男児に偏るか、親から子へ受け継がれるか―原因蛋白から読み解く遺伝形式
第116回医師国家試験 F問題 第31問
国試問題にチャレンジ
先天異常と遺伝形式の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.血友病 ―― X連鎖劣性遺伝
- b.軟骨無形成症 ―― 細胞質遺伝
- c.Marfan症候群 ―― 常染色体優性遺伝
- d.神経線維腫症1型 ―― X連鎖劣性遺伝
- e.Duchenne型筋ジストロフィー ―― 常染色体劣性遺伝
対話形式の解説
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ドクターまとめ
単一遺伝子疾患の遺伝形式は、原因となる蛋白の種類と罹患者の性別の偏りから推定できます。血友病A・BやDuchenne型筋ジストロフィーはX染色体上の遺伝子異常によるX連鎖潜性(劣性)遺伝で、患者はほぼ男性です。Marfan症候群(FBN1)、軟骨無形成症(FGFR3)、神経線維腫症1型(NF1)のように構造蛋白・受容体・腫瘍抑制遺伝子の異常による疾患は常染色体顕性(優性)遺伝が多く、新生突然変異の割合が高いことも特徴です。一方、酵素欠損による代謝異常症や福山型先天性筋ジストロフィーは常染色体潜性遺伝、MELASなどのミトコンドリア病は母系遺伝(細胞質遺伝)をとります。こうした法則を理解しておくと、家系図の解釈や遺伝カウンセリングの場面でも迷わず遺伝形式を推定できるようになります。
解答・解説
正解はa, cです
代表的な単一遺伝子疾患について、その遺伝形式を問う問題である。遺伝形式は大きく、常染色体顕性(優性)遺伝、常染色体潜性(劣性)遺伝、X連鎖潜性(劣性)遺伝、X連鎖顕性(優性)遺伝、ミトコンドリア遺伝(細胞質遺伝・母系遺伝)に分けられる。なお日本医学会・日本人類遺伝学会の用語改訂により、現在は「優性」を「顕性」、「劣性」を「潜性」と呼ぶことが推奨されているが、国家試験では両方の表記が用いられる。 考え方のコツとして、以下の傾向を押さえておくと判断しやすい。 ・構造蛋白(コラーゲン、フィブリリン、受容体など)の異常や腫瘍抑制遺伝子の異常による疾患は常染色体顕性遺伝が多い(軟骨無形成症、Marfan症候群、神経線維腫症1型など)。片方のアレルの異常だけで機能が損なわれるためである。 ・酵素欠損による代謝異常症は潜性遺伝が多い。片方のアレルが正常なら酵素活性がある程度保たれるためである。 ・男児に偏って発症し、母親を介して伝わる疾患はX連鎖潜性遺伝を考える(血友病A・B、Duchenne型筋ジストロフィーなど)。 ・母親からのみ伝わり、エネルギー需要の大きい脳・筋に症状が出やすい疾患はミトコンドリア遺伝を考える(MELASなど)。 本問では、血友病(X連鎖潜性)とMarfan症候群(常染色体顕性)の組合せが正しい。
選択肢考察
- ○a. 血友病 ―― X連鎖劣性遺伝
血友病Aは第Ⅷ凝固因子、血友病Bは第Ⅸ凝固因子の遺伝子異常によるが、どちらの遺伝子もX染色体上にあり、X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとる。X染色体を1本しか持たない男性では異常アレルがそのまま発症につながるため患者はほぼ男性であり、女性は多くが保因者となる。保因者の母親から生まれる男児の1/2が罹患し、女児の1/2が保因者となる。組合せは正しい。なお、約1/3は家族歴のない新生突然変異による。
- ×b. 軟骨無形成症 ―― 細胞質遺伝
軟骨無形成症は線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)遺伝子の機能獲得型変異により、軟骨内骨化が障害される疾患で、常染色体顕性(優性)遺伝である。四肢短縮型の低身長、相対的な大頭症、前額突出、鞍鼻などを示す。約80%は両親とも非罹患の新生突然変異で、父親の高年齢が危険因子とされる。細胞質遺伝(ミトコンドリア遺伝)ではないので誤り。
- ○c. Marfan症候群 ―― 常染色体優性遺伝
Marfan症候群は、弾性線維の構成成分である細胞外マトリックス蛋白フィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による結合組織疾患で、常染色体顕性(優性)遺伝である。高身長・長い四肢やくも指(骨格系)、水晶体偏位(眼)、大動脈基部拡張・大動脈解離(心血管系)が三大症状である。約25%は新生突然変異による。組合せは正しい。
