StudyMed医師国家試験

「やめたい」は治療の対象―数字と制度で読み解く日本の喫煙対策

第109回医師国家試験 H問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第19問

我が国における喫煙について正しいのはどれか。

  1. a.喫煙率は50%を超える。
  2. b.禁煙の薬物治療に医療保険が適用される。
  3. c.喫煙指数は1日の喫煙本数×年齢である。
  4. d.受動喫煙によって肺癌の発生は変化しない。
  5. e.ニコチンはたばこに含有される発癌物質である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、日本の喫煙をめぐる基本知識を横断的に問う問題だ。喫煙率の水準、禁煙治療の制度、喫煙量の指標、受動喫煙、たばこの有害成分という5つの切り口が並んでいる。どれも公衆衛生の定番テーマだから、一つずつ根拠をもって判断していこう。
医学生医学生
喫煙率が50%を超えるというのは、さすがに多すぎる気がします。周りでも吸っている人はかなり減っていますし。
ドクタードクター
その感覚は正しいよ。厚生労働省が毎年行う国民健康・栄養調査では、2019年の習慣的喫煙者の割合は男性27.1%、女性7.6%、男女合計で16.7%だった。男性は1960年代には80%を超えていた時期もあるけれど、そこから長い時間をかけて大きく下がってきたんだ。
医学生医学生
昔の男性なら50%超えもあり得たけれど、今の日本の数字としては誤りということですね。
ドクタードクター
そう。統計問題では「いつの数字か」を意識するのが大事だ。次は喫煙指数。呼吸器内科の実習で、問診のたびに計算した人も多いんじゃないかな。
医学生医学生
ブリンクマン指数ですよね。1日の本数に……年齢を掛けるんでしたっけ。
ドクタードクター
そこがひっかけだ。正しくは「1日の喫煙本数×喫煙年数」。たとえば1日20本を30年吸えば600になる。年齢を掛けると、まだ吸っていなかった子ども時代まで数えてしまうから、たばこへの累積曝露量を表せなくなるんだ。一般に400以上で肺癌の高リスク、600以上で重喫煙者とされる。
医学生医学生
海外の論文で見るpack-yearsは、箱数×年数でしたね。考え方は同じで単位が違うだけと理解しました。
ドクタードクター
その通り。では受動喫煙は肺癌の発生に影響しない、という記述はどうだろう。
医学生医学生
衛生学の講義で、副流煙のほうが有害物質が多いと習った記憶があります。影響しないはずはないと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。たばこの先端から出る副流煙は低温で不完全燃焼するため、一酸化炭素や一部の発癌物質を主流煙より多く含む。日本人を対象にした研究の統合解析でも、受動喫煙のある非喫煙者の肺癌リスクは約1.3倍と報告されていて、確実なリスク要因と評価されている。虚血性心疾患や脳卒中、乳幼児突然死症候群との関連も指摘されているよ。
医学生医学生
ニコチンが発癌物質というのは、なんとなく正しそうに見えてしまいました。たばこの悪い成分の代表というイメージがあって。
ドクタードクター
多くの人がそう誤解する。ニコチンは脳のニコチン性アセチルコリン受容体に作用してドパミン放出を促し、強い依存を生む物質だけれど、ニコチンそのものは発癌物質とはされていない。だからこそニコチンパッチが禁煙補助薬として使えるんだ。発癌に関わるのは、たばこ特異的ニトロソアミンやベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、ホルムアルデヒドといった、煙に含まれる多数の化学物質だよ。
医学生医学生
ニコチンは「やめられなくする物質」、癌の原因は煙の中の別の物質、と分けて覚えればいいんですね。すると、正解は禁煙の薬物治療に医療保険が適用される、という記述ですか。
ドクタードクター
正解。2006年度の診療報酬改定でニコチン依存症管理料が新設され、条件を満たす患者の禁煙治療に健康保険が使えるようになった。喫煙を個人の嗜好ではなく、ニコチン依存症という治療すべき病態として位置づけたわけだ。
医学生医学生
総合診療科の禁煙外来を見学したとき、最初にスクリーニングテストをしていました。あれが保険適用の条件なんですね。
ドクタードクター
そう。TDSというスクリーニングテストで5点以上、すぐに禁煙したいという意思があること、文書での同意、そして35歳以上ではブリンクマン指数200以上が条件だ。35歳未満では2016年度から喫煙指数の要件が外れた。標準的には12週間で5回診察し、薬はニコチンパッチやバレニクリンを使う。
医学生医学生
若い人でも早めに治療につなげられるように要件が緩和された、ということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。最後に制度の流れも押さえておこう。日本は2005年にWHOたばこ規制枠組条約が発効し、2020年4月には改正健康増進法が全面施行されて、学校や病院などは敷地内禁煙、飲食店を含む多くの施設が原則屋内禁煙になった。健康日本21(第三次)でも成人喫煙率のさらなる低下が目標に掲げられている。臨床では、受診のたびに喫煙歴を確認して禁煙を勧めること自体が、立派な予防医療だと覚えておいてほしい。
医学生医学生
喫煙歴を聞くのは診断のためだけでなく、治療の入口でもあるんですね。

まとめ

日本の成人喫煙率は長期的に低下しており、2019年の国民健康・栄養調査では男女合計16.7%と50%には遠く及びません。2006年度からは、TDS5点以上などの条件を満たすニコチン依存症患者の禁煙治療に医療保険が適用され、ニコチンパッチやバレニクリンによる薬物治療が行われています。喫煙指数(ブリンクマン指数)は「1日の喫煙本数×喫煙年数」で求め、年齢ではない点に注意が必要です。受動喫煙は肺癌リスクを約1.3倍に高める確実な要因であり、ニコチンは依存の主体であるものの、発癌に関与するのはニトロソアミンなど煙中の他の物質です。統計・指標・健康影響・制度をセットで理解しておくことは、試験対策にとどまらず、日常診療で禁煙支援を行う医師としての基盤になります。

