「かぜの王様」はどのウイルス?―呼吸器ウイルスと病態の対応を整理する
第110回医師国家試験 D問題 第3問
国試問題にチャレンジ
成人の病態と関連性が強いウイルスとの組合せで正しいのはどれか。
- a.肺炎 ―― アデノウイルス
- b.上気道炎 ―― ライノウイルス
- c.喘息の増悪 ―― サイトメガロウイルス
- d.気管支拡張症の増悪 ―― RSウイルス
- e.慢性閉塞性肺疾患の増悪 ―― パラインフルエンザウイルス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人の上気道炎(普通感冒)の原因として最も多いのはライノウイルスで、低めの至適増殖温度により鼻腔などの上気道でよく増殖し、多数の血清型があるため繰り返し感染します。ライノウイルスは喘息やCOPDの増悪の主要な誘因でもある点が重要です。アデノウイルスは咽頭結膜熱・流行性角結膜炎、サイトメガロウイルスは免疫不全者の日和見感染、RSウイルスは乳幼児の細気管支炎、パラインフルエンザウイルスは乳幼児のクループが代表的な病態です。呼吸器ウイルスは複数の病態を起こしうるため、「最も代表的な対応」を整理して覚えることが選択肢を見極める鍵になります。かぜ症候群の大半がウイルス性であることを理解しておくことは、抗菌薬の適正使用という臨床上の課題にも直結します。
解答・解説
正解はbです
本問は、成人の呼吸器の病態とその原因として「代表的な」ウイルスの対応を問うものである。呼吸器ウイルスの多くは複数の病態を起こしうるため、「関連があるかないか」ではなく「その病態の原因として最も代表的・高頻度か」という視点で判断する必要がある。 整理の手がかりは次のとおりである。 ・成人の上気道炎(いわゆる普通感冒、かぜ症候群)は80〜90%がウイルス性で、原因として最も多いのはライノウイルスである。次いでコロナウイルス(従来型)、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが続く。 ・ライノウイルスは上気道炎にとどまらず、成人・小児の気管支喘息の増悪や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪の誘因としても最も重要なウイルスの一つである。 ・アデノウイルスは咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、扁桃炎など、粘膜の炎症を起こす代表的ウイルスである。 ・サイトメガロウイルスは健常成人ではほとんど症状を起こさず、免疫不全者(臓器移植後、HIV感染者など)での日和見感染として問題になる。 ・RSウイルス(respiratory syncytial virus)とパラインフルエンザウイルスは、主に乳幼児の下気道感染(細気管支炎、クループ)の原因として代表的である。 以上から、病態と代表的ウイルスの組合せとして正しいのは「上気道炎 ―― ライノウイルス」である。
選択肢考察
- ×a. 肺炎 ―― アデノウイルス
アデノウイルスの代表的な病態は、発熱・咽頭炎・結膜炎をきたす咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、滲出性扁桃炎、出血性膀胱炎、小児の胃腸炎などである。一部の血清型(7型、14型など)は重症肺炎を起こすことがあり、集団生活の場などで成人の肺炎の原因となった報告もあるが、成人の肺炎の原因ウイルスとして代表的・高頻度とはいえない。成人の市中肺炎の原因としてはまず肺炎球菌などの細菌が重要であり、ウイルスではインフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の方が関連は強い。
- ○b. 上気道炎 ―― ライノウイルス
ライノウイルスはピコルナウイルス科に属するRNAウイルスで、成人の上気道炎(普通感冒)の原因として最も多い。100種類以上の血清型があるため、一度かかっても別の型に繰り返し感染する。至適増殖温度が33〜35℃前後と体温よりやや低く、鼻腔など温度の低い上気道でよく増殖することが、上気道炎を起こしやすい理由の一つである。症状は鼻汁、鼻閉、くしゃみ、咽頭痛が中心で、発熱は軽度にとどまることが多い。特異的な治療薬やワクチンはなく、対症療法で自然に軽快する。
- ×c. 喘息の増悪 ―― サイトメガロウイルス
サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属し、多くの人が幼少期に不顕性感染して体内に潜伏している。健常成人で問題になることは少なく、臓器移植・造血幹細胞移植後、HIV感染者、免疫抑制薬使用中などの免疫不全状態で再活性化し、間質性肺炎、網膜炎、腸炎などを起こす日和見感染の原因として代表的である。気管支喘息の増悪との関連は乏しい。喘息増悪の誘因となるウイルスとして最も重要なのはライノウイルスであり、ほかにRSウイルス、インフルエンザウイルスなども誘因となる。
- ×d. 気管支拡張症の増悪 ―― RSウイルス
RSウイルスは乳幼児の細気管支炎・肺炎の原因として最も代表的なウイルスで、2歳までにほぼすべての小児が一度は感染する。成人では多くが上気道炎程度で済むが、高齢者や心肺に基礎疾患のある人では重症化しうる。一方、気管支拡張症の増悪は、気道に定着した細菌(インフルエンザ菌、緑膿菌など)による感染で起こることが多く、RSウイルスが代表的な原因とはいえない。
- ×e. 慢性閉塞性肺疾患の増悪 ―― パラインフルエンザウイルス
パラインフルエンザウイルスは、乳幼児のクループ(喉頭気管気管支炎:犬吠様咳嗽・吸気性喘鳴・嗄声をきたす)の原因として代表的であり、成人では主に軽い上気道炎を起こす。COPDの増悪は約80%が気道感染によって起こり、原因は細菌(インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスなど)とウイルスの両方がある。ウイルスとしてはライノウイルスが最も多く、ほかにインフルエンザウイルスやRSウイルスなどが関与する。パラインフルエンザウイルスが関与することもあるが、COPD増悪の代表的な原因とはいえない。
主な呼吸器ウイルスと代表的な病態
・ライノウイルス:成人の普通感冒(最多)、喘息増悪・COPD増悪の主要な誘因。 ・コロナウイルス(従来型):普通感冒。新型(SARS-CoV-2)は肺炎・急性呼吸窮迫症候群をきたしうる。 ・インフルエンザウイルス:インフルエンザ(高熱・全身症状)、ウイルス性肺炎、二次性細菌性肺炎(特に黄色ブドウ球菌・肺炎球菌)。 ・RSウイルス:乳幼児の細気管支炎・肺炎。高齢者・基礎疾患のある成人でも重症化しうる。 ・パラインフルエンザウイルス:乳幼児のクループ。 ・アデノウイルス:咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、扁桃炎、出血性膀胱炎、胃腸炎(40・41型)、まれに重症肺炎。 ・ヒトメタニューモウイルス:小児の気管支炎・肺炎(RSウイルスと似る)。 ・サイトメガロウイルス:免疫不全者の間質性肺炎、網膜炎、腸炎。先天性感染。
かぜ症候群の基本
かぜ症候群の原因の80〜90%はウイルスであり、抗菌薬は原則として不要である。安易な抗菌薬投与は耐性菌を増やす原因となるため、細菌性の合併症(細菌性副鼻腔炎、A群β溶血性レンサ球菌咽頭炎、肺炎など)が疑われる場合に限って用いる。
POINT
・成人の上気道炎(普通感冒)の原因として最も多いのはライノウイルスである。 ・ライノウイルスは喘息増悪・COPD増悪の誘因としても重要。 ・アデノウイルス:咽頭結膜熱・流行性角結膜炎。 ・サイトメガロウイルス:免疫不全者の日和見感染(間質性肺炎など)。 ・RSウイルス:乳幼児の細気管支炎。パラインフルエンザウイルス:乳幼児のクループ。
