副腎皮質と性腺は「ステロイド工場」の兄弟―共通酵素から読み解く先天性副腎皮質過形成
第119回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
副腎皮質と共通のホルモン合成酵素が存在するのはどれか。
- a.視床下部
- b.下垂体
- c.副甲状腺
- d.副腎髄質
- e.性腺
対話形式の解説
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ドクターまとめ
副腎皮質のホルモンはコレステロールから作られるステロイドホルモンであり、同じくステロイドを合成する性腺(精巣・卵巣、妊娠中は胎盤も)とは、StAR、CYP11A1、3β-HSD、CYP17A1といった合成酵素を共有しています。視床下部・下垂体・副甲状腺のホルモンはペプチド、副腎髄質はチロシン由来のカテコールアミンであり、ステロイド合成酵素は持ちません。一方、21-水酸化酵素や11β-水酸化酵素、アルドステロン合成酵素は副腎皮質にほぼ特有です。この酵素分布の違いから、21-水酸化酵素欠損症では性腺が保たれ、17α-水酸化酵素欠損症や3β-HSD欠損症では副腎と性腺の両方が障害されることが説明できます。ホルモンを化学構造で分類し、合成経路と酵素の分布を結びつけて理解することは、内分泌疾患全般を整理するうえでの基礎になります。
解答・解説
正解はeです
副腎皮質で作られる鉱質コルチコイド(アルドステロン)、糖質コルチコイド(コルチゾール)、副腎アンドロゲン(DHEA:デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン)はいずれもステロイドホルモンであり、コレステロールを出発材料として一連の酵素反応で合成される。 本問では「副腎皮質と同じ合成酵素を持つ臓器」が問われている。そこでまず各選択肢の臓器が分泌するホルモンを化学構造で分類するとよい。 ・ペプチド(タンパク質)ホルモン:視床下部ホルモン(CRH、TRH、GnRH など)、下垂体ホルモン(ACTH、GH、TSH、LH、FSH、PRL、ADH、オキシトシン)、副甲状腺ホルモン(PTH)。これらは遺伝子の転写・翻訳と、その後の前駆体の切断(プロセシング)によって作られるため、ステロイド合成酵素は関与しない。 ・アミン(カテコールアミン):副腎髄質のアドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン。アミノ酸のチロシンから作られる。 ・ステロイドホルモン:副腎皮質ホルモンと、性腺(精巣・卵巣)の性ステロイド(テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン)。 ステロイドホルモンを作るのは副腎皮質と性腺(妊娠中は胎盤も)だけであり、両者はコレステロールからアンドロゲンに至るまでの経路と酵素を共有している。したがって正解は性腺である。
選択肢考察
- ×a. 視床下部
視床下部が分泌するCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)、ソマトスタチンなどの放出・抑制ホルモン、および神経分泌細胞で作られ下垂体後葉から放出されるバソプレシン・オキシトシンは、いずれもペプチドホルモンである。前駆体ペプチドを切断して作られ、副腎皮質のステロイド合成酵素は用いない。CRHは副腎皮質の機能を調節するが、合成酵素を共有しているわけではない点に注意する。
- ×b. 下垂体
下垂体前葉はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、GH(成長ホルモン)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、PRL(プロラクチン)、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)を、後葉はADH(抗利尿ホルモン)とオキシトシンを分泌する。いずれもペプチドまたは糖タンパクホルモンであり、たとえばACTHは前駆体POMC(プロオピオメラノコルチン)がプロホルモン変換酵素で切断されて生じる。ステロイド合成酵素は持たない。
- ×c. 副甲状腺
副甲状腺ホルモン(PTH)は84個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、11番染色体短腕上のPTH遺伝子から前駆体(pre-pro-PTH)として翻訳され、切断を経て分泌される。血中Ca濃度の調節に働くが、合成経路は副腎皮質のステロイド合成とは無関係である。なお、活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)はステロイド骨格を持つが、その活性化(1α水酸化)を担うのは腎臓であり副甲状腺ではない。
