親指の付け根が燃えるように痛い夜―痛風発作で「まず」やるべきは尿酸を下げることではない
第112回医師国家試験 E問題 第28問
国試問題にチャレンジ
43歳の男性。足の痛みを主訴に来院した。2日前に左足の第一中足趾節関節が急激に痛くなった。他の場所に痛みはない。以前にも同部位に同様の痛みを経験したことがある。3年前から毎年,健診で高尿酸血症を指摘されている。1か月前に受けた健診で,尿酸値は9.0mg/dLであった。意識は清明。体温37.0℃。脈拍80/分,整。血圧132/88mmHg。左足の第一中足趾節関節に熱感と圧痛とを認める。同部位の写真を別に示す。 まず行うべき治療はどれか。

- a.ギプス固定
- b.抗菌薬の投与
- c.免疫抑制薬の投与
- d.尿酸合成阻害薬の投与
- e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉の投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中年男性、持続する高尿酸血症、母趾MTP関節の急性単関節炎、同部位の再発という組み合わせは痛風発作の典型像です。発作の本態は尿酸塩結晶に対する好中球主体の急性炎症であるため、急性期はまず炎症と疼痛を抑えることが優先され、NSAIDsを短期間・十分量用いるのが第一選択で、使えない場合は副腎皮質ステロイドが代替となります。尿酸合成阻害薬などの尿酸降下薬は発作中に新たに始めると炎症を悪化・遷延させうるため、発作が治まってから少量で開始し、血清尿酸値6.0mg/dL以下を目標とします。発熱がなく再発性であれば化膿性関節炎は考えにくいものの、疑わしい場合は関節液検査で鑑別します。「急性期は抗炎症、寛解期に尿酸降下」という時期による治療の使い分けは、痛風診療の基本であり、慢性疾患の急性増悪への対応を考える上でも役立つ考え方です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・43歳男性。2日前から左足の第一中足趾節関節(MTP関節:足の親指の付け根の関節)に突然の強い痛みが出現した。 ・痛むのはこの1関節のみ(単関節炎)で、過去にも同じ部位に同様の発作がある(再発性)。 ・3年前から健診で高尿酸血症を指摘され続け、1か月前の血清尿酸値は9.0mg/dLである(高尿酸血症の基準は7.0mg/dL超)。 ・体温37.0℃で明らかな発熱はなく、脈拍も正常範囲であり、全身性の炎症反応は目立たない。 ・局所には熱感と圧痛があり、写真では母趾MTP関節を中心とする発赤と腫脹がみられる。
診断へのプロセス
中年男性、長期の高尿酸血症、母趾MTP関節に急激に起こる単関節炎、同部位の再発という組み合わせは、痛風関節炎(痛風発作)の典型像である。母趾MTP関節は痛風発作の好発部位で、初回発作の過半数がここに起こるとされる。 鑑別としては次の疾患を考える。 ・化膿性(細菌性)関節炎:高熱や悪寒など全身症状を伴いやすく、同じ部位を繰り返すことは少ない。本例は発熱がなく、再発性であることから考えにくい。 ・関節リウマチ:手指などの小関節に対称性・多発性に起こり、慢性に経過する。急性の単関節炎である本例とは合わない。 ・偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症):高齢者の膝関節や手関節に多い。 ・外傷(骨折・捻挫):外傷歴の記載がない。 確定診断には関節液を穿刺し偏光顕微鏡で針状の尿酸ナトリウム結晶(負の複屈折性)を白血球に貪食された形で確認するのが理想だが、本例のように典型的な臨床像がそろっていれば臨床的に診断して治療を開始してよい。
設問の考え方
問われているのは「まず行うべき治療」、すなわち発作期(急性期)の治療である。痛風発作の本態は、関節内に析出した尿酸塩結晶に対する好中球主体の急性炎症であり、急性期の目標は炎症と疼痛をすみやかに抑えることにある。したがって抗炎症薬が選択され、日本の診療ガイドラインでもNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が第一選択として広く用いられている。一方、血清尿酸値を下げる治療は発作が治まってから開始するのが原則であり、発作中に新たに始めることはしない。
選択肢考察
- ×a. ギプス固定
誤り。ギプス固定は骨折や脱臼などの外傷に対して行う処置である。本例には外傷歴がなく、写真でも足趾の変形はみられないため、外傷を疑う根拠に乏しい。痛風発作では患肢の挙上や安静、冷却は疼痛緩和に役立つが、ギプスによる固定は炎症そのものを抑えないうえ、腫脹した関節を圧迫してかえって痛みを強めるおそれがあり、適応はない。
- ×b. 抗菌薬の投与
誤り。抗菌薬は化膿性関節炎に対する治療である。化膿性関節炎は高熱などの全身症状を伴うことが多く、再発を繰り返す経過はまれである。本例は体温37.0℃で発熱がなく、同部位の再発歴と高尿酸血症があることから、細菌感染ではなく結晶による炎症(痛風発作)と考えられる。なお、臨床像が非典型で感染を否定できない場合には、関節液のグラム染色・培養を行って鑑別する。
