繰り返す耳だれの奥に潜む「骨を溶かす白い塊」―真珠腫性中耳炎はなぜ手術なのか
第117回医師国家試験 A問題 第50問
国試問題にチャレンジ
36歳の女性。左耳の聞こえにくさを主訴に来院した。数年前から左耳漏を繰り返していた。最近,聴力が低下してきたため受診した。左鼓膜所見(A)と側頭骨単純CTの冠状断像(B)とを示す。 治療として適切なのはどれか。

- a.抗菌薬投与
- b.鼓室形成術
- c.鼓膜形成術
- d.鼓膜切開術
- e.鼓膜チューブ留置術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
反復する耳漏と進行する難聴があり、鼓膜弛緩部の陥凹と角化物の堆積、CTで上鼓室の軟部陰影を認めれば、弛緩部型真珠腫性中耳炎を考えます。真珠腫は腫瘍ではありませんが、角化上皮が骨を破壊しながら増大し、伝音難聴、顔面神経麻痺、迷路瘻孔、頭蓋内合併症をきたしうるため、治療は病変を除去し耳小骨と鼓膜を再建する鼓室形成術が基本となります。抗菌薬は消炎の補助にすぎず、鼓膜形成術は鼓膜穿孔、鼓膜切開術は急性中耳炎や滲出性中耳炎、換気チューブ留置術は遷延性・反復性の中耳炎が主な適応です。中耳の処置・手術を病態ごとに使い分けて理解しておくことは、耳鼻咽喉科診療の基本であり、合併症を防ぐ早期の専門的介入にもつながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・36歳女性。数年来、左耳漏を繰り返しており、慢性に経過する中耳の感染性疾患が背景にある。 ・最近になって左耳の聴力低下が進んできた。 ・鼓膜所見(A):鼓膜上方の弛緩部(ツチ骨短突起より上の薄い部分)が陥凹し、そこに白色〜黄白色の耳垢様の角化物(debris)がたまっている。 ・側頭骨CT冠状断像(B):上鼓室(鼓室の上部、ツチ骨頭やキヌタ骨体が収まる部分)に軟部組織陰影を認め、弛緩部型真珠腫に典型的な所見である。
診断へのプロセス
反復する耳漏と進行する難聴からは、慢性化膿性中耳炎と真珠腫性中耳炎が主な鑑別となる。慢性化膿性中耳炎では鼓膜の緊張部に穿孔があり、骨破壊は通常目立たない。一方、本例では弛緩部の陥凹に角化物が堆積し、CTで上鼓室に軟部陰影を認めることから、弛緩部型の真珠腫性中耳炎と診断できる。 真珠腫は、鼓膜の陥凹部に入り込んだ重層扁平上皮が角化物をため込みながら増大していく病変で、腫瘍ではないが周囲の骨を破壊しながら進行する。耳小骨が破壊されると伝音難聴が生じ、さらに進展すると顔面神経麻痺、内耳への進展(迷路瘻孔)による感音難聴・めまい、頭蓋内合併症(髄膜炎、脳膿瘍など)をきたしうる。
設問への考え方
真珠腫は薬物治療では消失せず、放置すれば骨破壊が進行するため、手術による摘出が根本的な治療となる。病変(真珠腫上皮)を完全に取り除き、破壊された耳小骨による音の伝達経路を再建し、必要に応じて鼓膜も再建する術式が鼓室形成術であり、本例の適切な治療である。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬投与
誤り。真珠腫に細菌感染が加わり耳漏が増えたときには、抗菌薬の点耳・内服や耳内清掃で炎症を一時的に抑えることがある。しかし抗菌薬では角化上皮の塊である真珠腫そのものは消えず、骨破壊の進行も止まらないため、根治的な治療にはならない。術前の消炎目的にとどまる。
