たされた2つの嚢胞状構造(拡張した胃と十二指腸球部)がみられる。 ・出生後の胸腹部エックス線写真(B):上腹部に2つの大きなガス像(胃と十二指腸)があり、それより遠位の腸管ガスがみられない。これがdouble bubble sign(ダブルバブルサイン)である。
診断へのプロセス
double bubble signは、十二指腸の閉塞によって胃と閉塞部より口側の十二指腸が拡張したことを示す所見で、先天性十二指腸閉鎖症(または狭窄症)の典型像である。胎児期には、羊水を飲み込んでも腸管を先へ送れないため羊水過多を伴いやすく、胎児超音波でdouble bubbleが見つかって出生前に診断されることも多い。 先天性十二指腸閉鎖症の患児の約3割はDown症候群を合併しており、Down症候群に最もよく伴う消化管奇形の一つである。本児にはDown症候群に特徴的な顔貌(眼裂斜上、平坦な鼻根部)があり、十二指腸閉鎖の合併と合わせて、Down症候群(21トリソミー)と考えられる。
設問の考え方
Down症候群の約95%は、21番染色体が通常より1本多い標準型トリソミーであり、女児なら核型は47,XX,+21と表記される。残りは転座型(約3〜4%、例:46,XX,der(14;21)(q10;q10),+21)とモザイク型(約1〜2%)である。選択肢の中では47,XX,+21が該当する。確定診断には染色体検査(G分染法による核型分析)を行う。
選択肢考察
- ×a. 45,X
誤り。X染色体が1本しかない核型で、Turner症候群に当たる。低身長、性腺形成不全(索状性腺)による二次性徴の欠如・原発性無月経、翼状頸、外反肘、項部の皮膚のたるみ、新生児期の手足のリンパ浮腫、大動脈縮窄症や大動脈二尖弁、馬蹄腎などを特徴とする。新生児期にリンパ浮腫などで気付かれることもあるが、低身長や無月経をきっかけに小児期以降に診断されることが多い。眼裂斜上・平坦な鼻根部を伴う顔貌や十二指腸閉鎖は典型的な所見ではない。
- ×b. 46,XX,5p-
誤り。5番染色体短腕(p)の部分欠失で、猫鳴き症候群(5p−症候群)の核型である。乳児期の子猫の鳴き声に似た甲高い泣き声が最大の特徴で、小頭症、丸い顔、両眼開離、内眼角贅皮、小顎症、筋緊張低下、重度の精神運動発達遅滞を伴う。十二指腸閉鎖との関連は乏しい。
- ×c. 47,XX,+13
誤り。13トリソミー(Patau症候群)の核型である。全前脳胞症などの脳の形成異常、小頭症、小眼球症、口唇口蓋裂、頭皮欠損、多指症、心奇形などを伴い、生命予後は極めて不良である。眼裂斜上と平坦な鼻根部からなる顔貌や十二指腸閉鎖の組み合わせは本症に典型的ではない。
- ×d. 47,XX,+18
誤り。18トリソミー(Edwards症候群)の核型である。子宮内発育不全による低出生体重、後頭部の突出、小顎症、耳介低位・変形、指の重なり(握りこぶし状の手で第2指が第3指に、第5指が第4指に重なる)、揺り椅子状の足底、心室中隔欠損などの心奇形、食道閉鎖などの消化管奇形を伴い、生命予後は不良である。本児は低出生体重ではなく、顔貌もDown症候群に特徴的なものである。
- ○e. 47,XX,+21
正しい。21トリソミー(Down症候群)の標準型トリソミーの女児の核型である。眼裂斜上と平坦な鼻根部はDown症候群に特徴的な顔貌であり、double bubble signで示される先天性十二指腸閉鎖症はDown症候群に高率に合併する消化管奇形である。両者がそろうことからDown症候群が強く疑われ、その約95%を占める標準型トリソミーの核型が予想される。
Down症候群(21トリソミー)の概要
・頻度:最も多い常染色体異常で、出生約700〜1,000人に1人とされる。母体年齢が高いほど発生率が上がる(主に卵子形成時の減数分裂における21番染色体の不分離による)。 ・核型:標準型トリソミー(約95%)、転座型(約3〜4%、親が均衡型転座保因者のことがあり、親の染色体検査が必要)、モザイク型(約1〜2%、症状が軽いことがある)。 ・顔貌・外表所見:眼裂斜上、内眼角贅皮、平坦な鼻根部・顔面、小さな耳、舌の突出、短い頸と項部の皮膚のたるみ、手掌単一屈曲線(猿線)、短い指・第5指の内弯、第1・2趾間の開大(サンダルギャップ)、筋緊張低下。 ・合併症: 1. 先天性心疾患(約40〜50%):房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)が特徴的で、心室中隔欠損症、動脈管開存症、Fallot四徴症なども。 2. 消化管奇形:十二指腸閉鎖・狭窄、Hirschsprung病、鎖肛、輪状膵など。 3. 血液:新生児期の一過性骨髄異常増殖症(TAM)、急性白血病(特に急性巨核芽球性白血病)の発症率が高い。 4. 内分泌:甲状腺機能低下症。 5. その他:難聴・中耳炎、屈折異常・白内障、環軸椎不安定性(亜脱臼による脊髄圧迫に注意)、閉塞性睡眠時無呼吸、早期に発症するAlzheimer型認知症。 ・知的障害をほぼ全例で伴うが程度はさまざまである。合併症の管理の進歩で寿命は延び、成人期医療への移行が重要な課題となっている。
先天性十二指腸閉鎖症
・胎生期に一度閉じた十二指腸内腔の再開通が障害されて生じると考えられている。 ・胎児期:羊水過多、超音波でのdouble bubble。 ・出生後:生後早期からの嘔吐。閉塞部の多くはVater乳頭より肛門側にあるため、胆汁性嘔吐となることが多い。 ・腹部エックス線でdouble bubble signを示し、遠位腸管のガスが欠如する。 ・治療は胃管による減圧と輸液で全身状態を整えたうえでの手術(十二指腸十二指腸吻合術など)である。
主な染色体異常と核型
・21トリソミー(Down症候群):47,XX(XY),+21 ・18トリソミー(Edwards症候群):47,XX(XY),+18 ・13トリソミー(Patau症候群):47,XX(XY),+13 ・猫鳴き症候群:46,XX(XY),5p− ・Turner症候群:45,X(モザイクや構造異常例もある) ・Klinefelter症候群:47,XXY
POINT
・double bubble signは先天性十二指腸閉鎖症を示し、胎児期には羊水過多を伴いやすい。 ・先天性十二指腸閉鎖症の約3割にDown症候群が合併する。 ・眼裂斜上、平坦な鼻根部はDown症候群に特徴的な顔貌である。 ・Down症候群の核型は標準型トリソミー(47,XX/XY,+21)が約95%を占め、ほかに転座型とモザイク型がある。 ・Down症候群の代表的合併症:房室中隔欠損症、十二指腸閉鎖、Hirschsprung病、TAM・白血病、甲状腺機能低下症、環軸椎不安定性。
