良性でも「取り切る」のが原則―乳腺葉状腫瘍だけが切除を標準とする理由
第110回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
外科的切除が標準治療となるのはどれか。
- a.乳腺症
- b.女性化乳房
- c.乳腺線維腺腫
- d.乳腺葉状腫瘍
- e.乳腺乳管内乳頭腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳腺の良性疾患の多くは、乳癌を除外できれば経過観察が基本です。乳腺症と女性化乳房はホルモン環境の変化による非腫瘍性の変化で、経過観察や原因対策が中心となり、線維腺腫と乳管内乳頭腫は良性腫瘍で、良性が確認できれば経過観察が原則です。これに対し乳腺葉状腫瘍は良性・境界悪性・悪性の幅をもつ線維上皮性腫瘍で、急速に増大し、不十分な切除では局所再発して悪性度が上がることがあるため、周囲の正常組織を含めて断端陰性を確保する外科的切除が標準治療です。転移は主に血行性でリンパ節転移はまれなため、腋窩リンパ節郭清は通常行いません。「腫瘍か否か」「再発・悪性化のリスクはどうか」という軸で治療方針を整理することは、乳腺疾患全般を理解するうえで役立ちます。
解答・解説
正解はdです
本問は、乳腺の良性疾患・境界病変のうち「手術で取り除くことが標準的な治療とされるもの」を選ばせる問題である。 乳腺の良性疾患の多くは、悪性腫瘍(乳癌)との区別がついた段階で経過観察とされる。治療方針を考える際には、次の2点を軸にすると整理しやすい。 1. そもそも腫瘍(新生物)か、ホルモン環境の変化などによる非腫瘍性の変化か。非腫瘍性であれば、原因への対処と経過観察が基本となり、切除の対象にはならない。 2. 腫瘍であれば、増大・局所再発・悪性化の可能性がどの程度あるか。画像検査と針生検(組織の一部を針で採取して病理診断する検査)で良性と確定でき、増大傾向が乏しければ経過観察でよい。一方、急速に大きくなる、取り残すと再発する、悪性の性格をもつものが含まれる、といった腫瘍では切除が必要になる。 選択肢のうち、乳腺症と女性化乳房は非腫瘍性の変化、乳腺線維腺腫と乳管内乳頭腫は良性腫瘍で、いずれも診断が確定すれば経過観察が原則である(症状が強い場合や診断がはっきりしない場合に限り切除を選ぶ)。これに対し乳腺葉状腫瘍は、良性・境界悪性・悪性の幅をもつ腫瘍で、急速に増大しやすく、不十分な切除では局所再発をきたし、再発のたびに悪性度が増すことがある。このため、診断がついた時点で周囲の正常乳腺組織を含めて切除することが標準治療とされている。
選択肢考察
- ×a. 乳腺症
乳腺症は30〜40歳代の女性に多い。卵巣ホルモンのバランスの乱れ(相対的なエストロゲン過剰)を背景に、乳管や小葉の増生、嚢胞(液体のたまった袋)の形成、線維化などが入り混じって起こる非腫瘍性の変化である。月経周期に連動する乳房痛や、境界のはっきりしない硬結(しこり)が特徴で、閉経後は自然に軽快することが多い。治療は乳癌を除外したうえでの経過観察が基本であり、痛みが強いときに鎮痛薬などを用いる程度である。切除が標準治療となる疾患ではない。
- ×b. 女性化乳房
女性化乳房は男性の乳腺組織が増生する状態で、エストロゲンとアンドロゲンの作用のバランスがエストロゲン側に傾くことで生じる。新生児期・思春期・高齢期にみられる生理的なものが多く、思春期のものは多くが自然に退縮する。病的な原因としては、肝硬変(エストロゲン代謝の低下)、薬剤(スピロノラクトン、ジギタリス、シメチジン、抗アンドロゲン薬など)、精巣腫瘍、Klinefelter症候群、甲状腺機能亢進症などがある。治療は原因の検索と除去(原因薬剤の中止など)および経過観察が中心で、腫瘍ではないため外科的切除は標準治療ではない。長期間持続し整容的な問題が大きい場合などに限って手術が検討される。
- ×c. 乳腺線維腺腫