- ○b. 鼓室形成術
正しい。鼓室形成術は、中耳の病変(真珠腫や炎症性肉芽)を除去したうえで、耳小骨連鎖と鼓膜を再建して伝音機構を回復させる手術であり、真珠腫性中耳炎の根治的治療である。真珠腫の進展範囲に応じて乳突削開術を組み合わせて行う。真珠腫は遺残や再発を起こしやすいため、段階的に手術を行ったり、術後も長期の経過観察を行ったりする。慢性化膿性中耳炎で耳小骨の病変を伴う例にも用いられる。
- ×c. 鼓膜形成術
誤り。鼓膜形成術は、慢性化膿性中耳炎などで生じた鼓膜穿孔を、筋膜や軟骨膜などの移植片で閉鎖する手術である。鼓膜のみを扱い、中耳腔内の病変の除去や耳小骨の再建は行わないため、中耳に広がり骨を破壊している真珠腫の治療にはならない。
- ×d. 鼓膜切開術
誤り。鼓膜切開術は、鼓膜に小さな切開を加えて中耳にたまった膿や貯留液を排出する処置で、鼓膜が強く膨隆した重症の急性中耳炎(特に小児)や、滲出性中耳炎の診断・治療に用いられる。真珠腫を除去することはできない。
- ×e. 鼓膜チューブ留置術
誤り。鼓膜換気チューブ留置術は、鼓膜に小孔をあけてチューブを入れ、中耳の換気と排液を長期間保つ治療で、遷延する滲出性中耳炎や反復性中耳炎、鼓膜の高度な陥凹(癒着傾向)の予防などに用いられる。すでに形成され骨を破壊している真珠腫に対しては効果がない。
真珠腫性中耳炎の分類
・後天性真珠腫 - 弛緩部型:耳管機能不全などで中耳が陰圧になり、鼓膜弛緩部が上鼓室側へ陥凹して形成される。最も多い型で、上鼓室から乳突洞へ進展しやすい。 - 緊張部型:鼓膜緊張部の後上部などが陥凹して形成される。 - 二次性真珠腫:鼓膜穿孔の縁から上皮が中耳腔へ侵入して形成される。 ・先天性真珠腫:鼓膜が正常のまま、鼓膜の奥(多くは前上象限)に白色の塊として透見される。小児に多い。
真珠腫性中耳炎の症状と合併症
・耳漏(悪臭を伴うことが多い)、伝音難聴(耳小骨破壊による) ・顔面神経麻痺(顔面神経管の破壊) ・迷路瘻孔(主に外側半規管の骨破壊)による感音難聴・めまい。瘻孔があると外耳道の加圧で眼振が誘発される(瘻孔症状)。 ・頭蓋内合併症:髄膜炎、硬膜外膿瘍、脳膿瘍、S状静脈洞血栓症など
検査
・耳鏡・耳内視鏡:弛緩部の陥凹、角化物(debris)の堆積 ・純音聴力検査:伝音難聴(気骨導差)。内耳進展例では感音成分が加わる。 ・側頭骨CT:上鼓室・乳突洞の軟部陰影。真珠腫は周囲骨を破壊しうるため、進行例では外耳道上壁(scutum)や耳小骨の破壊像を伴うことがある。拡散強調MRIは真珠腫の検出や術後の再発評価に有用である。
中耳の手術・処置の使い分け
・鼓膜切開術:急性中耳炎(重症)、滲出性中耳炎 ・鼓膜換気チューブ留置術:遷延性・反復性の滲出性中耳炎、反復性中耳炎 ・鼓膜形成術:鼓膜穿孔(耳小骨に異常のない慢性中耳炎) ・鼓室形成術:真珠腫性中耳炎、耳小骨病変を伴う慢性中耳炎
POINT
・反復する耳漏+進行する難聴+鼓膜弛緩部の陥凹と角化物(debris)+CTで上鼓室の軟部陰影 → 弛緩部型真珠腫性中耳炎。 ・真珠腫は骨を破壊しながら進行し、難聴、顔面神経麻痺、めまい、頭蓋内合併症をきたしうる。 ・治療は手術(鼓室形成術、必要に応じて乳突削開術を併用)であり、抗菌薬は消炎目的の補助にすぎない。 ・鼓膜形成術は鼓膜穿孔、鼓膜切開術は急性中耳炎、チューブ留置術は滲出性中耳炎が主な適応である。
