赤く染まる「そら豆」のペア―COPD増悪の陰にいたMoraxella catarrhalis
第110回医師国家試験 D問題 第22問
国試問題にチャレンジ
76歳の男性。発熱を主訴に来院した。10年前から慢性閉塞性肺疾患のため抗コリン薬とβ2刺激薬とを吸入している。喫煙は20本/日を46年間。3日前から発熱,咳嗽および膿性痰が出現したため受診した。意識は清明。体温38.5℃。脈拍108/分,整。血圧102/62 mmHg。呼吸数24/分。両側の胸部に軽度のwheezesを聴取する。白血球8,200(桿状核好中球4%,分葉核好中球84%,単球2%,リンパ球10%)。CRP 7.3 mg/dL。胸部エックス線写真(A)と喀痰のGram染色標本(B)とを別に示す。 原因菌はどれか。

- a.腸球菌
- b.肺炎球菌
- c.化膿連鎖球菌
- d.黄色ブドウ球菌
- e.Moraxella catarrhalis
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
COPD患者が発熱や膿性痰の増加、喘鳴の悪化を示した場合、細菌性の下気道感染を契機とした急性増悪を考え、主な起炎菌はインフルエンザ菌、肺炎球菌、Moraxella catarrhalisの3つです。喀痰Gram染色で、赤く染まるそら豆状の双球菌が好中球に貪食されていれば、Gram陰性双球菌であるMoraxella catarrhalisが起炎菌と判断できます。肺炎球菌・黄色ブドウ球菌・化膿連鎖球菌・腸球菌はいずれもGram陽性球菌で紫に染まるため、染色性だけで区別できます。Moraxellaは多くがβ-ラクタマーゼを産生するため、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンやセフェム系、マクロライド系を選び、ABCアプローチで増悪を治療します。Gram染色の色と形、貪食像を読み取る力は、迅速に起炎菌を推定して適切な抗菌薬を選ぶための臨床の基本技術です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・76歳男性、46年間・1日20本の喫煙歴(喫煙指数920)があり、10年来の慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対して長時間作用性抗コリン薬とβ2刺激薬を吸入している。 ・3日前からの発熱、咳嗽、膿性痰:細菌性の下気道感染を示唆する。 ・体温38.5℃、脈拍108/分、呼吸数24/分と頻脈・頻呼吸、血圧102/62 mmHgとやや低め。意識は清明。 ・両側胸部に軽度のwheezes(笛声音):気道の狭窄・攣縮が増悪している。 ・白血球8,200と総数は正常範囲だが、好中球が88%(桿状核4%+分葉核84%)と好中球優位で、CRP 7.3 mg/dLと上昇:細菌感染を示す炎症反応。
画像所見
・胸部エックス線写真(A):肺野の透過性亢進、横隔膜の低位・平低化、心陰影の狭小化(滴状心)といった肺の過膨張所見があり、COPDの背景に合致する。区域や大葉に一致する明らかな浸潤影(大葉性肺炎像)ははっきりしない。 ・喀痰Gram染色(B):赤色(Gram陰性)に染まる、そら豆状の球菌が2個ずつ対になって(双球菌)並び、多数の好中球に貪食されている。好中球による貪食像は、その菌が単なる口腔内の常在菌の混入ではなく、実際に炎症を起こしている起炎菌であることを強く示唆する。
診断と考え方
COPD患者に発熱・膿性痰の増加・喘鳴の増悪がみられ、細菌性の下気道感染(気管支炎〜気管支肺炎)を契機としたCOPD急性増悪と考えられる。起炎菌の推定には喀痰Gram染色が有用であり、「Gram陰性双球菌」が好中球に貪食されている像から、選択肢中ではMoraxella catarrhalisと判断できる。設問は原因菌を問うているため、Gram染色の色(陽性=紫〜青、陰性=赤)と形態(球菌か桿菌か、配列)を読み取ることが解答の鍵である。
選択肢考察
- ×a. 腸球菌
腸球菌(Enterococcus faecalisなど)は腸管の常在菌で、Gram陽性球菌(双球菌〜短い連鎖)である。尿路感染症、胆道感染症、感染性心内膜炎などの原因となるが、市中で発症した気道感染の原因菌となることはまれである。標本の菌は赤く染まるGram陰性菌であり合致しない。
- ×b. 肺炎球菌
