StudyMed医師国家試験

母の乳癌、初経12歳、出産2回―「該当するか」で見極める乳癌のリスク因子

第119回医師国家試験 D問題 第66問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第66問

54歳の女性。乳がん検診で異常を指摘され来院した。42歳から①高血圧症で,降圧薬を内服中である。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。②母は乳癌のため58歳で死亡した。③初経は12歳。④出産は2回。⑤BMI 20.3。マンモグラフィでは高濃度腫瘤陰影と集簇した多形性の微細石灰化像を認めた。  下線部のうち,想定される疾患のリスクファクターはどれか。

  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、マンモグラフィ所見から想定される疾患を決めたうえで、患者背景のうちどれがそのリスク因子に当たるかを選ぶ問題だ。ポイントは、リスク因子の名前を知っているだけでなく、この患者の具体的な数値が本当にリスク側に入っているかを確かめること。まずは想定される疾患から考えよう。
医学生医学生
集簇した多形性の微細石灰化と高濃度腫瘤なので、乳癌ですよね。
ドクタードクター
その通り。多形性の微細石灰化は形や大きさ、濃度がふぞろいな石灰化で、癌細胞の壊死物質に石灰が沈着してできることが多い。それが狭い範囲に集まっていれば悪性を強く疑う。非浸潤性乳管癌でもよくみられる所見だね。では、乳癌のリスク因子をどう整理するかな。
医学生医学生
エストロゲンに長くさらされるほどリスクが上がる、と腫瘍学の講義で習いました。
ドクタードクター
いい出発点だ。大きく3群に分けると覚えやすい。1つ目がエストロゲン曝露に関わる因子で、早い初経、遅い閉経、出産経験がないこと、初産年齢が高いこと、授乳経験がないこと、閉経後の肥満、閉経後のホルモン補充療法など。2つ目が遺伝的因子で、乳癌の家族歴やBRCA1/2の病的バリアント。3つ目がその他で、乳癌の既往、異型を伴う増殖性病変、高濃度乳房、飲酒、若い時期の胸部放射線照射などだ。
医学生医学生
そうすると、母親の乳癌は家族歴として明らかに該当しますね。
ドクタードクター
正解。母や姉妹、娘といった第1度近親者に乳癌の人がいると、リスクはおよそ2倍になる。近親者の人数が多いほど、発症年齢が若いほど、リスクはさらに高まる。背景に遺伝性乳癌卵巣癌症候群が隠れていることもあるんだ。
医学生医学生
でも初経12歳も、早い初経に入るのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。一般に早い初経とされるのは11歳以下で、日本人女性の平均初経年齢は12歳前後。つまり12歳は標準的で、リスクを高める要因とはいえない。
医学生医学生
出産2回はどうでしょう。出産経験はあるので、リスクにはならない気がします。
ドクタードクター
その通りで、むしろリスクを下げる方向だ。妊娠中に乳腺上皮が最終分化して、発癌に感受性の高い未分化な細胞が減ること、妊娠・授乳中は月経周期が止まって周期的なホルモン刺激が減ることなどが理由とされる。出産回数が多いほど、授乳期間が長いほど防御的に働くよ。
医学生医学生
BMIは肥満なら閉経後のリスクですが、20.3なら普通体重ですね。
ドクタードクター
よく確認できたね。閉経後は脂肪組織のアロマターゼが副腎由来のアンドロゲンをエストロゲンに変換して、それが主なエストロゲン源になる。だから閉経後の肥満がリスクになるんだ。BMI 20.3は普通体重だから該当しない。ちなみに閉経前の肥満は、リスクを上げないか、むしろ下げるとされているよ。
医学生医学生
高血圧は生活習慣病なので、何となく関係がありそうに思えました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いけれど、高血圧や降圧薬の内服は乳癌のリスク因子として確立していない。生活習慣病で乳癌との関連が知られているのは、閉経後の肥満と、それに関連する2型糖尿病くらいだ。
医学生医学生
項目の名前だけで飛びつかず、数値が本当にリスクの範囲に入るかを確かめることが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の教訓だ。発展知識として、遺伝性乳癌卵巣癌症候群も押さえておこう。BRCA1またはBRCA2の病的バリアントによる常染色体顕性遺伝の疾患で、若年発症、両側乳癌、男性乳癌、卵巣癌や膵癌の家族歴があれば疑う。BRCA1関連の乳癌はトリプルネガティブが多いのも特徴だ。
医学生医学生
臨床実習の乳腺外科で、遺伝カウンセリングを勧められている患者さんがいました。
ドクタードクター
遺伝学的検査は本人だけでなく血縁者にも影響するから、カウンセリングを経て検討するのが原則だ。それと、この患者さんの次のステップも確認しておこう。マンモグラフィで悪性を疑ったら、超音波検査を行い、針生検やステレオガイド下吸引式組織生検で病理診断をつけることになる。
医学生医学生
家族歴の聴取は、OSCEの医療面接でも必ず確認する項目でしたね。
ドクタードクター
その通り。誰が、何歳で、どの癌になったかまで具体的に聞くことで、リスク評価や遺伝性腫瘍を疑うきっかけになる。問診の一言が、診療方針を左右することもあるんだ。

