穴の開いた鼓膜から入るのは誰か―慢性中耳炎の主役は黄色ブドウ球菌
第112回医師国家試験 D問題 第3問
国試問題にチャレンジ
小児期からの増悪と寛解を繰り返す耳漏を主訴に受診した患者の左鼓膜写真を別に示す。 この疾患で,耳漏の細菌検査で同定される可能性が最も高いのはどれか。

- a.結核菌
- b.肺炎球菌
- c.黄色ブドウ球菌
- d.インフルエンザ菌
- e.Moraxella catarrhalis
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
小児期から反復する耳漏と鼓膜穿孔があり、真珠腫塊や上鼓室の骨破壊を欠く場合は慢性化膿性中耳炎を考えます。慢性中耳炎では穿孔を通じて外耳道の皮膚由来の菌が中耳に侵入するため、黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)が最多で、次いで緑膿菌が検出されます。一方、肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラクセラ・カタラーリスは鼻咽腔から耳管を経由する急性中耳炎の三大起炎菌であり、結核菌による中耳結核はまれです。治療では耳漏の培養と薬剤感受性に基づく抗菌薬選択が重要で、根治には鼓膜形成術・鼓室形成術による穿孔閉鎖を行います。「急性は耳管経由、慢性は穿孔経由」と侵入経路から起炎菌を推定する考え方は、感染症を理解するうえでの基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・小児期から続き、悪化と軽快を繰り返す耳漏(耳だれ) ・左鼓膜写真では鼓膜に穿孔(孔)が認められ、真珠腫を示す白色の塊や上鼓室(鼓膜上部の弛緩部の奥)の破壊像はみられない。
診断
長期間にわたり反復する耳漏と、持続する鼓膜穿孔の組み合わせは、慢性化膿性中耳炎(一般に慢性中耳炎と呼ばれる)の典型像である。慢性中耳炎は、急性中耳炎などを契機に生じた鼓膜穿孔が閉鎖せずに残り、外耳道側から細菌が中耳腔へ入り込むことで、感冒や耳への水の侵入などをきっかけに感染・耳漏を繰り返す疾患である。 鑑別として真珠腫性中耳炎(角化扁平上皮が中耳に入り込んで増殖し、骨を破壊する疾患)が挙がるが、鼓膜に真珠腫塊や弛緩部の陥凹・上鼓室の骨破壊がない点から否定的である。
設問の考え方
問われているのは慢性中耳炎の耳漏から検出される菌である。中耳炎の起炎菌というと急性中耳炎の三大起炎菌(肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラクセラ・カタラーリス)を思い浮かべがちだが、これらは鼻咽腔から耳管を経由して中耳に感染する菌である。一方、慢性中耳炎では穿孔を通じて外耳道・皮膚由来の菌が侵入するため、黄色ブドウ球菌が最も多く、ついで緑膿菌などが検出される。急性と慢性で起炎菌が異なることを区別して覚えておくことが本問の要点である。
選択肢考察
- ×a. 結核菌
結核菌による中耳炎(中耳結核)は存在するが、まれな疾患であり、慢性中耳炎の起炎菌として頻度は低い。中耳結核は無痛性の耳漏、多発性の鼓膜穿孔、早期からの高度難聴、通常の抗菌薬に反応しないといった特徴をもつ。耳漏から結核菌が検出されにくいことも多く、塗抹・培養検査、PCR法、病理組織検査を組み合わせて診断する。本例のように典型的な慢性中耳炎の経過で、まず想定すべき菌ではない。
- ×b. 肺炎球菌
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は小児の急性中耳炎の起炎菌として最も頻度が高い。鼻咽腔に定着した菌が耳管を通って中耳に感染する。ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)が問題となるのも急性中耳炎の領域である。慢性中耳炎の主要な起炎菌ではない。
- ○c. 黄色ブドウ球菌
慢性中耳炎の耳漏から検出される菌として最も多く、検出菌の4割以上を占めるとされる。鼓膜穿孔を通して外耳道の皮膚に常在・付着する菌が中耳腔に入り込むため、皮膚由来の黄色ブドウ球菌が主体となる。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されることも少なくなく、難治化の一因となるため、耳漏の細菌培養と薬剤感受性検査を行って抗菌薬を選択することが重要である。
- ×d. インフルエンザ菌
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は小児の急性中耳炎で肺炎球菌に次いで多い起炎菌である。β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)が急性中耳炎の難治化の原因として問題となる。慢性中耳炎の主要な起炎菌ではない。
- ×e. Moraxella catarrhalis
モラクセラ・カタラーリスは急性中耳炎の起炎菌として、肺炎球菌・インフルエンザ菌に次いで3番目に多いグラム陰性双球菌である。やはり鼻咽腔から耳管経由で感染する菌であり、慢性中耳炎の主要な起炎菌ではない。
中耳炎の分類と起炎菌
・急性中耳炎:主に乳幼児。上気道炎に続発し、鼻咽腔の菌が耳管を経由して中耳に感染する。起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスが三大起炎菌である。耳痛・発熱、鼓膜の発赤・膨隆がみられる。 ・慢性化膿性中耳炎:鼓膜穿孔が残存し、耳漏を反復する。主な起炎菌は黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、緑膿菌で、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)なども検出される。症状は反復する耳漏と伝音難聴で、耳痛は乏しいことが多い。 ・真珠腫性中耳炎:鼓膜の弛緩部などから角化扁平上皮が中耳・乳突洞に入り込み、骨を破壊しながら増大する。悪臭のある耳漏、伝音難聴のほか、進行すると顔面神経麻痺、内耳障害(めまい・感音難聴)、頭蓋内合併症をきたしうる。側頭骨CTで骨破壊を評価し、手術が基本となる。 ・滲出性中耳炎:鼓膜穿孔や急性炎症を伴わず中耳腔に液体が貯留する。小児の難聴の原因として重要。
慢性中耳炎の治療
耳漏がある時期には耳内の清掃、耳漏の培養結果に基づく抗菌薬の点耳・内服を行う。根治には鼓膜形成術や鼓室形成術で穿孔を閉鎖し、伝音難聴の改善を図る。
POINT
・慢性中耳炎の起炎菌は黄色ブドウ球菌(MRSA含む)が最多、次いで緑膿菌。 ・急性中耳炎の三大起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス。 ・急性は耳管経由(鼻咽腔の菌)、慢性は穿孔経由(外耳道・皮膚の菌)と覚えると区別しやすい。 ・反復する耳漏+鼓膜穿孔=慢性化膿性中耳炎。真珠腫塊や上鼓室破壊があれば真珠腫性中耳炎を考える。
