「標的」が副作用を決める―EGFR阻害薬でなぜ皮膚が荒れるのか
第113回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
EGFR遺伝子変異陽性,遠隔転移を有する進行肺腺癌に対する初回治療で,分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)の副作用として頻度が高いのはどれか。
- a.貧血
- b.皮膚障害
- c.1型糖尿病
- d.好中球減少
- e.血小板減少
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
EGFR遺伝子変異陽性の進行肺腺癌では、初回治療としてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が用いられ、現在はオシメルチニブが中心的な選択肢です。EGFRは皮膚・毛包・爪周囲・消化管粘膜の上皮にも発現するため、その阻害によりざ瘡様皮疹、皮膚乾燥、爪囲炎といった皮膚障害や下痢が高頻度に起こり、一方で殺細胞性抗癌薬に特徴的な骨髄抑制は目立ちません。1型糖尿病は免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象として区別して覚え、EGFR-TKIで最も注意すべき重篤な副作用は間質性肺疾患であることも押さえておきます。分子標的薬の副作用を「標的分子が正常組織のどこで働いているか」から推測する考え方は、新しい薬が次々に登場する腫瘍診療で応用のきく重要な視点です。
解答・解説
正解はbです
問われていること
EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌に対して初回治療として用いるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の、代表的な副作用を問う問題である。
背景
肺腺癌では、EGFR遺伝子のチロシンキナーゼ領域に活性化変異(エクソン19欠失、エクソン21のL858R点変異が代表的)をもつ例があり、日本人を含む東アジア人、女性、非喫煙者の腺癌で多い。この変異があると、増殖因子が結合しなくても受容体が常に活性化した状態となり、下流のシグナルが持続して癌細胞が増殖し続ける。EGFR-TKIはこのチロシンキナーゼのATP結合部位に作用してリン酸化を阻害し、増殖シグナルを遮断する。遠隔転移を有するⅣ期でEGFR変異陽性の場合、初回治療としてEGFR-TKI(ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、オシメルチニブなど)が推奨され、現在はオシメルチニブが中心的な選択肢となっている。
副作用を考える視点
EGFRは癌細胞だけでなく、正常の皮膚(表皮基底層・毛包・脂腺)、爪周囲、消化管粘膜の上皮細胞にも発現し、その増殖・分化に関わっている。そのため、EGFRを阻害すると、これらの上皮組織で障害が起こる。これが、EGFR-TKIで皮膚障害(ざ瘡様皮疹、皮膚乾燥、瘙痒、爪囲炎)と下痢が高頻度に出現する理由である。 一方、殺細胞性抗癌薬(細胞傷害性抗癌薬)は分裂の盛んな細胞を広く障害するため骨髄抑制が主要な副作用となるが、EGFR-TKIでは骨髄抑制は目立たない。分子標的薬の副作用は「標的分子がどの正常組織で働いているか」から推測できる、という考え方が本問の鍵である。
選択肢考察
- ×a. 貧血
貧血は殺細胞性抗癌薬による骨髄抑制や、癌そのもの(慢性炎症、出血、骨髄浸潤)で生じやすい。EGFR-TKIは造血細胞への作用が乏しく、骨髄抑制による貧血は主要な副作用ではない。
- ○b. 皮膚障害
EGFRは表皮や毛包・脂腺、爪周囲の上皮に発現しており、その阻害により皮膚の増殖・分化の異常が起こる。顔面・前胸部・背部などの脂漏部位に出るざ瘡様皮疹(痤瘡様皮疹)が治療開始後早期に出現し、続いて皮膚乾燥・瘙痒、さらに爪囲炎(爪周囲の発赤・腫脹・肉芽)が見られる。EGFR-TKIのいずれの薬剤でも高頻度に起こる最も代表的な副作用であり、保湿剤・外用ステロイド・テトラサイクリン系抗菌薬内服などで予防・対処しながら治療を継続することが多い。
- ×c. 1型糖尿病
EGFR-TKIで1型糖尿病が起こることは通常ない。1型糖尿病(特に急激に発症する劇症1型糖尿病)は、抗PD-1抗体・抗PD-L1抗体・抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)として知られており、区別して覚えておく。
- ×d. 好中球減少
好中球減少は殺細胞性抗癌薬(プラチナ製剤、タキサン系など)の代表的な用量制限毒性である。EGFR-TKIでは骨髄抑制は目立たず、頻度の高い副作用とはいえない。抗癌薬一般の副作用として好中球減少を選びやすいが、分子標的薬では標的分子に応じた副作用を考える必要がある。
- ×e. 血小板減少
血小板減少も骨髄抑制の一つであり、殺細胞性抗癌薬で問題となる。EGFR-TKIでは頻度が低く、代表的な副作用ではない。
EGFR-TKIの主な副作用
・皮膚障害:ざ瘡様皮疹、皮膚乾燥、瘙痒、爪囲炎。最も頻度が高い。 ・下痢:消化管上皮のEGFR阻害による。特に第2世代(アファチニブ、ダコミチニブ)で多い。 ・口内炎。 ・肝機能障害(AST・ALT上昇):特にゲフィチニブ、エルロチニブで注意。 ・間質性肺疾患(薬剤性肺障害):頻度は数%程度だが致死的となりうる最重要の副作用。日本人で多いとされ、咳・呼吸困難・発熱の出現に注意し、疑えば直ちに中止する。 ・オシメルチニブでは、QT延長や心機能低下にも注意する。
EGFR-TKIの世代
・第1世代:ゲフィチニブ、エルロチニブ(可逆的阻害) ・第2世代:アファチニブ、ダコミチニブ(不可逆的阻害、ErbBファミリーを広く阻害) ・第3世代:オシメルチニブ(EGFR活性化変異に加え、耐性変異T790Mも阻害。野生型EGFRへの作用が弱く、皮膚障害や下痢は比較的軽い傾向) 第1・2世代の使用中に約半数でT790M変異による耐性が生じることが知られ、オシメルチニブはこの耐性例に対して開発された。現在は初回治療から用いられる。
分子標的薬・免疫療法と特徴的な副作用の例
・EGFR-TKI:皮膚障害、下痢、間質性肺疾患 ・ALK阻害薬:視覚障害(クリゾチニブ)、消化器症状、間質性肺疾患 ・血管新生阻害薬(ベバシズマブなど):高血圧、蛋白尿、出血、消化管穿孔 ・免疫チェックポイント阻害薬:irAE(間質性肺炎、大腸炎、甲状腺機能異常、下垂体炎、1型糖尿病、副腎不全など)
POINT
・EGFR変異陽性進行肺腺癌の初回治療はEGFR-TKI(現在はオシメルチニブが中心)。 ・EGFR-TKIの最も頻度の高い副作用は皮膚障害(ざ瘡様皮疹、皮膚乾燥、爪囲炎)と下痢。 ・最も注意すべき重篤な副作用は間質性肺疾患。 ・骨髄抑制(貧血・好中球減少・血小板減少)は殺細胞性抗癌薬の特徴で、EGFR-TKIでは目立たない。 ・1型糖尿病は免疫チェックポイント阻害薬のirAE。
