銀白色の鱗屑の下で何が起きているか―病態から読み解く尋常性乾癬の病理
第111回医師国家試験 I問題 第17問
国試問題にチャレンジ
尋常性乾癬の病理組織所見について正しいのはどれか。
- a.表皮の海綿状態
- b.表皮顆粒層の肥厚
- c.表皮基底層の液状変性
- d.真皮浅層の好酸球浸潤
- e.角質層下の好中球性小膿瘍
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尋常性乾癬はIL-23/IL-17軸を中心とした炎症により角化細胞が過剰に増殖し、角化が不完全なまま表面に押し上げられる慢性炎症性角化症です。病理では不全角化、顆粒層の減少・消失、表皮突起の規則的な延長に加え、角層内から角層直下に好中球が集まるMunro微小膿瘍や有棘層上部のKogoj海綿状膿疱が特徴となります。海綿状態は湿疹・皮膚炎、顆粒層の楔状肥厚は扁平苔癬、基底層の液状変性は界面皮膚炎、真皮の好酸球浸潤は虫刺症や水疱性類天疱瘡などの所見であり、所見と代表疾患を対応づけて覚えることが鑑別の助けになります。真皮乳頭の血管拡張と乳頭直上の表皮菲薄化はAuspitz現象として臨床所見に現れ、IL-17やIL-23を標的とする生物学的製剤は病態そのものを治療に生かしたものです。病態から病理・臨床・治療を一貫して理解することが、皮膚疾患全般を学ぶうえでの土台になります。
解答・解説
正解はeです
尋常性乾癬は、境界明瞭でやや隆起した紅斑の上に、銀白色の厚い鱗屑(皮膚表面からはがれ落ちる角質)が付着する局面を特徴とする慢性炎症性角化症である。病態の中心は、樹状細胞が産生するIL-23と、それに刺激されたTh17細胞が出すIL-17などのサイトカインによる炎症であり、これにより表皮角化細胞が異常に速く増殖し、角化が不完全なまま表面に押し上げられる。 病理組織所見はこの病態をそのまま反映している。 ・表皮の増殖が速い → 表皮肥厚、表皮突起(表皮が真皮側へ伸びる部分)の棍棒状・規則的な延長 ・角化が不完全 → 不全角化(角層に核が残る)、顆粒層の減少・消失 ・炎症で好中球が表皮内へ遊走する → 角層内〜角層直下の好中球集簇(Munro微小膿瘍)、有棘層上部の好中球性海綿状膿疱(Kogoj海綿状膿疱) ・真皮乳頭の血管が拡張・蛇行し、その直上の表皮は薄くなる 本問では、各選択肢の所見がどの疾患の特徴なのかを考え、乾癬の病態に合致するもの、すなわち好中球が角層付近に集まって小膿瘍を作る所見を選べばよい。他の選択肢はそれぞれ湿疹・皮膚炎、扁平苔癬、膠原病などの界面皮膚炎、好酸球性の病変を思い浮かべる所見である。
選択肢考察
- ×a. 表皮の海綿状態
誤り。海綿状態(spongiosis)とは、表皮細胞の間に浮腫液がたまって細胞間が開き、海綿(スポンジ)のように見える状態であり、接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎などの湿疹・皮膚炎群に特徴的な所見である。高度になると表皮内に小水疱を形成する。乾癬の主要な所見ではない。なお乾癬ではKogoj海綿状膿疱という用語があるが、これは好中球が表皮上層に集まってできる膿疱であり、湿疹でみられる浮腫性の海綿状態とは異なる。
- ×b. 表皮顆粒層の肥厚
誤り。乾癬では角化細胞の増殖と分化が速すぎるため正常な角化過程が完了せず、顆粒層はむしろ減少・消失する。顆粒層の肥厚(とくに楔状の肥厚)は扁平苔癬に特徴的な所見であり、臨床的にみられる白い網目状の線条(Wickham線条)に対応する。
- ×c. 表皮基底層の液状変性
誤り。液状変性(空胞変性)とは、表皮基底層の細胞が障害されて空胞化する所見であり、表皮と真皮の境界部に炎症が起こる界面皮膚炎(interface dermatitis)の特徴である。扁平苔癬、エリテマトーデス、皮膚筋炎、固定薬疹、多形紅斑、移植片対宿主病〈GVHD〉などでみられる。乾癬では基底層の液状変性は目立たない。
