「医師法」か「医療法」か―「人」と「場」で見分ける医療関連法規
第118回医師国家試験 C問題 第4問
国試問題にチャレンジ
法律とその内容の組合せで誤っているのはどれか。
- a.医療法 ―― 無診察治療の禁止
- b.児童福祉法 ―― 小児慢性特定疾患の医療費助成
- c.労働基準法 ―― 産前産後休業
- d.がん対策基本法 ―― がん治療の均てん化
- e.労働者災害補償保険法 ―― 業務災害に関する給付
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
無診察治療等の禁止は医師個人の行為を規制する規定であり、医療法ではなく医師法第20条に定められています。医師法は医師免許・臨床研修・応招義務・診断書や処方箋の交付・異状死体の届出・診療録の保存など「医師という人」を、医療法は病院・診療所の開設と管理、医療計画、医療安全、医療事故調査制度など「医療を提供する場と体制」を対象とすると整理すると区別しやすくなります。小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法、指定難病は難病法、産前産後休業(産前6週・多胎14週、産後8週)は労働基準法、がん医療の均てん化はがん対策基本法、業務災害・通勤災害の給付は労災保険法が根拠です。法律を「誰の何を規定するか」で整理する考え方は、国家試験の頻出分野を確実に得点するだけでなく、医師として日常診療で求められる法的義務を正しく果たすための土台になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、医療・福祉・労働に関わる主な法律が「何を定めているか」を問う問題である。名前の似た法律、特に医師法と医療法の違いがポイントになる。
考え方
・医師法は「医師という人」についての法律である。医師免許、臨床研修、医師の義務(応招義務、無診察治療の禁止、異状死体の届出、処方箋の交付、診療録の記載・保存など)を定める。 ・医療法は「医療を提供する場と体制」についての法律である。病院・診療所・助産所の開設と管理、医療計画、医療安全、医療事故調査制度、インフォームド・コンセント(説明と同意)の努力義務などを定める。 「無診察治療の禁止」は医師個人の行為を規制するものなので医師法(第20条)の規定であり、医療法とする組合せは誤りである。他の4つはいずれも法律と内容が正しく対応している。
選択肢考察
- ○a. 医療法 ―― 無診察治療の禁止
医師が自ら診察しないで治療をし、診断書や処方箋を交付することを禁じる「無診察治療等の禁止」は医師法第20条に定められている。医療法が扱うのは病院・診療所・助産所の開設と管理、医療計画、医療安全の確保、医療事故調査制度、特定機能病院・地域医療支援病院・臨床研究中核病院などの医療提供体制である。したがってこの組合せは誤りであり、本問の正解である。
- ×b. 児童福祉法 ―― 小児慢性特定疾患の医療費助成
小児がん、慢性腎疾患、先天性代謝異常など、長期の療養が必要な小児の慢性疾患に対する医療費助成は児童福祉法に定められている(2015年の法改正後の名称は「小児慢性特定疾病医療費」)。児童福祉法は、すべての児童の健やかな育ちを保障する法律で、児童相談所、児童福祉施設(乳児院、保育所、児童養護施設、障害児入所施設など)、結核児童の療育の給付なども定めている。組合せは正しい。
- ×c. 労働基準法 ―― 産前産後休業
労働基準法は、労働時間・休日・賃金などの最低基準を定める法律である。産前産後休業として、出産予定日前の6週間(多胎妊娠では14週間)は本人が請求すれば就業させてはならず、産後8週間は原則として就業させてはならない(産後6週間を過ぎて本人が請求し、医師が支障なしと認めた業務は可)と定めている。妊産婦の危険有害業務の制限、時間外労働の制限、育児時間、年少者の保護などの規定もある。組合せは正しい。
- ×d. がん対策基本法 ―― がん治療の均てん化
がん対策基本法(2006年制定、2007年施行)は、がん対策を総合的かつ計画的に進めるための法律である。「均てん化」とは、住んでいる地域に関わらず等しく質の高いがん医療を受けられるようにすることで、この法律の基本的施策の一つである。ほかに、がんの予防・早期発見の推進、がん登録などの研究の推進、がん対策推進基本計画の策定、がん患者の就労や学習の支援なども定めている。均てん化を進める仕組みとして、がん診療連携拠点病院が整備されている。組合せは正しい。
- ×e. 労働者災害補償保険法 ―― 業務災害に関する給付
労働者災害補償保険法(労災保険法)は労災保険制度の根拠となる法律である。業務上の負傷・疾病・障害・死亡(業務災害)に対して、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付などを支給する。業務災害のほか、通勤災害に関する給付や二次健康診断等給付も定めている。組合せは正しい。
医療・保健・福祉・労働に関わる主な法律と主な規定
・医師法:医師免許、臨床研修、応招義務、無診察治療等の禁止、診断書等の交付義務、異状死体等の届出義務、処方箋の交付義務、療養指導義務、診療録の記載と保存(5年)、行政処分 ・医療法:病院・診療所・助産所の開設と管理、医療計画、医療安全支援センター、医療事故調査制度、特定機能病院・地域医療支援病院・臨床研究中核病院、インフォームド・コンセントの努力義務 ・刑法:医師の守秘義務(秘密漏示罪) ・児童福祉法:小児慢性特定疾病医療費の支給、児童相談所、児童福祉施設、結核児童の療育の給付、要保護児童の通告 ・母子保健法:母子健康手帳、妊婦健康診査、乳幼児健康診査(1歳6か月児健診、3歳児健診)、低体重児の届出、未熟児養育医療 ・障害者総合支援法:自立支援医療(更生医療、育成医療、精神通院医療) ・難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律):指定難病の特定医療費の支給 ・労働基準法:労働時間、産前産後休業、育児時間、妊産婦・年少者の就業制限、災害補償 ・労働安全衛生法:産業医の選任、健康診断、ストレスチェック、面接指導、作業環境測定 ・労働者災害補償保険法:業務災害・通勤災害に関する給付、二次健康診断等給付 ・がん対策基本法:がん対策推進基本計画、がん医療の均てん化、予防・早期発見の推進、がん患者の就労支援
医師法と医療法の区別のコツ
医師個人に課される義務・禁止事項は医師法、医療機関の施設・体制・医療提供の仕組みは医療法と整理するとまちがえにくい。
POINT
・無診察治療等の禁止は医師法第20条の規定であり、医療法ではない。 ・医師法=医師個人の資格と義務、医療法=医療機関と医療提供体制。 ・小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法、指定難病の医療費助成は難病法。 ・産前産後休業は労働基準法(産前6週・多胎14週、産後8週)。 ・がん医療の均てん化はがん対策基本法、業務災害・通勤災害の給付は労災保険法。