まとめ

集簇した多形性の微細石灰化と高濃度の腫瘤陰影は乳癌を強く疑うマンモグラフィ所見です。乳癌のリスク因子は、早い初経・遅い閉経・未産・高齢初産・閉経後の肥満などのエストロゲン曝露に関わるもの、第1度近親者の家族歴やBRCA1/2の病的バリアントなどの遺伝的因子、そして乳癌の既往や飲酒などに整理できます。本例では母の乳癌が明確なリスク因子であり、初経12歳は標準的な年齢、出産2回はむしろ防御的、BMI 20.3は普通体重、高血圧は確立したリスク因子ではありません。リスク因子の名称を覚えるだけでなく、患者の具体的な値が実際にリスクの範囲に入るかを判断する姿勢が重要です。家族歴の丁寧な聴取は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群を拾い上げるきっかけにもなり、日常診療での医療面接の価値を示しています。

解答・解説

正解はbです

想定される疾患

乳がん検診のマンモグラフィで、高濃度の腫瘤陰影と、集簇した(狭い範囲に集まった)多形性の微細石灰化を認めている。多形性の微細石灰化は、形・大きさ・濃度がふぞろいな石灰化で、癌細胞の壊死物質に石灰が沈着して生じることが多い。これが集簇していれば、悪性を強く疑う所見である。高濃度の腫瘤陰影と合わせると、乳癌が想定される。

乳癌のリスク因子の考え方

乳癌のリスク因子は、大きく次の3群に整理できる。 1. エストロゲンにさらされる期間・量に関わる因子:早い初経、遅い閉経、出産経験がないこと、初産年齢が高いこと、授乳経験がないこと、閉経後の肥満、閉経後のホルモン補充療法など。 2. 遺伝的因子:乳癌・卵巣癌の家族歴、BRCA1/BRCA2遺伝子の病的バリアント(遺伝性乳癌卵巣癌症候群)など。 3. その他:乳癌の既往、異型を伴う増殖性病変の既往、高濃度乳房、飲酒、若い時期の胸部への放射線照射など。 設問では、下線部①〜⑤それぞれがリスク因子に「該当するか」を、本例の具体的な値に照らして判断する。母(第1度近親者)の乳癌は、明確なリスク因子に該当する。一方、初経12歳、出産2回、BMI 20.3は、いずれもリスクを高める方向ではない。高血圧症は、乳癌のリスク因子として確立していない。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    高血圧症や降圧薬の内服は、乳癌のリスク因子として確立していない。生活習慣病のうち乳癌との関連が知られているのは、閉経後の肥満と、それに関連する2型糖尿病(高インスリン血症など)である。高血圧そのものはリスク因子に挙げられない。

  2. ○b.  ②

    母・姉妹・娘といった第1度近親者に乳癌の患者がいると、本人の乳癌のリスクはおよそ2倍に高まる。近親者の人数が多いほど、また近親者の発症年齢が若いほど、リスクはさらに高くなる。家族歴の背景には、BRCA1/BRCA2などの遺伝子の病的バリアントが関わる遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)が含まれることがあり、家族歴は乳癌の重要なリスク因子である。本例の母は乳癌で死亡しており、リスク因子に該当する。

