感受性結果は待てない―Gram染色が導く肺炎球菌性肺炎の初期治療
第111回医師国家試験 I問題 第66問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。発熱,咳嗽および膿性痰を主訴に来院した。5日前から発熱,3日前から咳嗽および膿性痰が出現したため受診した。意識は清明。体温39.2℃。脈拍124/分,整。血圧88/60mmHg。呼吸数24/分。SpO2 93%(room air)。両側の胸部にcoarse cracklesを聴取する。血液所見:白血球18,800(桿状核好中球4%,分葉核好中球84%,単球2%,リンパ球10%)。CRP 19mg/dL。胸部エックス線写真の正面像(A),側面像(B)及び喀痰のGram染色標本(C)を別に示す。同日,敗血症を疑い血液培養を行った。 現時点の対応として正しいのはどれか。

- a.抗菌薬を投与せず薬剤感受性の結果を待つ。
- b.アムホテリシンBの点滴静注を開始する。
- c.ゲンタマイシンの点滴静注を開始する。
- d.スルバクタム・アンピシリン合剤の点滴静注を開始する。
- e.レボフロキサシンの点滴静注を開始する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
発熱・膿性痰に大葉性の浸潤影があり、喀痰Gram染色で莢膜を伴うGram陽性双球菌を認めれば、肺炎球菌性肺炎を考えます。頻呼吸や低血圧を伴う敗血症では、血液培養などを採取したら感受性結果を待たずに直ちに経験的抗菌薬を開始し、結果判明後に狭域化します。肺炎球菌にはペニシリン系が第一選択で、スルバクタム・アンピシリンはβラクタマーゼ産生のインフルエンザ菌やモラクセラも同時にカバーできる、入院例の標準的な選択肢です。一方、アムホテリシンBは抗真菌薬、ゲンタマイシンは肺炎球菌に単剤で無効、レボフロキサシンは耐性化や結核の診断遅延の懸念から安易に使わない薬です。Gram染色で原因菌を推定し、必要十分なスペクトラムの薬を迅速に選ぶ姿勢は、感染症診療全般の基本になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
68歳男性。5日前からの発熱に続いて咳嗽と膿性痰が出現しており、急性の下気道感染症をまず考える。 ・バイタルサイン:体温39.2℃、脈拍124/分、呼吸数24/分、血圧88/60mmHg、SpO2 93%(室内気)。発熱・頻脈・頻呼吸に加え、収縮期血圧が90mmHgを下回っている。 ・身体所見:両側胸部でcoarse crackles(水泡音。気道や肺胞内の分泌物によって生じる粗い断続性ラ音)を聴取する。 ・血液検査:白血球18,800/μLと増加し、好中球が約9割(桿状核4%+分葉核84%)を占める。CRP 19mg/dLと強い炎症反応がある。 ・胸部エックス線写真:正面像(A)では左上~中肺野に広い範囲で比較的均一な浸潤影を認め、側面像(B)と合わせて左上葉を主体とする大葉性肺炎の像と読める。肋骨横隔膜角の鈍化もみられ、少量の胸水貯留が示唆される。 ・喀痰Gram染色(C):好中球とともに、青~紫色に染まるGram陽性の双球菌(ランセット形で莢膜による透亮帯を伴う)が多数みられる。
診断
大葉性の浸潤影とGram陽性双球菌から、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)による市中肺炎と診断できる。さらに感染症に伴って頻呼吸と低血圧があり、敗血症を合併していると考えられる。現行の敗血症定義(Sepsis-3)で用いるqSOFA(呼吸数22/分以上、意識変容、収縮期血圧100mmHg以下)では呼吸数と血圧の2項目を満たし、また従来のSIRS基準(体温、脈拍、呼吸数、白血球数)も4項目すべて満たす。市中肺炎の重症度評価であるA-DROPでは、68歳男性で年齢(A)は該当せず、SpO2 93%で呼吸(R)も該当せず、意識清明で意識(O)も該当しない。BUNの記載はないが、判明している範囲ではP(収縮期血圧90mmHg以下)の1項目のみで、スコア上は「外来または入院」の判断領域にとどまる。しかし、本例は敗血症に伴う低血圧・頻脈・頻呼吸を呈しており、輸液による循環管理と抗菌薬の点滴静注が必要であるため、入院治療の適応である。重症度スコアは判断の目安であり、全身状態を加味して治療の場を決める。
設問の考え方
敗血症を伴う重症の細菌性肺炎では、血液培養・喀痰培養などの検体を採取したら、結果を待たずに直ちに経験的(エンピリック)抗菌薬治療を開始する。抗菌薬の開始が遅れるほど死亡率が上昇するためである。薬剤の選択では、Gram染色で原因菌が推定できているので、その菌を確実にカバーしつつ、不必要に広域な薬剤は避けるのが原則である。肺炎球菌にはペニシリン系(βラクタム系)が第一選択であり、選択肢のなかではスルバクタム・アンピシリン合剤が最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬を投与せず薬剤感受性の結果を待つ。
誤り。培養と薬剤感受性検査の結果が出るまでには通常2~3日以上かかる。本例は低血圧を伴う敗血症の状態であり、その間治療しなければ敗血症性ショックや多臓器不全に進行するおそれがある。培養検体を採取したらすぐに抗菌薬を開始し、感受性結果が判明した時点で、より狭域の薬剤へ切り替える(de-escalation)のが正しい手順である。
- ×b. アムホテリシンBの点滴静注を開始する。
