握った手が開かないだけじゃない―筋強直性ジストロフィーは「全身病」として覚える
第113回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
筋強直性ジストロフィーでみられるのはどれか。
- a.緑内障
- b.腎不全
- c.嚥下障害
- d.甲状腺機能亢進症
- e.高ガンマグロブリン血症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
筋強直性ジストロフィーは成人で最も多い筋ジストロフィーで、1型ではDMPK遺伝子のCTG反復伸長による常染色体顕性遺伝を示し、表現促進現象がみられます。ミオトニア、遠位筋優位の筋力低下、斧様顔貌に加え、咽頭筋・咀嚼筋の障害による嚥下障害が生じ、誤嚥性肺炎や呼吸不全は生命予後を左右します。全身合併症は若年性白内障、心伝導障害、耐糖能障害、性腺機能低下、低ガンマグロブリン血症などで、緑内障・甲状腺機能亢進症・高ガンマグロブリン血症のように「向きが逆」の選択肢に惑わされないことが重要です。突然死につながる不整脈や麻酔時の呼吸抑制など臨床上の注意点も多く、筋疾患を全身疾患として捉える視点は、診断と長期管理の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
疾患の要点
筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy、DM)は、成人で発症する筋ジストロフィーの中で最も多い常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である。日本でみられるのはほとんどが1型(DM1)で、19番染色体上のDMPK遺伝子にあるCTGという3塩基の繰り返し配列が異常に伸びることが原因である。伸長した繰り返し配列から作られるRNAが核内にたまり、多くの遺伝子のスプライシング(RNAの編集)を乱すため、筋肉だけでなく全身のさまざまな臓器に症状が現れる「多臓器疾患」である。
筋症状
・ミオトニア(筋強直):筋が収縮したあとすぐに弛緩できない現象。手を強く握るとすぐに開けない(把握ミオトニア)、母指球をハンマーで叩くと収縮が持続する(叩打ミオトニア)。 ・筋力低下と筋萎縮:一般的な筋ジストロフィーと異なり、四肢の遠位筋(前腕・手指・下腿)に優位である。加えて顔面筋・側頭筋・咬筋・胸鎖乳突筋が萎縮し、細長い顔で口が開きやすい「斧様顔貌(hatchet face)」となる。 ・咽頭筋・咀嚼筋・呼吸筋も障害されるため、嚥下障害、構音障害、呼吸不全を生じ、誤嚥性肺炎や呼吸不全は主要な死因となる。
筋以外の症状
若年性白内障、心伝導障害・不整脈(突然死の原因)、耐糖能障害(インスリン抵抗性)、脂質異常症、性腺機能低下(男性の精巣萎縮)、前頭部の若年性脱毛、日中の過度の眠気、認知機能障害、低ガンマグロブリン血症(特にIgG低下)などがみられる。
設問の考え方
選択肢には「本疾患でみられる合併症と似ているが向きや種類が逆のもの」(緑内障↔白内障、甲状腺機能亢進症↔機能低下、高ガンマグロブリン血症↔低ガンマグロブリン血症)が並んでいる。合併症を正確に覚えているかが問われており、筋力低下の直接の結果である嚥下障害が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 緑内障
誤り。本疾患に特徴的な眼の合併症は緑内障ではなく白内障である。若年から生じ、細隙灯顕微鏡で水晶体後嚢下に多彩な色の細かい混濁(クリスマスツリー白内障)がみられるのが特徴的である。白内障だけが症状の軽症例もあり、家族歴の聴取が診断の手がかりになる。
- ×b. 腎不全