解答・解説

正解はbです

日本の喫煙をめぐる統計、指標、健康影響、対策制度についての基本知識を問う問題である。 確認すべき要点は次の4つである。 ・喫煙率の水準:国民健康・栄養調査(厚生労働省が毎年実施)によると、成人の喫煙率は長期的に低下を続けており、近年は男女合計で2割を下回っている。 ・禁煙治療の制度:2006年度から、一定の条件を満たすニコチン依存症患者に対する禁煙治療(禁煙補助薬の処方を含む)が公的医療保険の対象となっている。 ・喫煙量の指標:喫煙指数(ブリンクマン指数)は「1日の喫煙本数×喫煙年数」で求める。年齢ではない。 ・受動喫煙とたばこの有害成分:受動喫煙は肺癌のリスクを高める。ニコチンは依存(やめられなくなる状態)を生む主な物質であり、ニコチン自体は発癌物質とはされていない。発癌に関与するのはたばこ煙に含まれる多くの化学物質(たばこ特異的ニトロソアミンや多環芳香族炭化水素など)である。 以上を踏まえると、正しいのは禁煙の薬物治療に医療保険が適用されるという記述である。

選択肢考察

  1. ×a.  喫煙率は50%を超える。

    誤り。国民健康・栄養調査(2019年)では、習慣的に喫煙している者の割合は男性27.1%、女性7.6%、男女合計16.7%であった。男性の喫煙率は1960年代には80%を超えていたが、その後大きく低下しており、現在は男女とも50%には遠く及ばない。

  2. ○b.  禁煙の薬物治療に医療保険が適用される。

    正しい。2006年4月の診療報酬改定で「ニコチン依存症管理料」が新設され、禁煙治療に健康保険が使えるようになった。対象となるのは、ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)で5点以上、直ちに禁煙を希望している、治療について文書で同意している、35歳以上ではブリンクマン指数が200以上、といった条件を満たす患者である(35歳未満は2016年度から喫煙指数の要件が外された)。標準的には12週間に5回の診察を行い、保険で処方できる禁煙補助薬としてニコチンパッチ(貼付薬)とバレニクリン(内服薬)がある。

  3. ×c.  喫煙指数は1日の喫煙本数×年齢である。

    誤り。喫煙指数(ブリンクマン指数)は「1日の平均喫煙本数×喫煙年数」で計算する。例えば1日20本を30年間吸った場合は600となる。年齢を掛けると、喫煙開始前の年数まで含まれてしまい、喫煙による累積曝露量を正しく反映しない。一般に400以上で肺癌の高リスク、600以上で重喫煙者とされる。国際的には「1日の箱数×喫煙年数」で求めるpack-years(パック・イヤー)もよく用いられる。

  4. ×d.  受動喫煙によって肺癌の発生は変化しない。

    誤り。受動喫煙は肺癌のリスクを高めることが確立している。たばこの先端から立ちのぼる副流煙は、喫煙者が吸い込む主流煙よりも低温で不完全燃焼するため、一酸化炭素や一部の発癌物質を多く含む。日本人を対象とした研究の統合解析では、受動喫煙のある非喫煙者の肺癌リスクはない人の約1.3倍と報告され、確実なリスク要因と評価されている。受動喫煙は虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)などのリスク上昇とも関連する。

  5. ×e.  ニコチンはたばこに含有される発癌物質である。

    誤り。ニコチンは脳のニコチン性アセチルコリン受容体に作用してドパミン放出を促し、強い依存性を生む物質であるが、ニコチンそのものは発癌物質とはされていない。このため、ニコチンを含む貼付薬などが禁煙補助薬として使われている。たばこ煙の発癌性は、ニコチンから生じるたばこ特異的ニトロソアミン(NNK、NNNなど)、ベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、ホルムアルデヒドなど、数十種類に及ぶ発癌物質によるものである。

喫煙の健康影響

・癌:肺癌、口腔・咽頭癌、喉頭癌、食道癌、胃癌、膵癌、膀胱癌、子宮頸癌など多くの癌のリスクを上げる。 ・呼吸器:慢性閉塞性肺疾患(COPD)の最大の原因である。 ・循環器:虚血性心疾患、脳卒中、閉塞性動脈硬化症などのリスクを上げる。 ・妊娠:低出生体重児、早産などのリスクを上げる。

たばこ煙の主な有害成分

・ニコチン:依存性の主体。血管収縮作用もある。 ・一酸化炭素:ヘモグロビンと結合し、酸素の運搬を妨げる。 ・タール:多数の発癌物質を含む粒子成分。

日本の主なたばこ対策

・WHOたばこ規制枠組条約(FCTC):日本は2004年に締結し、2005年に発効した。 ・禁煙治療の保険適用:2006年度から。 ・改正健康増進法:2018年に成立し、2020年4月に全面施行された。学校・病院・行政機関などは敷地内禁煙、飲食店を含む多くの施設は原則屋内禁煙となり、望まない受動喫煙の防止が義務化された。 ・健康日本21(第三次):成人喫煙率の低下(2032年度に12%)を目標に掲げている。

POINT

・日本の成人喫煙率は男女計で2割を下回る(2019年16.7%)。 ・2006年度から、条件を満たすニコチン依存症患者の禁煙治療は保険適用。 ・喫煙指数(ブリンクマン指数)=1日の喫煙本数×喫煙年数。 ・受動喫煙は肺癌リスクを上げる(日本人で約1.3倍)。 ・ニコチンは依存性物質であり、それ自体に発癌性はない。発癌に関わるのはニトロソアミンなど他の成分である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。