StudyMed医師国家試験

健康づくりの憲章はどれ?―国際宣言を「誰が・何のために」で整理する

第118回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第8問

ヘルスプロモーションを述べているのはどれか。

  1. a.バンコク憲章
  2. b.リスボン宣言
  3. c.ジュネーブ宣言
  4. d.ヘルシンキ宣言
  5. e.アルマ・アタ宣言

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生でおなじみの、国際的な宣言や憲章を区別する問題だ。名前がどれも似ていて紛らわしいけれど、「どの組織が採択したか」と「何を主題にしているか」の2軸で整理すると、すっきり解ける。
医学生医学生
ヘルスプロモーションといえば、アルマ・アタ宣言だった気がするんですが……。
ドクタードクター
そこがまさに一番の落とし穴だ。アルマ・アタ宣言は1978年にWHOとUNICEFが開いた国際会議で採択されたもので、主題はプライマリヘルスケア。「2000年までにすべての人に健康を」という目標を掲げて、住民参加のもとで基本的な保健医療サービスを誰もが身近に利用できるようにしよう、という考え方なんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「Health for All」と習いました。開発途上国を念頭に置いていたんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、とくに途上国での保健医療の普及が意識されていた。一方、ヘルスプロモーションは1986年、カナダで開かれた第1回ヘルスプロモーション国際会議のオタワ憲章で打ち出された考え方だ。そして2005年、タイで開かれた第6回の会議で、グローバル化など新しい状況を踏まえて見直されたのがバンコク憲章。だから今回の正解はバンコク憲章になる。
医学生医学生
オタワ憲章なら覚えていましたが、バンコク憲章はその続きなんですね。何が変わったんですか。
ドクタードクター
オタワ憲章ではヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義した。バンコク憲章ではそこに「健康の決定要因」が加わり、「自らの健康とその決定要因を」となった。所得や教育、雇用、住環境といった健康の社会的決定要因に目を向け、政府や国際機関、市民社会、民間部門がそれぞれ担うべき行動を示しているんだ。
医学生医学生
個人の努力だけじゃなく、社会の側を整えるという発想ですね。
ドクタードクター
その通り。オタワ憲章では、唱道・能力の付与・調停という3つの戦略と、健康的な公共政策づくりや健康を支援する環境づくりなど5つの活動領域が示されている。日本の「健康日本21」もこの考え方を土台にしているよ。では残りの3つの宣言はどうだろう。
医学生医学生
ジュネーブ、ヘルシンキ、リスボンは、たしか医療倫理の講義で出てきた世界医師会の宣言ですよね。
ドクタードクター
よく整理できているね。まずジュネーブ宣言は1948年の採択で、医師としての倫理を誓うもの。ヒポクラテスの誓いを現代向けに改めたものと位置づけられ、患者の健康を第一に考えることや秘密を守ることを掲げている。名前の似たジュネーブ条約は戦時の傷病者や捕虜を守る国際人道法で、別物だから注意しよう。
医学生医学生
ヘルシンキ宣言は研究倫理ですよね。臨床研究の講義で、インフォームド・コンセントや倫理審査委員会と一緒に出てきました。
ドクタードクター
そう。1964年に採択された、人を対象とする医学研究の倫理原則で、研究参加者の利益を科学や社会の利益より優先することなどを定め、その後も何度も改訂されている。その先駆けとして、ナチスの人体実験を裁いた裁判を受けてまとめられたニュルンベルク綱領があることも合わせて押さえておきたい。
医学生医学生
残るリスボン宣言は患者の権利ですね。臨床実習初日のオリエンテーションで、自己決定権の話と一緒に紹介されました。
ドクタードクター
正解。1981年採択で、良質の医療を受ける権利、医師や医療機関を選ぶ自由、自己決定の権利、情報を得る権利、守秘義務に関する権利、尊厳を得る権利などを掲げている。世界医師会の3つは、ジュネーブが医師、ヘルシンキが研究、リスボンが患者、と対象で覚えるといい。
医学生医学生
WHOなどの国際会議がアルマ・アタとオタワ・バンコクで、世界医師会がジュネーブ・ヘルシンキ・リスボン。こう分けると混乱しにくいですね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。最後に、プライマリヘルスケアとヘルスプロモーションの違いをもう一度確認しておこう。前者は必要な保健医療サービスを身近に届けることが中心で、後者は先進国も含め、生活習慣や社会環境を通じた健康づくりに重点がある。たとえば受動喫煙対策のように、環境の側を整えて健康的な選択をしやすくする取り組みは、ヘルスプロモーションの発想に近いと言えるね。

まとめ

ヘルスプロモーションは1986年のオタワ憲章で提唱され、2005年のバンコク憲章で「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と再定義されました。1978年のアルマ・アタ宣言はWHOとUNICEFによるプライマリヘルスケアの宣言であり、ヘルスプロモーションと混同しやすいので区別が必要です。世界医師会の宣言は、ジュネーブ宣言が医師の倫理、ヘルシンキ宣言が人を対象とする医学研究の倫理、リスボン宣言が患者の権利と、対象ごとに整理すると覚えやすくなります。採択した組織と主題の2軸で整理する習慣は、公衆衛生や医療倫理の頻出事項を確実に得点するうえで役立ち、将来の臨床や研究で倫理的な判断を行う際の土台にもなります。

