StudyMed医師国家試験

電極はどこへ届くのか―人工内耳が「蝸牛」に入る理由

第113回医師国家試験 A問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第113回 A問題 第3問

両側高度難聴に対して人工内耳埋込術を受けた患者の側頭骨の病理写真を別に示す。  人工内耳の電極先端部(矢印)が挿入されている部位はどこか。

第113回 A問題 第3問の問題画像
  1. a.前庭
  2. b.蝸牛
  3. c.半規管
  4. d.内耳道
  5. e.内リンパ嚢

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人工内耳の電極が内耳のどこに入っているかを問う問題だ。病理写真を細かく読み解く前に、「人工内耳は何を刺激する装置なのか」を考えれば、答えはおのずと見えてくる。まずは人工内耳の仕組みから整理しよう。
医学生医学生
補聴器は音を大きくする装置ですよね。人工内耳は音を電気信号に変えて、神経を直接刺激するんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。高度の感音難聴では、多くの場合、蝸牛のCorti器にある有毛細胞が障害されて、音の振動を神経信号に変換できなくなっている。でも、その先のらせん神経節細胞や蝸牛神経が残っていれば、電気で直接刺激することで音として感じられるんだ。では、蝸牛神経の終末が分布しているのはどこかな。
医学生医学生
解剖の講義で、蝸牛軸の中にらせん神経節があって、神経線維が骨らせん板を通って有毛細胞に向かうと習いました。だとすると、蝸牛ですね。
ドクタードクター
正解。病理写真でも、側頭骨の断面に骨迷路の中で渦巻く管がいくつも並んで見える。これは基底回転・中回転・頂回転の断面で、電極の先端はその回転の中に入っている。だから答えは蝸牛だ。
医学生医学生
蝸牛の中には前庭階・中央階・鼓室階の3つの腔がありましたよね。どこに入れるんですか。
ドクタードクター
通常は鼓室階だ。鼓室階は蝸牛窓、つまり正円窓で終わるから、正円窓を経由するか、その近くを開窓して電極を挿入し、基底回転から頂側へと進める。Corti器が乗っている中央階は繊細な部分なので、そこを避けるわけだね。
医学生医学生
前庭も内耳の真ん中にあるので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。前庭には卵形嚢と球形嚢があって、耳石をもつ平衡斑で直線加速度や重力の方向を感じ取る。半規管は3本のループが互いにほぼ直交していて、膨大部稜で頭の回転を感じる。どちらも平衡覚の受容器で、聴覚とは関係がないから電極は置かない。
医学生医学生
内耳道には蝸牛神経が通っているので、そこを直接刺激する方法もありそうに思えるんですが。
ドクタードクター
いい疑問だ。内耳道は顔面神経、内耳神経、迷路動静脈が通る骨の管で、人工内耳の電極はここには入れない。ただし関連して覚えておきたいのは、蝸牛神経そのものが欠損している場合は人工内耳では効果が期待できず、脳幹の蝸牛神経核を刺激する聴性脳幹インプラントが検討される、という点だ。
医学生医学生
内リンパ嚢は、Ménière病の手術の話で出てきた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。内リンパ嚢開放術の対象になる部位だ。内リンパ嚢は内リンパ管の盲端で、側頭骨錐体の後面、硬膜内に位置する。内リンパの吸収に関わるとされるけれど、聴覚の受容器はないので、やはり電極の挿入部位ではない。
医学生医学生
整理すると、聴覚の受容器があって蝸牛神経の終末が分布するのは蝸牛だけだから、電極もそこに入れる、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。もう一歩進めると、蝸牛には周波数局在、いわゆるトノトピーがある。基底回転が高音、頂回転が低音を受け持つんだ。多チャネル電極はこの配置を利用して、基底側の電極で高音、頂側の電極で低音に相当する刺激を与えている。
医学生医学生
だから電極を奥まで入れる必要があるんですね。耳鼻咽喉科の臨床実習で、人工内耳の術前にCTとMRIを両方撮っていたのはなぜですか。
ドクタードクター
内耳奇形や、細菌性髄膜炎の後に起こる蝸牛の骨化があると、電極の挿入が難しくなることがあるからだ。CTで蝸牛の形態を、MRIで蝸牛神経の有無を確認する。適応は補聴器を使っても十分に聞き取れない両側の高度〜重度感音難聴で、小児では言語獲得のために早期の手術が望ましいとされているよ。
医学生医学生
構造と機能をセットで理解していれば、写真が読み切れなくても解ける問題だったんですね。
ドクタードクター
その通り。内耳は「蝸牛=聴覚、前庭=直線加速度と重力、半規管=回転」と機能で区切って覚えると、画像問題にも臨床にも強くなる。

