お腹の赤ちゃんを守る乾癬治療―妊娠10週で選ぶべき「いちばん穏やかな一手」
第113回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
妊娠10週の尋常性乾癬患者に対する治療法で最も適切なのはどれか。
- a.内服PUVA療法
- b.生物学的製剤注射
- c.ビタミンA誘導体内服
- d.活性型ビタミンD3外用
- e.副腎皮質ステロイド外用
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尋常性乾癬の治療は外用療法・光線療法・内服療法・生物学的製剤を重症度に応じて組み合わせますが、妊婦では胎児への安全性を最優先に考える必要があります。妊娠10週は器官形成期直後の相対過敏期にあたり、全身への影響が少なく使用実績の長い副腎皮質ステロイド外用が第一選択となります。ビタミンA誘導体(エトレチナート)内服は強い催奇形性のため禁忌で中止後も長期の避妊が必要であり、内服PUVA療法も妊婦には禁忌、活性型ビタミンD3外用は安全性未確立で高カルシウム血症の懸念から避けることが望ましく、生物学的製剤は既存治療で不十分な重症例に限って検討されます。ステロイド外用でも強さ・範囲・期間を必要最小限にする配慮が必要で、光線療法ならナローバンドUVBが比較的安全とされます。「患者背景に応じて治療の安全性を見極める」という視点は、乾癬に限らず妊婦への薬物療法全般に通じる重要な考え方です。
解答・解説
正解はeです
問われていること
尋常性乾癬の治療は、外用療法・光線療法・内服療法・生物学的製剤(注射)を重症度に応じて組み合わせるのが基本である。本問では患者が妊娠10週であるという条件が付いており、「胎児への安全性が最も確かな治療はどれか」を考えることが求められる。
妊娠10週という時期の意味
妊娠4週から7週末ごろは器官形成期で、催奇形性が最も問題となる「絶対過敏期」である。妊娠10週はその直後にあたり、まだ一部の器官(口蓋や外性器など)の形成が続く「相対過敏期」に含まれる。この時期には、胎児への影響が少ない治療を優先し、全身に作用する薬剤や安全性が確立していない治療はできるだけ避ける。
考え方
妊婦の乾癬では、皮膚に限局して作用し全身への吸収が少ない外用療法が第一選択となる。外用薬の中でも、副腎皮質ステロイド外用薬は長い使用実績があり、通常の範囲で使えば妊娠中でも比較的安全とされる。一方、活性型ビタミンD3外用薬は妊婦への安全性が確立しておらず、全身に吸収されると高カルシウム血症を起こしうるため、妊婦では避けるのが望ましい。また、内服PUVA療法やビタミンA誘導体(レチノイド)内服は催奇形性などの点から妊婦には用いない。以上から、最も適切なのは副腎皮質ステロイド外用である。
選択肢考察
- ×a. 内服PUVA療法
PUVA療法は、光に対する感受性を高める薬剤であるソラレン(psoralen)を投与したのちに長波長紫外線(UVA)を照射する光化学療法である。ソラレンの投与法には内服法・外用法・PUVAバス(入浴)法がある。内服ではソラレンが全身を循環して胎盤を通過し、胎児への変異原性・発癌性が否定できないため、光線療法のガイドラインでは妊婦・授乳婦への内服PUVAは禁忌とされている。なお、薬剤を用いないナローバンドUVB療法は妊娠中でも比較的安全な光線療法とされるが、内服PUVAとは区別して考える。
- ×b. 生物学的製剤注射
生物学的製剤(TNF-α阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬など)は、外用・光線・内服療法で十分な効果が得られない中等症〜重症例、あるいは副作用などで既存治療が使えない例に用いる治療である。多くは妊婦への安全性が十分確立しておらず、治療上の有益性が危険性を上回る場合に限って使用が検討される位置付けである。IgG抗体製剤は妊娠後期に胎盤を通過して新生児に移行し、出生後の生ワクチン接種に注意が必要となることもある。本問のように重症度が示されていない妊婦にまず選ぶ治療ではない。
