胃の「お隣さん」は誰か―局所解剖で解く胃体部進行癌の直接浸潤
第113回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
胃体部進行癌が浸潤しにくいのはどれか。
- a.肝臓
- b.膵臓
- c.大網
- d.胆嚢
- e.横行結腸
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
胃癌は粘膜から深部へ進み、漿膜を越えると解剖学的に接している臓器へ直接浸潤し、これは胃癌取扱い規約のT4bに相当します。胃体部の周囲には、小彎側・前上方に肝左葉、後壁側に網嚢をはさんで膵体尾部、大彎側に大網と横行結腸(横行結腸間膜)、左側に脾臓があり、これらは浸潤を受けうる臓器です。一方、胆嚢は肝右葉の下面にあって幽門部や十二指腸に近く、胃体部とは接していないため浸潤しにくいといえます。肝転移(血行性)、Virchow転移(リンパ行性)、Schnitzler転移やKrukenberg腫瘍(腹膜播種)といった他の進展様式と直接浸潤を区別することが重要です。胃の部位ごとに隣接臓器を整理しておくことは、画像診断での浸潤評価や手術の合併切除範囲の理解にも直結します。
解答・解説
正解はdです
問われていること
胃癌は粘膜から発生し、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層へと深く進み、漿膜を越えると胃の外にある臓器へ直接広がる(直接浸潤)。直接浸潤を受けやすいのは、その部位の胃壁と「解剖学的に接している」臓器である。したがって本問は、胃体部の周囲にどの臓器があるかという局所解剖の知識を問うている。
胃体部の周囲の解剖
胃体部の前面から右上方(小彎側)には肝臓の左葉があり、小網(肝胃間膜)でつながっている。後面は網嚢という狭い腔をはさんで膵臓(とくに体部・尾部)と向き合う。大彎側には大網が付着し、そのすぐ下方には胃結腸間膜(大網の一部)を介して横行結腸と横行結腸間膜がある。左側には脾臓、上方には横隔膜がある。 一方、胆嚢は肝臓の右葉下面(胆嚢窩)にあり、位置としては胃の幽門部〜十二指腸球部の近くである。胃体部とは肝臓をはさんで離れているため、胃体部の癌が胆嚢へ直接浸潤することはまれである。
考え方
「接している臓器には浸潤しうる、接していない臓器には浸潤しにくい」と整理すれば、胃体部と直接の位置関係をもたない胆嚢が答えとなる。
選択肢考察
- ×a. 肝臓
肝臓の左葉は胃体部の小彎側・前上方に位置し、小網で胃とつながっている。小彎側や前壁の進行癌は肝左葉へ直接浸潤しうる。なお肝臓は門脈を介した血行性転移の好発部位でもあるが、本問で問われているのは隣接臓器への直接浸潤であり、その意味でも浸潤しうる臓器である。
- ×b. 膵臓
膵臓は網嚢をはさんで胃体部の後壁と向かい合っている。後壁の進行癌は網嚢を越えて膵体部・尾部へ浸潤しやすく、胃癌の他臓器浸潤の中でも頻度の高い部位である。膵浸潤がある場合には膵体尾部の合併切除が検討されることがある。
- ×c. 大網
大網は胃の大彎に付着してエプロン状に垂れ下がる腹膜のひだである。大彎側の癌は胃壁から連続して大網へ広がりうる。また漿膜を越えた癌細胞が腹腔内に散布されると、大網は腹膜播種の好発部位となり、厚く硬くなった状態(omental cake)を呈することもある。
- ○d. 胆嚢
胆嚢は肝右葉の下面にあり、胃の中では幽門前庭部や十二指腸に近い位置にある。胃体部とは肝臓をはさんで隔たっており、両者が直接接することはないため、胃体部の進行癌が胆嚢に直接浸潤することはまれである。したがって浸潤しにくい臓器として本肢が正解となる(ただし幽門部の進行癌では近接するため浸潤がありうる)。
- ×e. 横行結腸
横行結腸は胃結腸間膜(大網の一部)を介して胃の大彎のすぐ下方に位置する。大彎側の進行癌は胃結腸間膜・横行結腸間膜を経て横行結腸へ浸潤しうる。浸潤例では横行結腸の合併切除が必要となることがあり、癌が腸管内腔へ穿通すると胃結腸瘻を形成することもある。
胃癌の壁深達度(T分類、胃癌取扱い規約の要点)
T1a: 粘膜内(M) T1b: 粘膜下層(SM)まで T2: 固有筋層(MP)まで T3: 漿膜下層(SS)まで T4a: 漿膜表面に露出(SE) T4b: 他臓器へ直接浸潤(SI) 固有筋層より深い(T2以深)ものを進行癌、粘膜下層までにとどまる(T1)ものを早期癌とよぶ。
胃の部位ごとに隣接する主な臓器
・胃体部の小彎側・前壁: 肝左葉、小網 ・胃体部の後壁: 膵体尾部(網嚢をはさむ) ・胃体部の大彎側: 大網、横行結腸、横行結腸間膜、脾臓 ・胃上部(穹窿部・噴門部): 横隔膜、脾臓、食道 ・幽門部: 十二指腸、膵頭部、肝門部、胆嚢
胃癌の進展様式
・直接浸潤: 隣接臓器へ連続して広がる(本問) ・リンパ行性転移: 胃周囲リンパ節から遠位へ。左鎖骨上窩リンパ節転移はVirchow転移とよばれる ・血行性転移: 門脈経由で肝臓への転移が最も多い ・腹膜播種: Douglas窩への播種(Schnitzler転移)、卵巣への転移(Krukenberg腫瘍)など
POINT
・胃癌の直接浸潤は、胃壁と解剖学的に接する臓器に起こる。 ・胃体部の周囲には肝左葉、膵体尾部、大網、横行結腸(横行結腸間膜)、脾臓がある。 ・胆嚢は肝右葉の下面にあり、胃体部とは接していないため浸潤しにくい(幽門部癌では近接しうる)。 ・直接浸潤(T4b)、リンパ行性、血行性(肝転移が最多)、腹膜播種という進展様式を区別して整理する。