乳腺線維腺腫は10〜30歳代の若年女性に最も多い良性腫瘍で、乳管の上皮成分と間質(線維性結合組織)がともに増殖する。境界明瞭で表面平滑、弾性硬、よく動く腫瘤として触れる。超音波検査で典型的な所見を示し、必要に応じて細胞診や針生検で良性と確認できれば、経過観察が原則である。悪性化はきわめてまれである。ただし、増大傾向がある場合、腫瘤が大きい場合、葉状腫瘍との区別がつきにくい場合、本人が摘出を強く希望する場合には腫瘤摘出術を行うことがある。あくまで状況に応じた選択肢であり、標準治療が切除というわけではない。
- ○d. 乳腺葉状腫瘍
乳腺葉状腫瘍は、線維腺腫と同じく上皮と間質からなる腫瘍だが、間質の細胞成分が多く、増殖力が強い点が異なる。40歳代を中心に幅広い年齢でみられ、短期間で急速に増大し、5cmを超える大きな腫瘤となることも少なくない。病理学的には間質細胞の異型度、核分裂像の数、周囲への浸潤性の発育などから良性・境界悪性・悪性に分類されるが、良性と診断されたものでも不十分な切除では局所再発しやすく、再発を繰り返すうちに悪性度が上がることがある。悪性のものは主に血行性に肺や骨へ転移しうる。このような性質から、針生検などで葉状腫瘍と診断された場合は、腫瘍を取り残さないよう周囲の正常組織をつけて(断端陰性を確保して)切除することが標準治療とされる。腫瘍が大きい場合には乳房切除術が選択されることもある。リンパ節転移はまれであるため、腋窩リンパ節郭清は通常行わない。
- ×e. 乳腺乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫は30〜50歳代に多く、比較的太い乳管の中に乳頭状に増殖する良性腫瘍である。片側の単一乳管からの血性乳頭分泌が代表的な症状で、乳頭近くに小さな腫瘤を触れることもある。問題となるのは非浸潤性乳管癌などの乳頭状の癌との鑑別で、分泌液の細胞診だけでは良悪の判定が難しいことがある。超音波検査、乳管造影、乳管内視鏡、針生検などで良性と判断できれば経過観察が可能である。診断が確定できない場合や出血が続く場合には、病変のある乳管とその支配領域を切除する手術(乳管腺葉区域切除術)を診断と治療を兼ねて行うことがあるが、全例に切除が標準治療とされるわけではない。
乳腺の主な良性疾患・境界病変の整理
・乳腺症:30〜40歳代。ホルモン環境の乱れによる非腫瘍性変化。周期的な乳房痛、境界不明瞭な硬結。→経過観察。 ・女性化乳房:男性の乳腺増生。思春期・高齢者の生理的なもの、肝硬変、薬剤(スピロノラクトンなど)、精巣腫瘍などが原因。→原因対策・経過観察。 ・線維腺腫:10〜30歳代。境界明瞭で可動性良好な腫瘤。→良性確認後は経過観察。増大例などは摘出。 ・葉状腫瘍:40歳代中心。急速増大、大型化しやすい。良性・境界悪性・悪性に分類。局所再発しやすい。→断端陰性を確保した外科的切除。 ・乳管内乳頭腫:30〜50歳代。単一乳管からの血性乳頭分泌。→乳頭状の癌との鑑別が重要。良性確定なら経過観察、診断困難例などは乳管腺葉区域切除。
葉状腫瘍と線維腺腫の見分け方
両者はいずれも上皮と間質が増殖する線維上皮性腫瘍であり、小さいうちは画像だけでは区別しにくい。葉状腫瘍を疑う手がかりとしては、比較的高い年齢での発症、急速な増大、大きな腫瘤、超音波での分葉状の形態や内部の裂隙状・嚢胞状の変化などがある。線維腺腫として経過観察中に急に大きくなってきた腫瘤では、葉状腫瘍を念頭に針生検や摘出を検討する。
葉状腫瘍の手術のポイント
・単純な核出術(腫瘍だけをくり抜く手術)では再発しやすいため、周囲に正常組織をつけて切除する。 ・転移は主に血行性(肺・骨)で、リンパ節転移はまれなため腋窩リンパ節郭清は原則不要である。 ・ホルモン療法などの薬物療法は効果が確立しておらず、治療の中心は手術である。
POINT
・乳腺葉状腫瘍は、急速増大・局所再発・悪性化の可能性があるため、周囲の正常組織を含めた外科的切除が標準治療である。 ・葉状腫瘍は血行性転移(肺・骨)が主で、腋窩リンパ節郭清は通常行わない。 ・乳腺症・女性化乳房は非腫瘍性で経過観察(女性化乳房は原因対策)。 ・線維腺腫・乳管内乳頭腫は良性腫瘍で、良性が確認できれば経過観察が基本。乳管内乳頭腫は乳頭状の癌との鑑別が重要。
