StudyMed医師国家試験

名前と中身を取り違えるな―ジュネーブ・ヘルシンキ・リスボン、そしてアデレードの「健康をすべての政策に」

第119回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第7問

保健医療に関する国際的な提言と内容の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.アデレード宣言 ―― あらゆる政策において健康を考慮する。
  2. b.アルマ・アタ宣言 ―― 知りえた患者の秘密を尊重する。
  3. c.ジュネーブ宣言 ―― 世界のすべての人に健康を届ける。
  4. d.ヘルシンキ宣言 ―― 他の医師の意見を求める権利を認める。
  5. e.リスボン宣言 ―― 倫理審査委員会を設置する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、保健医療に関する国際宣言の名称と内容の対応を問う問題だ。数が多くて混乱しやすいけれど、「誰が出した宣言か」で2つの系統に分けると一気に整理できる。まず、選択肢に並ぶ宣言を見て、何か気づくことはあるかな。
医学生医学生
ジュネーブ、ヘルシンキ、リスボンは医の倫理の講義で出てきた気がします。アルマ・アタはWHOの話だったような……。
ドクタードクター
いい線だね。ジュネーブ、ヘルシンキ、リスボンの3つは世界医師会、つまり医師の団体が出した医の倫理に関する宣言だ。一方、アルマ・アタやアデレードはWHOなどが関わった公衆衛生・健康政策の宣言。医師個人の倫理か、社会全体の健康政策か、という軸で分けるとわかりやすい。
医学生医学生
では世界医師会の3つから。ジュネーブ宣言は「すべての人に健康を」でしたっけ?ジュネーブってWHOの本部があるので、なんとなくそう思ってしまいました。
ドクタードクター
それがまさに出題者の狙う引っかけだよ。ジュネーブ宣言は1948年に世界医師会が採択した、医師としての職業倫理の誓いだ。ヒポクラテスの誓いの現代版といわれ、患者の健康を第一に考えること、差別をしないこと、そして知りえた患者の秘密を患者の死後も守ることなどが含まれる。
医学生医学生
ということは、「患者の秘密を尊重する」はアルマ・アタではなくジュネーブ宣言の内容なんですね。
ドクタードクター
その通り。そして「すべての人に健康を」、つまりHealth for Allはアルマ・アタ宣言のスローガンだ。1978年、WHOとUNICEFが旧ソ連のアルマ・アタで開いた会議で採択され、プライマリヘルスケアを通じて健康を実現しようと掲げた。住民参加や地域資源の活用、予防重視などが原則になっている。
医学生医学生
地域医療の実習で、プライマリヘルスケアの原点としてアルマ・アタ宣言を習いました。では、ヘルシンキ宣言は?セカンドオピニオンの話もどこかで見た気がします。
ドクタードクター
ヘルシンキ宣言は1964年、人を対象とする医学研究の倫理原則だ。被験者の福利を科学や社会の利益より優先すること、インフォームド・コンセント、そして研究計画を事前に倫理審査委員会で審査することが柱になっている。だから「倫理審査委員会を設置する」はヘルシンキ宣言の内容だね。
医学生医学生
なるほど。じゃあ「他の医師の意見を求める権利」、つまりセカンドオピニオンはリスボン宣言ですか。
ドクタードクター
正解。リスボン宣言は1981年の患者の権利に関する宣言で、良質な医療を受ける権利、医師を自由に選ぶ権利、セカンドオピニオンを求める権利、自己決定権、情報を得る権利と知らされない権利などを挙げている。こうして見ると、誤りの選択肢はすべて、別の宣言の内容と入れ替えてあることがわかるよね。
医学生医学生
残るアデレード宣言の「あらゆる政策において健康を考慮する」が正しい組合せということですね。正直、アデレードはあまり聞き覚えがありませんでした。
ドクタードクター
消去法でもたどり着けるけれど、中身も押さえておこう。2010年にWHOと南オーストラリア州政府がアデレードで開いた会議で出された声明で、Health in All Policies、略してHiAPという考え方を示した。人々の健康は保健医療部門だけで決まるわけではなく、教育、雇用、住宅、交通、環境といった他分野の政策にも左右される。だから全政府部門が政策決定の際に健康への影響を考慮すべきだ、という主張なんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った「健康の社会的決定要因」の話とつながりますね。病院の中だけでは健康は守れない、という。
ドクタードクター
まさにそう。アデレードでは1988年にも「健康的な公共政策」に関する勧告が出ていて、保健以外の政策に健康の視点を組み込むという流れは共通している。関連して、1986年のオタワ憲章も重要だ。ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし改善できるようにするプロセス」と定義し、健康的な公共政策づくりを含む5つの活動領域を示した。
医学生医学生
医の倫理の源流としてはニュルンベルク綱領もありましたよね。CBTの勉強で出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。1947年、ナチスの人体実験を裁いた裁判から生まれた綱領で、被験者の自発的同意を絶対条件とした。これがヘルシンキ宣言の源流になっている。臨床研究に関わると、倫理審査やインフォームド・コンセントの手続きの背景にこうした歴史があることを実感するはずだよ。
医学生医学生
整理すると、世界医師会は「誓いがジュネーブ、研究がヘルシンキ、患者の権利がリスボン」、WHO系は「プライマリヘルスケアがアルマ・アタ、ヘルスプロモーションがオタワ、全政策に健康をがアデレード」ですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。2018年にはアスタナ宣言でプライマリヘルスケアの重要性が再確認されたことも、余裕があれば添えておこう。名前だけの暗記ではなく、それぞれが生まれた背景とセットで覚えると、入れ替え型の問題にも迷わなくなるよ。