誤り。本疾患は骨格筋のほか、心臓、眼、内分泌系、中枢神経、皮膚などを障害するが、腎臓を特異的に障害することはない。耐糖能障害を合併しやすいため、糖尿病が進行すれば二次的に糖尿病性腎症を生じる可能性はあるが、疾患そのものの症状ではない。
- ○c. 嚥下障害
正しい。本疾患では四肢遠位筋に加えて、咽頭筋・咀嚼筋・舌筋などの筋力低下と筋強直が生じる。不正咬合も加わって食物をかみ砕き飲み込む機能が低下し、嚥下障害をきたす。嚥下障害は誤嚥性肺炎の原因となり、呼吸筋筋力低下による呼吸不全と並んで生命予後を左右する重要な合併症である。
- ×d. 甲状腺機能亢進症
誤り。本疾患では内分泌・代謝異常として、インスリン抵抗性による耐糖能障害・糖尿病、脂質異常症、性腺機能低下(男性の精巣萎縮・不妊)などがみられ、甲状腺についてはむしろ機能低下症の合併が報告されている。甲状腺機能亢進症は特徴的な合併症ではない。
- ×e. 高ガンマグロブリン血症
誤り。本疾患では免疫グロブリン(特にIgG)の分解(異化)が亢進するため、低ガンマグロブリン血症がしばしばみられる。高ガンマグロブリン血症は本疾患の特徴ではない。
遺伝の特徴
・DM1:DMPK遺伝子(19q13.3)の3'非翻訳領域にあるCTG反復配列の伸長。正常は約35回以下で、50回程度を超えると発症しうる。反復数が多いほど発症が早く重症になる傾向がある。 ・表現促進現象(anticipation):世代を経るごとに反復数が伸び、発症年齢が若くなり重症化する。特に母親から受け継いだ場合に反復数が大きく伸びやすく、先天型の多くは母親由来である。 ・DM2:CNBP(ZNF9)遺伝子(3番染色体)のCCTG4塩基反復の伸長による。近位筋優位で比較的軽症であり、日本ではまれである。
臨床病型(DM1)
・先天型:出生時から筋緊張低下(フロッピーインファント)、哺乳障害、呼吸障害を示し、知的障害を伴うことが多い。乳児期はミオトニアが目立たない。 ・小児型、古典型(成人型):思春期以降~成人期に筋力低下、ミオトニア、白内障などで発症する。 ・軽症型:中高年で白内障のみ、あるいは軽い筋症状のみのことがある。
全身合併症の整理
・眼:若年性白内障(後嚢下の多色性混濁)、眼瞼下垂 ・心臓:房室ブロックなどの伝導障害、心房細動、心室性不整脈 → 突然死の予防にペースメーカーや植込み型除細動器を考慮する ・呼吸:呼吸筋筋力低下、中枢性の換気低下、誤嚥性肺炎 ・消化管:嚥下障害、平滑筋障害による便秘・胆石など ・内分泌・代謝:インスリン抵抗性・糖尿病、脂質異常症、性腺機能低下 ・中枢神経:認知機能低下、日中の過度の眠気、意欲低下 ・皮膚・その他:前頭部脱毛、低ガンマグロブリン血症 ・麻酔:鎮静薬・筋弛緩薬に過敏で、術後の呼吸抑制が遷延しやすい
検査
・針筋電図:刺入や叩打で高頻度放電が漸増・漸減を繰り返すミオトニー放電(スピーカーで「急降下爆撃音」と表現される)と筋原性変化 ・血清CK:正常~軽度上昇にとどまることが多い ・確定診断:遺伝子検査でCTG反復の伸長を確認する
鑑別
先天性ミオトニア(Thomsen病、Becker病:CLCN1遺伝子異常)は筋強直を示すが、筋萎縮や全身合併症は通常みられない。
POINT
・筋強直性ジストロフィーは成人で最多の筋ジストロフィーで、常染色体顕性遺伝(DM1:DMPK遺伝子のCTG反復伸長)。表現促進現象があり、先天型は母親由来が多い。 ・筋症状:把握・叩打ミオトニア、遠位筋優位の筋力低下、斧様顔貌、嚥下障害・呼吸不全。 ・合併症は「白内障(緑内障ではない)」「甲状腺機能は低下側」「低ガンマグロブリン血症」と方向性を正確に覚える。 ・ほかに心伝導障害(突然死)、耐糖能障害、性腺機能低下、前頭部脱毛、日中の眠気、認知機能低下。 ・針筋電図のミオトニー放電(急降下爆撃音)が特徴的。