- ×c. 免疫抑制薬の投与
誤り。メトトレキサートなどの免疫抑制薬は、関節リウマチや膠原病など自己免疫機序による慢性関節炎に用いる薬である。本例は急性発症の単関節炎で、高尿酸血症を背景とする痛風発作が最も疑わしく、自己免疫疾患を示唆する所見はない。痛風発作は結晶に対する自然免疫系の炎症であり、免疫抑制薬の適応ではない。
- ×d. 尿酸合成阻害薬の投与
誤り。アロプリノールやフェブキソスタットなどの尿酸合成阻害薬(キサンチンオキシダーゼ阻害薬)は、高尿酸血症の長期管理に用いる尿酸降下薬であり、急性の炎症や痛みを抑える作用はない。さらに、発作中に尿酸値を急激に変動させると、関節内の尿酸塩結晶が溶け出したり剥がれ落ちたりして炎症が悪化・遷延するおそれがある。そのため尿酸降下薬は発作が完全に治まってから(目安としておよそ2週間後)少量から開始し、血清尿酸値6.0mg/dL以下を目標に徐々に増量する。なお、すでに尿酸降下薬を服用中の患者に発作が起きた場合は、中止せずに継続するのが原則である。本例でも発作が鎮静化した後には導入を検討すべきだが、「まず行う」治療ではない。
- ○e. 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉の投与
正しい。痛風発作は尿酸塩結晶に対する急性炎症であり、まず炎症と激しい疼痛を抑えることが優先される。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジン産生を抑え、抗炎症作用と鎮痛作用を発揮する。日本では発作期の第一選択として、比較的多めの量を短期間に限って投与する方法(NSAIDパルス療法)が行われ、症状の軽快に合わせて減量・中止する。腎機能障害、消化性潰瘍、心血管疾患などでNSAIDsが使いにくい場合は、副腎皮質ステロイドの経口投与や関節内注射が代替となる。
痛風の病態
血清尿酸値が上昇した状態が続くと、関節内や周囲組織に尿酸ナトリウム結晶が沈着する。何らかの契機で結晶が関節腔に遊離すると、マクロファージがこれを貪食し、インフラマソーム(NLRP3)の活性化を介してインターロイキン1βが放出され、好中球が集積して激しい急性炎症が起こる。これが痛風発作である。発作は通常数日から1〜2週間で自然に軽快するが、高尿酸血症を放置すると発作を繰り返し、やがて痛風結節(皮下などへの尿酸塩の塊)、慢性関節炎、腎障害(痛風腎)、尿路結石を生じる。
痛風発作の特徴
・中年以降の男性に多い(女性はエストロゲンの尿酸排泄促進作用により閉経前は少ない)。 ・好発部位は母趾MTP関節で、次いで足関節、足背、膝関節など下肢に多い。 ・夜間から早朝に突然発症し、24時間以内にピークに達する激痛、発赤、腫脹を伴う。 ・誘因として飲酒(特にビール)、プリン体の多い食事、激しい運動、脱水、ストレス、尿酸降下薬の開始・変更などがある。 ・発作中は血清尿酸値がむしろ正常範囲に下がることがあるため、発作時の尿酸値が正常でも痛風は否定できない。
急性期治療の選択肢
・NSAIDs:日本で最も一般的な第一選択。短期間に十分量を用いる。 ・副腎皮質ステロイド:NSAIDsが使えない場合や効果不十分の場合に経口または関節内注射で用いる。欧米ではNSAIDs、コルヒチンと並ぶ第一選択の一つとして広く使われている。 ・コルヒチン:好中球の遊走を抑える薬で、発作の前兆期(ムズムズ感など)や発症ごく早期に少量を用いると発作を頓挫させる効果がある。発作が完成してからでは効果が劣る。また尿酸降下薬導入時に少量を連日服用して発作を予防する方法(コルヒチンカバー)がある。大量投与は下痢などの副作用が多く、現在は推奨されない。 ・局所の安静、挙上、冷却も補助的に有効である。
発作が治まった後の管理
高尿酸血症の是正のため、生活指導(飲酒制限、プリン体・果糖の過剰摂取の制限、肥満の是正、十分な飲水)に加え、尿酸降下薬を開始する。尿酸降下薬には、尿酸の産生を抑える尿酸合成阻害薬(アロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタット)と、腎からの排泄を促す尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシド、ドチヌラド)がある。痛風患者では血清尿酸値6.0mg/dL以下を長期にわたって維持することが目標となる。
POINT
・中年男性、高尿酸血症、母趾MTP関節の急性単関節炎、同部位の再発 → 痛風発作。 ・発作期の治療はまず抗炎症:NSAIDs(短期間・十分量)が第一選択。使えなければ副腎皮質ステロイド。コルヒチンは前兆期・発症ごく早期に少量で用いる。 ・尿酸降下薬(尿酸合成阻害薬・尿酸排泄促進薬)は発作中に新規開始しない。発作が治まってから少量で始め、血清尿酸値6.0mg/dL以下を目標とする。服用中の患者では発作時も継続する。 ・発熱がなく再発性であれば化膿性関節炎は考えにくいが、疑わしい場合は関節液検査で鑑別する。