まとめ

保健医療の国際宣言は、世界医師会による医の倫理の宣言と、WHOなどによる健康政策の宣言の2系統に分けると整理しやすくなります。世界医師会のジュネーブ宣言は医師の職業倫理(患者の秘密の尊重など)、ヘルシンキ宣言は人を対象とする医学研究の倫理(インフォームド・コンセント、倫理審査委員会)、リスボン宣言は患者の権利(セカンドオピニオンを求める権利、自己決定権など)を定めています。WHO系では、アルマ・アタ宣言がプライマリヘルスケアと「すべての人に健康を」、オタワ憲章がヘルスプロモーション、アデレード声明があらゆる政策で健康を考慮するHealth in All Policiesを掲げました。本問のように内容を入れ替えた選択肢が多いため、各宣言の成立の背景とセットで理解しておくことが、医の倫理と公衆衛生の両分野の得点につながります。

解答・解説

正解はaです

保健医療に関する主な国際宣言の「名称」と「中心となる内容」の対応を問う問題である。選択肢に並ぶ宣言は、大きく次の二つの系統に分けて整理すると覚えやすい。

世界医師会(WMA)による医の倫理に関する宣言

・ジュネーブ宣言(1948年):医師としての職業倫理の誓い(ヒポクラテスの誓いの現代版)。患者の秘密の尊重などを含む。 ・ヘルシンキ宣言(1964年):人を対象とする医学研究の倫理原則。研究計画の倫理審査委員会による審査、インフォームド・コンセントなど。 ・リスボン宣言(1981年):患者の権利。医師を自由に選ぶ権利、他の医師の意見(セカンドオピニオン)を求める権利、自己決定権、情報を得る権利など。

WHO(世界保健機関)などによる公衆衛生・健康政策に関する宣言

・アルマ・アタ宣言(1978年):プライマリヘルスケアの理念。「2000年までにすべての人に健康を(Health for All)」。 ・アデレード声明(2010年):あらゆる政策に健康の視点を(Health in All Policies)。 本問の選択肢b〜eは、内容が別の宣言のものと入れ替えてある。すなわち「患者の秘密の尊重」はジュネーブ宣言、「すべての人に健康を」はアルマ・アタ宣言、「他の医師の意見を求める権利」はリスボン宣言、「倫理審査委員会」はヘルシンキ宣言の内容である。名称と内容が正しく対応しているのはアデレード宣言のみである。

選択肢考察

  1. ○a.  アデレード宣言 ―― あらゆる政策において健康を考慮する。

    2010年にWHOと南オーストラリア州政府がオーストラリアのアデレードで開催した国際会議で採択された声明(Adelaide Statement on Health in All Policies)である。人々の健康は保健医療部門だけでは決まらず、教育、雇用、住宅、交通、環境、農業、経済などあらゆる分野の政策の影響を受ける(健康の社会的決定要因)。そのため、すべての政府部門が政策決定の際に健康や健康格差への影響を考慮し、部門を越えて協働すべきだとする「Health in All Policies(HiAP)」の考え方を示した。なお、アデレードでは1988年にも第2回ヘルスプロモーション国際会議が開かれ、「健康的な公共政策」に関する勧告が出されており、いずれも保健以外の政策分野に健康の視点を組み込むという方向性で共通している。

