StudyMed医師国家試験

よく動く、つるんとした卵形のしこり―20代女性の乳房腫瘤は線維腺腫を第一に

第120回医師国家試験 A問題 第56問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第56問

22歳の女性。右乳房のしこりを主訴に来院した。右乳房に長径約2cmの卵形の腫瘤を触知する。腫瘤は表面平滑で弾性硬,可動性は良好で圧痛を認めない。乳頭からの分泌物を認めない。乳房超音波像を下に示す。  最も考えられるのはどれか。

第120回 A問題 第56問の問題画像
  1. a.乳癌
  2. b.乳腺症
  3. c.乳管内乳頭腫
  4. d.乳腺線維腺腫
  5. e.乳房Paget病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い女性の乳房のしこりの正体を見極める問題だ。手がかりは3つ。年齢、触診所見、そして超音波像。乳房腫瘤を診るとき、まずは良性か悪性かを意識して所見を読んでいくことが大切だよ。
医学生医学生
しこりと聞くと、どうしても最初に乳癌を心配してしまいます。
ドクタードクター
患者さんもまずそこを心配するし、見逃してはいけないのも確かだ。でも年齢はとても大きな手がかりになる。乳癌は40〜60歳代に多く、22歳での発症はまれ。一方、10〜20歳代の女性の乳房腫瘤の大部分は乳腺線維腺腫なんだ。
医学生医学生
触診の所見はどう解釈すればいいでしょうか。弾性硬というと硬めなので、少し気になります。
ドクタードクター
いい疑問だね。実は硬さだけでは良悪性を区別しにくい。むしろ重要なのは、表面が平滑か、境界がはっきりしているか、よく動くかという点だ。乳癌は周囲に浸潤するので表面不整で境界不明瞭、可動性が乏しく、皮膚がひきつれるえくぼ徴候を伴うこともある。今回は表面平滑で可動性良好、どれも良性を示す所見だ。
医学生医学生
OSCEの乳房診察の練習で、可動性を必ず確認するように教わったのはそういう理由だったんですね。
ドクタードクター
その通り。次は超音波像だ。皮下の乳腺内に、横に長い楕円形の低エコー腫瘤があって、輪郭は全周にわたって平滑で境界明瞭、内部エコーはほぼ均一。後方エコーの減弱もなく、周囲へのしみ込み像もない。どう読む?
医学生医学生
横長というのがポイントでしょうか。縦横比が小さいと良性寄り、と聞いた気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。乳癌は組織の層を越えて縦方向にも浸潤するので縦長、つまり縦横比が大きくなりやすい。ほかにも形状不整、スピキュラと呼ばれるぎざぎざの辺縁、境界部の高エコー像、後方エコーの減弱、内部の不均一が悪性を示唆する所見だ。今回はそのどれもなく、良性の特徴がそろっている。
医学生医学生
年齢、触診、超音波のすべてが線維腺腫に合うということですね。
ドクタードクター
そう、正解は乳腺線維腺腫だ。乳管周囲の間質と乳管上皮の両方が増殖する良性腫瘍で、周囲と癒着しないから指で押すとよく動く。英語でmobile massと表現されるのもそのためだね。ほかの選択肢も確認しておこう。乳腺症はどうかな。
医学生医学生
乳腺症は月経周期に合わせて痛む病気だった気がします。
ドクタードクター
その通り。卵巣ホルモンのバランス異常を背景に乳腺が増生したり嚢胞化したりする良性変化で、30〜40歳代に多い。周期的な痛みと、境界のはっきりしない硬結として触れるのが典型で、超音波では小嚢胞や低エコー域が斑状に混じる像になりやすい。今回のような境界明瞭な単発の卵形腫瘤とは合わない。
医学生医学生
乳管内乳頭腫は、血性の乳頭分泌が特徴でしたよね。
ドクタードクター
そう。乳頭近くの太い乳管にできやすい良性腫瘍で、30〜50歳代に多く、主な症状は血性や漿液性の乳頭分泌だ。超音波では拡張した乳管の中に小さな充実性病変が見える。今回は分泌がなく、乳管拡張もないので否定的だね。
医学生医学生
乳房Paget病は病理の講義で、乳頭の湿疹みたいな見た目になる癌だと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。乳管内に発生した癌細胞が乳頭・乳輪の表皮内に広がる特殊な乳癌で、中高年に多く、乳頭や乳輪のびらん、発赤、かさぶたが主な症状だ。通常は腫瘤を触れないから、今回とは合わない。
医学生医学生
典型的な線維腺腫なら、すぐに手術で取るんですか。
ドクタードクター
基本は経過観察だよ。触診と超音波で典型像なら経過をみることが多い。画像で非典型な所見がある、増大傾向がある場合は、穿刺吸引細胞診や針生検で組織を確認する。大きいもの、増大するもの、本人が希望する場合は摘出を検討する。癌化することはまれだ。
医学生医学生
乳腺外科の実習で、急に大きくなったしこりは葉状腫瘍を考えるように言われました。線維腺腫とは何が違うんですか。
ドクタードクター
大事な鑑別だね。葉状腫瘍も間質と上皮からなる線維上皮性腫瘍だけれど、間質の増殖が強く、短期間に急速に大きくなることが多い。発症年齢も線維腺腫よりやや高く、40歳代に多い。良性・境界病変・悪性に分類され、良性でも局所再発しやすいから、周囲の正常組織をつけて切除する。線維腺腫が大きくなって葉状腫瘍に変わるわけではなく、別の腫瘍として病理学的に区別されることも押さえておこう。
医学生医学生
線維腺腫でも、妊娠中に大きくなることはありますか。
ドクタードクター
あるよ。エストロゲンの影響を受けるので妊娠・授乳期に増大し、閉経後は縮小して石灰化することもある。だから「大きくなった」という情報があったときは、ホルモン環境の変化なのか、葉状腫瘍などを考えるべき増大なのか、経過と画像を合わせて判断することが大切なんだ。