- ×d. 神経線維腫症1型 ―― X連鎖劣性遺伝
神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)は、腫瘍抑制遺伝子であるNF1遺伝子(17番染色体、蛋白名ニューロフィブロミン)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。カフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑、虹彩小結節(Lisch結節)などを呈する。約半数は新生突然変異による。X連鎖潜性遺伝ではないので誤り。
- ×e. Duchenne型筋ジストロフィー ―― 常染色体劣性遺伝
Duchenne型筋ジストロフィーは、X染色体(Xp21)上にあるジストロフィン遺伝子の変異により筋細胞膜を支えるジストロフィンが欠損する疾患で、X連鎖潜性(劣性)遺伝である。男児に発症し、3〜5歳頃からの歩行異常、登攀性起立(Gowers徴候)、腓腹筋の仮性肥大、血清CK著明高値が特徴である。常染色体潜性遺伝ではないので誤り。なお、日本に多い福山型先天性筋ジストロフィーはフクチン遺伝子変異による常染色体潜性遺伝であり、混同しないよう注意する。
先天異常の成因による分類
1. 染色体異常:数的異常(21トリソミーなどのトリソミー、Turner症候群など)と構造異常(転座、欠失など)。出生児の約0.6〜0.8%にみられ、受精卵の段階ではさらに多いが、多くは流産・死産となる。一般に常染色体異常の方が性染色体異常より知的障害や多発奇形を伴いやすい。 2. 単一遺伝子疾患:一つの遺伝子の変異による。メンデル遺伝に従う。 3. 多因子遺伝:複数の遺伝子と環境要因が関与(口唇口蓋裂、先天性心疾患の多く、神経管閉鎖不全など)。 4. 環境要因(外因):薬剤、アルコール、放射線、母体感染(風疹、サイトメガロウイルスなど)。
遺伝形式ごとの代表的疾患
常染色体顕性(優性):軟骨無形成症、Marfan症候群、神経線維腫症1型・2型、結節性硬化症、Huntington病、筋強直性ジストロフィー、家族性大腸腺腫症、家族性高コレステロール血症、骨形成不全症(多くはⅠ型コラーゲン遺伝子変異による顕性遺伝)、遺伝性球状赤血球症 常染色体潜性(劣性):多くの先天代謝異常症(フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、糖原病、ライソゾーム病の大部分)、21-水酸化酵素欠損症(先天性副腎過形成)、ADA(アデノシンデアミナーゼ)欠損症、Wilson病、脊髄性筋萎縮症、福山型先天性筋ジストロフィー、嚢胞性線維症 X連鎖潜性(劣性):血友病A・B、Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー、Lesch-Nyhan症候群、G6PD欠損症、Fabry病、Hunter症候群(ムコ多糖症Ⅱ型)、慢性肉芽腫症(多く)、副腎白質ジストロフィー X連鎖顕性(優性):ビタミンD抵抗性くる病(X連鎖性低リン血症)、Rett症候群(多くは新生突然変異) ミトコンドリア遺伝(細胞質遺伝・母系遺伝):MELAS、MERRF、Leber遺伝性視神経症。受精卵のミトコンドリアは卵子由来のため母親からのみ子へ伝わる。
遺伝形式の特徴
常染色体顕性:罹患者の子は性別によらず1/2の確率で罹患し、各世代に患者がみられやすい。新生突然変異の割合が高い疾患も多い。 常染色体潜性:両親がともに保因者のとき子の1/4が罹患。血族婚で頻度が上がる。 X連鎖潜性:患者はほぼ男性。罹患男性の子のうち男児は罹患せず、女児は全員保因者となる(父から息子への伝達はない)。
POINT
・血友病A・B、Duchenne型筋ジストロフィーはX連鎖潜性(劣性)遺伝。 ・軟骨無形成症(FGFR3)、Marfan症候群(FBN1)、神経線維腫症1型(NF1)は常染色体顕性(優性)遺伝。 ・構造蛋白・受容体・腫瘍抑制遺伝子の異常は顕性、酵素欠損は潜性が多い。 ・細胞質遺伝(母系遺伝)はミトコンドリア病(MELAS、MERRF、Leber遺伝性視神経症)。 ・福山型先天性筋ジストロフィーは常染色体潜性遺伝で、Duchenne型と区別する。