- ×d. 真皮浅層の好酸球浸潤
誤り。乾癬の真皮乳頭層では血管周囲にリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤がみられ、表皮内には好中球が遊走する。好酸球が目立つことは乾癬の特徴ではない。真皮浅層の好酸球浸潤は、虫刺症、薬疹、水疱性類天疱瘡(水疱形成前の時期を含む)、蕁麻疹、好酸球性の皮膚疾患などで認められる所見である。
- ○e. 角質層下の好中球性小膿瘍
正しい。乾癬ではIL-17などの作用で角化細胞からケモカインが産生され、好中球が表皮内へ遊走して角層付近に集簇する。こうして不全角化した角層内から角層直下にできる小さな好中球の集まりをMunro微小膿瘍といい、乾癬に特徴的な病理所見である。好中球が有棘層上部に集まり海綿状の小膿疱を作るものはKogoj海綿状膿疱と呼ばれ、これが肉眼的に見えるほど大きくなったものが膿疱性乾癬の無菌性膿疱である。
尋常性乾癬の病理組織所見のまとめ
・角層: 過角化と不全角化(角層に核が残る)、Munro微小膿瘍 ・顆粒層: 減少・消失 ・有棘層: 表皮肥厚、表皮突起の規則的な棍棒状延長、Kogoj海綿状膿疱 ・真皮乳頭: 上方への延長、毛細血管の拡張・蛇行、乳頭直上の表皮の菲薄化 ・真皮: 血管周囲のリンパ球主体の浸潤
病理所見と臨床所見の対応
・Auspitz現象: 鱗屑を剝がすと点状出血がみられる。乳頭直上の表皮が薄く、その下に拡張した毛細血管があるためである。 ・Köbner現象: 外傷・摩擦など無疹部への刺激によって新たな皮疹が生じる。肘頭・膝蓋・頭部・腰部など刺激を受けやすい部位に好発する。 ・ろうそく現象: 鱗屑を削ると、ろうを削ったように白く細かくはがれる。
尋常性乾癬の臨床
・わが国では男性にやや多く、慢性に経過する。肥満、喫煙、飲酒、感染症、薬剤(β遮断薬、リチウムなど)が悪化因子となる。 ・爪病変(点状陥凹、爪甲剝離)や乾癬性関節炎を伴うことがある。メタボリックシンドロームや心血管疾患との関連も知られる。 ・病型: 尋常性乾癬、滴状乾癬(溶連菌感染後に小型の皮疹が多発)、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、乾癬性関節炎。 ・治療: 外用療法(ステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬、両者の配合剤)、光線療法(ナローバンドUVBなど)、内服療法(シクロスポリン、レチノイドのエトレチナート、PDE4阻害薬のアプレミラスト、メトトレキサートなど)、生物学的製剤(TNF-α、IL-17、IL-23を標的とするもの)。
他の選択肢の所見と代表疾患
・海綿状態: 湿疹・皮膚炎(接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎) ・顆粒層の楔状肥厚: 扁平苔癬 ・基底層の液状変性: 扁平苔癬、エリテマトーデス、皮膚筋炎、固定薬疹、多形紅斑、GVHD ・真皮の好酸球浸潤: 虫刺症、薬疹、水疱性類天疱瘡、蕁麻疹
POINT
・尋常性乾癬の病理: 不全角化、顆粒層の消失、表皮突起の規則的延長、真皮乳頭の血管拡張と乳頭直上の表皮菲薄化。 ・角層付近の好中球集簇(Munro微小膿瘍)と有棘層上部の好中球性膿疱(Kogoj海綿状膿疱)が特徴的である。 ・顆粒層は肥厚ではなく消失する(顆粒層の楔状肥厚は扁平苔癬)。 ・海綿状態は湿疹・皮膚炎、基底層の液状変性は界面皮膚炎(扁平苔癬、エリテマトーデスなど)の所見である。 ・Auspitz現象は乳頭直上の表皮菲薄化と血管拡張を反映する。
