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雑音の大きさにだまされない―VSDの手術適応は「Qp/Qs」で決める

第110回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第1問

乳幼児期における心室中隔欠損症の手術適応となる基準はどれか。

  1. a.心胸郭比50%
  2. b.大きな収縮期雑音
  3. c.欠損孔の直径1 mm
  4. d.肺動脈収縮期圧の低下
  5. e.肺体血流量比(Qp/Qs)2.5

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳幼児の心室中隔欠損症をいつ手術で閉じるべきか、その判断基準を問う問題だ。ポイントは「短絡の量」と「肺への影響」をどう評価するか。まずVSDでどんな血行動態が起きているか、整理してみようか。
医学生医学生
左室の圧が右室より高いので、欠損孔を通って左から右へ血液が流れる左右短絡ですよね。
ドクタードクター
その通り。右室に流れ込んだ血液は肺動脈から肺を通って左房・左室に戻ってくる。つまり同じ血液が肺循環を余分に回るので、肺血流量が増えて、左房・左室には容量負荷がかかるんだ。
医学生医学生
短絡が多いと、乳児では心不全になるんでしたよね。小児科の実習で、哺乳のたびに汗をかいて息が速い赤ちゃんを診ました。
ドクタードクター
まさに典型的な心不全症状だね。多呼吸、哺乳不良、体重増加不良、多汗。さらに怖いのは、大量の血液が高い圧で肺に流れ続けることで肺高血圧が進み、やがて肺血管に不可逆的な変化が起こることだ。
医学生医学生
Eisenmenger症候群ですね。短絡が右左に逆転してチアノーゼが出る。
ドクタードクター
そう。そうなると欠損孔を閉じることはもうできない。だから乳幼児期の手術適応は「短絡量が多くて心不全を起こしているか」「肺高血圧があるか」で判断して、肺血管病変が不可逆になる前、一般に1〜2歳までに閉鎖を目指す。では、短絡量を数字で示す指標は何だろう。
医学生医学生
肺体血流量比、Qp/Qsですか。
ドクタードクター
正解。Qpは肺血流量、Qsは体血流量で、短絡がなければ1.0になる。おおむね1.5〜2.0以上の大きな左右短絡が手術適応とされていて、2.5なら肺血流が体血流の2.5倍、明らかに適応を満たす。これが今回の答えだ。
医学生医学生
でも、大きな収縮期雑音も重症っぽく感じてしまいます。OSCEの練習で、雑音が大きいほど悪いと思い込んでいました。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の落とし穴だね。VSDの汎収縮期雑音は、左右の心室の圧較差で欠損孔を通る血流が乱流になって生じる。小さな欠損だと圧較差が保たれるので、むしろ強くてスリルを伴う雑音になりやすい。Roger病と呼ばれる小欠損がその代表だ。逆に大欠損で肺高血圧を伴うと左右の圧が近づいて、雑音は弱くなる。
医学生医学生
雑音の大きさは重症度を反映しないんですね。心胸郭比50%はどうでしょう。成人なら境界くらいですが。
ドクタードクター
乳幼児は胸郭に比べて心臓が相対的に大きく、胸腺の陰影も重なるから、正常値は成人より大きくて、おおむね55〜60%程度までは正常とされる。50%は正常範囲で、心拡大の根拠にはならないよ。
医学生医学生
欠損孔1 mmはかなり小さいので、自然閉鎖を待つ感じでしょうか。
ドクタードクター
そう。短絡はわずかで心不全も肺高血圧も起こさないし、膜性部周囲型や筋性部の小欠損は乳幼児期に自然閉鎖することが少なくない。経過観察が原則だ。ただし肺動脈弁下型は別で、大動脈弁の右冠尖が欠損孔に引き込まれて逸脱し、大動脈弁閉鎖不全を起こしやすいから、小さくても手術を考慮する。
医学生医学生
肺動脈収縮期圧の低下は、むしろ良い方向の所見ですよね。
ドクタードクター
その理解でいい。問題になるのは肺動脈圧の「上昇」、つまり肺高血圧で、これは手術を急ぐ根拠になる。ちなみに新生児期は生理的に肺血管抵抗が高く、生後数週かけて下がってくる。その時期に短絡量が増えて、心不全症状が表に出てくることがあるんだ。
医学生医学生
生まれた直後は元気でも、1〜2か月で症状が出てくることがあるということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に治療の流れも押さえておこう。まず利尿薬やACE阻害薬で心不全を管理し、栄養も工夫する。外科的には人工心肺下のパッチ閉鎖術が基本で、全身状態によっては先に肺動脈絞扼術で肺血流を減らしてから根治術を行うこともある。そしてEisenmenger化した例では閉鎖術は禁忌。小欠損で経過観察する子も、感染性心内膜炎には注意が必要だよ。
医学生医学生
手術の判断は、聴診の印象ではなくQp/Qsと肺高血圧で客観的にするということですね。