  2. ×b.  アルマ・アタ宣言 ―― 知りえた患者の秘密を尊重する。

    「知りえた患者の秘密を尊重する」は、世界医師会のジュネーブ宣言に含まれる医師の誓いの一つである。アルマ・アタ宣言は1978年、WHOとUNICEF(国連児童基金)が旧ソ連のアルマ・アタ(現カザフスタンのアルマトイ)で開いた国際会議で採択されたもので、プライマリヘルスケア(PHC)を通じて「2000年までにすべての人に健康を」実現することを掲げた。健康を基本的人権と位置づけ、住民参加、地域資源の活用、予防重視、適正技術の利用などを原則とする。

  3. ×c.  ジュネーブ宣言 ―― 世界のすべての人に健康を届ける。

    「世界のすべての人に健康を(Health for All)」はアルマ・アタ宣言のスローガンである。ジュネーブ宣言は1948年に世界医師会が採択した医師の職業倫理に関する宣言で、第二次世界大戦中の非人道的な医療行為への反省から、ヒポクラテスの誓いを現代的に表現したものとされる。患者の健康と安寧を第一に考えること、患者の自律と尊厳の尊重、患者の秘密を(患者の死後も)守ること、人種・宗教・性別・社会的地位などによる差別をしないことなどを誓う内容で、その後も改訂が重ねられている。

  4. ×d.  ヘルシンキ宣言 ―― 他の医師の意見を求める権利を認める。

    「他の医師の意見を求める権利」すなわちセカンドオピニオンを求める権利は、患者の権利をまとめたリスボン宣言の内容である。ヘルシンキ宣言は1964年に世界医師会が採択した、人を対象とする医学研究(ヒト由来の試料やデータを用いる研究を含む)の倫理原則であり、被験者の福利を科学や社会の利益より優先すること、自由意思によるインフォームド・コンセント、研究計画の倫理審査委員会による事前審査、プラセボ使用の制限、研究結果の公表などを定めている。

  5. ×e.  リスボン宣言 ―― 倫理審査委員会を設置する。

    研究計画を研究開始前に倫理審査委員会へ提出し審査・承認を受けることは、ヘルシンキ宣言が定める研究倫理の原則である。リスボン宣言は1981年に世界医師会が採択した「患者の権利に関する宣言」で、良質の医療を受ける権利、医師や医療機関を自由に選ぶ権利(セカンドオピニオンを求める権利を含む)、自己決定の権利、意識のない患者や法的無能力者への配慮、情報を得る権利(および知らされない権利)、守秘義務に対する権利、健康教育を受ける権利、尊厳を得る権利、宗教的支援を受ける権利などを挙げている。

医の倫理・健康政策に関する主な国際的文書

・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験を裁いた裁判から生まれた、人体実験の倫理原則。被験者の自発的同意を絶対的条件とした。ヘルシンキ宣言の源流となる。 ・ジュネーブ宣言(1948年、世界医師会):医師の職業倫理。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会):人を対象とする医学研究の倫理。たびたび改訂されている。 ・リスボン宣言(1981年、世界医師会):患者の権利。 ・アルマ・アタ宣言(1978年、WHO・UNICEF):プライマリヘルスケア、Health for All。2018年には40周年を機にアスタナ宣言でプライマリヘルスケアの重要性が再確認された。 ・オタワ憲章(1986年、第1回ヘルスプロモーション国際会議):ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義し、健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人技術の開発、ヘルスサービスの方向転換の5つの活動領域を示した。 ・バンコク憲章(2005年):グローバル化した社会でのヘルスプロモーション。 ・アデレード声明(2010年):Health in All Policies。

覚え方の整理

世界医師会の3宣言は「医師の誓い=ジュネーブ、研究=ヘルシンキ、患者の権利=リスボン」。WHO系は「プライマリヘルスケア=アルマ・アタ、ヘルスプロモーション=オタワ、全政策に健康を=アデレード」と対応させる。

POINT

・アデレード声明:あらゆる政策で健康を考慮する(Health in All Policies)。 ・アルマ・アタ宣言:プライマリヘルスケア、すべての人に健康を。 ・ジュネーブ宣言:医師の職業倫理(患者の秘密の尊重など)。 ・ヘルシンキ宣言:人を対象とする医学研究の倫理(インフォームド・コンセント、倫理審査委員会)。 ・リスボン宣言:患者の権利(セカンドオピニオンを求める権利、自己決定権など)。 ・オタワ憲章:ヘルスプロモーション。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。