かぜのあとに耳が痛い―膨らんだ赤い鼓膜が告げる急性中耳炎の治療選択
第118回医師国家試験 E問題 第29問
国試問題にチャレンジ
5歳の男児。発熱と耳痛を主訴に両親に連れられて来院した。2日前から鼻水があった。昨日から左耳痛と発熱が出現したため外来受診した。体温37.5℃。左の鼓膜所見を示す。 適切な治療はどれか。

- a.耳洗浄
- b.耳管通気
- c.抗菌薬投与
- d.鼓室形成術
- e.鼓膜チューブ挿入術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
小児で上気道炎に続いて耳痛と発熱が出現した場合は急性中耳炎を考え、鼓膜の発赤・膨隆と膿性の中耳貯留液を確認して診断します。耳管が太く短く水平に近い小児では、上咽頭の細菌が中耳へ入りやすいことが背景にあり、主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスです。治療の基本は抗菌薬で、第一選択は高用量を含むアモキシシリンです。ガイドラインでは軽症なら経過観察も許容され、重症例や無効例では抗菌薬の変更や鼓膜切開を検討します。一方、耳管通気や鼓膜チューブ挿入は滲出性中耳炎、鼓室形成術は慢性中耳炎や真珠腫に対する治療であり、急性炎症期に耳管通気は行いません。中耳炎の病型と治療法を対応させて理解しておくことは、外来でよく出会う小児の耳痛を適切に診療する土台になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・5歳の男児(急性中耳炎の好発年齢である乳幼児期) ・2日前から鼻汁(上気道炎の先行) ・昨日から左耳痛と発熱(37.5℃)が出現(急性の経過) ・左鼓膜:鼓膜全体が発赤し、鼓膜の奥に黄白色の液体(膿性の貯留液)が透見され、鼓膜は膨らんで見える。ツチ骨柄などの正常な目印は不明瞭で、穿孔や耳漏ははっきりしない。
診断に至るプロセス
小児で、かぜ症状(鼻汁)に続いて耳痛と発熱が急に出てきた経過は、急性中耳炎の典型である。小児の耳管は成人より太く短く水平に近いため、上咽頭の細菌が中耳腔に入りやすく、上気道炎に続発しやすい。 耳痛をきたす急性疾患には、ほかに急性外耳道炎(耳介の牽引で痛みが増し、外耳道が腫れる)、耳性帯状疱疹(Ramsay Hunt症候群:耳介・外耳道の水疱、顔面神経麻痺を伴う)、滲出性中耳炎(貯留液はあるが耳痛・発熱などの急性炎症症状に乏しい)などがある。鑑別の決め手は鼓膜所見であり、本例のように鼓膜の発赤・膨隆と膿性の中耳貯留液があれば急性中耳炎と診断できる。
設問への考え方
急性中耳炎は中耳腔の急性の化膿性炎症であり、主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスである。治療の中心は抗菌薬であり、第一選択は高用量アモキシシリンの内服である。日本の小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、年齢・耳痛・発熱・鼓膜の発赤・膨隆・耳漏などから重症度を判定し、軽症では抗菌薬を使わず3日間ほど経過をみることも許容されている。しかし本例の鼓膜は発赤と膨隆が明らかで膿性の貯留液も見えるため、抗菌薬投与の適応と考えられる。重症例や抗菌薬が効かない場合は鼓膜切開を追加する。 選択肢のうち、耳洗浄・耳管通気・鼓室形成術・鼓膜チューブ挿入術は、外耳道疾患・滲出性中耳炎・慢性中耳炎などに対する処置であり、急性中耳炎の初期治療としては適切でない。
選択肢考察
- ×a. 耳洗浄
