StudyMed医師国家試験

内膜症の既往と嚢胞内の「しこり」―閉経後に現れた淡明な細胞が語る卵巣明細胞癌

第111回医師国家試験 I問題 第67問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第67問

51歳の女性。下腹部の違和感と腹満感とを主訴に来院した。48歳で閉経。閉経まで月経痛が強く,子宮内膜症と診断されたことがある。身長161cm,体重58kg。体温36.5℃。脈拍76/分,整。血圧124/84mmHg。下腹部に恥骨上8cmに達する可動性のない腫瘤を触知し,軽度の圧痛を認める。血液生化学所見:CEA 1.6ng/mL(基準5以下),CA19-9 34U/mL(基準37以下),CA125 116U/mL(基準35以下)。CRP 0.7mg/dL。開腹手術を施行した。術前の骨盤部MRIのT2強調水平断像(A),矢状断像(B)及び手術で摘出した組織の充実部分のH-E染色標本(C)を別に示す。  最終的な診断はどれか。

第111回 I問題 第67問の問題画像
  1. a.明細胞腺癌
  2. b.傍卵巣嚢腫
  3. c.漿液性嚢胞腺癌
  4. d.成熟嚢胞性奇形腫
  5. e.チョコレート嚢胞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、閉経後の女性にみつかった骨盤内腫瘤の正体を、既往歴・画像・病理の3つから絞り込む問題だ。特に注目してほしいのは、子宮内膜症の既往があること、MRIで嚢胞の中に充実部分があること、そして病理で見える細胞の「色」だよ。まず、閉経後の卵巣腫瘤と聞いて、どんな印象をもつかな。
医学生医学生
閉経後なら機能性嚢胞は考えにくいので、腫瘍性、それも悪性を意識すべきだと思います。
ドクタードクター
その通り。閉経後は卵巣が活動しなくなるから、新たに大きくなる腫瘤は腫瘍を考える。しかも可動性がないというのは、周囲との癒着や浸潤を示唆する所見だ。内膜症による癒着でも動きは悪くなるけれど、悪性も念頭に置く必要がある。次にMRIだ。T2強調像では大きな嚢胞性腫瘤があって、その壁から内腔へ突き出す充実性の結節、いわゆる壁在結節がある。子宮は圧排されていて、子宮とは別の付属器、つまり卵巣由来と考えられる。
医学生医学生
嚢胞の中に充実部があると悪性を疑う、と放射線科の講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。単純な薄壁の嚢胞なら良性のことが多いけれど、壁在結節や充実部、特に造影される充実部は悪性や境界悪性を疑うサインだ。では、内膜症の既往とこの所見を結びつけると何が浮かぶ?
医学生医学生
チョコレート嚢胞がもともとあって、それが大きくなったのかなと思ったのですが……。
ドクタードクター
背景としてはまさにそこが大事。ただ、チョコレート嚢胞そのものなら、中身は古い血液だからT1強調像で高信号、T2強調像で低信号のshadingを示すのが典型で、充実性の結節はつくらない。チョコレート嚢胞の中に充実部が出てきたら、内膜症を母地として発生した癌、つまり明細胞癌か類内膜癌を第一に考えるんだ。
医学生医学生
そこで病理が決め手になるんですね。
ドクタードクター
そう。H-E染色では、充実部に細胞質が透き通ったように明るく抜けた腫瘍細胞が増殖している。これはグリコーゲンを豊富に含むためで、核が内腔側にぽこっと飛び出す鋲釘(hobnail)細胞もこの腫瘍の特徴だ。だから最終診断は明細胞腺癌になる。
医学生医学生
病理実習で腎細胞癌の淡明細胞を見ましたが、それと似た見た目でしょうか。
ドクタードクター
いい連想だね。見た目の「明るさ」は似ている。卵巣の場合は、内膜症の既往と嚢胞内充実部がそろっているから明細胞癌と結びつけられる。もうひとつ、腫瘍マーカーにも注目しよう。CA125は上がっているけれど、腫瘍の大きさの割には中等度だよね。
医学生医学生
卵巣癌ならCA125はもっと高くなるイメージでした。漿液性癌ではないのでしょうか。
ドクタードクター
そこが鑑別のポイント。高異型度漿液性癌は卵巣癌で最も多く、CA125が著明に高く、腹水や腹膜播種を伴って進行期で見つかることが多い。組織は異型の強い細胞が複雑な乳頭状に増殖し、砂粒体を伴うこともある。内膜症との関連も明細胞癌ほど強くない。淡明な細胞質という今回の組織像とは合わないね。
医学生医学生
成熟嚢胞性奇形腫はどう否定しますか。CBTの過去問でよく出てきた印象があります。
ドクタードクター
奇形腫は若い女性に多い胚細胞腫瘍で、中に皮脂や毛髪、歯や骨を含む。MRIでは脂肪がT1強調像で高信号、脂肪抑制で信号が落ちるのが決め手だ。組織では皮膚や軟骨、神経組織など三胚葉由来の成熟組織が見える。今回の病理像とも既往とも結びつかない。
医学生医学生
傍卵巣嚢腫は名前くらいしか知らないのですが……。
ドクタードクター
卵巣のそば、卵管間膜の中にできる嚢胞で、胎生期の生殖管の遺残などに由来する。壁の薄い単房性の嚢胞で、中身はさらさらした漿液性の液体、充実部は普通ない。良性でCA125もふつう上がらないから、今回とは合わない。
医学生医学生
まとめると、内膜症の既往、閉経後、嚢胞内の充実部、淡明な細胞質の4つがそろえば明細胞癌、ということですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、明細胞癌は日本では欧米より頻度が高く、比較的早いⅠ期で見つかることが多い一方、白金製剤などの抗癌薬が効きにくく、進行例の予後は不良だ。血栓症や高カルシウム血症を合併することもある。
医学生医学生
臨床では、チョコレート嚢胞の患者さんをどう経過観察すればいいのでしょうか。
ドクタードクター
大事な視点だね。卵巣子宮内膜症性嚢胞からは年率1%弱ほどで癌が発生するとされ、40歳以上、径が大きい、増大傾向がある、閉経後も残っている、といった場合はリスクが高い。経過観察中に嚢胞内の充実部の出現、造影される結節、T2強調像でのshadingの消失などがあれば悪性化を疑って精査や手術を検討する。「良性だから安心」と放置しないことが大切なんだ。
医学生医学生
婦人科を回ったとき、内膜症の患者さんに閉経後も通院を続けてもらっていた理由がよくわかりました。