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は市中肺炎の最多の起炎菌で、COPD急性増悪の主要な原因菌の一つでもある。しかしGram陽性の双球菌(ランセット形で、周囲に莢膜による透明帯をもつ)であり、紫色に染まる。本例の標本は赤色に染まるGram陰性双球菌であるため該当しない。
- ×c. 化膿連鎖球菌
化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes、A群β溶血性連鎖球菌)はGram陽性球菌で、鎖状に連なって配列する。咽頭炎・扁桃炎、皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎、壊死性筋膜炎)、劇症型溶血性連鎖球菌感染症、リウマチ熱・溶連菌感染後糸球体腎炎の原因となる。染色性・配列とも本例の標本とは異なる。
- ×d. 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はGram陽性球菌で、ブドウの房のように不規則な集塊をつくって配列する。インフルエンザ後の二次性肺炎や院内肺炎、多発性の空洞・膿瘍を形成する肺炎の原因となるが、本例の標本は赤色のGram陰性双球菌であり合致しない。
- ○e. Moraxella catarrhalis
Moraxella catarrhalis(旧名Branhamella catarrhalis)は、そら豆状の菌が2個対になって並ぶGram陰性双球菌であり、喀痰Gram染色で好中球に貪食された赤い双球菌として観察される。上気道の常在菌で、COPDなどの慢性呼吸器疾患をもつ人や高齢者の気管支炎・肺炎、COPD急性増悪の主要な原因菌(インフルエンザ菌、肺炎球菌と並ぶ3大起炎菌)である。小児の中耳炎・副鼻腔炎の原因菌としても重要である。多くの株がβ-ラクタマーゼを産生するため、アンピシリンなどのペニシリン系単独は効きにくく、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(アモキシシリン・クラブラン酸、アンピシリン・スルバクタム)やセフェム系、マクロライド系などが用いられる。
COPD急性増悪
・息切れの増加、咳・痰の増加、膿性痰の出現などにより、安定期の治療の変更・追加が必要となる状態。原因として最も多いのは呼吸器感染症(ウイルス・細菌)である。 ・細菌性の増悪の3大起炎菌:インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae、Gram陰性短桿菌)、肺炎球菌(Gram陽性双球菌)、Moraxella catarrhalis(Gram陰性双球菌)。重症例や気管支拡張を伴う例では緑膿菌も問題となる。 ・治療の基本はABCアプローチ:抗菌薬(Antibiotics)、気管支拡張薬(Bronchodilators:短時間作用性β2刺激薬の吸入など)、全身性ステロイド(Corticosteroids)。低酸素血症があれば酸素投与を行い、CO2ナルコーシスに注意する。
Gram染色の基本
・Gram陽性菌は厚いペプチドグリカン層がクリスタルバイオレットを保持し紫〜青に染まる。Gram陰性菌は外膜をもちペプチドグリカン層が薄いため脱色され、後染色のサフラニンで赤〜ピンクに染まる。 ・主なGram陰性球菌:Moraxella catarrhalis、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)。いずれもそら豆状の双球菌である。 ・Gram陽性球菌:配列が連鎖なら連鎖球菌、房状ならブドウ球菌、ランセット形の双球菌で莢膜があれば肺炎球菌を考える。 ・喀痰の品質評価:扁平上皮細胞が少なく好中球が多い検体ほど下気道由来の良質な検体であり、好中球による貪食像は起炎菌である可能性を高める。
POINT
・喀痰Gram染色で好中球に貪食された「Gram陰性双球菌」=Moraxella catarrhalis(気道感染の場合)。 ・COPD急性増悪の3大起炎菌:インフルエンザ菌、肺炎球菌、Moraxella catarrhalis。 ・M. catarrhalisはβ-ラクタマーゼ産生株が多く、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンやセフェム系、マクロライド系を選ぶ。 ・選択肢a〜dはすべてGram陽性球菌であり、染色性だけで除外できる。