  3. ×c.  ③

    初経が早いことは、エストロゲンにさらされる期間が長くなるため、乳癌のリスク因子である。一般には11歳以下での初経が「早い初経」とされる。日本人女性の平均初経年齢は12歳前後で、12歳は標準的な年齢であり、リスクを高める要因には当たらない。

  4. ×d.  ④

    出産経験がないこと、初産年齢が高いこと(おおむね30歳以上)が乳癌のリスク因子である。出産・授乳を経験すると、妊娠中に乳腺上皮が最終分化して発癌に感受性の高い未分化な細胞が減ること、妊娠・授乳の期間は排卵と月経周期が止まり、周期的なエストロゲン・プロゲステロンの刺激が減ることなどにより、リスクは低下する。出産回数が多いほど、また授乳期間が長いほど防御的に働く。出産2回は、むしろリスクを下げる方向の因子である。

  5. ×e.  ⑤

    閉経後の肥満は乳癌の確立したリスク因子である。閉経後は脂肪組織のアロマターゼが副腎由来のアンドロゲンをエストロゲンに変換し、これが主なエストロゲン源になる。そのため、脂肪が多いほど体内のエストロゲンが増える。本例のBMI 20.3は普通体重(日本肥満学会の基準ではBMI 18.5以上25未満)で、肥満には該当しない。

乳癌のリスク因子の整理

〈エストロゲンへの曝露に関連するもの〉 ・早い初経(11歳以下)、遅い閉経(55歳以上):月経がある期間、すなわちエストロゲンにさらされる期間が長くなる。 ・出産経験がない、初産年齢が高い(30歳以上)、授乳経験がない:出産と授乳はリスクを下げる因子である。 ・閉経後の肥満:脂肪組織のアロマターゼでエストロゲンが産生される。なお閉経前の肥満は、乳癌のリスクを高めないか、むしろ下げるとされる。 ・閉経後のホルモン補充療法(とくにエストロゲンと黄体ホルモンの併用)、経口避妊薬の使用。 〈遺伝的・個人的要因〉 ・乳癌の家族歴(第1度近親者) ・BRCA1/BRCA2などの病的バリアント保持者 ・乳癌の既往(対側の乳癌)、異型乳管過形成などの増殖性病変の既往 ・高濃度乳房(乳腺の密度が高い乳房) ・胸部への放射線照射歴(とくに若年時。Hodgkinリンパ腫の治療歴など) 〈生活習慣〉 ・飲酒(確実なリスク因子)、喫煙(可能性あり) ・運動はリスクを下げる(閉経後で特に関連が強い)。

遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)

BRCA1またはBRCA2遺伝子の病的バリアントによる常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。若年発症、両側乳癌、男性乳癌、卵巣癌、膵癌などの家族歴があれば疑い、遺伝カウンセリングのうえで遺伝学的検査を検討する。BRCA1関連乳癌はトリプルネガティブ乳癌(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2がいずれも陰性)が多い。

マンモグラフィの悪性所見

・腫瘤:境界が不明瞭なもの、スピキュラ(腫瘤から放射状に伸びる線状の突起)を伴うもの、高濃度のもの ・石灰化:微細で多形性のもの、微細線状・分枝状のもの。集簇性・線状・区域性の分布 ・構築の乱れ、局所的非対称性陰影 集簇した多形性の微細石灰化は、非浸潤性乳管癌(DCIS)を含む乳癌でよくみられる所見である。精密検査として、超音波検査や、針生検(超音波ガイド下またはマンモトーム〈ステレオガイド下吸引式組織生検〉)による病理診断を行う。

POINT

・集簇した多形性の微細石灰化と高濃度の腫瘤陰影 → 乳癌を疑う。 ・乳癌のリスク因子:第1度近親者の乳癌家族歴、BRCA1/2の病的バリアント、早い初経・遅い閉経、出産経験がない・初産年齢が高い、授乳経験がない、閉経後の肥満、閉経後のホルモン補充療法、飲酒、乳癌の既往、高濃度乳房。 ・出産・授乳はリスクを下げる因子である。 ・設問の数値が実際にリスクの範囲に入るかを確認する。初経12歳は標準的で、BMI 20.3は普通体重であり、いずれも該当しない。 ・高血圧はリスク因子ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。