まとめ

子宮内膜症の既往がある閉経後女性で、卵巣の嚢胞性腫瘤の内部に充実部(壁在結節)を認めた場合は、内膜症性嚢胞を母地とする明細胞癌や類内膜癌を第一に考えます。明細胞癌はグリコーゲンに富む淡明な細胞質や鋲釘細胞が特徴で、腫瘍径の割にCA125の上昇が軽度なことも多く、化学療法に抵抗性です。鑑別として、漿液性癌はCA125著明高値と乳頭状増殖・砂粒体、成熟嚢胞性奇形腫は脂肪成分、チョコレート嚢胞はT1高信号・T2低信号のshading、傍卵巣嚢腫は充実部のない薄壁単房性嚢胞が手がかりとなります。チョコレート嚢胞は年齢・大きさ・増大傾向に応じて悪性化のリスクがあり、充実部の出現を見逃さない経過観察が重要です。既往歴・画像・病理を一本の線で結ぶ考え方は、卵巣腫瘍全般の診断の基本になります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・51歳、閉経後(48歳閉経)の女性で、下腹部の違和感と腹部膨満感を訴えている。 ・既往:閉経まで強い月経痛があり、子宮内膜症と診断されている。 ・身体所見:恥骨上8cmに達する大きな下腹部腫瘤を触れ、可動性がなく軽い圧痛を伴う。可動性の乏しさは周囲との癒着や浸潤を示唆し、子宮内膜症による癒着や悪性腫瘍を考えさせる所見である。バイタルサインに異常はなく、CRPも軽度上昇にとどまり、急性炎症(膿瘍など)の可能性は低い。 ・腫瘍マーカー:CA125 116U/mLと上昇しているが、CEAとCA19-9は基準範囲内である。腫瘍の大きさに比べるとCA125の上昇は中等度にとどまる。 ・MRI T2強調像:水平断(A)、矢状断(B)で骨盤内に大きな嚢胞性腫瘤があり、その壁から内腔へ突出する充実性の結節(壁在結節)を伴っている。子宮はこの腫瘤によって圧排されており、子宮とは別の付属器由来、すなわち卵巣腫瘍と考えられる。 ・H-E染色(C):腫瘍の充実部には、細胞質が淡明(透明)な腫瘍細胞の増殖がみられる。