まとめ

人工内耳は、障害された有毛細胞の代わりに蝸牛神経を直接電気刺激する装置であり、電極は蝸牛内、通常は鼓室階に正円窓またはその近傍の開窓部から挿入されます。前庭(卵形嚢・球形嚢)は直線加速度と重力、半規管は回転加速度を感知する平衡覚の器官で、内耳道は顔面神経や内耳神経の通り道、内リンパ嚢はMénière病の手術で扱われる部位であり、いずれも電極の挿入部位ではありません。蝸牛には基底回転が高音、頂回転が低音を担うトノトピーがあり、多チャネル電極はこれを利用して音の高さを再現します。蝸牛神経が欠損している例では人工内耳は無効で、聴性脳幹インプラントが検討されるため、術前のCT・MRIによる評価が重要です。内耳の構造と機能を対応させて理解することが、人工内耳の原理や適応を考える土台になります。

解答・解説

正解はbです

問われていること

人工内耳(cochlear implant)の電極が内耳のどこに入るかを、側頭骨病理像をもとに答える問題である。構造と機能の対応を理解していれば、写真を細かく読めなくても解答できる。

考え方

人工内耳は、音を電気信号に変換し、蝸牛内に置いた電極から蝸牛神経(聴神経の聴覚枝)を直接電気刺激する装置である。高度感音難聴では、蝸牛のらせん器(Corti器)の有毛細胞が障害されて音の振動を神経信号へ変換できないが、その先にあるらせん神経節細胞や蝸牛神経が残っていれば、電気刺激によって聴覚を得られる。したがって電極は、蝸牛神経の終末が分布する蝸牛の中に入れなければならない。

画像の読み方

側頭骨の断面では、蝸牛は骨迷路の中で渦巻き状に回転する管として、複数の回転(基底回転・中回転・頂回転)の断面が並んで見える。電極は正円窓またはその近傍の開窓部から蝸牛の鼓室階に挿入され、基底回転から奥(頂側)へと進められる。矢印で示された電極先端はこの蝸牛の回転内にある。

手術の流れ(概略)

耳介後部を切開し、乳突洞を削開(乳突削開術)→ 顔面神経窩を開放して中耳腔に到達(後鼓室開放)→ 正円窓経由または蝸牛開窓で鼓室階に電極を挿入する。体内の受信装置は耳介後上方の側頭骨上の皮下に留置し、体外の音声処理装置(マイクと送信コイル)から経皮的に信号と電力を受け取る。

選択肢考察

  1. ×a.  前庭

    前庭は蝸牛と半規管の間にある骨迷路の中央部で、内部の膜迷路として卵形嚢と球形嚢を収める。それぞれの感覚上皮(平衡斑)は耳石膜をもち、直線加速度や重力方向(頭の傾き)を感知する平衡覚の受容器である。聴覚の受容器はないため、人工内耳の電極を置く部位ではない。

