握りしめた手とゆり椅子の足―重なる指が告げる18トリソミーの予後
第114回医師国家試験 D問題 第55問
国試問題にチャレンジ
日齢0の新生児。妊娠31週から胎児発育不全を指摘されていた。在胎38週に体重1,890gで出生した。低出生体重児のためNICUに入院した。啼泣は弱かったが多呼吸のため保育器内に収容して酸素を投与した。眼裂狭小,小さな口,小下顎などの特徴的顔貌を認めた。また,手指の重合と屈曲拘縮,ゆり椅子状の足底を認めた。全身の筋緊張は亢進していた。 この患児にあてはまるのはどれか。
- a.生命予後は良い。
- b.発達遅滞をきたす。
- c.心疾患は合併しにくい。
- d.急性白血病を合併しやすい。
- e.甲高い泣き声が特徴的である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児発育不全によるSGA、眼裂狭小・小さな口・小下顎、手指の重合、ゆり椅子状足底、筋緊張亢進がそろえば18トリソミー(Edwards症候群)を考えます。18トリソミーでは重度の精神運動発達遅滞がほぼ必発で、約9割に心室中隔欠損症をはじめとする先天性心疾患を合併し、生命予後は不良です。白血病(TAM、急性巨核芽球性白血病)を合併しやすいのはDown症候群、猫の鳴き声様の甲高い泣き声は5p-症候群の特徴であり、筋緊張もDown症候群では低下、18トリソミーでは亢進と対照的です。主要な染色体異常症候群の外表所見・合併症・予後を比較して整理しておくことは、国試対策にとどまらず、NICUでの診断や家族への説明の土台になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・妊娠31週から胎児発育不全(FGR:fetal growth restriction)を指摘されていた。 ・在胎38週(正期産)で出生体重1,890g。2,500g未満の低出生体重児であり、在胎週数に比べて体重が著しく小さい不当軽量児(SGA:small for gestational age)である。 ・啼泣が弱く、多呼吸のため酸素投与を要した。 ・顔貌:眼裂狭小(目の開きが小さい)、小さな口、小下顎。 ・四肢:手指の重合(握った手で示指が中指に、小指が環指に重なる)と屈曲拘縮、ゆり椅子状の足底(踵が後方に突出し足底が丸く膨らむ、揺り椅子の脚のような形)。 ・全身の筋緊張亢進。
診断へのプロセス
正期産のSGA児をみたら、胎盤機能不全などの母体・胎盤側の原因と、染色体異常や先天感染など胎児自身の原因とを考える。本例では胎児期からの発育不全に加えて、特徴的な小顔面奇形と、手指の重合・ゆり椅子状足底という四肢の所見がそろっており、これらは18トリソミー(Edwards症候群)に典型的である。筋緊張亢進や弱い啼泣も18トリソミーでしばしばみられ、筋緊張が低下するDown症候群(21トリソミー)とは対照的である。
設問の考え方
18トリソミーの合併症と予後を問う問題である。18トリソミーでは中枢神経系の形成異常を背景に重度の精神運動発達遅滞がほぼ全例にみられる。先天性心疾患を高率に合併し、生命予後は不良である。他の染色体異常症候群の特徴(Down症候群の白血病、5p-症候群の甲高い泣き声)と区別して覚えておくことが求められる。
選択肢考察
- ×a. 生命予後は良い。
18トリソミーの生命予後は不良である。先天性心疾患、呼吸障害(中枢性無呼吸を含む)、食道閉鎖などの消化管奇形が死因となり、従来の報告では生後1か月以内に約半数、1年以内に約90%が死亡するとされてきた。近年は心臓手術を含む積極的治療が行われる例も増え、1年以上生存する児は以前より増えているが、全体としての予後が不良であることに変わりはない。
- ○b. 発達遅滞をきたす。
