中耳炎で「頭が痛い」は危険信号―耳の中で終わらない炎症を見抜く
第119回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
急性中耳炎の症状で緊急に画像検査が必要なのはどれか。
- a.耳痛
- b.耳漏
- c.頭痛
- d.難聴
- e.発熱
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
急性中耳炎は上気道炎に続いて鼻咽腔の細菌が耳管から中耳に入って起こる化膿性炎症で、乳幼児に多く、合併症がなければ鼓膜所見による臨床診断で画像検査は不要です。耳痛、耳漏、伝音難聴、発熱はいずれも中耳の炎症や先行する上気道炎で説明できるありふれた症状で、それだけでは緊急画像検査の適応になりません。一方、通常の中耳炎では目立たない頭痛は、髄膜炎、硬膜外膿瘍、脳膿瘍、S状静脈洞血栓症などの頭蓋内合併症を疑うサインであり、頭部CTや造影MRIで速やかに評価します。乳様突起炎による耳介後部の腫脹、顔面神経麻痺、めまいなども合併症の手がかりとなります。ありふれた疾患の中から「その病気では説明できない症状」を拾い上げる視点は、重篤な合併症を見逃さないための臨床推論の基本です。
解答・解説
正解はcです
急性中耳炎は、上気道炎(かぜ)に続いて鼻咽腔の細菌が耳管を通って中耳(鼓室)に入り、急性の化膿性炎症を起こす疾患である。乳幼児に多く、起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスが代表的である。 本問は「急性中耳炎でみられる症状のうち、どれが出たら画像検査を急ぐべきか」を問うている。考え方の軸は、症状が「中耳の中で完結している炎症」を表すのか、「炎症が中耳の外、特に頭蓋内へ広がったこと」を示唆するのかである。 耳痛・耳漏・難聴・発熱は、いずれも中耳の炎症そのもの、または原因となった上気道炎で説明できる、急性中耳炎のありふれた症状であり、それだけで緊急の画像検査は要しない。診断は耳鏡(耳内視鏡)による鼓膜所見で行い、画像は通常必要としない。 一方、中耳は薄い骨壁を隔てて中頭蓋窩・後頭蓋窩、S状静脈洞と接しているため、炎症が骨を破壊したり血管を介したりして頭蓋内に及ぶことがある(頭蓋内合併症)。頭痛は通常の急性中耳炎では目立たない症状であり、強い頭痛や持続する頭痛は髄膜炎、硬膜外膿瘍、脳膿瘍、S状静脈洞血栓症などの頭蓋内合併症を疑う警告サインとなる。したがって、造影を含む頭部CT・MRIで速やかに評価する必要がある。
選択肢考察
- ×a. 耳痛
急性中耳炎の最も典型的な症状である。鼓室内に炎症が起き膿が貯まると、内圧が上がって鼓膜が外側へ押され(鼓膜の膨隆)、強い痛みを生じる。乳児では言葉で訴えられないため、不機嫌、夜泣き、耳に手をやる仕草などとして現れる。中耳炎そのものの症状であり、緊急画像検査の適応にはならない。
- ×b. 耳漏
鼓室内に貯留した膿の圧で鼓膜が破れる(鼓膜穿孔)と、膿が外耳道へ流れ出て耳漏となる。穿孔によって内圧が下がるため、耳漏が出ると耳痛はむしろ軽くなることが多い。急性中耳炎の経過としてよくみられる所見であり、緊急画像検査の根拠にはならない。耳漏は起炎菌の同定のための細菌培養検体として利用される。
- ○c. 頭痛
通常の急性中耳炎では頭痛が前面に出ることは少ない。頭痛を訴える場合には、中耳の炎症が頭蓋内へ波及した可能性、すなわち髄膜炎、硬膜外膿瘍、硬膜下膿瘍、脳膿瘍、S状静脈洞血栓症などの頭蓋内合併症を考えなければならない。これらは生命に関わり、手術やドレナージ、抗菌薬の静脈内投与が必要になりうるため、頭部CT(側頭骨CTを含む)や造影MRI(静脈洞血栓の評価にはMR venographyも有用)で速やかに評価する。項部硬直、意識障害、けいれん、嘔吐、局所神経症状を伴う場合はさらに緊急度が高い。
- ×d. 難聴
鼓室内に膿や滲出液が貯まると鼓膜と耳小骨の振動が妨げられ、伝音難聴(外耳・中耳の音を伝える経路の障害による難聴)を生じる。中耳炎に伴う当然の症状であり、緊急画像検査の適応にはならない。なお、まれに炎症が内耳へ波及(内耳炎)すると感音難聴やめまいを生じることがあり、その場合は注意が必要である。
- ×e. 発熱
急性中耳炎は上気道炎に続いて起こるため、上気道炎自体の発熱と中耳の化膿性炎症による発熱がともにみられる。特に乳幼児の発熱の原因として頻度が高く、発熱した乳幼児では鼓膜の観察が重要である。発熱だけでは緊急画像検査の適応とはならない。
急性中耳炎の病態
上気道炎のあとに、鼻咽腔の細菌が耳管を経由して中耳腔に入ることで発症する。乳幼児は耳管が太く、短く、水平に近いため鼻咽腔から細菌が入りやすく、また免疫も未熟なため好発する。主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスである。
典型的な症状の経過
鼻汁・咽頭痛・発熱などの上気道症状に続いて、耳痛、耳閉感、難聴、耳鳴などの耳症状が出る。鼓膜が破れると耳漏が出て、耳痛は軽くなる。鼓膜所見は発赤、膨隆、光錐の消失などである。
合併症
側頭骨内合併症:急性乳様突起炎(耳介後部の発赤・腫脹・圧痛、耳介の前方への突出)、顔面神経麻痺、内耳炎(めまい・感音難聴)。 頭蓋内合併症:髄膜炎、硬膜外膿瘍、硬膜下膿瘍、脳膿瘍、S状静脈洞血栓症(敗血症のような高熱の上がり下がりや頭痛)など。 合併症を疑ったら、側頭骨CTや造影MRIで評価し、抗菌薬の静脈内投与や乳突削開術などの外科的治療を検討する。
画像検査の位置づけ
合併症のない急性中耳炎の診断は鼓膜所見による臨床診断であり、画像検査は不要である。画像検査は頭蓋内合併症や乳様突起炎などの合併症を疑うときに行う。
POINT
・耳痛、耳漏、難聴、発熱は急性中耳炎のありふれた症状であり、画像検査は不要である。 ・頭痛(特に強い・持続する頭痛)は頭蓋内合併症(髄膜炎、硬膜外膿瘍、脳膿瘍、S状静脈洞血栓症など)を疑うサインであり、頭部CT・MRIを急ぐ。 ・耳介後部の腫脹・発赤(乳様突起炎)、顔面神経麻痺、めまいなども合併症のサインとして押さえておく。
