StudyMed医師国家試験

病気がないだけでは足りない―WHOが描いた「健康」の3つの柱

第109回医師国家試験 H問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第20問

WHO憲章前文に述べられている健康の定義を示す。  Health is a state of complete physical, mental and(      )well-being and not merely the absence of disease or infirmity.  (      )内に入るのはどれか。

  1. a.economical
  2. b.philosophical
  3. c.political
  4. d.social
  5. e.spiritual

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、WHO憲章の前文にある健康の定義を英文のまま問う問題だ。知っていれば一瞬で解けるけれど、紛らわしい選択肢も混ざっている。単語を暗記するだけでなく、この定義が何を言おうとしているのかまで理解しておこう。
医学生医学生
衛生学の最初の講義で習った気がします。身体的、精神的、それから……スピリチュアル、でしたっけ?
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。正解はsocial、つまり「社会的」だ。原文はHealth is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.で、日本語にすると「健康とは、病気がない、あるいは虚弱でないということだけではなく、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態をいう」となる。
医学生医学生
spiritualが入っているという話をどこかで聞いた記憶があるんですが、あれは間違いだったんでしょうか。
ドクタードクター
間違いというより、議論があったのは事実なんだ。1998年のWHO執行理事会で、spiritualとdynamicを加える改正案が提出された。でも世界保健総会では採択されず、現在の定義は1946年に採択されたときのままなんだよ。改正の話が有名になったぶん、試験では引っかけとして使われやすい。
医学生医学生
提案はされたけれど採択されていない、と押さえておけば迷わないですね。
ドクタードクター
その通り。ではこの定義のポイントは何だと思う?
医学生医学生
「not merely the absence of disease」とあるので、病気がなければ健康、という考え方を否定しているんでしょうか。
ドクタードクター
いい読み方だ。要点は2つある。1つ目は、健康を「病気がない」という消極的な状態ではなく、「良好な状態にある」という積極的な概念として示したこと。2つ目は、身体と心に加えて、社会的な側面まで健康に含めたことだ。
医学生医学生
社会的に良好というのは、具体的にはどういう状態を指すんですか。
ドクタードクター
家庭や職場、地域で自分の役割を果たし、人とのつながりの中で生活できている状態と考えるといい。たとえば体の病気は治っても、退院後に仕事に戻れず孤立してしまえば、この定義では完全に健康とは言えないわけだ。
医学生医学生
リハビリテーション科の実習で、ICFに沿って「活動」や「参加」まで評価していたのを思い出しました。あれもつながっているんですね。
ドクタードクター
まさにそう。病気だけでなく生活全体で人を捉える考え方は、公衆衛生、リハビリテーション、ICFの土台になっている。では、ほかの選択肢も確認しよう。economicalはどうかな。
医学生医学生
経済状態は健康に大きく影響すると習いましたが、定義そのものには入っていないんですよね。
ドクタードクター
そう。所得や教育、雇用などは「健康の社会的決定要因」として重視されるけれど、定義の構成要素ではない。ちなみに「経済的な」は普通economicで、economicalは「節約になる」という意味で使われることが多い。philosophical、つまり哲学的という語も定義には登場しない。
医学生医学生
politicalは前文のどこかで見たような気がします。
ドクタードクター
鋭いね。前文には、到達しうる最高水準の健康を享受することは、人種・宗教・政治的信念・経済的・社会的条件の差別なく万人の基本的権利の一つである、という趣旨の記述がある。「政治的信念」はその文脈で出てくる言葉で、健康の定義の要素ではないんだ。
医学生医学生
前文全体を読んだことがあると、かえって迷いそうですね。定義の一文は「physical, mental and social」の3つ、と切り分けて覚えます。
ドクタードクター
それでいい。周辺知識もまとめておこう。WHOは国連の専門機関で本部はジュネーブ、憲章は1946年に採択されて1948年4月7日に発効し、この日が世界保健デーになっている。日本の加盟は1951年だ。関連して、1978年のアルマ・アタ宣言はプライマリヘルスケアを掲げて「すべての人に健康を」を目標とし、1986年のオタワ憲章はヘルスプロモーションを、人々が自らの健康をコントロールし改善できるようにするプロセスと定義した。臨床でも、検査値が正常かどうかだけでなく、患者さんが社会の中で暮らせているかに目を向けることが、この定義を生かすことにつながるよ。
医学生医学生
退院支援や多職種カンファレンスで生活の話をするのも、社会的な健康を守るためなんですね。