まとめ

心室中隔欠損症では左右短絡により肺血流量が増え、短絡が大きいと乳幼児期に心不全や肺高血圧を来し、放置すれば不可逆的な肺血管病変からEisenmenger症候群に至ります。そのため乳幼児期の手術適応は短絡量と肺高血圧で判断し、短絡量の指標であるQp/Qsがおおむね1.5〜2.0以上であれば欠損孔閉鎖の適応となり、2.5は明らかに該当します。収縮期雑音は小欠損ほど強くなりやすく重症度を反映しないこと、乳幼児の心胸郭比は成人より大きく50%は正常範囲であること、膜性部周囲型や筋性部の小欠損は自然閉鎖が期待できることも重要です。一方、肺動脈弁下型は大動脈弁閉鎖不全を伴えば小欠損でも手術を考慮し、Eisenmenger化した例では閉鎖術は禁忌となります。血行動態から手術のタイミングを考える視点は、左右短絡疾患全般の理解につながります。

解答・解説

正解はeです

テーマの要点

心室中隔欠損症(VSD:ventricular septal defect)は最も頻度の高い先天性心疾患である。左心室の圧は右心室より高いため、欠損孔を通って左室から右室へ血液が流れ(左右短絡)、その血液は肺動脈→肺→左房→左室と再び戻ってくる。このため肺血流量が増え、左房・左室には容量負荷がかかる。 短絡量が多いと、乳幼児期に多呼吸、哺乳不良、体重増加不良、多汗などの心不全症状を呈する。さらに肺に多量の血液が高い圧で流れ続けると、肺高血圧が進行し、やがて肺血管に不可逆的な変化(閉塞性肺血管病変)が生じる。肺血管抵抗が体血管抵抗に近づくと短絡が右左方向に逆転してチアノーゼを生じるEisenmenger症候群となり、もはや欠損孔を閉じることはできなくなる。

正解を導く考え方

したがって乳幼児期の手術適応は、「短絡量が多く心不全を起こしている(起こしやすい)か」と「肺高血圧があるか」で判断し、肺血管病変が不可逆になる前(一般に1〜2歳まで)に閉鎖することを目指す。短絡量を定量的に示す指標が肺体血流量比(Qp/Qs)である。Qpは肺血流量(pulmonary)、Qsは体血流量(systemic)で、短絡がなければQp/Qs=1.0となる。Qp/Qsがおおむね1.5〜2.0以上の大きな左右短絡は手術適応とされ、2.5はこれを明らかに満たす。他の選択肢は正常範囲の所見、重症度と相関しない所見、自然閉鎖が期待できる小さな欠損、手術適応と結びつかない所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  心胸郭比50%

    心胸郭比(CTR:胸部X線写真で、胸郭の横径に対する心臓の横径の比)は成人では50%以下を正常とする。乳幼児は胸郭に比べて心臓が相対的に大きく、胸腺の陰影も重なるため、正常値はより大きく、おおむね55〜60%程度までは正常とされる。乳幼児で50%は正常範囲であり、心拡大を示さないため手術適応の根拠にならない。

  2. ×b.  大きな収縮期雑音

    VSDの汎収縮期雑音は、左室と右室の圧較差によって欠損孔を通る血流が速く乱流になることで生じる。小さな欠損孔では圧較差が大きく保たれるため、むしろ大きく(強く)、スリルを伴う雑音になることが多い(小欠損のVSDはRoger病と呼ばれる)。逆に欠損孔が大きく肺高血圧を伴うと左右の心室圧が近づき、雑音は弱くなる。雑音の大きさは短絡量や重症度を反映しないため、手術適応の基準にはならない。