診断へのプロセス

閉経後に生じた卵巣の嚢胞性腫瘍で、壁在結節(充実部分)を伴うことは悪性を強く疑う所見である。子宮内膜症(卵巣子宮内膜症性嚢胞)の既往がある女性で、嚢胞の中に充実部分が出現してきた場合には、内膜症を発生母地とする明細胞癌または類内膜癌を第一に考える。さらに組織像で細胞質の明るい腫瘍細胞が確認されたことから、明細胞腺癌と診断できる。腫瘍の大きさの割にCA125の上昇が軽度である点も、漿液性癌よりも明細胞癌に合致する。

設問の考え方

「子宮内膜症の既往」「閉経後」「嚢胞内の充実部」「淡明な細胞質」という4つのキーワードを結びつけられるかが問われている。良性嚢胞(傍卵巣嚢腫、成熟嚢胞性奇形腫、チョコレート嚢胞)や、高CA125と乳頭状増殖を特徴とする漿液性癌との鑑別を、画像・病理・腫瘍マーカーから行う。

選択肢考察

  1. ○a.  明細胞腺癌

    正しい。卵巣明細胞癌は子宮内膜症性嚢胞から発生することが多く、子宮内膜症の既往がある女性に生じた、充実部を伴う嚢胞性卵巣腫瘍の典型である。組織学的には、グリコーゲンを多く含むため細胞質が淡明に抜けて見える腫瘍細胞や、核が内腔側に突出する鋲釘(hobnail)細胞が、充実性・管状嚢胞状・乳頭状に増殖する。CA125の上昇は漿液性癌ほど高度でないことが多く、本例の所見と合致する。

  2. ×b.  傍卵巣嚢腫

    誤り。傍卵巣嚢腫は卵巣のそばの卵管間膜内に生じる嚢胞で、胎生期の生殖管の遺残(中腎傍管=Müller管、中腎管=Woltff管)や中皮に由来する。薄い壁をもつ単房性の嚢胞で、内部は漿液性の液体であり、充実性部分を伴わないのが普通である。良性病変でCA125が上昇することもまれであり、充実部に淡明な細胞が増殖する本例の像とは合わない。

  3. ×c.  漿液性嚢胞腺癌

    誤り。漿液性癌(特に高異型度漿液性癌)は卵巣癌で最も多い組織型で、発見時に進行していることが多く、CA125が著明に上昇し、腹水や腹膜播種を伴うことが多い。組織学的には、核異型の強い立方~円柱状の腫瘍細胞が複雑な乳頭状構造をとって増殖し、砂粒体(psammoma body)がみられることもある。子宮内膜症との関連は明細胞癌ほど強くなく、淡明な細胞質を特徴とする本例の組織像とは異なる。