18トリソミーでは脳の形成異常などを背景に、運動・知的両面の重度の発達遅滞がほぼ必発である。長期生存例でも独歩や有意語の獲得に至ることはまれで、多くは寝返りや座位の獲得にとどまる。一方で、ゆっくりではあっても発達は進み、周囲との意思疎通や笑顔などの反応がみられるようになるため、個々の児に応じた療育・支援が行われる。
- ×c. 心疾患は合併しにくい。
18トリソミーでは約90%に先天性心疾患を合併する。心室中隔欠損症が最も多く、心房中隔欠損症、動脈管開存症のほか、両大血管右室起始症、Fallot四徴症、大動脈縮窄症など多彩である。心疾患は生命予後を左右する主要因の一つで、肺血流増加による心不全や肺高血圧が問題になる。
- ×d. 急性白血病を合併しやすい。
急性白血病の合併が多いのはDown症候群(21トリソミー)である。Down症候群では白血病の発症リスクが一般小児の10〜20倍とされ、新生児期の一過性骨髄異常増殖症(TAM:transient abnormal myelopoiesis)や、乳幼児期の急性巨核芽球性白血病(AMLのFAB分類M7)、急性リンパ性白血病がみられる。18トリソミーで白血病が多いという特徴はない。
- ×e. 甲高い泣き声が特徴的である。
子猫が鳴くような甲高い泣き声は、5番染色体短腕の部分欠失による5p-症候群(猫鳴き症候群)の特徴であり、喉頭の形成異常によるとされる。5p-症候群ではほかに小頭症、丸い顔、眼間開離、重度の知的障害がみられる。18トリソミーではむしろ啼泣が弱いことが多く、本例でも啼泣は弱かった。
18トリソミー(Edwards症候群)の概要
・18番染色体が1本多い常染色体トリソミー。頻度は出生3,500〜8,500人に1人程度で、女児に多い。母体の高年齢でリスクが高まる。核型は標準型(全細胞が47,XX(XY),+18)が大部分で、ほかにモザイク型、転座型がある。モザイク型は症状が軽いことがある。 ・胎児期:胎児発育不全、羊水過多(嚥下障害による)、単一臍帯動脈など。超音波で心奇形、手指の重合、clenched hand(握りしめた手)が指摘されることがある。 ・身体的特徴:後頭部突出、耳介低位・耳介変形、眼裂狭小、小さな口、小下顎、短い胸骨、手指の重合、ゆり椅子状足底、骨盤が狭い、筋緊張亢進。 ・合併奇形:先天性心疾患(約90%)、食道閉鎖、鎖肛、臍帯ヘルニア、横隔膜ヘルニア、腎奇形、口唇口蓋裂など。 ・予後:生命予後不良、重度の発達遅滞。
主な常染色体異常症候群の比較
・21トリソミー(Down症候群):約700人に1人。筋緊張低下、つり上がった眼瞼裂、内眼角贅皮、平坦な顔、猿線(手掌単一屈曲線)。心内膜床欠損(房室中隔欠損)、十二指腸閉鎖、Hirschsprung病、白血病(TAM、AML-M7)、甲状腺機能低下症、環軸椎不安定性、早期のAlzheimer型認知症。生命予後は改善し平均寿命は60歳前後。 ・18トリソミー(Edwards症候群):筋緊張亢進、手指の重合、ゆり椅子状足底、高率の心疾患、予後不良。 ・13トリソミー(Patau症候群):全前脳胞症、小眼球症、口唇口蓋裂、多指(趾)症、頭皮欠損、心疾患。予後不良。 ・5p-症候群(猫鳴き症候群):猫の鳴き声様の甲高い泣き声、小頭症、丸い顔、重度の知的障害。
POINT
・SGA児+眼裂狭小・小さな口・小下顎+手指の重合+ゆり椅子状足底+筋緊張亢進→18トリソミー。 ・18トリソミー:重度の発達遅滞はほぼ必発、先天性心疾患(心室中隔欠損症が最多)を約90%に合併、生命予後は不良(従来1年生存率は約1割)。 ・白血病(TAM、AML-M7)を合併しやすいのはDown症候群。 ・甲高い猫の鳴き声様の泣き声は5p-症候群。 ・筋緊張:Down症候群では低下、18トリソミーでは亢進。