- ×d. 副腎髄質
副腎髄質は副腎皮質と同じ臓器の内部にあるが、発生学的には神経堤由来であり(皮質は中胚葉由来)、分泌するのはカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン)である。チロシン→ドパ→ドパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンと、チロシン水酸化酵素、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素、ドパミンβ水酸化酵素、PNMT(フェニルエタノールアミンN-メチル基転移酵素)によって合成され、ステロイド合成酵素とは共通しない。皮質から流れ込む高濃度のコルチゾールがPNMTの発現を高めるという機能的な連関はあるが、合成酵素の共有ではない。
- ○e. 性腺
精巣(ライディッヒ細胞)や卵巣(莢膜細胞・顆粒膜細胞)は、副腎皮質と同じくコレステロールからステロイドホルモンを作る。コレステロールのミトコンドリア内への輸送を担うStAR(ステロイド産生急性調節タンパク)、コレステロール側鎖切断酵素(CYP11A1)、3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)、17α-水酸化酵素/17,20-リアーゼ(CYP17A1)は副腎皮質と性腺に共通して存在する。そのため、これらの酵素の先天的欠損(リポイド副腎過形成、3β-HSD欠損症、17α-水酸化酵素欠損症)では、副腎皮質ホルモンと性ステロイドの両方の産生が障害される。性腺ではさらに17β-HSD(3型)によってテストステロンが、アロマターゼ(CYP19A1)によってエストロゲンが作られる。
ステロイドホルモン合成経路の概要
コレステロール →(StAR によるミトコンドリア内への輸送、CYP11A1)→ プレグネノロン プレグネノロンから先は大きく三つに分かれる。 ・鉱質コルチコイド系(球状層):プレグネノロン →(3β-HSD)→ プロゲステロン →(21-水酸化酵素:CYP21A2)→ 11-デオキシコルチコステロン →(11β-水酸化酵素:CYP11B1/アルドステロン合成酵素:CYP11B2)→ コルチコステロン → アルドステロン ・糖質コルチコイド系(束状層):17α-ヒドロキシプレグネノロン/17α-ヒドロキシプロゲステロン →(CYP21A2)→ 11-デオキシコルチゾール →(CYP11B1)→ コルチゾール ・アンドロゲン系(網状層・性腺):17α-ヒドロキシプレグネノロン →(CYP17A1 の17,20-リアーゼ活性)→ DHEA → アンドロステンジオン →(17β-HSD)→ テストステロン →(アロマターゼ)→ エストラジオール
臓器ごとの酵素分布
・副腎皮質と性腺に共通:StAR、CYP11A1、3β-HSD、CYP17A1 ・副腎皮質にほぼ特有:CYP21A2(21-水酸化酵素)、CYP11B1、CYP11B2 ・主に性腺(および末梢組織):17β-HSD3、アロマターゼ 副腎皮質が直接分泌するアンドロゲンは主にDHEA、DHEA-S、アンドロステンジオンであり、これらは脂肪組織などの末梢でテストステロンやエストロゲンに変換される。
先天性副腎皮質過形成(CAH)との関連
コルチゾール合成に関わる酵素の欠損で、コルチゾール低下→ACTH上昇→副腎皮質の過形成をきたす疾患群である。 ・21-水酸化酵素欠損症(最多):コルチゾール・アルドステロン低下、副腎アンドロゲン過剰(女児の外性器男性化、塩喪失)。性腺には影響しない。 ・11β-水酸化酵素欠損症:アンドロゲン過剰に加え、11-デオキシコルチコステロン蓄積による高血圧。 ・17α-水酸化酵素欠損症:副腎と性腺の両方で性ステロイドが作れず、性腺機能低下(46,XYでは女性型外性器)、鉱質コルチコイド前駆体蓄積による高血圧・低K血症。 ・3β-HSD欠損症、リポイド副腎過形成(StAR異常):副腎・性腺の両方のステロイド産生が障害される。 性腺症状の有無は「欠損した酵素が性腺にも存在するか」で説明できる。
POINT
・ステロイドホルモンを作る内分泌臓器は副腎皮質と性腺(および胎盤)である。 ・視床下部・下垂体・副甲状腺のホルモンはペプチド、副腎髄質はカテコールアミンで、ステロイド合成酵素を持たない。 ・副腎皮質と性腺に共通する酵素:StAR、CYP11A1、3β-HSD、CYP17A1。 ・21-水酸化酵素・11β-水酸化酵素・アルドステロン合成酵素は副腎皮質に特有。 ・共通酵素の欠損(17α-水酸化酵素欠損症など)では副腎と性腺の両方に異常が出る。