解答・解説

正解はaです

本問は、医療・公衆衛生に関わる代表的な国際宣言・憲章について、それぞれが何を主題としているかを区別できるかを問う問題である。 ヘルスプロモーション(health promotion)は、WHO(世界保健機関)が1986年にカナダのオタワで開いた第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択したオタワ憲章によって打ち出された考え方である。その後、2005年にタイのバンコクで開かれた第6回の会議で、グローバル化など新たな状況を踏まえて見直したものがバンコク憲章である。 選択肢に並ぶ宣言は、大きく次のように分けて覚えると整理しやすい。 ・世界医師会(WMA)が採択した医の倫理に関する宣言:ジュネーブ宣言(医師の倫理)、ヘルシンキ宣言(人を対象とする医学研究の倫理)、リスボン宣言(患者の権利) ・WHOなどが主催した国際会議で採択された公衆衛生の理念:アルマ・アタ宣言(プライマリヘルスケア)、オタワ憲章・バンコク憲章(ヘルスプロモーション) このうちヘルスプロモーションを扱うのはバンコク憲章である。プライマリヘルスケアを扱うアルマ・アタ宣言と取り違えないことが大切である。

選択肢考察

  1. ○a.  バンコク憲章

    2005年にバンコクで開かれた第6回ヘルスプロモーション世界会議で採択された。1986年のオタワ憲章を引き継ぎ、ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義し直した。健康の社会的決定要因(所得、教育、雇用、居住環境など)に目を向け、グローバル化した世界で健康づくりを進めるために政府・国際機関・市民社会・民間部門が担うべき行動を示している。したがってヘルスプロモーションを述べたものに当たる。

  2. ×b.  リスボン宣言

    1981年にリスボンで開かれた世界医師会総会で採択された、患者の権利に関する宣言である。良質の医療を受ける権利、医師や医療機関を選ぶ自由、自己決定の権利、情報を得る権利、守秘義務に関する権利、尊厳を得る権利などを掲げている。患者の権利を扱うもので、ヘルスプロモーションの宣言ではない。

  3. ×c.  ジュネーブ宣言

    1948年に世界医師会総会で採択された、医師としての倫理を誓う宣言である。古代ギリシャの「ヒポクラテスの誓い」を現代向けに改めたものと位置づけられ、患者の健康を第一に考えること、患者の秘密を守ることなどを医師の誓いとして述べている。なお、名前が似ているジュネーブ条約は、戦争時の傷病者・捕虜などを保護するための国際人道法であり、別物である。いずれもヘルスプロモーションとは関係しない。

  4. ×d.  ヘルシンキ宣言

    1964年にフィンランドのヘルシンキで開かれた世界医師会総会で採択された、人を対象とする医学研究の倫理原則である。研究参加者からのインフォームド・コンセントの取得、研究計画の倫理審査委員会による審査、参加者の利益を科学や社会の利益より優先することなどを定め、その後も繰り返し改訂されている。研究倫理を扱うもので、ヘルスプロモーションの宣言ではない。

  5. ×e.  アルマ・アタ宣言

    1978年、旧ソ連のカザフ共和国(現カザフスタン)のアルマ・アタで、WHOとUNICEF(国連児童基金)が開いたプライマリヘルスケアに関する国際会議で採択された宣言である。「2000年までにすべての人に健康を(Health for All by the year 2000)」を目標に掲げ、その達成の手段としてプライマリヘルスケアを提唱した。プライマリヘルスケアの宣言であり、ヘルスプロモーションを述べたもの(オタワ憲章・バンコク憲章)とは区別する。

ヘルスプロモーションの成り立ち

・1986年 オタワ憲章(第1回ヘルスプロモーション国際会議、カナダ):ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義した。 ・2005年 バンコク憲章(第6回、タイ):定義に「健康の決定要因」を加え、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」とした。

オタワ憲章の要点

・活動の3つの基本戦略:唱道(advocate)、能力の付与(enable)、調停(mediate) ・5つの活動領域:健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人技術の開発、ヘルスサービスの方向転換 個人の努力だけに頼らず、社会や環境の側を整えて健康的な選択をしやすくするという発想が特徴である。日本の「健康日本21」もこの考え方を土台にしている。

プライマリヘルスケアとの違い

アルマ・アタ宣言のプライマリヘルスケアは、住民参加のもとで、基本的な保健医療サービスを誰もが身近に利用できるようにする考え方であり、とくに開発途上国の保健医療の普及を念頭に置いていた。ヘルスプロモーションは、先進国も含めて、生活習慣や社会環境を通じた健康づくりに重点がある。

世界医師会の主な宣言

・ジュネーブ宣言(1948年):医師の倫理 ・ヘルシンキ宣言(1964年):人を対象とする医学研究の倫理 ・リスボン宣言(1981年):患者の権利 関連して、ニュルンベルク綱領(1947年)は、ナチスによる人体実験を裁いた裁判を受けてまとめられた研究倫理の原則で、ヘルシンキ宣言の先駆けとされる。

POINT

・ヘルスプロモーション:オタワ憲章(1986年)→ バンコク憲章(2005年) ・プライマリヘルスケア:アルマ・アタ宣言(1978年) ・世界医師会の宣言:ジュネーブ=医師の倫理、ヘルシンキ=医学研究の倫理、リスボン=患者の権利 ・バンコク憲章では定義に「健康の決定要因」が加わった

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。