まとめ

10〜30歳代の女性に、表面平滑・境界明瞭で可動性良好な弾性硬の腫瘤を触れ、超音波で横長楕円形・辺縁平滑・内部均一の低エコー腫瘤を認める場合は、乳腺線維腺腫を第一に考えます。乳癌は中高年に多く、表面不整・可動性不良、超音波で縦長・辺縁不整・後方エコー減弱などを示す点が対照的です。周期的な痛みと境界不明瞭な硬結なら乳腺症、血性乳頭分泌なら乳管内乳頭腫、乳頭・乳輪のびらんや湿疹様変化なら乳房Paget病、急速に増大する腫瘤なら葉状腫瘍を考えます。線維腺腫は典型像であれば経過観察が基本で、非典型像や増大時には組織検査を検討します。年齢・触診・超音波の3つを組み合わせて良悪性を見極める姿勢は、乳房腫瘤の診療全般に通じる基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・22歳という若年女性の、右乳房のしこり。 ・触診:長径約2cmの卵形の腫瘤で、表面平滑、弾性硬、可動性良好、圧痛なし。 ・乳頭分泌はない。 ・乳房超音波像:皮下の乳腺内に、横に長い楕円形の低エコー腫瘤がある。輪郭は全周にわたって平滑で境界明瞭、内部エコーはほぼ均一である。縦横比(腫瘤の高さ÷幅)は小さく、周囲組織へのしみ込み像や後方エコーの減弱(音響陰影)はみられない。

診断へのプロセス

乳房腫瘤の鑑別では、まず年齢が大きな手がかりになる。10〜20歳代の女性の乳房腫瘤の大部分は乳腺線維腺腫であり、乳癌は40歳以降に多い。 次に触診所見をみる。乳腺線維腺腫は表面平滑で境界がはっきりし、指で押すと乳腺内をよく動く(可動性良好)。これに対して乳癌は表面が不整で境界が不明瞭、周囲組織に浸潤するため可動性が乏しく、皮膚のひきつれ(えくぼ徴候)を伴うことがある。硬さはどちらも「弾性硬〜硬」で、硬さだけでは区別しにくい。 超音波でも、境界明瞭平滑・横長の楕円形・内部均一・縦横比が小さいという良性の特徴がそろっている。乳癌では、形状不整、辺縁の不整やぎざぎざ(スピキュラ)、境界部の高エコー像、縦横比が大きい(縦長)、後方エコーの減弱、内部エコーの不均一などがみられる。 以上の年齢・触診・画像所見から、乳腺線維腺腫と診断するのが最も妥当である。

選択肢考察

  1. ×a.  乳癌

    乳癌は40〜60歳代に多く、22歳での発症はまれである。触診では表面不整・境界不明瞭で可動性に乏しく、皮膚のえくぼ徴候を伴うことがある。超音波では形状不整、辺縁不整、縦横比が大きい縦長の腫瘤、後方エコーの減弱、境界部高エコー像(ハロー)などを示す。本例の触診所見・超音波所見はいずれも良性腫瘤の特徴であり、乳癌は考えにくい。