誤り。アムホテリシンBはポリエン系の抗真菌薬で、真菌の細胞膜のエルゴステロールに結合して作用する。カンジダ、アスペルギルス、クリプトコックス、ムーコルなどの深在性真菌症に用いる薬であり、細菌には効果がない。本例は免疫不全の背景もなく、Gram染色で細菌(Gram陽性双球菌)が確認されているため適応はない。腎障害や低カリウム血症などの副作用も多い。
- ×c. ゲンタマイシンの点滴静注を開始する。
誤り。ゲンタマイシンはアミノグリコシド(アミノ配糖体)系抗菌薬で、主に緑膿菌を含む好気性Gram陰性桿菌に用いる。アミノグリコシドは酸素依存性の輸送で菌体内に取り込まれるため、連鎖球菌や肺炎球菌には単独ではほとんど効かない(連鎖球菌に対してはβラクタム系との併用で相乗効果を狙う場合に限られる)。また、膿や気道分泌物のような酸性・嫌気的な環境では活性が落ち、肺への移行も良くない。腎毒性・聴器毒性もあり、肺炎球菌性肺炎の単剤治療としては不適切である。
- ○d. スルバクタム・アンピシリン合剤の点滴静注を開始する。
正しい。肺炎球菌はペニシリン系に良好な感受性を示すことが多く、肺炎(髄膜炎以外)では高用量のペニシリン系で治療できるため、βラクタム系が第一選択となる。スルバクタム・アンピシリンは、アンピシリンにβラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタムを配合した薬剤で、肺炎球菌に加えて、市中肺炎の主要な原因菌であるインフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリス(βラクタマーゼ産生株を含む)、口腔内嫌気性菌もカバーする。重症例の入院治療で、Gram染色から肺炎球菌が推定される場面に適した初期治療薬である。
- ×e. レボフロキサシンの点滴静注を開始する。
誤り。レボフロキサシンはニューキノロン系のうち、肺炎球菌にも効果を示す「レスピラトリーキノロン」で、非定型病原体(マイコプラズマ、クラミドフィラ、レジオネラ)まで含む広いスペクトラムをもつ。しかし、Gram染色で原因菌が肺炎球菌と推定できている本例で、あえて広域薬を使う必要はない。安易な使用はキノロン耐性肺炎球菌などの耐性菌を増やすほか、結核菌にも効果があるため、肺結核が紛れていた場合に一時的に症状を改善させて診断を遅らせ、耐性化を招くおそれがある。このため、βラクタム系にアレルギーがある場合などに温存すべき薬剤とされる。
肺炎球菌性肺炎
・市中肺炎の原因菌として最も多い。高齢者、慢性心肺疾患、糖尿病、脾摘後などでリスクが高い。 ・典型的には悪寒戦慄を伴う急な高熱、咳嗽、鉄さび色~膿性の痰、胸膜痛で発症し、画像では大葉性肺炎(一つの肺葉に広がる均一な浸潤影、エアブロンコグラムを伴う)を呈することが多い。 ・Gram染色ではGram陽性のランセット形双球菌で、莢膜のために菌体周囲が白く抜けて見える。尿中肺炎球菌抗原検査も迅速診断に有用である。 ・菌血症、髄膜炎を合併する侵襲性肺炎球菌感染症は致死率が高い。
肺炎球菌のペニシリン耐性
・ペニシリン結合蛋白(PBP)の変異によって耐性を獲得する(βラクタマーゼによるものではない)。そのため、スルバクタムなどのβラクタマーゼ阻害薬を加えても肺炎球菌自体への効果は増強されない。合剤を選ぶのは、βラクタマーゼを産生するインフルエンザ菌やモラクセラなど、他の原因菌も同時にカバーするためである。 ・ペニシリン耐性の判定基準は髄膜炎と非髄膜炎で異なり、肺炎(非髄膜炎)では高用量ペニシリン系で治療可能な株が大部分を占める。
市中肺炎の重症度:A-DROP
A(Age):男性70歳以上、女性75歳以上 D(Dehydration):BUN 21mg/dL以上または脱水あり R(Respiration):SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下) O(Orientation):意識障害あり P(Pressure):収縮期血圧90mmHg以下 0項目で外来、1~2項目で外来または入院、3項目で入院、4~5項目は集中治療室(ICU)入室を考慮する。なお、ショックがあれば項目数にかかわらず超重症として扱う。
敗血症の定義
現在の定義(Sepsis-3、2016年)では、敗血症は「感染症に対する制御不能な宿主反応による、生命を脅かす臓器障害」とされ、SOFAスコア2点以上の上昇で判定する。院外や一般病棟でのスクリーニングにはqSOFA(呼吸数22/分以上、意識変容、収縮期血圧100mmHg以下のうち2項目以上)を用いる。かつてはSIRS(全身性炎症反応症候群)の基準を満たす感染症を敗血症、臓器障害や低血圧を伴うものを重症敗血症と呼んだが、現行の定義では「重症敗血症」という用語は用いない。
初期治療の原則
血液培養(2セット)と喀痰培養を抗菌薬投与前に採取し、その後速やかに抗菌薬を開始する。敗血症では初期の輸液負荷や循環管理も並行して行う。培養・感受性の結果に応じて狭域の薬剤へ変更する。
POINT
・発熱・膿性痰+大葉性浸潤影+喀痰でGram陽性双球菌 → 肺炎球菌性肺炎 ・敗血症を伴う重症肺炎では、培養採取後ただちに抗菌薬を開始する。感受性結果を待って治療を遅らせてはならない。 ・肺炎球菌の第一選択はペニシリン系(アンピシリン、スルバクタム・アンピシリンなど)。 ・レスピラトリーキノロンは広域で、耐性化や結核の診断遅延の懸念があるため安易に使わない。 ・アミノグリコシドは肺炎球菌には単剤で無効、アムホテリシンBは抗真菌薬。