  3. ×c.  欠損孔の直径1 mm

    直径1mmはきわめて小さな欠損孔であり、短絡量はわずかで心不全や肺高血圧を起こさない。特に膜性部周囲型や筋性部の小欠損は、乳幼児期を中心に自然閉鎖することが少なくない。手術は不要で経過観察とするのが原則である(ただし肺動脈弁下型で大動脈弁の逸脱や大動脈弁閉鎖不全を伴う場合は、欠損孔が小さくても手術を考慮する)。

  4. ×d.  肺動脈収縮期圧の低下

    大きなVSDで問題となるのは、肺血流増加に伴う肺動脈圧の「上昇」(肺高血圧)である。肺高血圧は手術を急ぐべき根拠となる。肺動脈収縮期圧の低下は手術適応の基準とは無関係である。なお、新生児期には生理的に高い肺血管抵抗が生後数週かけて低下するため、その時期に短絡量が増えて心不全症状が顕在化してくることがある。

  5. ○e.  肺体血流量比(Qp/Qs)2.5

    Qp/Qs 2.5は、肺血流量が体血流量の2.5倍に達していることを意味し、大量の左右短絡が存在することを示す。このような大きな短絡では、乳幼児期に心不全と肺高血圧を来しやすく、放置すると不可逆的な肺血管病変(Eisenmenger化)へ進むおそれがある。一般にQp/Qsがおおむね1.5〜2.0以上は手術(欠損孔閉鎖術)の適応とされ、2.5はこれを満たす。Qp/Qsは心臓カテーテル検査での酸素飽和度の測定(Fickの原理)や心エコーなどで評価する。

VSDの病型(欠損部位による分類)

・膜性部周囲型:最も多い。自然閉鎖することがある。 ・筋性部欠損:自然閉鎖しやすい。 ・肺動脈弁下型(漏斗部・両大血管下型):東アジアに比較的多い。大動脈弁の右冠尖が欠損孔に引き込まれて逸脱し、大動脈弁閉鎖不全を来しやすい。自然閉鎖はまれで、短絡量が少なくても手術を考慮する。

重症度による臨床像

・小欠損:無症状。強い汎収縮期雑音(第3〜4肋間胸骨左縁)。自然閉鎖を期待して経過観察。感染性心内膜炎に注意。 ・中〜大欠損:乳児期に心不全症状(多呼吸、哺乳不良、体重増加不良、多汗)。胸部X線で心拡大と肺血管陰影の増強。肺高血圧を伴うとⅡ音(肺動脈成分)が亢進する。心尖部に拡張中期ランブル(相対的僧帽弁狭窄による)を聴取することがある。

治療

・内科的治療:利尿薬、ACE阻害薬などによる心不全管理、栄養管理。 ・外科的治療:人工心肺下のパッチ閉鎖術が基本。心不全のコントロールが困難な乳児や肺高血圧を伴う例では乳児期に手術を行う。全身状態などにより、肺動脈絞扼術(バンディング)で肺血流を減らしてから後に根治術を行うこともある。 ・手術の禁忌:肺血管抵抗が高度に上昇し不可逆的になったEisenmenger症候群(右左短絡によるチアノーゼ、肺血管抵抗/体血管抵抗比の著明な上昇など)では閉鎖術は行わない。

Qp/Qsの考え方

短絡がない正常心ではQp=Qs、すなわちQp/Qs=1.0である。左右短絡があると、短絡血が肺循環を余分に回るためQpが増え、Qp/Qsは1より大きくなる。逆に右左短絡が主体になると1より小さくなる。

POINT

・乳幼児VSDの手術適応は、大きな左右短絡による心不全と肺高血圧の有無で判断する。 ・Qp/Qsがおおむね1.5〜2.0以上は手術適応。2.5は明らかに適応。 ・乳幼児の心胸郭比は成人より大きく、50%は正常範囲。 ・収縮期雑音の強さは重症度と相関しない(小欠損ほど強い雑音になりやすい)。 ・小欠損(膜性部周囲型・筋性部)は自然閉鎖が期待できる。肺動脈弁下型は大動脈弁閉鎖不全を伴えば小欠損でも手術を考慮。 ・Eisenmenger症候群では閉鎖術は禁忌。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。