  2. ×b.  乳腺症

    乳腺症は卵巣ホルモンのバランス異常を背景に乳腺組織が増生・嚢胞化する良性の変化で、30〜40歳代に多い。月経周期に関連した乳房の痛みや、境界がはっきりしない硬結として触れることが多く、明瞭な孤立性腫瘤は形成しにくい。超音波では、乳腺内に小嚢胞や低エコー域が斑状に混在する豹紋状のパターンを示すことが多い。本例の境界明瞭な単発の卵形腫瘤とは合わない。

  3. ×c.  乳管内乳頭腫

    乳管内乳頭腫は乳管の上皮が乳頭状に増殖する良性腫瘍で、30〜50歳代に多く、乳頭近くの太い乳管にできやすい。代表的な症状は血性あるいは漿液性の乳頭分泌である。超音波では拡張した乳管の内部に小さな充実性病変がみられる。本例は乳頭分泌がなく、乳管拡張を伴わない2cmの充実性腫瘤であり、合致しない。

  4. ○d.  乳腺線維腺腫

    乳腺線維腺腫は乳管周囲の間質(線維性結合組織)と乳管上皮の両方が増殖する良性腫瘍で、10歳代後半〜30歳代の若年女性に最も多い。触診では表面平滑、弾性硬で、周囲との癒着がないためよく動く(mobile mass)。超音波では本例のように、境界明瞭・辺縁平滑な横長の楕円形低エコー腫瘤で、内部エコーは均一、縦横比が小さいのが典型である。年齢、触診所見、超音波所見のすべてが合致する。

  5. ×e.  乳房Paget病

    乳房Paget病は、乳管内に発生した癌細胞が乳頭・乳輪の表皮内へ広がる特殊な乳癌である。中高年女性に多く、乳頭・乳輪のびらん、湿疹に似た発赤、かさぶたなどの皮膚変化が主な症状で、通常は腫瘤を触れない。本例は乳頭・乳輪の皮膚病変の記載がなく、若年者の可動性良好な腫瘤であり、合わない。

乳腺線維腺腫

・間質と上皮の両成分が増殖する線維上皮性腫瘍の代表で、若年女性の乳房腫瘤として最も頻度が高い。 ・大きさは多くが1〜3cmで、多発や両側性のこともある。エストロゲンの影響を受け、妊娠・授乳期に増大し、閉経後は縮小して石灰化することがある。 ・診断:触診と超音波で典型像であれば経過観察とすることが多い。画像で非典型な所見がある場合や増大傾向がある場合には、穿刺吸引細胞診や針生検で組織を確認する。 ・治療:基本的には経過観察。大きいもの、増大傾向のあるもの、葉状腫瘍との鑑別が必要なもの、本人が希望する場合は摘出術を行う。 ・癌化することはまれである。

葉状腫瘍との違い

葉状腫瘍も間質と上皮からなる線維上皮性腫瘍だが、間質成分の増殖が強く、短期間に急速に大きくなることが多い。線維腺腫より発症年齢がやや高く、40歳代に多い。良性・境界病変・悪性に分類され、良性でも局所再発しやすいため、周囲の正常組織をつけて切除する。線維腺腫とは別の腫瘍として扱われ、病理学的に区別される。

乳房腫瘤の主な鑑別(年齢と特徴)

・乳腺線維腺腫:10〜30歳代。境界明瞭、表面平滑、可動性良好。 ・乳腺症:30〜40歳代。周期的な痛み、境界不明瞭な硬結。 ・乳管内乳頭腫:30〜50歳代。血性乳頭分泌。 ・葉状腫瘍:40歳代に多い。急速な増大。 ・乳癌:40〜60歳代に多い。境界不明瞭、表面不整、可動性不良、えくぼ徴候、腋窩リンパ節腫大。

乳房超音波での良悪性の見分け方

・良性を示唆:楕円形、境界明瞭平滑、横長(縦横比が小さい)、内部均一、後方エコーは不変〜増強。 ・悪性を示唆:形状不整、辺縁不整・スピキュラ、境界部高エコー像、縦長(縦横比が大きい)、内部不均一、後方エコー減弱、乳腺前方の境界線の断裂。

POINT

・若年女性(10〜30歳代)の境界明瞭・表面平滑・可動性良好な弾性硬の腫瘤 → 乳腺線維腺腫。 ・超音波では横長楕円形、辺縁平滑、内部均一の低エコー腫瘤。 ・乳癌は中高年に多く、表面不整・可動性不良、超音波で縦長・辺縁不整・後方エコー減弱。 ・乳頭分泌(特に血性)→ 乳管内乳頭腫、乳頭・乳輪のびらん・湿疹様変化 → 乳房Paget病、周期的疼痛と境界不明瞭な硬結 → 乳腺症。 ・急速に増大する線維上皮性腫瘍 → 葉状腫瘍を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。