耳洗浄は外耳道の耳垢や異物の除去、慢性中耳炎や真菌性外耳道炎での耳漏の清掃などに用いる処置である。急性中耳炎の病変の主体は鼓膜より奥の中耳腔にあり、鼓膜に穿孔がない本例では外耳道を洗っても中耳の炎症には届かない。
- ×b. 耳管通気
耳管通気は、鼻側から耳管を通して中耳に空気を送り込み、中耳の陰圧を改善する処置で、滲出性中耳炎や耳管狭窄症に用いる。急性炎症の最中に行うと、上咽頭の細菌や膿を中耳へ押し込み炎症を悪化させるおそれがあるうえ、強い痛みも伴うため、急性中耳炎では行わない。
- ○c. 抗菌薬投与
急性中耳炎は肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラクセラ・カタラーリスなどによる中耳の細菌感染症であり、治療の基本は抗菌薬の投与である。第一選択はアモキシシリンの内服で、耐性菌を考慮して高用量で用いることが多い。本例は鼓膜の発赤・膨隆と膿性の貯留液がみられ、抗菌薬の適応と判断される。改善がなければ他の抗菌薬への変更や鼓膜切開を検討する。
- ×d. 鼓室形成術
鼓室形成術は、中耳の病変を取り除き、鼓膜や耳小骨を再建して聴力を改善する手術である。慢性中耳炎(鼓膜穿孔が残るもの)、中耳真珠腫、鼓室硬化症などに対して行う。急性の感染症である急性中耳炎に行う手術ではない。
- ×e. 鼓膜チューブ挿入術
鼓膜チューブ(換気チューブ)挿入術は、鼓膜に小さな管を留置して中耳の換気と排液を続ける手術である。保存的治療で改善しない長引く滲出性中耳炎や、何度も繰り返す反復性中耳炎に対して考慮する。初発の急性中耳炎の初期治療としては行わない。
急性中耳炎の概要
・定義:急に発症した中耳の感染症で、耳痛・発熱・耳漏などを伴う。 ・好発:乳幼児(とくに2歳未満)。集団保育、兄弟の存在、受動喫煙などが危険因子となる。 ・起炎菌:肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスが三大起炎菌である。ペニシリン耐性肺炎球菌やβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)インフルエンザ菌が問題となる。 ・鼓膜所見:発赤、膨隆、光錐の消失、膿性の中耳貯留液の透見。進行すると鼓膜が破れて耳漏が出ることがあり、穿孔後は痛みが軽くなることが多い。
治療の流れ(小児急性中耳炎診療ガイドラインの考え方)
・年齢、耳痛、発熱、啼泣・不機嫌、鼓膜の発赤・膨隆、耳漏などから重症度を判定する。 ・軽症:抗菌薬を使わず3日間程度経過観察し、改善がなければアモキシシリンを開始する。 ・中等症:アモキシシリン(高用量を含む)を投与する。 ・重症や無効例:アモキシシリン・クラブラン酸、セフジトレン ピボキシルなどへの変更、鼓膜切開を考慮する。 ・鎮痛にはアセトアミノフェンを用いる。
中耳炎の種類と治療の対応
・急性中耳炎:抗菌薬、必要に応じて鼓膜切開 ・滲出性中耳炎:経過観察、耳管通気、鼓膜切開、遷延例は鼓膜チューブ挿入 ・慢性中耳炎:耳漏の清掃・局所治療、根治には鼓室形成術 ・中耳真珠腫:手術(鼓室形成術、乳突削開術)
合併症
急性乳様突起炎(耳介後部の発赤・腫脹、耳介が前方へ押し出される)、顔面神経麻痺、髄膜炎、頭蓋内膿瘍など。乳様突起炎では入院のうえ静注抗菌薬を用い、必要に応じて鼓膜切開や乳突削開術を行う。
POINT
・小児で上気道炎に続いて耳痛・発熱が出たら急性中耳炎を考え、鼓膜所見で確認する。 ・急性中耳炎の鼓膜:発赤、膨隆、膿性の中耳貯留液。 ・治療の基本は抗菌薬で、第一選択はアモキシシリン。重症や無効例では鼓膜切開。 ・耳管通気・鼓膜チューブ挿入は滲出性中耳炎、鼓室形成術は慢性中耳炎・真珠腫に対する治療である。 ・急性炎症期に耳管通気は行わない。