- ×c. ビタミンA誘導体内服
乾癬に用いるビタミンA誘導体(レチノイド)内服薬はエトレチナートである。強い催奇形性をもつため妊婦および妊娠の可能性のある女性には禁忌である。体内(脂肪組織)に長く残るため、女性では内服中止後も一定期間(2年間)の避妊が求められ、男性でも服用中止後一定期間の避妊が必要とされる。妊娠中の使用は論外である。
- ×d. 活性型ビタミンD3外用
活性型ビタミンD3外用薬(カルシポトリオール、マキサカルシトール、タカルシトールなど)は、表皮角化細胞の増殖を抑え分化を促すことで乾癬に効果を示し、ステロイド外用薬と並ぶ外用療法の柱である。しかし妊婦に対する安全性は確立しておらず、広い範囲に大量に塗ると吸収されて高カルシウム血症を起こしうるため、妊婦には使用しないことが望ましいとされる。妊婦に対して最も適切な治療とはいえない。
- ○e. 副腎皮質ステロイド外用
副腎皮質ステロイド外用薬は、抗炎症作用と免疫抑制作用により乾癬の紅斑や浸潤(皮膚の盛り上がり)を改善する、尋常性乾癬の外用療法の基本薬である。作用が主に塗った皮膚に限られ、全身への吸収量は少なく、長年の使用実績から妊娠中でも通常の使用量であれば胎児への影響はほとんどないとされている。したがって妊婦の乾癬に対しては第一選択となる。ただし、非常に強いランクの薬剤を広い範囲に長期間使うと全身吸収が増えるため、必要最小限の強さ・範囲・期間で用いるよう配慮する。
尋常性乾癬の概要
乾癬は、表皮角化細胞の過剰な増殖と、IL-23/Th17系を中心とした免疫異常による慢性炎症性皮膚疾患である。乾癬全体の約9割を尋常性乾癬が占める。境界明瞭な紅斑の上に銀白色の厚い鱗屑(ふけ状のかさぶた)が付着した皮疹が、肘・膝・頭部・腰部など外力の加わりやすい部位に好発する。無疹部をこすると皮疹が生じるKöbner現象、鱗屑を剝がすと点状出血がみられるAuspitz現象が特徴である。関節炎(乾癬性関節炎)や爪病変を伴うこともある。
治療の基本(乾癬治療のピラミッド)
・外用療法: 副腎皮質ステロイド、活性型ビタミンD3、両者の配合剤。軽症例の中心 ・光線療法: ナローバンドUVB、エキシマライト、PUVA療法 ・内服療法: エトレチナート(レチノイド)、シクロスポリン、メトトレキサート、アプレミラスト(PDE4阻害薬)など ・生物学的製剤: TNF-α阻害薬(アダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブ ペゴル)、IL-12/23阻害薬(ウステキヌマブ)、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬など 重症度や生活の質への影響に応じて、外用療法から順に組み合わせていく。
妊娠中の乾癬治療で避けるもの
・エトレチナート: 催奇形性が強く禁忌(中止後も長期間の避妊が必要) ・メトトレキサート: 催奇形性・流産のリスクがあり禁忌 ・アプレミラスト: 動物実験で胎児への影響が示され、妊婦には禁忌 ・内服PUVA: 光線療法ガイドラインで妊婦には禁忌 ・活性型ビタミンD3外用: 安全性未確立で避けることが望ましい 妊娠中に比較的安全とされるのは、ステロイド外用、ナローバンドUVBなどである。重症例では胎盤移行の少ない生物学的製剤(Fc領域をもたないセルトリズマブ ペゴルなど)が検討されることもある。
POINT
・妊婦の尋常性乾癬には、全身への影響が少ない副腎皮質ステロイド外用が第一選択である。 ・ビタミンA誘導体(エトレチナート)は強い催奇形性があり妊婦に禁忌で、中止後も長期の避妊が必要である。 ・内服PUVA療法は妊婦に禁忌である。 ・活性型ビタミンD3外用は妊婦への安全性が確立しておらず、高カルシウム血症にも注意が必要である。 ・生物学的製剤は既存治療で効果不十分な中等症〜重症例に用いる。