  4. ×d.  成熟嚢胞性奇形腫

    誤り。成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)は若年女性に多い代表的な胚細胞腫瘍で、内部に皮脂(脂肪)、毛髪、歯牙、骨などを含む。MRIでは脂肪成分がT1強調像で高信号を示し、脂肪抑制画像で信号が低下することが診断の決め手となる。組織では皮膚・付属器、軟骨、神経組織など三胚葉由来の成熟組織がみられる。腫瘍マーカーはCA19-9が上昇することがある。本例の病理像や既往歴とは合わない。

  5. ×e.  チョコレート嚢胞

    誤り。チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)は、卵巣に異所性の子宮内膜組織が生着し、周期的な出血によって古い血液がたまった嚢胞である。MRIでは内容液がT1強調像で高信号、T2強調像で低信号(shading)を示すのが典型で、組織では子宮内膜腺と内膜間質、ヘモジデリンを貪食したマクロファージがみられる。CA125の軽度上昇は起こりうるが、嚢胞内に充実性結節が出現した場合は悪性化(明細胞癌・類内膜癌)を疑うべきであり、淡明な腫瘍細胞の増殖がみられる本例は単なるチョコレート嚢胞ではない。本例はチョコレート嚢胞を背景として発生した癌と考えられる。

卵巣腫瘍の分類(由来による)

・上皮性腫瘍:漿液性、粘液性、類内膜、明細胞、Brenner腫瘍など。卵巣悪性腫瘍の大部分を占める。 ・性索間質性腫瘍:顆粒膜細胞腫(エストロゲン産生)、莢膜細胞腫、線維腫(Meigs症候群)、Sertoli-Leydig細胞腫(アンドロゲン産生)など。 ・胚細胞腫瘍:成熟嚢胞性奇形腫、未分化胚細胞腫(LDH上昇)、卵黄嚢腫瘍(AFP上昇)、絨毛癌(hCG上昇)など。

上皮性卵巣癌の主な組織型の特徴

・高異型度漿液性癌:最多。卵管采由来とする説が有力。CA125著明高値、進行例が多い、化学療法が比較的よく効く。 ・明細胞癌:日本では欧米より頻度が高い。子宮内膜症との関連が強い。比較的早期(Ⅰ期)で見つかることが多いが、白金製剤などの抗癌薬に抵抗性で、進行例の予後は不良。血栓症や高カルシウム血症を合併することがある。 ・類内膜癌:子宮内膜症との関連がある。子宮体部の類内膜癌と重複することがある。 ・粘液性癌:巨大な多房性嚢胞をつくりやすい。CEA、CA19-9が上昇しやすい。

子宮内膜症と卵巣癌

卵巣子宮内膜症性嚢胞からは年率1%弱程度の頻度で癌が発生するとされ、特に40歳以上、嚢胞径の大きいもの(目安として10cm前後以上)、増大傾向のあるもの、閉経後に存続するものはリスクが高い。経過観察中に嚢胞内の充実部(壁在結節)の出現、造影効果を伴う結節、T2強調像でのshadingの消失などがみられたら悪性化を疑う。

卵巣腫瘍のMRI所見の目安

・脂肪成分(T1高信号で脂肪抑制にて信号低下)→ 成熟嚢胞性奇形腫 ・T1高信号・T2低信号(shading)→ チョコレート嚢胞 ・壁在結節・充実部の造影効果 → 悪性(境界悪性を含む)を疑う

POINT

・子宮内膜症(チョコレート嚢胞)の既往+閉経後+嚢胞内の充実部 → 卵巣明細胞癌(または類内膜癌)を考える。 ・明細胞癌の組織:グリコーゲンに富む淡明な細胞質、鋲釘(hobnail)細胞。 ・明細胞癌は腫瘍径の割にCA125上昇が軽度、化学療法抵抗性。 ・漿液性癌はCA125著明高値・乳頭状増殖・砂粒体、粘液性癌はCEA/CA19-9、奇形腫は脂肪成分、チョコレート嚢胞はT1高信号・T2低信号。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。