まとめ

WHO憲章前文は、健康を「単に病気や虚弱がないことではなく、身体的(physical)・精神的(mental)・社会的(social)に完全に良好な状態(well-being)」と定義しています。健康を病気の不在という消極的な捉え方から積極的な概念へと転換し、家庭・職場・地域での役割や人とのつながりといった社会的側面まで含めた点が重要です。1998年にspiritualとdynamicを加える改正案が出されましたが世界保健総会では採択されておらず、現行の定義は1946年採択時のままです。経済状態や政治的信念は健康の決定要因や前文の別の記述に関わる語であり、定義の要素ではありません。この定義はICFやヘルスプロモーションの考え方の基盤でもあり、患者を生活全体の中で捉える臨床姿勢につながります。

解答・解説

正解はdです

世界保健機関(WHO:World Health Organization)憲章の前文にある「健康の定義」を英文のまま問う問題である。 原文は次のとおりである。 Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. 日本語にすると「健康とは、病気がない、あるいは虚弱でないということだけではなく、身体的(physical)、精神的(mental)、社会的(social)に完全に良好な状態(well-being)をいう」となる。 この定義の要点は二つある。一つは、健康を「病気がないこと」という消極的な捉え方ではなく、「良好な状態にあること」という積極的な概念として示した点である。もう一つは、身体・精神に加えて「社会的」な側面、すなわち家庭・職場・地域で役割を果たし、人とのつながりの中で生活できているかどうかも健康に含めた点である。この3要素(身体的・精神的・社会的)を覚えていれば、空欄にはsocialが入るとわかる。 なお、1998年にWHO執行理事会で「spiritual(霊的)」と「dynamic(動的)」を加える改正案が提案されたが、世界保健総会では採択されておらず、現在の定義は1946年の採択時のままである。

選択肢考察

  1. ×a.  economical

    誤り。「経済的な」の意味であるが、WHO憲章の健康の定義には含まれていない。経済状態は健康に影響する要因(健康の社会的決定要因)の一つとして重視されてはいるが、定義の構成要素ではない。なお、「経済的な」を表す語としては通常economicが使われ、economicalは「節約になる・安上がりな」の意味で使われることが多い。

  2. ×b.  philosophical

    誤り。「哲学的な」の意味であり、WHO憲章の健康の定義には含まれていない。

  3. ×c.  political

    誤り。「政治的な」の意味であり、健康の定義には含まれていない。WHO憲章の前文には、健康を享受することは人種・宗教・政治的信念・経済的・社会的条件の差別なく万人の基本的権利の一つであるという趣旨の記述があり、「政治的信念」という語はこの文脈で登場するが、健康の定義の要素ではない。

  4. ○d.  social

    正しい。WHO憲章前文の定義は「physical(身体的), mental(精神的)and social(社会的)well-being」である。社会的に良好な状態とは、周囲の人との関係や、家庭・職場・地域社会での役割を保ちながら生活できている状態を指す。病気の有無だけでなく、生活全体の中で健康を捉えるという考え方は、公衆衛生、リハビリテーション、ICF(国際生活機能分類)などの基礎にもなっている。

  5. ×e.  spiritual

    誤り。「霊的な」「スピリチュアルな」の意味である。1998年のWHO執行理事会で、定義にspiritual(およびdynamic)を加える改正案が提出され、執行理事会では採択されたものの、世界保健総会では審議されないまま見送られた。そのため現行の定義には含まれていない。改正の議論があったことから紛らわしい選択肢となっている。

WHO(世界保健機関)とWHO憲章

・WHOは国際連合の専門機関の一つで、本部はスイスのジュネーブにある。 ・WHO憲章は1946年にニューヨークで開かれた国際保健会議で採択され、1948年4月7日に発効した。発効日の4月7日は「世界保健デー」とされている。日本は1951年に加盟した。

WHO憲章前文の主な内容

・健康の定義:身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱がないことではない。 ・到達しうる最高水準の健康を享受することは、人種、宗教、政治的信念、経済的・社会的条件の差別なく、すべての人の基本的権利の一つである。 ・すべての人々の健康は、平和と安全を達成するための基礎である。

関連する概念

・ヘルスプロモーション(オタワ憲章、1986年):人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス。 ・プライマリヘルスケア(アルマ・アタ宣言、1978年):「すべての人に健康を(Health for All)」を目標に掲げた。 ・健康の社会的決定要因:所得、教育、雇用、居住環境、社会的つながりなど、健康に影響する社会的・経済的条件。

POINT

・WHO憲章の健康の定義は「physical, mental and social well-being」の3要素。 ・単に病気や虚弱がないことではなく、積極的に良好な状態であることを健康とする。 ・spiritualを加える改正案(1998年)は世界保健総会で採択されておらず、現行定義に含まれない。 ・WHO憲章は1946年採択、1948年4月7日発効(世界保健デー)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。