卵巣の腫瘍、実は胃から来ていた?―転移性卵巣腫瘍とKrukenberg腫瘍
第116回医師国家試験 F問題 第32問
国試問題にチャレンジ
転移性卵巣腫瘍の原発巣で頻度が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.肺癌
- b.胃癌
- c.大腸癌
- d.膀胱癌
- e.甲状腺癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
転移性卵巣腫瘍は卵巣悪性腫瘍の1〜2割程度を占め、原発巣は胃・大腸などの消化管が多く、わが国では胃癌由来が最多です。印環細胞癌が卵巣間質に浸潤し間質増生を伴うものをKrukenberg腫瘍と呼び、両側性で卵巣の外形を保った充実性腫大が特徴です。肺癌・膀胱癌・甲状腺癌からの卵巣転移はまれで、卵巣甲状腺腫は奇形腫の一亜型であり転移ではありません。両側性の充実性腫瘤やCEA・CA19-9の上昇は転移性を疑う手がかりとなり、術前に消化管内視鏡で原発巣を検索することがあります。Virchow転移やSchnitzler転移などとあわせて胃癌の転移様式を整理しておくことが、婦人科と消化器領域をつなぐ理解につながります。
解答・解説
正解はb, cです
転移性卵巣腫瘍とは、卵巣以外の臓器に生じた悪性腫瘍が卵巣に転移したものである。卵巣の悪性腫瘍全体の約10〜25%を占めるとされ、決してまれではない。 原発巣として多いのは消化管(胃・大腸)であり、次いで乳腺、子宮体部、膵・胆道などが挙げられる。日本を含む東アジアでは胃癌の頻度が高いことを反映して胃癌からの転移が最も多く、欧米では大腸癌や乳癌からの転移の比率が高い。 消化管癌が卵巣に転移しやすい経路としては、腹腔内への播種(腹膜播種)、リンパ行性転移、血行性転移が考えられている。特に生殖年齢の卵巣は血流が豊富で、排卵による卵巣表面の破綻部位があるため腫瘍細胞が生着しやすいと推測されている。 したがって「頻度が高い原発巣」としては、消化管である胃癌と大腸癌を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 肺癌
肺癌は脳・骨・副腎・肝臓などへの遠隔転移が多い癌であり、卵巣転移は起こりうるもののまれである。転移性卵巣腫瘍の原発巣として頻度が高いとはいえない。
- ○b. 胃癌
わが国では転移性卵巣腫瘍の原発巣として最も多いのが胃癌である。特に、印環細胞(粘液を細胞内にため込み、核が辺縁に押しやられて指輪のように見える細胞)が卵巣間質に浸潤し、間質の増生を伴うものをKrukenberg腫瘍と呼ぶ。両側性で、卵巣の形を保ったまま充実性に腫大することが多い。スキルス胃癌などの低分化型・印環細胞癌に多く、比較的若い女性にもみられる。卵巣腫瘍が先に見つかり、精査で胃癌が判明することもある。
- ○c. 大腸癌
大腸癌も転移性卵巣腫瘍の主要な原発巣であり、欧米では最も多い原発巣の一つである。わが国でも大腸癌罹患数の増加に伴い重要性が増している。大腸癌の卵巣転移は嚢胞性・充実性の混在した腫瘤をつくり、組織像が卵巣原発の類内膜癌や粘液性癌に似ることがあるため、免疫染色(大腸癌ではCK20陽性・CK7陰性・CDX2陽性となることが多い)などで鑑別する。
- ×d. 膀胱癌
膀胱癌(多くは尿路上皮癌)は骨盤内臓器ではあるが、主な転移先はリンパ節・肺・骨・肝臓であり、卵巣への転移はまれである。転移性卵巣腫瘍の原発巣として頻度が高いとはいえない。
- ×e. 甲状腺癌
甲状腺癌は大部分を占める乳頭癌ではリンパ節転移、濾胞癌では肺・骨への血行性転移が主体であり、卵巣への転移はきわめてまれである。なお、卵巣に甲状腺組織がみられる「卵巣甲状腺腫(struma ovarii)」は成熟嚢胞性奇形腫の一亜型である卵巣原発腫瘍であり、甲状腺癌の転移ではない点に注意する。
転移性卵巣腫瘍の特徴
・卵巣悪性腫瘍の約10〜25%を占める。 ・原発巣:消化管(胃、大腸・虫垂)が最多で、ほかに乳腺、子宮体部、膵・胆道など。わが国では胃癌が最も多い。 ・両側性であることが多い(原発性卵巣癌に比べて両側性の比率が高い)。 ・原発巣より先に卵巣腫瘍として発見されることがあり、卵巣腫瘍の術前評価では上部・下部消化管内視鏡などで消化管原発の検索を行うことがある。 ・予後は一般に不良であり、原発巣の進行度と治療に左右される。
Krukenberg腫瘍
・印環細胞癌が卵巣に転移し、間質の増生(偽肉腫様)を伴うもの。 ・原発巣は胃が最も多く、ほかに大腸、虫垂、乳腺、胆道など。 ・両側性・充実性で卵巣の外形が保たれることが多い。 ・間質の黄体化によりエストロゲンやアンドロゲンを産生し、不正出血や男性化徴候を示すこともある。
Schnitzler転移との区別
胃癌などの腹膜播種がDouglas窩(直腸子宮窩)に生じたものはSchnitzler転移と呼ばれ、直腸診で硬結として触れる。Krukenberg腫瘍とあわせて胃癌の転移様式として整理しておくとよい(ほかにVirchow転移:左鎖骨上窩リンパ節、Sister Mary Joseph結節:臍転移)。
原発性卵巣癌との鑑別のポイント
両側性、比較的小さい充実性腫瘤、消化器症状や便潜血陽性、CEAやCA19-9の上昇(CA125単独上昇ではない)などは転移性を疑う手がかりとなる。
POINT
・転移性卵巣腫瘍は卵巣悪性腫瘍の約10〜25%を占め、原発巣は消化管(胃・大腸)が多い。 ・わが国では胃癌由来が最多で、印環細胞癌の卵巣転移をKrukenberg腫瘍という。 ・転移性卵巣腫瘍は両側性が多い。 ・肺癌・膀胱癌・甲状腺癌からの卵巣転移はまれ。 ・胃癌の遠隔転移の名称(Krukenberg、Schnitzler、Virchow、Sister Mary Joseph)をまとめて覚える。
