72時間のタイムリミット―緊急避妊薬は「いつ」飲めば効くのか
第112回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
月経周期の12日目に性交があった女性が緊急避妊の目的でホルモン薬を内服する場合,適切な服用時期に含まれるのはどれか。
- a.性交後1日目
- b.予定月経の1日前
- c.基礎体温上昇後5日目
- d.予定月経が3日遅れた日
- e.妊娠反応が陽性になった日
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
緊急避妊とは、避妊をしなかった、あるいは避妊に失敗した性交の後に妊娠を防ぐ方法で、わが国ではレボノルゲストレル1.5mgを性交後72時間以内に1回内服するのが標準です。主な作用は排卵の抑制・遅延であり、早く服用するほど効果が高い一方、排卵後や着床後には効果がなく、成立した妊娠を中断させる薬ではありません。そのため、予定月経前後や月経遅延時、妊娠反応陽性時はもはや適応がなく、妊娠検査を考える段階です。銅付加子宮内避妊具は性交後120時間以内の挿入で最も高い避妊効果を示し、服用後は消退出血の確認と継続的な避妊法の指導が欠かせません。作用機序と時間の枠をセットで理解することが、外来での適切な説明と対応につながります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
緊急避妊(emergency contraception:EC)とは、避妊せずに性交した、あるいはコンドームの破損などで避妊に失敗した後に、妊娠を防ぐ目的で事後的に行う避妊法である。ホルモン薬による緊急避妊(緊急避妊薬、いわゆるアフターピル)は、性交後できるだけ早く、遅くとも72時間以内に内服しなければならない。本問は、この「服用できる時間の枠」を理解しているかを問う。
状況の整理
月経周期28日の女性では、排卵はおおむね周期14日目ごろに起こる。周期12日目は排卵直前にあたり、精子は女性の生殖管内で数日間生存できるため、この時期の性交は妊娠の可能性が最も高い時期の一つである。したがって緊急避妊の適応は十分にある。
考え方
現在わが国で用いられる緊急避妊薬はレボノルゲストレル(黄体ホルモン製剤)1.5mgの単回内服である。主な作用は排卵の抑制・遅延であり、性交後に排卵が起こる前に服用することで、精子が生きている間に卵子が放出されるのを防ぐ。したがって排卵・受精・着床が進んでしまった後に飲んでも効果はない。 服用時期は性交後72時間以内とされ、さらに早く飲むほど妊娠阻止効果が高い。各選択肢が「性交後何日目にあたるか」を見積もり、72時間以内に収まるものを選べばよい。性交後1日目(24時間前後)だけがこれを満たす。
選択肢考察
- ○a. 性交後1日目
性交からおよそ24時間後であり、72時間以内という服用期限の範囲内である。周期12日目の性交であれば、この時点ではまだ排卵前である可能性が高く、レボノルゲストレルによって排卵を抑制・遅延させることで妊娠を防ぐことが期待できる。服用は早いほど効果が高いため、本来は性交後できるだけ速やかに内服するのが望ましい。
- ×b. 予定月経の1日前
周期28日なら予定月経の1日前は周期27日目ごろであり、性交(周期12日目)から約2週間が経過している。72時間を大きく超えており、すでに排卵・受精が成立していれば着床も済んでいる時期である。この時点でホルモン薬を飲んでも妊娠を防ぐ効果は期待できない。
- ×c. 基礎体温上昇後5日目
基礎体温は排卵後に黄体から分泌されるプロゲステロンの体温上昇作用によって上昇し、高温相となる。体温上昇後5日目は排卵から数日が経過した時期であり、周期14日目ごろ排卵とすると性交から1週間前後が経っている。72時間を超えており、排卵抑制を主な作用とする緊急避妊薬の効果は期待できない。
- ×d. 予定月経が3日遅れた日
性交から2週間以上が経過しており、服用期限を大きく過ぎている。予定月経が遅れている場合はむしろ妊娠がすでに成立している可能性を考え、妊娠検査を行うべき段階である。緊急避妊薬は成立した妊娠を中断させる薬ではない。
- ×e. 妊娠反応が陽性になった日
妊娠反応(尿中hCG:ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が陽性であるということは、受精卵が着床して絨毛からhCGが分泌されている、すなわち妊娠が成立していることを意味する。緊急避妊薬は着床後の妊娠を終わらせる作用をもたない(人工妊娠中絶薬ではない)ため、この時点での服用は無意味である。
緊急避妊法の種類
・レボノルゲストレル(LNG)法:LNG 1.5mgを性交後72時間以内に1回内服する。わが国で標準的に用いられる方法で、早く服用するほど効果が高い。適切に用いた場合、本来起こりうる妊娠の約8割を阻止できるとされるが、100%ではない。副作用は悪心、頭痛、不正性器出血などで、比較的軽い。 ・ヤッペ(Yuzpe)法:エストロゲンとプロゲスチンの配合薬を12時間間隔で2回内服する旧来の方法。LNG法より効果が劣り、悪心・嘔吐が多いため、現在は第一選択ではない。 ・銅付加子宮内避妊具(Cu-IUD):性交後120時間(5日)以内に挿入する。最も避妊効果が高く、その後の継続的な避妊にも使える。 ・ウリプリスタル酢酸エステル:選択的プロゲステロン受容体調節薬で、性交後120時間以内に有効とされるが、わが国では未承認である。
作用機序
LNGの主な作用は排卵の抑制・遅延である。かつては受精卵の着床阻害も主要な作用と説明されていたが、現在ではその寄与は乏しいと考えられている。いずれにしても、着床して成立した妊娠を中断させる作用はない。また、仮に妊娠していた場合にも胎児への催奇形性は報告されていない。
服用後の対応
服用後、多くは予定月経の前後に消退出血(月経様の出血)がみられる。予定月経が1週間以上遅れる場合や、出血が少量・短期間の場合は妊娠の可能性を考えて妊娠検査を行う。緊急避妊薬は服用以後の性交に対する避妊効果をもたないため、その後の継続的な避妊法(経口避妊薬など)についても指導する。
POINT
・緊急避妊薬(レボノルゲストレル1.5mg単回)は性交後72時間以内に内服する。早いほど効果が高い。 ・主な作用は排卵の抑制・遅延。着床後の妊娠には無効(中絶薬ではない)。 ・銅付加IUDは性交後120時間以内の挿入で有効で、避妊効果が最も高い。 ・妊娠反応陽性・月経遅延の時点では緊急避妊の適応はない。