  2. ○b.  蝸牛

    蝸牛は聴覚の受容器であるらせん器(Corti器)をもち、蝸牛神経の終末が分布する。人工内耳は障害された有毛細胞の代わりに蝸牛神経を電気刺激する装置なので、電極は蝸牛内(通常は鼓室階)に挿入される。病理写真の渦巻き状構造は蝸牛の回転の断面であり、矢印の電極先端はその中にある。

  3. ×c.  半規管

    半規管は前(上)半規管・後半規管・外側半規管の3本のループからなり、互いにほぼ直交する面に配置される。各半規管の膨大部には膨大部稜があり、内リンパの流れを介して頭部の回転(角加速度)を感知する平衡覚の受容器である。聴覚とは無関係で、電極は挿入しない。

  4. ×d.  内耳道

    内耳道は側頭骨錐体部を貫く骨の管で、顔面神経・内耳神経(蝸牛神経と前庭神経)・迷路動静脈が通る。蝸牛神経が走るものの、人工内耳の電極は内耳道には入れない。なお、蝸牛神経そのものが欠損・高度低形成の場合は人工内耳の効果が期待できず、脳幹の蝸牛神経核を刺激する聴性脳幹インプラントが検討される。

  5. ×e.  内リンパ嚢

    内リンパ嚢は、卵形嚢と球形嚢を結ぶ連嚢管から出る内リンパ管の盲端であり、側頭骨錐体の後面で硬膜内に位置する。内リンパの吸収に関与するとされ、Ménière病(メニエール病)との関連で内リンパ嚢開放術の対象となる部位である。聴覚受容器はなく、人工内耳の電極の挿入部位ではない。

内耳の構造

内耳は側頭骨錐体部の中にあり、骨でできた骨迷路と、その内部の膜迷路からなる。骨迷路は前方から蝸牛・前庭・半規管に分けられる。膜迷路の内部は内リンパ(K+が多い)、骨迷路と膜迷路の間は外リンパ(Na+が多い)で満たされる。 ・蝸牛:聴覚。蝸牛管(中央階)にらせん器がある。 ・前庭(卵形嚢・球形嚢):直線加速度・重力。 ・半規管:回転加速度。

蝸牛の内部構造

蝸牛は蝸牛軸のまわりを約2回転半する管で、内部は骨らせん板と基底板、前庭膜(Reissner膜)により3つの腔に分かれる。 ・前庭階(上、外リンパ):前庭窓(卵円窓)側から始まる。 ・蝸牛管=中央階(中央、内リンパ):基底板の上にらせん器が乗る。 ・鼓室階(下、外リンパ):蝸牛窓(正円窓)で終わる。 前庭階と鼓室階は蝸牛頂の蝸牛孔でつながる。蝸牛神経線維は骨らせん板の中を通ってらせん器の有毛細胞に達し、細胞体(らせん神経節)は蝸牛軸内にある。 基底回転は高音、頂回転は低音を受け持つ(周波数局在、トノトピー)。人工内耳の多チャネル電極はこの配置を利用し、基底側の電極で高音、頂側の電極で低音に相当する刺激を与える。

人工内耳の適応(概要)

補聴器を使用しても十分な聴取が得られない両側の高度~重度感音難聴が対象となる。小児では言語獲得のため早期の手術が望ましいとされる。内耳奇形や蝸牛の骨化(細菌性髄膜炎後など)があると電極挿入が困難になることがあり、術前にCT・MRIで蝸牛の形態と蝸牛神経の有無を確認する。

POINT

・人工内耳は蝸牛内(主に鼓室階)に電極を挿入し、蝸牛神経を直接電気刺激する。 ・電極は正円窓(蝸牛窓)または蝸牛開窓部から挿入する。 ・蝸牛=聴覚、前庭(卵形嚢・球形嚢)=直線加速度・重力、半規管=回転加速度。 ・内耳道には顔面神経・内耳神経・迷路動静脈が通る。 ・蝸牛神経が欠損している例では人工内耳は無効で、聴性脳幹インプラントの適応となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。